コロナ禍で勢い増す会員制ホテル販売

2021年8月6日にリゾートトラストは2022年3月期第1四半期の決算を発表しました。先が見えないコロナ禍の中で、会員制によるホテル開発という異端の業態はどのような成果を挙げたでしょうか。タイトルに掲げたように、その勢いは増しているように見えます。

率直に言うと、今回の決算は、かなり厳しい結果になるのではないかと、なんとなく感じていました。

ここ数年の同社の好調さを支えてきたベイコート倶楽部は開発が(実質的に)終了し、在庫がありません。在庫として残っているのは、ベイコート倶楽部の影で売れ残っていたエクシブ湯河原離宮(2017年3月開業)とエクシブ六甲サンクチュアリ・ヴィラ(2018年4月開業)であり、すでに開業から数年を経たものが再度売れるのか、という点には疑問を抱いていました。

6月には新ブランド「サンクチュアリコート」が発売になりましたが、なにしろ6月21日の発売ですから、それほどの貢献は見られないはずです(第1四半期決算期末は6月30日)。

こちらを見てください。過去6年間の同社の第1四半期の会員権契約高の推移です。実に過去最高、5年前と比較すると5割以上も伸びています。昨年同期は営業活動の自粛により売上高が対前年でマイナスとなっていますが、今年はプラスどころか、過去最高を記録しています。

(画像出典:リゾートトラスト決算説明会資料)

同社の説明によれば、その背景は以下の通りです。

ホテル契約高は、今期の4-6月には新商品「サンクチュアリコート高山」の発売効果も含め、好調に推移し、第1四半期の契約高として過去最高となった。湯河原、六甲SV等のエクシブ販売が約7割を占め、牽引した。ハイメディックも、前期の下期頃から大きく加速した流れのまま、非常に好調な売れ行きを維持した。

その売上の内容を見てみましょう。なんと、売上を牽引しているのは、新規販売中の2物件ももちろんですが、セグメントとして見た時に最も売れているのは「他既存ホテル」です。つまり、古いホテルの会員権が結構売れている(後でも説明しますが、「アップグレード販売」なるものによって、完売のホテルでも、時とともに在庫が発生する仕組みになっています)。

Photo by resortboy

(画像出典:リゾートトラスト決算説明会資料)

具体的にどのホテルが売れているかはわかりませんが、同社の会員制ホテルチェーン全体、もっと言えば(エクシブに代表される豪華な)会員制リゾートホテルという業態そのものが評価されてのことだろうと推測されます。ベイコート倶楽部の影で苦戦していた六甲や湯河原も計画ペースをはるかに上回るペースで売れています。

「コロナ禍で会員制ホテルの価値が認識され、需要が増した」というのは、このようなデータから見ても、どうやら真実のようです。バブル期の投機的ブームとは全く異なる、内発的な動機付けによる実需のブームが起きつつあります。中古のリゾート会員権もかなりの勢いで高騰が続いていると聞きます。ベイコート倶楽部の開発終了で、同社のビジネスはひとまず角を曲がるのではないかと考えていた僕の予測は、いい意味で裏切られたようです。

言うまでもなく、ホテル業界には元気がありません。ビジネスホテルはまったく儲からなくなり、外資主導の高級ホテルはビルインタイプの紋切り型ばかり。新しいホテルはライフスタイルという錦の御旗のもとにカジュアルテイストを打ち出した薄っぺらいものが多い中で、同社の開発手法(会員権によるホテル開発)はもっと注目されてよいと思います。まぁ問題も多いのですが…(同社は新規ホテルを開発するのは得意ですが、サステナビリティには数多くの疑問がありますので、その辺を知りたい方は、僕の勉強会に来てね)。

8月21日にKASAの会をオンライン開催します|番外編 – resortboy’s blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究

決算説明会では新しいサンクチュアリコートについても言及があったので、その話もしようと思いましたが、長くなったので今日は会員権売上の勢い、ってな話だけでおしまいにします。最後は勢いが増していることを示す、別のデータです。

Photo by resortboy

(画像出典:リゾートトラスト決算説明会資料)

こちらは同社の販売口数に対する「新規率」のグラフです。僕の勉強会でも、この話題については議論してきました。「アップグレード販売」として説明していた話題です。

実はリゾートトラストの会員権は、既存の会員に対しての販売が多く、2016年3月期からは会社の全体方針としてその手法にかじを切っていました(芦屋ベイコート倶楽部の発売による)。大雑把に言うと、既存のエクシブ会員に対して、よりエクシブを利用しやすいベイコート倶楽部を薦めるという販売が多く見られ、その結果、ここ数年の同社の新規率は5割を割っていました。

つまり、半分以上は既存のお客さんに対して会員権を販売してきたわけです。新規のホテルを建設してできた会員権は売れても、お客さんの数はそれほど増えませんから、結果としてホテルの稼働率を押し下げる要因となります。このような縁故販売に頼る体制が、同社の好調な会員権販売を支え、また同時に既存施設の運営(ホテル・レストラン部門)の利益率低下を招いてきました。これらは表裏一体なものであったわけです。

しかし、このグラフを見ると、新規率が改善してきています。つまり、新規率の改善が会員権売上げ増を支えていると見ることもできます。このトレンドが続くようであれば、僕が問題視してきたことの1つは解決に向かっているということですから、同社のホテル資産の持続可能性を考えると、非常に好ましいことです。

というわけで、次回は新しいサンクチュアリコートについて話しましょうか。

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