がんに負けてたまるか
旅のはじまりこそ憂鬱でしたが、日本から遥か遠いカリブ海に浮かぶコスメル島までやって来て、私の心には変化が訪れていました。
旅は楽しい。見知らぬ外国や行ってみたい場所はいっぱいある。今、私はとても元気だ。がんだからと言ってそう簡単に死ぬはずがない。
元気であれば、旅から旅へと人生を楽しめる。こんな幸せな人生を、そう簡単に手放せない。死んでたまるか。
ガンに対する恐怖が次第に薄れ、生きる意欲が湧いてきたのです。
コスメルでの滞在中、私はホテルから近いチャンカナブ海洋公園に遊びに行きました。サンゴ礁に囲まれたコスメル島にあって、ここは急に深くなる岩場。透明度は高く、魚影も濃い。シュノーケルをするには最適の場所です。
シュノーケルを着けて海に入ると、そこはまさに竜宮城でした。大小さまざまな熱帯魚が、まるでパレードのように悠然と泳いでいます。私は嬉しくなって夢中で魚を追いかけました。これは私がその時に撮った水中写真です。
少し沖に移動するだけで海は急に深くなり、海底には白砂が広がっていました。水深5~6メートルくらいになると、ところどころに大きな岩礁(サンゴ礁)があり、魚が群れています。
その時、私は前方に何か人間の形をした物体が見えることに気づきました。
海中のキリスト
近づいてみると、両手を広げた人間の像でした。しかも3メートルはあるかと思える巨体です。それが海に沈んでいる。
不思議に思った私は、海から上がってショップのスタッフに聞いてみました。
私:「海の中に何か人間のような物体を見つけたのですが、あれは何ですか?」 スタッフ:「ジーザス・クライスト(イエス・キリスト)だよ。マリアもいるよ」
私はこの言葉に衝撃を受けました。何と彼はイエス・キリストだったのです。マリアもいるといいます。
私はすぐにシュノーケルを着けて再び海に入りました。そして一直線に人間の影の方に泳ぎ、キリスト像に対面しました。
背をそらし顔を上に向けて両手を大きく広げているキリスト像はガリガリに痩せ、全身に海のコケがついて薄汚れていました。息ができず、ただじっと海底に立っている彼は、苦しそうでした。
キリスト像を見て、自然と涙があふれました。思わず私は海の中で両手を合わせ、そして祈りました。「助けてください」と。
マリア像は少し浅い海底に沈んでいました。キリスト像に比べると1.5メートルくらいと小柄ですが、やはり海のコケに覆われていました。私は両手を合わせ、そして再び祈りました。「助けてください」と。
生きる希望を捨てた時に死が待っていると聞きます。
旅行先で…体験し、更にご自身で覚悟を決められての手術だから今のfunasanさんがいらっしゃるのですね。生きるという事を考えるきっかけをありがとうございました。
「人は夢をなくすごとに歳をとる」
私の好きな言葉です。
夢を希望に置き換えれば、希望を捨てた先は???
兄は抗がん剤治療をやりながらも「こんなことやって治るのか?」と常に疑問を持っていました。確信なき治療!希望を未来に託せなかったのですね。そして、生きる希望を捨てて自らホスピスに入りました。