冴えないビジホが札幌ナンバーワンに – アンワインド ホテル&バー(1)

今の日本のホテル産業を見たときに、もはやインバウンド需要がメインという見方は誰もが認めるところだと思います。それは、利用客のマジョリティがインバウンド顧客になるということではありません。海外顧客にもわかりやすいストーリーを練り上げることで、それが国内ゲストに波及して好循環が生まれる。それが今のホテルの1つの勝ちパターンのように感じられます。

そんな今のホテルの風を感じたくて、札幌にある「アンワインド ホテル&バー」(ホテルアンワインド札幌)を訪れました。なぜこのホテルに注目したかというと、きっかけはトリップアドバイザーのランキングでした。このホテル、札幌市のホテル・旅館171軒の中で、ここのところずっと1位です。ちなみに2位は豪華海鮮丼が味わえる朝食バイキングが人気のビジネスホテル「ベッセルイン札幌中島公園」です。

しかしアンワインドの人気は海鮮丼ではありません。それどころか、このホテルにはレストランすらありません。さらに驚くべきことに、数年前までわずか2~3,000円ほどのレート(ツインの1人料金)でしか客を取れない、冴えないビジネスホテルだったのです。今の料金はざっとその5倍。どうしてそんなことができたのか、もう現地を見に行かずにはいられませんでした。

中島公園駅より徒歩4分、すすきの駅からも徒歩10分と便利な立地ながら、かつての「ホテルクレール札幌」は特徴のない激安ビジネスホテルでした。それを2016年にグローバルエージェンツという渋谷の会社がおよそ6億円で買収しました(地上10階建て47室)。同社は首都圏でマンション版シェアハウス「交流型マンション」を数多く手がけている企業で、東京、沖縄に続いて3棟目のホテルとして2017年に開業させたのがこのアンワインドです。

コンセプトは「都会のロッジ」。都会のホテルに、都会の喧騒から離れた非日常感を味わえる「ロッジ」というコンセプトを作り込んで高い評価を得ています。実際のところを、今回はざっと見ていきます。

エントランスは飾りレンガに薪が積まれて、ホテルの中に入る前から「来たな」という感じでワクワクします。

中に入るとウッディな内装にオープンな執務スペース。フロントのテーブル部分にはぎっしりと薪が詰まっています。インバウンド向けホテルなので従業員も国際色豊かで、そんなところもこのホテルの世界観に寄与しています。

チェックインは暖かい飲み物をいただきながら、炎の燃え盛る暖炉の前で、座って行います。こんなふうにいちいち芝居がかっているんですが、ともかく写真映えしますし、SNS時代の申し子のようなホテルだと思います。

お部屋に入っても、色々な仕掛けで畳み掛けるようにロッジの世界観が構成されていきます。フロント同様にウッディな内装にバックスキン(風)のソファセット。

ミニバーにはアウトドア風の食器。そしてバルミューダのオーブンと電気ケトル。キャンプやロッジの世界観がさらに強調されます。

朝には、部屋の前に朝食が配達されます。北海道の地産地消スープをメインに、パンを自分で焼いて、コーヒーを自分でドリップして食べるのです。バルミューダの調理家電はそのためです。

このホテルはレストランがないという割り切った運営ですが、お部屋に朝食を運んでキャンプ風に食べてもらうことで、その弱点を完全に逆手に取って、ホテルの特徴にしてしまっているのには驚かされます。

冷静に考えると一種のセルフサービスなんですが、まったくそうは感じない。喜んで手間をかけて「体験」を楽しむことができる。完全に術中にはまってしまうのです。

極め付けはラウンジサービスです。このホテルはもともとビジネスホテルですから、かつては朝食レストランがあったのです。最上階にあったレストランはバーに改装され、ここで毎日夕方の2時間、無料のワインサービスが振る舞われます。

いわゆるエグゼクティブラウンジのミニ版のようなものですが、イケメン外国人スタッフから提供される地ワインを雰囲気の良いバー空間でいただけるのは、実にキャッチーな体験です。

暖炉のチェックインも、キャンプ風の朝食も、無料のバータイムも、写真に撮って、誰かに話したくなるのです。ですが、肝心のお部屋は大したことありません。何しろ元はビジネスホテルです。しかし、こんな風に運営を工夫することで、何倍もの収益性のあるホテルとして生まれ変わることができる。実に痛快なストーリーではありませんか。

(エクスペディア)アンワインドホテル&バー(公式サイト)HOTEL UNWIND SAPPORO | ホテルアンワインド札幌

(続き)メリハリの効いたホテルリニューアルの実際 – アンワインド ホテル&バー(2) | resortboy's blog – ホテルの会員制度を楽しむサイト

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