僕、resortboyが提唱している「ホテル利用学」に関する講演録の5回目をお送りします。前回は、生活に密着した継続的なホテル利用の手段として1つの中心的存在となる「リゾート会員権」が、時代に取り残されているのではないかと問題提起をしました。今回はその背景を説明します。ホテル業界全体がインターネットの普及によって発展していった「情報革命」の概要について見ていきます。
ここまでの記事はこちらです。よろしければ最初から順にお読みください。
(第1回)ホテル利用学への招待 – 1
(第2回)ホテル利用学への招待 – 2
(第3回)リゾート会員権が必要な理由(ホテル利用学 – 3)
(第4回)リゾート会員権には問題が内在している(ホテル利用学 – 4)
resortboy(以下R):それでは、ホテル業界の情報革命とはどういうものなのかっていうのを、これからご紹介していきます。
インターネットが普及したので、ホテルは旅行代理店を通さずに、顧客から自社サイトで直接予約を取れるようになりました。その結果、この人は何泊している、この人はいいお客だっていう、顧客のステイタスが予約の段階でわかるようになって、ホテルは予約時から顧客にベネフィットを提供して、囲い込めるようになりました。
いわゆるロイヤルティプログラムと呼ばれるものですが、ここがホテルの情報革命の第一のポイントかなと思います。
それから、需要に応じて価格を変動させるっていうことを、大手チェーンはやるようになりました。極端な例で言うと、アパホテルの10平米ぐらいのお部屋で3万円も取るなどと話題になったことがありますね。そういう例もある反面、逆に言うと、安く泊まれる日もあるっていうことです。
(関連記事)アパホテル、繁忙期の料金高騰に不満相次ぐ (2ページ目):日経ビジネス電子版
3番目。インバウンドというのはとても大きい、っていう話を、この後でします。これは、海外のオンライントラベルエージェンシー(OTA)が極めて重要になったっていうことと、表裏一体になっています。
最後は、これはちょっと未来予測みたいな話なんですが、「AIによる需要喚起」って書いてあります。例えば現在でも、Google Mapを使って地図を表示すると、頼みもしないのに「あなたはここに予約していて、何日に泊まる予定だよ」と、地図上に文字情報が出てきます。あんなのを家族に見られたらどうするんでしょう、と思いますけれど(場内笑)。
もう行動がGoogleに全部知られているわけです。そのうちに「そろそろこのホテルに泊まりませんか?」などと絶対言ってきますよね。また僕は最近、Google Photo(写真のストレージサービス)を使っていますけれど、「あなたは去年の今日ここに行きましたよね」などと写真を出してきたりもします。こうした個人情報をベースとしたリコメンデーションというのは、これから絶対出てくると思います。
では各論に入って、まず「囲い込み」の話をしたいと思います。ロイヤルティプログラムと言われているものについてですが、核になるコンセプトは「お得感」であろうと思います。
最終的にはすべて金銭価値に換算できるわけですが、ここでは要素を3つ挙げさせていただきました。
まずは「お部屋のアップグレード」。利用空間が広がることで、空間的お得感が得られます。またはグレードが上がって上質なお部屋になることもある。
次は、利用時間が広がるタイプのお得感。これはアーリーチェックインとレイトチェックアウトのことです。
最後は、実際にお金を払うようなシーンで、対価を支払わなくてもいいようなサービスのお得感。ラウンジでご飯が無料で食べられるとか、プールとかスパみたいなものがタダになるとか。または、後でお金が返ってきたりするポイント還元みたいなものです。
こうした3つぐらいの要素があって、これらが総合的にお得感を醸成している。高級ホテルのロイヤルティプログラムの台頭っていうのは、この5年ぐらいですごく注目されるようになってきて、一部の皆さんは、「熱狂」をしている感じがします。
そのムーブメントの中心になったのがマリオットです。2015年にSPG(ロイヤルティプログラムの名称)で知られるスターウッドのグループを買収して、世界一のホテルチェーンになりました。こちらのスライドは、日本におけるマリオットグループのホテル数を示したものです。
この46ホテルって書いたのは僕が数えたわけじゃないんですが、適当に来年(2020年)の日付で公式サイトを日本を対象に検索したら、46のホテルが表示されました。
「いやそんなにあるのかよ」と。先ほど紹介したリゾートトラストや東急ハーヴェストクラブなどに匹敵する勢力になっているということです。
またこれまでは、リゾート地にこうした外資系のホテルはほとんどないと思われていたと思うんですけれども、今は「ラフォーレ倶楽部」と言われる森トラストがやっている法人向けの会員制リゾート施設、要するに保養所みたいのがありまして、それらが順次マリオットブランドになっています。地方の方だと結構安いようで、例えば琵琶湖マリオットホテルなどは、ステイタス維持のための宿泊に熱中している方には穴場として重宝されているようです。
(参考)琵琶湖マリオットホテル | [公式]ラフォーレ倶楽部
次にヒルトンです。ヒルトンは数はそんなにないですが、大都市は大体押さえていて、沖縄には強い印象があります。
北海道にもありますし、長野にはなかったんですが旧軽井沢にある小さなホテルが東急リゾートに買収されて、ヒルトンブランドでリニューアルオープンしたりしました。
(参考)東急不動産など、「旧軽井沢ホテル」をヒルトンのブランドホテルとしてリブランディング開業:日本経済新聞
さて、今日は国際ホテルチェーンについて4つだけ紹介しますが、3番目には「IHG ANA」というのを持ってきました。
ホテルステイタスを語る場合には、単に「IHG」と表現することが多くてあまりこういう言い方はしないのですけど、日本でのホテル利用という立場で考えると、IHG ANAという括りがぴったり来るかなという風に思っています。国内のホテル数は33で、全国バランスよくあるというのを見て取れると思います。ただ、長野にはありません。
最後に、オークラニッコーです。やはり航空会社っていうのは、こういった国際高級ホテル、という枠では力を発揮しているということで、ANAとJAL、という対立の軸として取り上げます。
オークラニッコーは実に、49ホテルもあってですね、JALシティというお部屋が狭いビジネスホテルも入っているので、シティホテル中心の他のチェーンと同じようには比べられませんが、大勢力であるのは間違いありません。
これらのホテルチェーンの詳しい話は、今日の会の後半にやりますので、ここでは概要だけです。海外の2勢力、それから国内にJALとANAのグループがあるよ、ということを確認して、先に進みたいと思います。
次にホテル予約サイト、オンライントラベルエージェンシー、OTAの概要について説明します。具体的なプレイヤーの紹介に入る前に、インバウンド需要がやはりものすごく伸びているので無視できなくなってきた、ということをお話ししたいと思います。
訪日外国人の数って資料によって数が全然違うので、どれが正しいのかさっぱりわからないのですが、一例としてJTBの関連会社が政府発表の数字をグラフ化しているものを紹介します。さきほど「15年前」という視点で話をしましたけど、15年前から今を見ると、訪日外国人数は5~6倍にもなっているんですね。
(画像出典:JTB総合研究所)
リゾート会員権がその構造上、こうした需要増をほとんど取り込めなかった、というところに、業界内での弱点、置いていかれた部分があるというのは、これだけでもおわかりになるんじゃないかと思います。
また、この数字の上がり方は加速しています。2個所だけ下がっているのは、リーマンショックと大震災の年です。これらを除けば、もう凄い急カーブなんです。
こちらは京都市の例です。京都市は、2018年の時点で外国人の利用がおよそ44パーセントもあります。
(画像出典:(公社)京都市観光協会及び(公財)京都文化交流コンベンションビューロー)
ここ5年ぐらいで1.5倍ぐらいになっていて、やはりすごい勢いです。このトレンドですと現在は日本人と外国人が同じくらいなのかなと思います。僕も夏休みに久々に京都旅行をしたのですが、繁華街を歩いたりすると、ほとんど外国人客向けの街のようになっているところがあって、非常に衝撃を受けました。
(続き)OTAの主要プレイヤーと口コミの力(ホテル利用学 6)– resortboy’s blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究
(おまけ)
PS. 冒頭の写真は、マリオットやヒルトンで導入されつつある、スマホがルームキーになる「デジタルキー」の例です。ロビーなどのパブリックスペースを通らずにお部屋に直行し、そこでチェックインをすることでプライバシーを重んじることが「完全会員制」のホテルのアピールポイントの1つとされていますが、情報革命によってスマホにその機能が実装されつつあります。
resortboyさん、またまた凄いレポートありがとうございました。ここまでくると、もう立派な研究論文になりますね。「研究紀要」として研究会から出版してもいいと思います。
さて、昨年の10月に「コートヤードバイマリオット白馬」に3連泊してきました。平日のオフシーズンだったので最安値を狙って予約したのですが、3泊合計の宿泊代金が税・サ込みで22980円でした。1泊7000円程度でした。これは食事なし、素泊まりのルームチャージ代です。
参考:「コートヤード・バイ・マリオット白馬」秋の平日3連泊1人旅(ホテル編)
https://4travel.jp/travelogue/11551747
ところが、スキーシーズンの今はとんでもない価格になっていますね。2月の平日でも5万円(税・サ込)を超えています。ぼったくり?と思える値段ですが、お客は外国人が多いようです。貧乏な日本人はもう泊まれません。
皆さんご存知のように「コートヤードバイマリオット白馬」は「ラフォーレ倶楽部ホテル白馬八方」の生まれ変わりです。2月の平日のラフォーレ白馬、恐らく閑古鳥が鳴いていたことでしょう。それが今では1泊4~5万円という超強気価格設定です。朽ち果てた会員制リゾートクラブがインバウントの外国人をうまく取り込んだ成功例でしょう。
泊まっていませんが、(泊まるつもりはさらさらありませんが)「リッツ・カールトン・京都」の2月の平日でも最低価格9万円~10万円(税・サ込)近くになっています。4月になると15万円~20万円という価格もあります。1泊の値段です!
以下、私の夢想です。
エクシブ京都離宮を一般公開したらもの凄いだろうな~、スタンダード客室の最低価格10万円~、スイートなら最低20万円~。裕福な外国人からぼったくればいい。そして、その収益をオールドエクシブの大規模リニューアルにあてる。
一方で、会員は既定のルームチャージ代だけで泊まれるし、ラウンジではフリードリンク。この差は革命的です。日本が好きになった外国人には(何とかして)正規料金で会員権を買ってもらう。リゾートトラストの収益はウナギ上りになり、株価も元に戻る。株主も会員も大喜び!
いつも勝手にルールを変えてしまうリゾートトラストなので、試行的にエクシブ京都離宮を一般公開してみたらどうですか?儲けたお金を会員に還元さえしてもらえれば文句はありません。
久しぶりの投稿ですが、毎回楽しみに拝見いたしております。このサイトもリゾートトラスト関係者も見ているのではないかと感じておりましたので、funasanに対する反対意見をしておかなくてはと思い書きました。エクシブ京都離宮の一般公開のことです。私や近しい方も同じですが、離宮シリーズやベイコートなど外国人が少ないことに魅力を感じています。出張などで、どのような、高級なホテルを利用しても外国人が多く、落ち着きません。叔母は頻繁にお友達と旅行をしますが、鳥羽別邸を利用して、同じく外国人が少なくて静かで落ち着いたといっていました。私のライフスタイルにもあるのかしれませんが、1年を通して、休みの日に家にいることはありません。休みはゴルフ、学会出張、リゾートトラストで詰まってしまいます。仕事が好きなので、動けなくなるまで仕事をし、そのスタイルで行こうと思っています。海外には日程に無理もありますが、行きたいとも思いません。離宮の一般公開などになれば、魅力半減で利用しなくなるのではと思います。権利の一部売却するでしょう。少し意見を言わせて頂きました。
きしやんさん、ご意見はごもっともで、ほとんどの会員はきしやんさんと同じでしょう。実は、私も同意見です。でも、このままでは「ホテル利用学4」で提示された「リゾート会員権の問題点」が一向に解決されません。最後は破綻?
一方で、ラフォーレ倶楽部の変革を実際に体験(琵琶湖マリオット、コートヤード白馬)してみると、外に打って出ることにより解決策もあるような気がします。
resortboyさんのレポートが素晴らしかったので、つい勢いで過激に「夢想」を書いてしまいました。
funasanさん
昨年の秋にリッツカールトン京都に泊まりました。
エクシブとは違う豪華さでした。
ウェルカムのお菓子、アメニティの石鹸…
京都の有名どころの一品がさり気なく置かれていました。
部屋も豪華だけど無駄のないつくり。
浴室は、ただ広いだけのエクシブとは違いとても快適。
更にロケーションがいいです。
ひょいと外に食事や飲みに行ったり出来るのです。
京都離宮であの値段は取れません。
(リッツ京都も高いよとは思いますが)
こんばんは
「ロケーションが良い」というのは何を目的にするのかによると思うのですが、食事をしに外出を…という目的であれば、エクシブ京都よりもリッツ京都の方がいいですし、観光目的だったらサンメン京都の方がコスト面を含めて優れていると思われます。ですが、外国人のいないリラックス出来る空間を求めるのであれば、エクシブ京都やハーヴェスト京都は会員制というメリットを生かしてとても良い場所です。
当方はマリオットのプラチナエリートで、普段はラウンジでタダ飯を食らっています。名古屋や大阪マリオットは良く行きますが、夜景が綺麗でいい場所です。一方、ラフォーレのリブランドであれば去年に軽井沢マリオットに行きました。スターウッド時代にしこたま買って貯めたポイントがあったので、シルバーウィークの高い日に3万ポイントで宿泊しましたが、プラチナのメリットを考慮しても軽井沢パセオには及ばないです。
一般公開させることは、ホテルレストラン事業で利益を上げるための回答の一つだとは思われますが、きしやんさんのような利用者側の気持ちが破綻するでしょうね。旧ラフォーレを体験した私としても、今までの改悪が霞んで見えるくらいの大改悪です。それでも、その気になればリゾートトラスト社は強行するのでしょうか。儲けたお金を会員に還元してもらっても文句を言いますよ、少なくとも私は。
リゾートトラスト社には、他の回答を出してくれることを強く期待しています。
関係ない話ですが、去年は20泊程度しかしていないのに何故かマリオットプラチナが維持されています。去年は統合の関係で継続だった人は多かったようですが、さすがに来年はどうなるか分からないので、今年中にポイントは使い切りますけど。
STさん、はじめまして
京都離宮や京都鷹峯は観光にはちょっと不便ですが
のんびり滞在型には良い立地だと思っています。
ただ、1千万近い会員権のうえルームチャージが3万って
(VIALA京都鷹峯の真ん中レベルの部屋です)
朝夕付けたら1泊6万~7万です、お得感無いですね。
2泊した時、請求書の金額見て考えちゃいました。
マリオットのエリート変更は来月あたりかと
私もチタンのままです。
昨年は50泊に達していませんので
忘れた頃にいきなりプラチナ
どころかゴールド落ちかもしれません。
あと、古いラフォーレを
無理矢理マリオットにした軽井沢と
豪華版として建てたパセオを比べては
マリオットに不満が出るのは仕方ないです。
あくまでラフォーレレベルですから。
私はエクシブラージ持ちなので
エクシブの露天風呂付きの部屋に泊まれません。
なので安い宿泊費でも温泉露天風呂付きにしてくれる
マリオットのほうが嬉しいです。
RT社のビジネスモデルは、先日亡くなられたクリステンセン教授的に言えば、
「イノベーションのジレンマ」なんでしょうか?
主要な顧客の会員に最適化し過ぎたために、後発の新しい仕組みに市場を奪われてしまった??
会員制他社は企業連携で対抗しようとしてますが、RT社の解決策はどんなでしょうか?
エクシブ蓼科にこんなプランが出てました。
明確に「当社在庫の泊数分」と記載してます。
いっそのこと、平日だけでも「当社在庫の泊数分」をリゾーピア箱根みたいに宿泊サイトで売ってはダメ?
〇XIV限定プラン
https://rt-clubnet.jp/hotels/cms/contents.php?url=xiv.tateshina&group=xiv&hotel=tate&parent_num=32358&contents_num=43490&site_url=
・・・この場合の最適化=ベイコートかな?
カミーさん、エクシブ蓼科の情報ありがとうございました。
確かに「当社在庫の泊数分」と明記されていますね。
この表現はちょっと驚きです。
当社在庫の泊数分を「会員様」にではなく一般に提供すれば、「何でもあり」となります。
閑古鳥が鳴いているオールドエクシブの平日限定で一般開放(ただし、高額料金請求)しても私は異論ありませんが、
結局、ガラパゴス化した完全プライベートリゾートの生き残りとして、最後はそこに行かざるを得ないのでは?
ここは会員にとっても重大な岐路になりそうですね。