リゾート会員権論 12「問われる既存施設のサステナビリティ」

2020年12月に東京で開催した勉強会の講演録の最終回です。このパート「出口」では、リゾート会員権産業の今後の展望について、社会情勢を分析し、このビジネスの構造的な弱点を指摘しました。最終回である今回は、トップ企業であるリゾートトラストの開業後20~30年以上を経過したホテル群をイメージしながら、会員権で建設されたホテルのサステナビリティ(持続可能性)について考えます。

(第1回)リゾート会員権論 1「はじめに・基本的性質」
(第2回)リゾート会員権論 2「預託金制と共有制」
(第3回)リゾート会員権論 3「リゾートブーム・会員権利用の2つの軸」
(第4回)リゾート会員権論 4「エクシブが起こした革命」
(第5回)リゾート会員権論 5「バブルの破綻物件がビジネスを変えた」
(第6回)リゾート会員権論 6「現代のリゾート会員権ビジネス」
(第7回)リゾート会員権論 7「独特なビジネスモデルとその特色」
(第8回)リゾート会員権論 8「高収益ビジネスの中身」
(第9回)リゾート会員権論 9「リゾート会員権の経済合理性」
(第10回)リゾート会員権論 10「リゾート会員権産業の今後の展望」
(第11回)リゾート会員権論 11「会員制ホテルの構造的弱点」

resortboy:最後に、このパートのまとめとして、今後のリゾート会員権ビジネスに対する課題や、現在注目している話題について話したいと思います。

リゾート会員権ビジネス発展の流れ

まずこのスライドですが、今日、ここまで説明してきたリゾート会員権ビジネス発展の流れを、一枚のスライドとしてまとめてみたものです。

このビジネスは、当初は別荘地や海水浴を背景とした「伝統的リゾート文化」のようなものからはじまっていますが、バブルとその崩壊をきっかけにして、会員制で供給される施設は格段に豪華になりました。

(注:逆に言えば、この豪華路線に乗れなかった企業は淘汰されてしまったということでもあります。リゾート会員権は豪華路線をひた走ったからこそ、21世紀に入ってからのOTA全盛時代にも既存のリゾートホテルと差別化でき、別荘文化の衰退後も継続的に成長できたと言えます)

このスライドは、この業界を牽引してきたリゾートトラストの発展の流れと言ってもいいわけですが、東急(不動産)はこの最初のスタート地点にまだ立脚しているから、今は施設を色々なところには作らないわけです。東急の開発は、衰退した伝統的リゾート文化の枠組みの中で「まだ戦えるところ」に絞って行われていて、その上でVIALAシリーズなど「豪華さ」を加味したビジネスが展開されています。

リゾートトラストは、バブルの後で豪華さの方向性がさらに強化されて、その後、「高級旅館ホテル」の事業(注:離宮シリーズのこと)が大成功しました。そして、それをさらに活用して会員権を生産するための「埋立地入札案件」(注:ベイコート倶楽部のこと)を次々と発売して、現在それが激売れしています。

ですが、その先にどのような展開があるのだろうか、というところに不安を感じます。

不安材料1:トップ企業の経営体制の引き継ぎと文化の変化

なぜ不安に感じるかというと、1つ目には、リゾートトラストの社長が2018年の4月に交代したということが挙げられます。

(参考)リゾートトラスト社長に伏見氏 「各事業、横串で連携」: 日本経済新聞

創業以来ずっとこの会社を引っ張ってきたのは、創業者の伊藤與朗さん(現代表取締役ファウンダー)と、前社長の伊藤勝康さん(現代表取締役会長)です。同じ名字の伊藤さんですが、血縁というわけではありません。一般的には知られていませんが、お二人は日本のホテル史に残る大プロジェクトを長年に渡っていくつも連続して成功させた、偉大な実績を持った方々です。

(注:会員制リゾートホテルはいわば「キワモノ」なので、各種の研究・報道の対象としては、ほとんど無視あるいは誤解されてきているのが現状です。僕の一連の記事は、そうした権威主義的なホテル研究に対する異議申し立てでもあります)

伊藤與朗さんのリゾートホテルに対しての卓越したセンスと、公認会計士で図面も引ける伊藤勝康さんの経営センスが組み合わさったことでこの産業は発展してきたし、同社はバブルも乗り切って、東急を除けばほとんど唯一と言っていい勝ち組となりました。これまでの勉強会でも、とにかくこのお二人というのは最強コンビであった、というふうに、何度も僕は申し上げています。

3年前に伏見有貴さんが社長となって、創業者の2人は代表権を持つものの次世代へのバトンタッチをはじめました。この2人の引退が近いことが不安材料だと僕は考えています。最近のリゾートトラストの物件が、以前とは違ってすっかり価値観が固定化してしまったのも、この世代交代と無関係ではないと僕は見ています。

(注:当日は時間がなくて端折ってしまいましたので補足します。

かつてのリゾートトラストのホテル群は、必ず海外に「オマージュ元」と言えるものがあるテーマ性を持った開発が行われていました。いわば、時代に洗われた実績のあるデザインが実施されていたのですが、近年のホテルはそうではなく、むしろ現代におけるラグジュアリー感覚を前面に出したデザインが実施されています。流行を追っているのなら陳腐化は避けられない傾向があるでしょう)

不安材料2:建築費の高騰が会員権システムに影響

2つ目の不安材料は、昨今、建築費がものすごく上がってしまったことです。

2010年に開業したエクシブ箱根離宮の事業費を調べると、187室のホテルを約230億円で彼らは作っています。これが2019年に開業したラグーナベイコート倶楽部になると、ここは193室なんですが、事業費は310億円かかっています。

このように、会員権を生産するための費用が高騰してしまったので、「(より高級な)違うものとして売らなくてはならなくなった」ということも、エクシブではなくベイコート倶楽部が主力商品に変わった背景にはあります。

2020年開業の横浜ベイコート倶楽部はどうかと調べると、横浜は138室しかないので、193室あるラグーナに合わせるように比で数字を求めると、368億かかったことになります。ともあれ、同社のホテル建設事業費は、以前に比較すると5割増ぐらいになっているように見えます。

(参考記事)宿泊システム改変の先にあるもの|リゾートトラスト – resortboy’s blog

もしこれが今後もっと上がっていくと、もうどうすればいいんじゃ、って話になりますよね。

同社のビジネスは会員権販売とホテル運営が一続きのモデルとなっていて、その新たな会員権が既存のホテル運営にも影響する(注:例えばチェーン全体での値上げなど)ようになっていますから、建築費の高騰は既存施設も含めたホテルチェーン全体に影響することになります。

既存施設のサステナビリティを考える

さて、現在は新規の会員権がよく売れているのであまり顕在化していませんが、既存施設のサステナビリティ、という視点が極めて大切です。先ほど話した一般ホテルの事例と比較しながら、実際のところを見てみます。

新規会員権の販売で既存施設をオーナー負担なしに改修した事例

まず、いわゆるオールドエクシブの「テコ入れ事例」についてです。オールドエクシブと呼ばれる築20年以上を迎えたホテル群で、まあまあ人気があって維持されている施設、例えばエクシブ軽井沢やエクシブ山中湖では、隣地や敷地内で会員権が追加で販売されました。

これによって、既存の施設にも、レストランがリニューアルするとか露天風呂ができるなど、共用部分に手が入るといったメリットがありました。エクシブ鳥羽においては、客室にまで大事規模なリニューアルが行われていますが、それはエクシブ鳥羽別邸の販売があったからでした。

(参考記事)鳥羽本館が変貌した理由|エクシブ鳥羽&アネックス – resortboy’s blog

これが会員制リゾートホテルで既存施設に「テコ入れ」が行われるパターンです。先ほど、一般ホテルは運営が変わることでテコ入れがされて、経年変化にふさわしい居場所を探して営業が継続される事例を紹介しましたが(注:現代の一般ホテルでは、施設運営のサステナビリティを高めるための経営モデルが一般化しているということ)、リゾート会員権ではそのような仕組みが取れませんので、テコ入れには必ず新規の会員権販売が必要になっています。

逆に言えば、新規販売などを行わない古いホテルはどんどん古くなる一方です。そこにお金を使え、というオーナー会員の声というのはあるかもしれませんが、リニューアル投資を行うためのシステムがこのビジネスに実装されていない以上、古くなればホテルの魅力は薄れて、稼働率はどんどん下がっていきます。

(注:現在のリゾートトラストの会員権は、販売時に会員から預り金としてキープした償却保証金が30年間でゼロになるため、それ以降は施設メインテナンスの経費をどうやって捻出するのかが明らかではありません)

Go Toトラベルの影響

ところで、こうした古い施設は現在ブーム化している「Go Toトラベル」の影響を相当に受けると思っていて、脱線しますが、Go Toトラベルの影響について少し話します。これはコストメリットという経済的な面と、利用者の心理面の両面で問題を感じます。

経済的な面では、コストメリットが会員制ホテルから(より)失われていくという点です。エクシブだけでなく他の会員制ホテルも同じですが、古いホテルも新しいホテルもルームチャージや食事の値段は基本同一ですから、古いホテルに行けば行くほどコストメリットがありません。古いリゾートホテルは観光地にありますから、そこにGo Toの支援があるのなら、近くの少し高級な一般ホテルに行ったほうがいいじゃないか、という議論が出てくると思います。

心理面では、「Go To疲れ」なんていう言葉が僕のブログでは議論されています。会員権を買うような人たちは、もともと旅が好きで、頻繁に旅に行きたいという燃え上がるような自発性があって会員権を買って利用していたのに、Go Toのような外発的な動機で刺激されて旅行を繰り返していると、だんだん元々の意欲がそがれてしまう、ということがあるのではないでしょうか。

(参考記事)Go Toキャンペーンの危険な現実|TOKYO Staycation – resortboy’s blog

館内施設が合理化され利用が制限される事例

このように、会員制リゾートホテルは古くなると魅力が(相対的に)なくなっていくのに、そこにテコ入れする仕組みが普通はなく、どんどん稼働率が下がっていきます。運営会社としてもさすがに赤字で経営するわけにはいかないので、積極的にコストカットを行いますから、魅力の低減に拍車がかかることになります。

具体的には、レストランなど館内施設の合理化というものがあります。エクシブの場合、豪華ホテルだけあって館内に多くのレストランを設置して施設としての魅力をアピールして開業します。しかしホテルが古くなるとそれらが維持できなくなります。

こちらのスライドはエクシブ蓼科の今週の事例です(注:2020年12月の第2週について紹介)。エクシブ蓼科はオールドエクシブの傑作と言われていまして、5つのレストランがあります。しかし平日の夕食では、1カ所しか開いていないことが増えてきました。またランチは、この週の場合は土曜日の中華しか営業していません。

(参考)エクシブ蓼科のレストラン営業状況

(参考記事)エクシブ伊豆に見るレストラン運営の終着点|エクシブ伊豆 – resortboy’s blog

既存施設の今後の運営シナリオ

では、こうした古くなった会員制リゾートホテルがどうなるのかについて、僕が想定している「有力シナリオ」について説明して、今日のレクチャーを締めくくりたいと思います。

(講演録終わり)

(筆者おわび)
この最後のパート「有力シナリオ」については、リアルの勉強会のみのオフレコ内容とさせていただき、Webサイトでの公開をしないこととしました。有り体に言えば「刺激が強すぎるであろう」という判断なのですが、このWebサイトの継続的な運営を優先した結果でもあります。どうぞ諸事情をご賢察いただき、ご了承いただけますようお願い申し上げます。ご興味のある方はぜひKASAの会にご参加ください(2021年の活動については、新型コロナウィルス感染拡大の収束を待って再開したいと考えています)。

この日の講演録はひとまずここで終わりですが、最後のところを割愛してしまったため、後日、当日にはお話ししていない「締めの補足」をして本論考を閉じたいと考えています。

(続くかな?)

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