オールドエクシブ復活ムードの本質を、運動しながら考えた

今日は、ホテルライフには欠かせないフィットネス施設から発想して、「フィットネスクラブ」のビジネスとリゾート会員権との共通点・相違点について考えることで、リゾート会員権の本質に迫ってみます。写真はヒルトン東京お台場のジムでの一枚ですが、新陳代謝の権化のようなヒルトンにはまったく関係ない話でして、単なるイメージフォトです。というわけでレッツゴー。

フィットネスクラブもまたひとつの「会員制ビジネス」で、リゾート会員権とも一脈通じるところがあります。例えば「一部を除いて一般に会員の利用頻度は低い」という点です。

僕も含めて、年間数回の利用にとどまるリゾートトラスト会員は少なくないと思います。それであれば、フィットネスクラブのビジネスを知ることで、リゾート会員権の本質の一端に触れることができるのではないでしょうか。

フィットネスクラブという奇跡のビジネス

さて、話をまず、フィットネスクラブビジネスの成り立ちから始めてみます。

今は昔、1970年代以前のフィットネスクラブは、現在のそれとはかなり趣を異にしていたようです。かつてのジムのスタンダードなイメージは、ボクサーのそれです。今のジムにある各種のマシンなど昔はありませんでしたから、縄跳びやメディシンボールを使ってのエクササイズや、格闘技ライクなペアワークが主体だったのは当然です。

そこに2つのできごとが1980年代に起きます。それはアーノルド・シュワルツェネッガーに代表されるボディビルの大衆化によって起きた「目指すイメージ」の変化、そして各種のエクササイズマシンの登場です。

エクササイズマシンはコンパクトかつ静かで安全。専門知識もほとんど必要ありませんから、テクニックを教えるスタッフもそれほど必要ありません。こうして、従来よりも格段に狭いスペースで、単独の筋肉群を追い込む動作を繰り返すのが、ジムでのトレーニングとなりました。限られたスペースに効率よく多くの会員を集められるようになり、フィットネスクラブの産業化が進行します。

実生活にはそれほど役に立たない筋肉の肥大化を求めて、肝心な身体のスキルではなく見た目だけを追求し、筋肉痛に喜びを求める倒錯した世界観。考えてみれば奇妙なことですが、こうした世界観が短期間にフィットネスのスタンダードとなりました。そして世界全体では約750億ドルとも言われる産業が誕生したのです。

しかし、実に60%ほども「幽霊会員」がいると言います。

つまり、フィットネスクラブの経営は「通ってこない会員をあてにして」成り立っているのです。そして統計を見る限り、人々がジムに入会すればするほど、人々は肥満になっている、という現実があります。実のところ、マクロ的にはフィットネスクラブは何の役にも立っていない。

「これは金儲けとして驚くべきサクセスストーリーだし、それを支えるのが欠陥商品なのだからなおさらだ」と、ノンフィクション作家のクリストファー・マクドゥーガルは述べています(参考文献を文末に掲載)。

会員と施設の新陳代謝がないのがリゾート会員権

では、こうした特質を、リゾート会員権にもあてはめてみることにしましょう。

冒頭にも書きましたが、フィットネスクラブとリゾート会員権はかなり似ているところがあります。未来の自分を投影するイメージを求めてカネを払うという動機の点においてや、熱が冷めると使わなくなってしまうという点も似ています。

フィットネスクラブのように「通ってこない会員をあてにして」いるのも同様で、リゾート会員権は「運営管理費」とさらには「償却保証金」という一種の発明で、サイレントに確実な収益を上げ続けてきました(エクシブの場合)。

ただし、残念ながらリゾートホテルは現代のフィットネス産業のように省力化できるものではないようです。膨大な運営コストがかかり、その主要部分は運営管理費として会員が負担しているわけですが、それですら既に綻びが生じていて、ホテルの部分休業も一部では常態化しています(分譲したお部屋をクローズするならその部屋の運営管理費はその分返金するのが筋だと思いますが)。

そして、決定的な違いがあります。それは会員を新陳代謝させる仕組みがなく、その会員が紐付いている施設もまた同じだということです。なぜなら、リゾート会員権は簡単にやめられないものだからです。共有する不動産と合体していて、簡単には譲渡できません。

さらに、フィットネスクラブが辞めた会員の穴埋めを簡単に募集できるのと違って、リゾート会員権は新規の物件を分譲しなければ会員を増やせません。古い施設に手を入れて新たに販売されることはほぼありません(エクシブの場合)。リゾート会員権の場合、どんどん朽ちていく古い施設をどうやって再生するかというプランは仕組みには入っていません(これは単純な営繕の話とは違います)。

エクシブ鳥羽やエクシブ軽井沢が素晴らしくリニューアルしたじゃないか、と言ってはいけません。あれは、隣接地に施設を新規分譲する際に、新規施設から共通施設(レストランなど)を省いて、既存施設から拝借することで用立てした結果です。そうしてより多くの客室、つまり分譲口数を上積みしたという、一種のドーピングの副作用に過ぎません。そうした新規分譲のない施設を見てごらんなさい。

エクシブ鳥羽が誕生してから35年。エクシブ蓼科ですら20年。開業時に50歳で買った会員は、85歳とか70歳になっている計算です。会員は高齢化し、大量の幽霊会員がエクシブにも生まれてきているのでしょう。リゾート会員権の運営会社は、株式を公開しているパブリックな存在であるのなら、こうした幽霊会員の割合や利用回数を詳細にレポートして、ステークホルダーである会員と情報を共有すべきだと思います。

ハイブリッド運営の必要性

さて、実はここまでは壮大な(笑)前振りです。それなりに面白く書くべく努力しましたが、話はまだ終わりません(^_^;)

コメント欄で面白いことを聞きました。昨年後半、これまで各エクシブ施設にあった営業担当のセクションが廃止になって本社勤務となったのですが、現在注力しているのは法人会員に対する営業だということです。個人会員へのアプローチよりも、法人会員に網をかけたほうが効率がいいのでそうしているのでしょう。

でも、法人に多いと思われる団体やグループ利用のゲストを低価格で呼び寄せるよりは、落ち着いた個人顧客にさらなる門戸を開いたほうがよい、という考え方もあると思います。

オールドエクシブが宿泊プランの価格を下げて、にわかに復活ムードが漂っていますが、中身が変わっていないので効果は限定的です。むしろ、1万円や9,000円のプランを出す、つまり世間的な「安い価格」を打ち出すことで団体誘致への道を開いたという、さかさまからの視点が正解だったのだと、いただいたコメントを見てようやく気が付きました。

3カ月前から権利消化なしに予約できるというでたらめなプランの登場も、同じ文脈で理解することができます。

僕はオールドエクシブの復活とは見ていません。むしろ、デットキャットバウンスの類ではないかとすら思え、そうではなく、会員制と一般ホテルのハイブリッドのビジネスに早く切り替えて、ホテルの格式を維持してほしいと考えるようになりました。

大事なのは、安くして伊東園グループや大江戸温泉と勝負することではないでしょう。施設や運営にきちんと手を入れて、会員とは別料金体系で一般の集客を行い、例えば今の3倍の3万円のプランで満足してもらえるようにホテルの価値を高め、ホテルブランドを真面目に打ち出すことです。公式の取材で「穴場的存在」などと責任ある立場の人間がアピールしている場合ではありません。

ですから、なし崩し的にプランを安くして団体を入れる今の各種の施策には違和感を覚えていますし、いいこととはあまり思えないのです。

(参考文献)ナチュラル・ボーン・ヒーローズ 人類が失った“野生”のスキルをめぐる冒険

1 comment

  1. ご無沙汰しております。
    新規会員権販売の利益を施設の運営費に流していた状態から、各施設が自己収入で継続運営出来る体制に移行したのではないでしょうか?
    最近は客単価の高い層が自社新規施設や競合他者に奪われ、高価な内装の修繕・改修費用もかさみ、人件費や食材費が上昇している環境に善戦していると思います。
    2019年3月期決算説明資料では稼働率前年比増の計画に対して実績は減少したので、施策として大規模企業従業員向けプラン提供が計画されており新規会員獲得に貢献するするか否か見守っています。
    それよりもインターナショナル会員の影響の方が大きいかも?

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