
「新たな健診基準」を知っていますか? – 3
本連載は「旅を通して転移がんを克服した全記録」です。(編集担当:resortboy)
「新たな健診基準」の3回目です。ここで、ちょっとややこしいのですが、非常に大事なことを記しておきます。実は、人間ドック学会で出した新たな健診の基準範囲とは、「健康人の検査測定値を統計学的に解析し、測定値分布の中央部分の95%が入る範囲」です。
基準範囲と予防医学的閾値の違い
つまり、健康人の95%がこの範囲にある、という意味です。
例えばLDL-Cなら、健康な男性の95%が72~178の範囲にある、ということで、この範囲に入っていれば正常、という意味ではありません。ここが誤解を受ける大きなポイントです。
逆にLDL-Cが178を超えて高ければ、それは健康人の2.5%しか該当しない非常にレアなケースになります。男性のLDL-C高値は動脈硬化性疾患のリスクになることは多くの疫学研究により示されていますので、何らかの異常があるかもしれません。
ここまでの基準を「A」としましょう。
一方で、予防医学的閾値(または疾患判別値)というものがあります。一般的に専門学会などが疫学的調査研究に基づいて示した疾患の予防、診断および治療判定の検査判断値です。動脈硬化学会が設定した診断基準はこれに当たります。
これを「B」と呼ぶことにしましょう。
ただし「第2-48回・闇だらけの医療ガイドラインを読む – 1」「第2-49回・闇だらけの医療ガイドラインを読む – 2」で記したように、この診断基準は医学的エビデンスのないカットオフ値です。
残念ながら人間ドック学会の新たな健診の基準範囲は、予防医学的閾値と違って、病気のリスクを示す疾患判別や予防には用いられません。
AとBは定義が違うのです。
この定義の違いをしっかりマスメディア・国民に説明せず、日本人間ドック学会が「唐突に新たな値を公表したことは、多くの国民に誤解を与え、医療現場の混乱を招いている」という、日本医師会・日本医学会の見解は間違っていません。
カットオフ値と偽陽性
では、この両者から何が読み取れるのでしょうか? 以下、私の考察です。
エビデンスレベルで言えば断然Aの勝ちです。Bにはエビデンスがなく、専門家のコンセンサスです。
ただし、Bは動脈硬化性疾患の「治療」ではなく「予防」のための診断基準となっているところが曲者(くせもの)です。あくまでも予防なので自己責任でお願い、というスタンスなのでしょうか?
Aから分かることは、人間は個人差が大きく、検査結果には大きな開きがある、ということです。71歳の男性(私)のLDLが160であっても、超健康人のデータからすれば、それはよくあることなのでしょう。これだけでは病気ではありません。
検査項目によって、男女差、年齢差もあることがわかってきました。ここで、もしBのように男女差・年齢差を無視し、一律にLDL-C120以上を脂質異常にすれば、健康な人でもその多くが、「病人またはその予備軍」とされてしまう恐れがあります。上限を140にしても160にしても、多くの「患者」が発生します。
このように、コレステロール値で正常・異常を分けるカットオフ値を作れば、必ず多くの偽陽性が出てくることが、人間ドック学会の新たな基準範囲(A)から判明しました。
Bには問題山積ですが、高コレステロールを放置していいわけではありません。動脈硬化性疾患はサイレントキラーとも呼ばれ、自覚症状がないまま病状が進み、将来、致命的な合併症を引き起こす怖い病気です。よって、動脈硬化学会が言うように「予防」が大事です。
では、どうするのか?
(続く)
【次回】第2-57回・自己判断のための「吹田スコア」 – 1
【前回】第2-55回・「新たな健診基準」を知っていますか? – 2
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