リゾート会員権論 7「独特なビジネスモデルとその特色」

2020年12月に東京で開催した勉強会の講演録の7回目です。パート1「歴史」に続いてのパート2は「権利」と題して、事業者側から見たリゾート会員権のビジネスモデルを解明しながら、会員権の価格の中身を精査します。そして、利用者側に視点を移し、その経済的合理性について検証します。

(第1回)リゾート会員権論 1「はじめに・基本的性質」
(第2回)リゾート会員権論 2「預託金制と共有制」
(第3回)リゾート会員権論 3「リゾートブーム・会員権利用の2つの軸」
(第4回)リゾート会員権論 4「エクシブが起こした革命」
(第5回)リゾート会員権論 5「バブルの破綻物件がビジネスを変えた」
(第6回)リゾート会員権論 6「現代のリゾート会員権ビジネス」

resortboy:じゃあ次に行きます。

パート1では、利用者側から見たリゾート会員権の特徴について紹介しながら、歴史的なビジネスの発展と変容を詳しく振り返りました。この「権利」のパートでは、反対に「事業者側」から見た目線から、改めて「リゾート会員権とは」ということで説明していきます。

この独特なビジネスモデルを明らかにしたところで、利用者にとってのリゾート会員権の経済的合理性に踏み込むために、「会員権の中身」、つまり「権利とは何か」を見て行きたいと思います。

まずリゾート会員権というのは、事業者側から見ると「会員権を販売してホテルを会員に建設してもらう」というビジネスであるわけです。だって、ホテルの客室は分譲されて、会員が所有するんですから。この仕組みによって、事業者は初期投資を早期に回収できるという効果があります。

次に、年会費。事業者は毎年、会員から年会費を受領しますが、それに加えてリゾートトラストの場合は、会員は入会時に「預り保証金」というお金を預けています。現在はそこから30年に渡って定率償却していくようになっていて、名目上は小規模修繕などの営繕に使われることになっていますが、同社は収入であると投資家には説明しています。

東急ハーヴェストクラブの場合も「営繕充当金」という制度があります。こちらは明確に「営繕費用」として徴収される仕組みになっています。

(参考)気持ちよくご利用いただけるよう様々な修繕をしています〜事例で見る東急ハーヴェストクラブの営繕充当金の使い方〜

それから、リゾート会員権の運営会社のホテル保有コストは極めて低いという特色があります。ホテルの主要部分である客室は会員が区分所有しているためです。当然、それらにかかる租税公課も会員が支払っています。

最後に、「会員はリピーター」と書きましたが、ホテルを利用してもらうマーケティング機能が、リゾート会員権の仕組みの中に内包されているというところが、非常にユニークです。不動産を売って儲けて、さらにホテルを利用してもらって儲けるという2段階のビジネスが仕組まれています。

リゾートトラストの会員制ホテルは、コロナ禍の中でも稼働率が前年並みに回復したというデータがありますが、Go Toトラベルの影響があるにしろ、ホテル業としてこうした強いリピーター会員を抱えているということは強みであると考えられます。

(参考)エクシブの稼働は急速に回復、21年3月期は黒字と発表 – resortboy’s blog
(参考)会員権売上は好調。Go To効果で稼働率は前年並み – resortboy’s blog

(注:こうした顧客との継続的リレーションシップを構築するビジネスモデルは、プリンタインクやコピーのトナー、コーヒーマシンなどのビジネスサプライの世界ではおなじみのものかもしれません。しかしリゾート会員権においては、後のパートで説明するように、最初の物件販売の儲けが非常に大きい反面、ビジネスサプライのように継続的な儲けが続くわけではないところに、その特徴と問題点があります)

では、これらのビジネスモデルとしての4つの特徴について、リゾートトラストの最新の会員権を事例として、個別に見ていきます。

最初のスライドは、リゾートトラストの投資家向け資料からの引用です。これを見ると、同社のビジネスモデルをよく知らない人は衝撃を受けると思います。

(画像出典:リゾートトラスト2018年コーポレートレポート)

用地を取得してホテルの開発計画を作って、それで販売価格が決まるわけですが、イラストの右上に「販売開始」とありますね。絵を見るとホテルは建っていません。この絵には先があって、ぐるっと回りながらだんだんホテルが建っていくんですが、この何も建っていない段階で会員権を販売開始しちゃうわけです。

このイラストはエクシブ琵琶湖をイメージして描かれていますが、そこを例に取れば、用地のバックに見える緑は田んぼなわけです。田んぼの前にホテルがない状態で、こういうところにこういうものが建ちますよという、図面とイメージ画像だけで販売を開始してしまうんですね。

ここのところが、僕がリゾートトラストはすごい会社だと本当に思うところなんですが、この数年、だんだんとそのすごさが加速しています。

こちらのスライドは、開業1カ月前にそのホテルに設定された会員権が何%まで売れたかを示したものです。同社はホテル開業の時にこうしたデータを発表していて、それが開業1カ月前のデータになっています。

これを見ると、2020年に開業した横浜ベイコート倶楽部は、その時点で9割近く売り切っています。つまり、開業の時点でほとんど売り切れという状態です。

2019年のラグーナベイコート倶楽部も同様で、開業時に8割以上が売れていました。その前年に開業した芦屋ベイコート倶楽部あたりからこの開業前の販売率がすごいことになっていて、芦屋も7割近くまで売れていました。

つまり、一度も泊まったことのないホテルに設定された会員権が売れて、開業時にはほぼ完売しているっていうのが、ここ数年起きていることです。そしてその傾向が加速していて、この数字だけ見てみれば、もう「激売れ」しているんです。

(注:どうしてこのようなことが起きているのか、その背景となっている同社の販売戦略の分析については、勉強会の他の回で話題にしました。本レクチャー時においては、時間的制約があってその話はしていません。また別稿で説明しているように、会員権を購入すると同じホテルチェーンの他の施設を利用できますから、所有権を持つホテルが未完成な状態で売れ行きが好調なのは、そのチェーン全体の施設の魅力が寄与しているということでもあります。)

次に「自動的な収入」の話です。これはリゾートトラストの2020年4~9月のデータで、ホテル営業の売上割合を示したものです。

(画像出典:リゾートトラスト決算説明資料)

時期としてコロナ禍の影響をもろに受けた時期のものになりますが、売上のおよそ1/4が保証金償却収入と年会費収入です(23.9%)。厳しい時期においても自動的な収入があって、この期間の場合は、何もしなくても入るお金が全体の1/4だというビジネスモデルになっているわけです。

(注:なお、コロナ禍の影響がまったくない2019年3月期の通年データによると、ホテレス部門の13.6%がこの自動的な収入となっています)

3番目の特徴、「保有コストの低さ」という話です。これは横浜ベイコート倶楽部の販売データから採ってきたものです。このホテルは一般ホテルと会員制のハイブリッドなので、この赤いところだけを見てください。

横浜ベイコート倶楽部の138室の専有面積はおよそ1万1000平米あります。それに対して、会員制ホテルの売主専有部分、つまりレストランなどの営利目的で事業会社が持っていて分譲していない部分というのは、3100平米ほどしかありません。

共用部分、例えば廊下や駐車場などについては、普通の分譲マンションと同じで、持分に応じて区分所有権者が全員で共有します。つまりこの会員制ホテル部分は、「11対3」でお客である会員が所有していることになります。

これは非常に驚くべきことなんじゃないかと個人的には感じているんですが、皆さんはどうでしょうか。

(続き)リゾート会員権論 8「高収益ビジネスの中身」

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