前回の記事で、東急不動産が傘下のホテル・別荘地事業のリブランドを計画しているのではないかという「様子」をお伝えしました。僕は常に、リゾート会員権の側から同社のホテル事業を見ているし、しかもリゾートクラブの名称である「Harvest」が事業全体のブランドとして使われていることで、アタマが混乱してしまったのですが、少し冷静になって東急不動産のIR資料を見てみることにしたのでした。
そこでわかったことは、次の3つです。外野からの考察なので、あくまでエンタメとして読んでください。
まず、東急不動産はインバウンド向けのホテル事業に注力したいと考えている、ということ。
次に、そのために「Harvest」という統一名称で、ホテル事業ブランドの再構築を計画しているのではないか、ということ。
最後に、東急ハーヴェストクラブについては、特に何も考えていなさそうだ(ケアする気はなさそうだ)、ということ。
この3点です。順番に説明します。
インバウンドの熱狂
僕が最初に心配したことは、東急不動産という大きな会社の中で、大して売上も利益も上がらない別荘地やそこから派生したガラ権を、藤田観光がそうしたように、切り離してしまうのではないか、という可能性でした。
しかし、その可能性は低いのではないかと、今は思っています。
こちらの画像は、東急不動産2025年3月期の決算説明資料から、全体のサマリー部分の引用です。ここは好調な業績の理由として、インバウンド需要によるホテル事業の好調が挙げられています。
そしてこちらを見てください。これは東急不動産の事業ポートフォリオの改善(変更)について、時系列的に説明した資料です。
細い点線の黒枠が2022年以前、太い点線の枠が2023年3月時点。そして実線が現在の位置付けです。
同社のリストラクチャリングの過程で、東急ハンズや東急スポーツオアシスは売り払われ、東急の冠が外れました。東急ハンズはハンズになり、東急スポーツオアシスはルネサンスに吸収されました。
僕は同社のガラ権事業が同様になることを心の底から恐れていたのですが(だって、あの東急ハンズが消えたなんて!)、それはこの図からはありえないことがわかります。
ホテル事業は右下の「修正して推進」から「出世」して、いまや同社の注力事業として「推進」のカテゴリーに昇格しました。
その「出世」を支えたのは、残念ながらガラ権ではなく、宿泊特化型のホテルである東急ステイです。
もともとの発祥は旧 東急リロケーションであって、滞在志向で洗濯機が付いていたりしますので、差別化要因があってインバウンドの受けもいいのかもしれません。
こちらがコロナ禍以降の東急ステイの営業成績です。現在の稼働率は8割を超え、ADR(客室平均単価)は2万円を超えました(これらを掛け合わせると、RevPARになります)。
Harvestブランド
つまり、今回表面化したリブランド計画は、東急ステイを東急不動産のホテルブランドとして押し出すために、ガラ権の名前であるハーヴェストが利用された、ということのように見えます。
こちらが東急不動産のホテルアセットの全体像です。濃い緑がガラ権、薄い緑が東急ステイです。その上の「リゾートホテル」というのは説明が面倒なので、とりあえず無視してください。
室数だけを見ると、東急ステイはガラ権の倍あって伸びています。リゾート会員権がこれから伸びるはずはありませんから(グランデコや勝山など、東急はむしろクラブを解散して室数を減らす傾向)、東急不動産が東急ステイの「推し活」をするためにどうすれば効果的かを考えた時、なんとなく高級で筋がよさそうなガラ権名「Harvest」を起用したことは理解できます。
ガラ権として分譲して事業としては「刈り取り済み」であるこの名前を、インバウンドという降って湧いた新たな商圏を「刈り取る」ために使おう、というわけです。
さすが頭脳の東急、という感じがします。
ガラ権について
最後に、東急ハーヴェストクラブの立場から見てみましょう。
ここまで書いたことは、既に以下の記事で説明した、東急ステイのハーヴェストクラブからの切り離しとも整合します。
僕は、ガラ権というものを非常に「ウェット」な世界観で見ていて、それはリゾートトラストがそういう志向の会社だからで、またそういうのが好きだからであるのですが、その視点から、「会員との共同体であるリゾートクラブ、つまりガラ権の名前を使って、会員に育ててもらいながら、時代が変わってうまくいかなくなったとはいえ、関係のない他のビジネスの名に流用するのは許さん!」みたいな、外野のくせに、勝手に義憤にかられていたのですね、この週末。
でも、改めて東急ハーヴェストクラブの過去の資料などを見てみると、他のガラ権と比較して「クラブライフにいざなう」みたいなニュアンスは本当に希薄で、どの時代を見ても「私どもの合理的なシステムをご説明します」といった調子で、徹頭徹尾、ドライなんですよね。
だから東急としては、僕が思っているようなウェットな感情は、これっぽっちもないと思います。
それに、相対的に儲かっていないんです。今日の最後に、東急不動産でホテルやレジャーが属しているセグメント「管理運営事業」の、進行年度の着地予想をお見せします。
「ウェルネス事業」というのに東急ステイや東急ハーヴェストクラブが入っているのですが、対前年比の利益で、ホテル運営が48億のプラスで、会員権販売は19億のマイナスです。
ガラ権が売れなくなってきたことはともかく、ホテル運営のプラスの原動力は上記のようなインバウンド需要なのですから、会社としてそこを「刈り取りに行く」のは当然のことなのでしょう。
ちょっと残念な気はしますが、ガラ権が切り離されるよりはずっとマシです。その名を流用したのですから、切り離すはずもありません。まずはめでたしめでたし、ということにしておきます。
そのうち、答え合わせをする機会もあると思います。
「会員権」は、新たな商品として、確実?なウェルネス事業への収益となる、そしてさっぱりとしたシステム「tsugitsugi」になるんですかね。買取の代替として何年分とか、
東急ステイの建設計画は2026年広島(182室)以外決まっていません。数が増えないのですからRevPARをあげて増収するしかないが稼働率8割はいっぱいいっぱいでしょう。単価一泊3万円を目指すのでしょうか?
HVC既存会員としてはあんまり利益追求で頑張らないでいただきたい。主力事業にされたら更に客室チャージとレストランの値上げが待っています。HVCの仲介価格が急上昇した2017年までの、潰れない程度にぼちぼちやりましょう、というぬるい東急リゾートが懐かしいです。HVCだけでない問題で、東急別荘地の管理料も大幅値上げで高齢の別荘所有者から不満が聞こえています。
ホテルは48億円の増益予想なのに会員権販売は19億円の減益予想
東急ステイを中心にしたインバウンド含む稼働率が大きく貢献していると思いますが、ReVPARも33%改善していていて会員権販売の減益分を吸収しているようですね
会員権販売は好調でホテレス事業はカスカスのRT社とは真逆の収益構造に見えます
RT社もいつまでも会員権販売が好調とは思えないので、ホテレス事業の収益改善を早く図らないと業績悪化が待ち受けていそうです
振れば売れる打ち出の小槌を作り続けることができると良いのですが?
皆さん、さっそくのコメントをありがとうございます。
東急不動産は、商業施設で不調が伝えられています。
「どこぞの雑居ビル」みたいな感じ…『東急プラザ銀座』銀座の一等地で東急不動産は何を間違えたのか | FRIDAYデジタル
また、誰も話題にしていませんが、お台場は総合不動産3社がショッピングモールで競い合う場所でして、三菱地所のアクアシティ、三井不動産のダイバーシティはともかく、東急不動産のデックスは不調なお台場の中でさらに不調な完全な1人負け。目を覆いたくなる状況です。
アクアシティにもダイバーシティにも、専用クレカの特典などがあって利用しやすいですが、デックスには何もない。どうでもいいけれども、東急カードはデザインが終わっている。
デックス東京ビーチ|商業施設一覧|商業施設|都市事業|東急不動産
TOKYU ROYAL CLUB | 東急ロイヤルクラブ
一方で、三菱地所のロイヤルパークホテルはまだしも、三井不動産の三井ガーデンホテルやセレスティンに比べたら、東急不動産のハーヴェストクラブは、なんとなく「強み」がある感じもしますね。僕がガラ権ファンであるだけではないと思います。
そこで東急ステイを合体させて、ハーヴェストブランドで「おれたちはリゾートでは強いんだぜ」と、三菱・三井に一矢報いたい、とか考えているんでしょうかね。ともあれ、リゾートトラストと真逆の展開で、実に面白いです。
ところで、東急ステイの新築計画地のニュースを発見したので共有します。
東急不動産、札幌・ススキノでホテル建設計画 | リアルエコノミー
休前日しか休めない現役の小生にとってハーヴェストはエクシブ的に例えるとオールレッド30泊分の貴重な貴重な権利です
ハーヴェストには何とか頑張って欲しいと切に願います