シラバス案「アジアのツーリズム」

別稿で書いたように、僕は過去に勧められて大学教員を目指していたことがあり、その転職活動の過程で、2021年にいくつかの指導計画(シラバス)を作成しました。僕は観光関連の事業に従事したことはありませんが、30年来のITプロフェッショナルであり、観光の消費者(ユーザー)としての経験が豊富です。

そのバックグラウンドを生かして、テクノロジーを基盤とした現代的な観光業を理解するためのカリキュラムを、いくつか作成しました。順次公開しますので、どこかでどなたかの役に立つことを願っています。

今日はある大学に向けて作成した「アジアのツーリズム」という通年講座の指導計画案を掲載します。

授業の概要とねらい

現代の観光は大手テクノロジー企業が提供する情報通信基盤の影響を大きく受けており、その流れは日々加速しつつあります。この傾向はアジアにおいて特に顕著であり、訪日旅行者及び海外旅行先の国別トップ3である中国、韓国、台湾はいずれも、この分野の情報通信技術において、日本よりも進んだ文化を持つ国々です。

現代のアジアにおけるツーリズムを考える上で、情報通信技術がどのように観光に関わっているかを理解することは、消費者(旅行者)としても事業者(観光業者)としても欠かせないものとなっています。この授業では、ネット時代の観光産業を理解するための基礎となるトピックを多くの実例とともに解説し、それらがアジア諸国でどのように実践されているかを学習します。

授業の前半(1~8回)では、観光業に関わる情報通信技術について、テーマ別に学びます。後半(9~15回)では、インバウンド(訪日旅行)とアウトバウンド(海外旅行)の両方の視点で、アジア諸国を地域ごとに学びます。

学生のスマートフォンやPCを使った実践的な演習を多く取り入れます。

授業計画

第1回「イントロダクション:アジアのツーリズムと情報通信技術」

アジアのツーリズムを理解するためになぜ情報通信技術が重要なのかを概説し、授業の進め方や授業時間外における学修について説明します。

第2回「産業編1:観光ツールとしてのスマートフォン」

スマートフォンを利用した情報通信基盤において、観光に関連するサービスがどのように提供され、観光産業に影響を及ぼしているかを学習します。

第3回「産業編2:ネットメディアと観光計画」

現代の消費者はどのように観光計画を立てるのでしょうか。ネット上で観光にまつわる情報がどのように流通し、消費者の行動につながるのかを学習します。

第4回「産業編3:OTAが開いた観光の民主化」

現代においてはOTA(Online Travel Agencies:ネット予約サイト)が普及し、消費者は旅行代理店に頼ることなく、自ら旅行を手配するようになりました。OTAの仕組みと代表的なOTAについて学習し、観光業にどのような影響を与えたのかを学習します。

第5回「産業編4:アジアのツーリズムにおける決済手法」

現代はキャッシュレスの時代と言われますが、その手法はその国の文化によってさまざまです。海外旅行の重要な要素である決済手法(為替、両替、クレジットカード、プリペイドカード、QRコード決済等)について学習します。

第6回「産業編5:アジアにおけるエアライン産業」

アジアではどのような航空会社があり、どのような特徴があるでしょうか。訪日旅行、海外旅行、双方の観点から、エアライン産業について学習します。

第7回「産業編6:アジアにおけるホテル産業」

日本では外資系のホテルチェーンが成長していますが、アジア諸国についても同様です。IHG、ヒルトン、マリオットといった主要ブランドの経営手法について学習します。

第8回「産業編まとめ」

7回に渡る産業編についてまとめ、それらがどのようにインターネット上で絡み合っているのかを学習します。また、これまでの学習内容について確認テストを行います。

第9回「地域編1:インバウンド(訪日旅行)の現状と課題」

人口減少社会である日本においては、インバウンド(訪日旅行)の推進による地域振興が欠かせません。その現状と課題について学習します。

第10回「地域編2:アウトバウンド(海外旅行)の現状と課題」

年代別人口に占める出国数の割合は20代がトップであり、学生である皆さんのセンスは観光業界にも影響を与えています。日本人の海外旅行動態について学び、海外旅行の意義を、消費者と事業者の双方の目線で考えてみましょう。

第11回「地域編3:ツーリズム計画の実際・中国」

ここから4回に渡って、アジアを地域別に取り上げて、実際のツーリズム計画を立案する実習を行います。中国にはどのような観光資源があり、どのように情報通信技術が使われ、またどのようなホテルがあるでしょうか。また中国に対して、日本からはどのような情報が発信されているでしょうか。インバウンドとアウトバウンドの双方の視点で、観光からの中国の理解を試みます。

第12回「地域編4:ツーリズム計画の実際・韓国」

韓国を素材に、実際のツーリズム計画を立案する実習を行います。インバウンドとアウトバウンドの双方の視点で、観光からの韓国の理解を試みます。

第13回「地域編5:ツーリズム計画の実際・台湾」

台湾を素材に、実際のツーリズム計画を立案する実習を行います。インバウンドとアウトバウンドの双方の視点で、観光からの台湾の理解を試みます。

第14回「地域編6:ツーリズム計画の実際・香港とマカオ」

香港とマカオを素材に、実際のツーリズム計画を立案する実習を行います。インバウンドとアウトバウンドの双方の視点で、観光からの香港とマカオの理解を試みます。

第15回「地域編まとめ」

地域編のまとめとして、実習で作成したツーリズム計画をもとに学生がプレゼンテーションを行います。また授業全体のまとめとして、ツーリズム計画のレポートを課します。

到達目標

a. 知識・理解

  • アジアの観光における情報通信技術の活用を客観的に理解し、その背景を説明できること
  • 観光資源から見たアジア諸地域の魅力を客観的に理解し、その背景を説明できること

b. 思考・関心

  • アジア諸地域から学んだ観光分野における情報通信技術の活用事例を、日本国内の諸課題に応用して解決案を立案できること
  • 授業で学んだ知識を、他の業種や業態に当てはめて考えられること

c. 技能・技術

  • 観光に関する情報通信技術を使いこなして効果的なプレゼンテーションができること
  • 観光に関する情報通信技術を他分野の学習や就職活動、趣味を通じ、自らのQOL(Quality of Life)向上に活用できること

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