続 会員制と一般のハイブリッドで売るということ

横浜ベイコート倶楽部と、同居するザ・カハラ・ホテル&リゾート横浜が同時開業して、今日で1カ月が経ちました。完全会員制である横浜ベイコート倶楽部の評判はあまり僕の耳には入ってきませんが、ハワイ旅行に行けない今、一般ホテルであるカハラ横浜はマスコミの注目度も高く、多くの報道や評判を目にします。

今日は、ここのところこのブログで話題としているUGC(User Generated Content)を切り口に、会員制と一般のハイブリッドでホテルを販売するということについて、改めて考えてみます。

言うまでもなく、リゾートトラストは高級会員制ホテルをメイン商材とする企業ですが、並行して長く一般向けのビジネスホテルの経営も行ってきました。しかし、一般高級ホテルとして運営するホテルはカハラ横浜がはじめてであり、言ってみればこのホテルはリゾートトラストの実力を世に問うプロジェクトであると言えます。

なぜかというと、会員制ホテルの顧客と、一般ホテルの顧客はまったく評価形成の原理が異なるからです。

会員制ホテルは会員または会員の紹介者が利用するものです。したがって、基本的に利用者はそのホテルの批判を行いません。多大なる先行投資を行ってホテルを利用するわけですから、利用者はそのホテルを好きであり続けることが前提であり、「メンバー様」「オーナー様」としてホテル側と一体となった目線で利用をし続けます。会員の紹介者にしても、会員の手前、同様の視点を持つように力が働くことになります。

一方、一般ホテルの利用者はシビアです。先行投資などはなく、気に入らなければそれまでです。ホテルと利用者との出会いは一期一会であり、毎回が真剣勝負です。そしてそれはUGCによって可視化され、日々、大衆の目にさらされます。会員制とは違う厳しい世界がそこにあります。

会員制ホテルの世界にもUGCが存在しますが、どうしても「ファンクラブ」としての形態を取らざるを得ません。僕のような取材記事を書くような酔狂な人は他にいませんから、ネガティブな書き込みがあればそれは単なる「荒らし」として認定され、コミュニティから退場するように力が働きます。

これはネット上で何度も繰り返される風景であり、それにはちゃんと理由があるのです。

こうした2つの力学が同じ場所で起きているというところに、横浜ベイコート&カハラ横浜のユニークネスがあります。以下の記事では利用価格という視点で会員制と一般のハイブリッド運営の難しさについて指摘しましたが、もっと複雑で「微妙」な問題がネット上の情報空間には存在しています。

(参考)会員制と一般のハイブリッドで売るということ | resortboy’s blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究

Photo by resortboy

現地に行った方はわかると思いますが、このホテルは海に向かってほぼ90度、横を向いた形で建設されています。その海側は会員制ホテルの横浜ベイコート倶楽部が取り、条件の悪い陸側がカハラ横浜です。建物全体としては、切ったパンをずらして重ねたような形状とすることで、カハラ横浜も後ろ側にありながらオーシャンビューを確保する、という解決策を導き出しています。

それでも後ろは後ろですし、客室として最上階の13階はすべてベイコート倶楽部の客室となっていて、建物全体がベイコート倶楽部優先の作りになっています。それはリゾートトラストという企業のビジネスモデルからすれば当然です。

以下の写真は、カハラ横浜の最上階(14階)ロビーから見える景色です。展示場のトタン屋根が延々と連なり、近隣のタワマンから見下される。これでハワイを感じろというのには決定的な無理があります。お部屋は4~12階ですから、この向きの過半のお部屋では、塗り壁のようなパシフィコ横浜ノースを主体とした景色を味わうことになっています。

Photo by resortboy

上述のように、UGCという視点は、会員制を主力にする同社にとって不慣れなものなのだと思います。しかし、会員制ホテルとは違って、現代のホテル産業はUGCの上に成り立っていると言っても過言ではないほど、UGCは影響力を持っています。セカンドチャンスがあり辛抱強い会員によい条件を与えて、一期一会の一般客より優遇しなければならないこのホテルの宿命は、いずれそれが本丸である会員制ビジネスに影響するほどのインパクトがあるのではないか。そんなふうに感じます。

客室部分こそ別々ですが、会員制と一般ホテルで共用しているレストランやスパでは常に会員の方を立てなければならず、お部屋の条件は一般客の方が悪い。そうした体験がUGCとして口コミサイトで可視化される。悪夢のような現象が実際に起きています。

世界最大の旅行UGCであるトリップアドバイザーのカハラ横浜の評価を、タイトルとレーティングだけ列挙してこの記事を締めくくります。原文は引用しませんので、トリップアドバイザーでご覧ください。今のところ、みなとみらいのホテル6軒中、最下位にランクされています。

「今すぐキャンセルすべき!!」★☆☆☆☆
「仕事で利用」★★☆☆☆
「ハワイアンリゾートではない」★★☆☆☆
「期待が大き過ぎました。」★★★☆☆
「本家カハラの名を汚す二流ホテル」★★☆☆☆
「残念なコンシェルジュ。過剰なベイコート倶楽部への忖度。」★★☆☆☆

ザ・カハラ・ホテル&リゾート 横浜【最新の料金比較・口コミ・宿泊予約 】- トリップアドバイザー

(2020-10-27)トリップアドバイザーのレビューが増えていたのでその部分を更新しました。

7 comments

  1. 客室最上階と建物先端の曲面部が、RT社のフラッグシップ ロイヤルスイートである事を売りにしていると聞きました。
    見えているものは会員権販売の為に、意図的にやっていることのように思います。

  2. カミーさん、コメントありがとうございます。本文にも書きましたが、このホテルは13階のみ、全フロアがベイコート倶楽部のロイヤルスイートの客室になっているんですよね。そのことが会員権販売をドライブしているというお話は、なるほど、と思います。

    (客室の)最上階がすべてベイコート倶楽部であるということから、メンバーになった方はこの建物を支配したような気持ちになるでしょう。そしてそれは横浜ベイコート倶楽部の好調な売上と無関係ではないでしょうね。

    しかしそれはカハラ横浜を踏み台にしていることに他なりません。そしてカハラの評判を聞くと、僕が湯河原離宮の開業時に宿泊レポートを書いたのとまったく同じような稚拙な運営が圧倒的な悪評判を生んでいます。

    純粋なエクシブであった湯河原離宮では僕のブログが炎上することになりましたが、カハラ横浜が炎上しても横浜ベイコート倶楽部は炎上しません。明らかな上下関係が表現されているからですね。

    これではカハラ横浜が浮かばれないと思うのですが、すべては会員権生産会社としてのリゾートトラストの計画通りなのかなぁ、という気もします。

  3.  私はresortboyさんと同じ某オールドエクシブのオーナーです。
     半年も前の古い話題に、わざわざ書込みいたしまして申し訳ありません。
     この前、面白い事実に気付きました。resortboy さんはお気づきでしたでしょうか?
     カハラ横浜のHPや関係する旅行記などを見ていたら、横浜ベイコートとカハラ横浜宿泊者に差別があることに気付いたのです。同じレストランを利用し、同じスタッフから同じサービスを受けても、横浜ベイコートメンバー及びゲストには税込料金に10%のサービス料ですが、カハラ横浜宿泊者は15%になるのです。
     同様に、スパを利用すると、メンバーは税込1100円、ゲストとXIVオーナーは税込3300円でサービス料は加算されませんが、カハラ横浜宿泊者は税込3300円にサービス料15%が加算されて3795円になるのです。
     部屋の位置や向きや作りに差があるのは仕方ありませんが、同じ施設で同じサービスを受けるのに差があるのはいかがなものでしょうね?

  4. hidehideさん、こんばんは。

    たしかに色々と違いがあるようですね。でも同じ会社が運営して、同じ建物に同居してはいますが、それぞれ別のホテルですから違いがあるのは仕方ないと思いますよ。室料も含めて料金体系も異なりますし、そもそも運営システムが全く違う別ブランドの施設なんですから、逆に同じだと会員権を買うメリットもなくなっちゃいます (^^;

  5. すみません、途中でアップしちゃいました。で、続きですがリゾートトラスト社とすれば、横浜市の計画に応募するには一般向けホテルの併設が必須だったわけですが、それによって会員制のベイコートをあの場所に建てることができる上、それによってカハラの建設費用も捻出できるというメリットが、カハラ併設の最も大きな理由だったと思っています。

    そのカハラ経営もインターナショナル会員権や将来的なエクシブ会員利用などで、それなりに乗り切れると踏んでいる気がします。今回はカハラというネームバリューでマスコミ報道も活発でしたし、みなとみらいに会員制施設を得て販売も大成功だったわけですから、まさにresortboyさんの仰る通り、会員権販売会社としての面目躍如だったのではないでしょうか。

  6. ben さん,ありがとうございます。

     なるほど、ハイブリッド型が必須だったわけですか?まあ、東京ベイコートの立地と違って横浜のあの立地はそうでもしなきゃ手に入れられません。
     私のXIVの権利ではベイコートには宿泊できないんですけど、幸い多くの後輩が東京ベイコートメンバーなので、今年、マリーナベイコートの予約を取ってもらいました。秋に鳥羽別邸→京都八瀬離宮→浜名湖と予約しましたが、鳥羽まで一気に走行するのが面倒だと感じ、マリーナ泊から伊勢湾フェリーで楽する計画に変更です。(それも、わざわざマリーナに泊まりたいからでなく、鳥羽への中間地点の浜名湖に前泊、後泊ではつまらないというどうでもいい理由です)
     幸い平日利用ですから、マリーナの宿泊もメンバーと同料金ですし、スパもゲストで利用なので無料です。東京や横浜でメンバーよりも高いお金払ってまでスパを利用したいとは思いませんが、マリーナなら海を見ながらゆっくりできそうです。
     ベイコートメンバーの後輩たちはリーズナブル?な12泊のメンバーですが、それでもそこそこの投資をしていますから、XIVにはサンクチャリービラや離宮のスーパースイートにしか泊まらないようで、営業に無理言ってゴールド期間に利用しています。まあ気持ちはわかりますよね、高いお金出したんだからスタンダードやCBには泊まりたくないでしょう。
     私は彼らのように投資をしてくれるありがたい人々のおかげで、平日に離宮シリーズやパセオ、別邸を中心に26泊フル利用させていただいています。CBで十分満足ですし、余計なルームチャージ払うなら、その分を食事に使いたいクチです。
     

  7. hidehideさん、benさん、コメントありがとうございます。

    benさんに解説いただいたので、僕が付け加えることはあまりないのですが、このベイコート&カハラのみなとみらい入札案件は、いろいろな意味で「普通じゃない」案件であったし、日本のホテル開発史においても類のないユニークなものであろうことは間違いありません。

    ・MICE施設としての行政側の条件が多数
    ・海っぱたなので高さ規制があり低層になった
    ・周囲はタワマンなので不動産価値は算定容易
    ・会員制と一般のハイブリッド運営だが、会員制が優先的立場
    ・客室外の多くの施設が共用なので、会員制要素が薄れる
    ・将来的に「プランB」を引き受ける企業はなさそう
    ・近隣に競合する高級ホテルが多数存在

    会員制ホテルは別のところで話しているように、最終的には破綻してしまうのが普通です。痛みを伴わずに運営が変わるとか建て直すとかいった事例はまだないのですが、横浜のこれは事情が複雑なので、サステナビリティの点でより課題があると言えるでしょう。

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