リゾート会員権論 6「現代のリゾート会員権ビジネス」

2020年12月に東京で開催した勉強会の講演録の6回目です。21世紀に入り、リゾート会員権の主たるセールスポイントは「豪華さ」にシフトしていきます。今回はその経緯を振り返りながら、リゾートトラストと東急不動産の開発戦略の違いを明らかにします。両社ともに有名観光地、有名温泉地にシフトしていきますが、業界トップのリゾートトラストはそれに「埋立地」を組み合わせて発展します。

(第1回)リゾート会員権論 1「はじめに・基本的性質」
(第2回)リゾート会員権論 2「預託金制と共有制」
(第3回)リゾート会員権論 3「リゾートブーム・会員権利用の2つの軸」
(第4回)リゾート会員権論 4「エクシブが起こした革命」
(第5回)リゾート会員権論 5「バブルの破綻物件がビジネスを変えた」

resortboy:21世紀、2000ゼロ年代以降から現在に向かって話を進めていきます。まず、リゾートトラストですが、先ほど説明したようなバブル破綻物件を利用した大型施設を開発販売する一方で、それまでにはなかった「離宮」シリーズの開発に着手します(冒頭の写真は、離宮シリーズ第一弾のエクシブ京都八瀬離宮)。

初島のようなバブル破綻物件は投資効果が高かったと、当時の投資家向け資料には書かれています(注:2001年のインベスターズガイドによれば「「初島」は更生会社を再建したもので追加投資額も少なく、他エクシブシリーズより原価率が低いため、利益率向上にも貢献しております」と経営者が語っている)。ゼロ年代の彼らの売上の伸びはめざましく、より投資をしてより豪華なものを作れる、そういう体力を身に付けていきました。

(リゾートトラストの売上高は2000ゼロ年代に急拡大している。出典:2007年のリゾートトラスト投資家向けWebサイトより)

こうして2006年にエクシブ京都八瀬離宮、2010年にエクシブ箱根離宮、2010年代になってエクシブ有馬離宮、エクシブ鳥羽別邸、エクシブ湯河原離宮と、いわゆる離宮シリーズと言われる、それまでのエクシブに温泉やモダンな旅館の要素をミックスした豪華ホテルを開業していきます。

Photo by resortboy

(離宮シリーズ最新作のエクシブ湯河原離宮)

オールドエクシブ時代には、海外リゾートをお手本にして、ホテルごとにテーマ性のある開発スタイルを取っていましたが、そうしたものまね文化から離れて、独自の世界に行くようになります。

この方向性が2006年以降現在まで続いていて、それがいかにリゾートトラストを筆頭にした現代のリゾート会員権文化を押し上げたか、という話をこの後したいと思うんですが…

(質問など、会場との対話=省略)

スライドを見ると分かるんですが、京都、箱根、有馬、湯河原と、有名温泉地、有名観光地ばかりです。それぞれの場所が、元は何だったのかを話す時間はないのですが、パターンとしては「名門の行き詰まり」というものがあります。

箱根離宮の場所は、「奈良屋旅館」という名門旅館が相続税が払えないから売りに出たというもので、湯河原も「天野屋旅館」の跡地で同様の事情です。いずれの旅館も貴重な文化財だったわけですが、リゾート会員権としてホテルを分譲するのが目的ですから、すべて壊されてしまうわけです。

Photo by resortboy

(写真はエクシブ箱根離宮開発前の同地。奈良屋旅館時代の石垣が見える)

この離宮シリーズと並行して開発されてきたのが、ベイコート倶楽部です。これらはすべて、埋立地の「入札」案件です。東京は「東京臨海副都心」と言って「お台場」の名称で有名な場所ですが、あまり上手くいったとは言えない都市開発計画の一角にあります。

Photo by resortboy

南芦屋浜はそもそも観光地ではありませんし、ラグーナ蒲郡も横浜みなとみらいも、いずれもあまり競争のない案件に入札をしていきます。最新の横浜ベイコートにしても、リゾートトラストのグループしか入札していません。

Photo by resortboy

(写真は芦屋ベイコート倶楽部の屋上ジャグジー。目の前は居住用マンションのザ・レジデンス芦屋スイート オーシャン・ヒルズ<2006年>)

一方、2010年代の東急ハーヴェストクラブはどうなるかというと、小規模な那須を除くと、すべて上位ブランドのVIALA併設という形で開発されていきます。

こうやって並べてみると、実にいい場所に作っていることがわかります。有馬、伊豆山、京都、那須、軽井沢。もう絶対失敗しないぞ、というような気合いのようなものを感じます。ベイコート倶楽部のような埋立地入札案件とは対照的です。

Photo by resortboy

(上位ラインのVIALAを併設した東急ハーヴェストクラブ熱海伊豆山のインフィニティプール。これ以上ないほどの抜群の立地が魅力)

第一部のまとめに入ります。

Photo by resortboy

1990年代までは、海と山をバランスよく楽しむリゾートホテル群、というのがリゾート会員権(会員制リゾートホテル)の姿でした。そしてそれらは別荘の代替品である、という価値観からスタートしていました。

今でも東急はそういうスタンスですが、別荘は管理が面倒くさいから、とか、旅行先でまで家事をしないといけないのは奥さんが嫌がるから手間のかからない会員権はどうですか、というような、トラディショナルな売り方でした。

それが2000年代になると、リゾートトラストがバブル破綻物件の吸収からはじまって、もともと豪華志向だったのが、さらに豪華さを追求するように発展していきます。

東急もその影響を受けて、VIALAという上位ブランドを導入して、従来のハーヴェストクラブと併売していく、というのが、この20年の流れです。

第一部「歴史」パートの最後として、リゾート会員権の現在、ということでまとめておきます。2010年代以降の東急の物件開発を見ると、それが典型なのですが、別荘地ではもう戦えない、ということです。

現在の主流は、軽井沢や那須のようなロイヤルリゾートを除けば、有名温泉地にシフトしています。別荘代替品、というリゾート会員権の元々の価値観というのは、もうほぼ消滅したというふうに見ています。

Photo by resortboy

代わりに台頭した概念が、「高級旅館ホテル」というものです。こういう言葉は一般にはないと思いますが、「高級旅館のテイストを加味した高級ホテル」とでもしておきます。そういうものに今、リゾート会員権の中心的な価値観はシフトしています。

しかし、会員権販売に向く大都市近郊の有名温泉地というのは極めて限られています。リゾート会員権ビジネスというのは、後でもまた話しますが、リゾート会員権を「生産」して売り続けないと、その企業が回っていかないという側面があります。

そこで「別のシステム」が考案されるようになりました。それが「埋立地案件」の連発につながっていて、これが非常に問題ではないか、という話を、僕はよくさせていただいている、ということなんです。

その問題点については、今日は話す時間がありませんが、ビジネスモデルの解明については、後半のパートで行いたいと思っています。

(第1部おわり)

(第2部へ続く)リゾート会員権論 7「独特なビジネスモデルとその特色」

5 comments

  1. resortboyさん
    回が進むごとに、どんどん引き込まれていきます。
    なんて的確なご指摘。
     
    エクシブは立地がいいのか悪いのか
    よくわからない場所にありますね。
    ホテルは豪華だったりスタイリッシュだったり
    とても素敵なのですが、立地がね。
    軽井沢に初めて行った時
    えっ、こんなところ?軽井沢じゃない…
    と思ってしまいました。
    観光地から外れた施設の送迎も使い辛い。
    (新しい施設にその傾向が)

  2. リラックマ大好きさん、応援コメントをありがとうございます!

    今回のように、リゾートトラストと東急をビジネス分析という視点で比較したというのははじめての試みではないかと思うのですが、本当にコントラストがはっきりしていて興味深いです。

    結局のところ、リゾートトラストが確立した「豪華モデル」がリゾート会員権というものを発展させたという事実がはっきりして、それによって東急もコンペティターとしての利益を得ています。

    東急は実に堅実なビジネスをしているように見えますが、革新的な発明みたいなものはないように思います。リゾートトラストは非常に独創的なビジネスをしていて、結果も出しています。しかし、両社の会員権の流通価格を比較すれば、市場がそこに一定の答えを出していますし、事業のサステナビリティという面は、むしろこれから検証されることになります。

    というわけで、まだまだ連載が続きますので、皆さんよろしくお願いします。

  3. resortboyさん
    リゾートトラストと東急ハーヴェストは
    リゾート会員権として常に比較されていますが
    それぞれ行く道がはっきり分かれてきたと思います。
    エクシブはベイコートなど豪華な施設が増え
    高級ホテルまっしぐら(その豪華さが魅力なのですが)
    RTの営業さんはベイコートに買い換える提案ばかりです。

    東急のVIALAはエクシブ離宮の真似と言われがちですが
    持っている会員権に関係なく部屋が自由に選べますし
    有馬からは全ての部屋に温泉が引かれているので
    旅館感覚で利用する人が多いです。
    しょうざんを利用した京都鷹峯も会員にとても好評ですし
    プリンスとの準施設契約やキュリオ軽井沢や京都三条
    東急スティを期間限定で破格利用出来るようにするなど
    東急不動産との関わりを利用したプラスアルファが増えてきました。

  4. リラックマ大好きさん、ハーヴェストユーザーの視点でのコメント、大変ありがたいです。

    ご指摘いただいたような最近のハーヴェストの展開については僕は取材が手薄で、プリンスとの連携なども現場をきちんと追えていません。今回の一連の記事で、リゾート会員権ビジネスを牽引してきたトップ企業であるリゾートトラストのビジネスモデルは解明できたので、それをまとめた後は、東急側の取材にも力を入れていこうかな、と思っているところです。

    自分はハーヴェストの会員ではないので、ご協力いただける方が必要なのですが、KASAの会にご参加いただいている方々にお声をお掛けして取材協力していただこうかと。一度ハーヴェストの勉強会をするのもいいですね。

    ところで、さらっと鋭いコメントをいただきました。

    > RTの営業さんはベイコートに買い換える提案ばかりです

    この販売方針については、公開ブログではあまりお話するべきではないと考えていて、やや原稿が隔靴掻痒な感じになっています。初夏にはまた勉強会を再開できればと思っていますので、この問題については継続的に勉強会(ライブ)の方で取り上げるつもりです。

  5. resortboyさんこんばんは
    年末の勉強会はコロナで参加できず、残念に思っています。

    昨年、エクシブと東急ハーヴェストで部屋食を何回か利用しました。
    エクシブは和洋中それぞれ一種類のメニューがあり、
    レストランでの食事に近い料理を提供しようと工夫しているように思いました。
    ローストビーフのように冷めていても味の落ちない料理をメインにしたり、
    またブイヤベースでは電気コンロが持ち込まれ暖めて熱々で食べられるようになっていて
    満足度は高かったです。

    東急は以前からヴィアラで部屋食を提供していることもあって慣れているようで、
    レストランメニューとは異なる部屋食用メニューが設定され、
    松花堂弁当や御膳の形でバランスよくまとまったものが提供されています。
    ホテルによっては決められた時間にロビーまで取りに行くテイクアウトスタイルもあり、
    いずれもコスパは良いと思いました。

    朝食はどちらもモーニングボックスを利用しました。
    これはボックス(紙製)にサンドイッチやぱん、ソーセージ、ハム、サラダ
    ヨーグルトなどが納められているもので、個人的にはこれで十分でした。
    エクシブではこのほかレストランで出している和食膳もあるようです。

    部屋で時間を気にせずのんびり食事するのはなかなか快適でした。
    高齢者同伴だとお風呂やレストランに服装を整えて何回も出かけるのが
    負担になることもあるようで、これからもルームサービスがいい、と喜ばれました。
    コロナが収束しても部屋食は継続して欲しいです。
    スタッフの方の負担はかなり大変だと感じましたが、より簡略化しても構わないので
    ぜひ続けてほしいと希望しています。

    部屋食は応接セットで食べるので食べづらいということはあります。
    東急の方がコンパクトな形でくるためちょっと食べやすいかもしれません。

    もうしばらく旅行は行きにくい状況が続きますが、早く安心して出かけられるよう
    祈るばかりです。

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