カハラ横浜の初年度稼働率から見る現状の課題

2020年9月23日に開業したザ・カハラ・ホテル&リゾート横浜は、リゾートトラストがはじめて一般ホテルとして開業したラグジュアリーホテルです。これまで会員制の高級ホテルで大きな実績を残してきた同社の、ある意味で真価が問われるプロジェクトであったわけですが、初年度(2021年3月会計年度)の実績はどうだったでしょうか。

今日はシンプルに客室稼働率に絞って見てみたいと思います。データの出所はリゾートトラスト社の有価証券報告書です。ここにはホテル別に通年の客室稼働率などのデータが載っています(ただし、ホテルREITなどのように月次データまでは明らかにしていません)。それによると、カハラ横浜の初年度の稼働率は31.4%でした。これを他の条件のホテルと比較してみたいと思います。

比較対象としては、(ほぼ)同じホテルである横浜ベイコート倶楽部、そして月次の経営データが得られるホテルからチョイスした、ヒルトン東京お台場(以下、ヒルトンお台場)と、神戸メリケンパークオリエンタルホテル(以下、神戸メリケン)です。もっと条件の近いホテルのデータが入手できればよかったのですが、ひとまず、東京のベイサイドのホテルの代表格と、また関西圏でのそれということで、比較対象としてふさわしいと判断しました。

カハラ横浜と横浜ベイコート倶楽部は9月23日開業で、9月のデータが1週間分含まれていますが、それは便宜上無視して、ほぼ期間が対応するヒルトンお台場と神戸メリケンの10~3月の客室稼働率とを比較したのが以下のグラフです。

(リゾートトラストおよびジャパン・ホテル・リート投資法人の発表資料より筆者作成)

残念ながら、カハラ横浜はヒルトンお台場や神戸メリケンよりも稼働率が低いという結果でした。これにはいろいろな要因が考えられますが、他の有名ホテルよりも数値が劣っていることで、今後の改善が望まれるということは言えると思います。

なお、同じ期間の横浜ベイコート倶楽部の稼働率はカハラ横浜と比較すると4割以上高く、会員制ホテルの需要の底堅さを一応証明したような数値となりました。しかし、決して高い数値ではなく、これもまた、いろいろな仮説をもって説明しなければならない結果となっています。

前回の記事では横浜ベイコート倶楽部の利用者は館内レストランをあまり利用しないという特徴的なデータを紹介しました。その上で稼働率もそれほど高くないとすると、期待はずれのスタートであったと言えるかもしれません。

さて、カハラ横浜と横浜ベイコート倶楽部は、双子のホテルでありながら、一方は需給に応じて価格を変動させることで経営効率を高める一般ホテルであり、もう一方は通年固定価格の会員制ホテルであるということで、二者の価格の関係には、独特な緊張感があるように思います。

カハラ横浜の現在の販売価格はどうなっているでしょうか。以下、一番安い客室である「ザ・カハラグランド」を例にデータを採ってみます。

まず、普通にOTA(インターネット上の予約サイト)で予約した場合です。例えば、2021年7月15日の段階で、8月1日に予約をしてみましょう。緊急事態宣言下で行われるオリンピック開催中にまん延防止等重点措置が取られている神奈川県のリゾートホテルに泊まる、という状況です。

(画像出典:トリップアドバイザー)

すると、税サ込みの客室価格は上記のように、43,263円でした。カハラ横浜のサービス料は15%なので、裸値に割り戻して表現すると、「34,200円++」となります。開業前に記録した以下の記事と比較しても、特に値崩れはしていません。

ザ・カハラ・ホテル&リゾート横浜を安く予約する方法|ベイコート倶楽部 – resortboy’s blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究

ただし、同日のインターコンチネンタル横浜Pier8の価格は同等かむしろ高いので、カハラ横浜がみなとみらいのナンバーワンホテルであるとは言い切れません。カハラ横浜の価格は「最高級」ではなく、ラグジュアリーカテゴリーとは言えるものの、「アッパーミドル」に近い値付けになっているようにも思われます(ジャパン・ホテル・リート投資法人ではホテルの価格帯を、ラグジュアリー、アッパーミドル、ミッドプライス、エコノミーの4つに分類しています)。これは横浜ベイコート倶楽部とのバランス上、あまりいいこととは思いません。

さて、リゾートトラストの会員権を持っていれば、カハラ横浜をもっと安く利用する方法が存在します。以下のページに案内のある「RTTG会員様限定」のプランがそれです。RTTG会員とはリゾートトラストの会員権(リゾート会員権、ゴルフ会員権、メディカル会員権などの種類は問わない)を持っている人を指す言葉だと解されますが、以下の宿泊プランはRTTG会員の紹介者も対象となっています。

(公式)ザ・カハラ・ホテル&リゾート 横浜 RTTG会員様限定サービスのご案内|リゾートトラスト株式会社

このプランによれば、カハラグランドの1室1泊料金は税サ込で36,000円です。上記と同様に割り戻すと28,459円++となります。これはエクシブ会員がゲスト料金で横浜ベイコート倶楽部を利用する際の最低料金(税サ込30,855円)にかなり近い金額なので、権利日を消化せずにカハラのRTTG会員価格プランを利用するという考えも成り立つでしょう。

なお現在、RTTG会員向けには「ザ・カハラ・パスポート」というメンバーズカード風のクーポンが配られていて、これを見せるとウェルカムドリンク(ラウンジまたは客室にて)が無料で付くという特典があります。これは当然、カハラ横浜だけのものなので(横浜ベイコート倶楽部で使えるわけではない)、それを勘案するとさらに価格差は小さく感じられるでしょう。

今日、最後に紹介するのは、「リトリートプラン」と呼ばれる長期滞在向けプランです。これを使うと4連泊で税サ込1泊20,000円と、会員制の横浜ベイコート倶楽部の価格を割り込み、最大で税サ込1泊15,000円まで下がります。朝食1名無料、ラウンジドリンク無料、駐車場とスパとジムが無料、などなど、特典もてんこ盛りです。さすがに配慮があって、このプランを利用できるのはRTTG会員本人と2親等以内の家族に限定されています。

(公式)リトリートプラン|サ・カハラ・ホテル&リゾート 横浜|リゾートトラスト株式会社

このように、同じ場所にある一般ホテルの利用料金を、分譲した会員制ホテルよりも優遇するという禁じ手が、限定的な条件ではあるものの、早くも繰り出されました。カハラ横浜がもともと目指していたMICE需要は当面の間、消失しています。市場環境は極めて厳しいと言えます。

しかも同ホテルは一般ホテルながら、リブランドなどが許されない特殊な事情があります。会員制ホテルとパブリック部分を共用しており、他のブランド傘下に入ってテコ入れ・軌道修正をするということはあり得ません(そもそもリゾートトラストはカハラブランドで世界進出すると宣言しています)。今後、どのようなバランスでこのホテルの経営をしていくのか、見守っていく必要があるでしょう。

(報道)リゾートトラスト、非会員制高級ホテルで海外進出: 日本経済新聞

ハワイのカハラはコロナ禍前からほとんど利益を上げていませんし(下記の記事の図を参照。赤字であることが明示されています)、ブランド全体として会社のお荷物になってもらっては困ります。

(参考)中期経営計画「Connect 50」|リゾートトラスト – resortboy’s blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究

4 comments

  1. resortboyさん、皆さん、お元気ですか?
    久しぶりに夫婦で長期の旅行(注:ワクチン2回接種完了記念旅行です)に出かけました。7月5日から15日までの10泊の北海道旅行です。函館から出発し、レンタカーを借りて大沼公園・ルスツ・ニセコ・キロロ・小樽・札幌、と初夏の北海道を満喫してきました。

    北海道に10泊もするのでホテル選びが難しくもあり楽しみでもあります。マリオットとヒルトンの上級会員のメリットを生かすためにはどうしても系列ホテルが第一選択になってしまいますね。参考までに泊まったホテルと宿泊代金を記します。1泊1室2名利用の客室代金(税・サ込:食事なし)

    7/5:フォーポイントバイシェラトン函館(2泊)7650円
    7/7:ウェスティンルスツリゾート(2泊)27770円
    7/9:ヒルトンニセコビレッジ(2泊)16314円
    7/11:キロロトリビュートポートフォリオ(1泊)16690円
    7/12:ホテルソニア小樽(1泊朝食付)18640円
    7/13:フェアフィールドバイマリオット札幌(2泊)14399円

    小樽以外は全部マリオット系・ヒルトン系ホテルです。ヒルトンニセコはマレーシア資本に、キロロはタイ資本に買収されました。ルスツは今でも地元資本で頑張っていますが、ウェスティンと提携しています。函館はシェラトン系に、札幌はマリオット系に(格下げて)リブランドしました。

    日本のバブル期にできた多くのホテルが外資に売られたり、世界的ホテルグループと提携して生き残りを模索する。少子高齢化に突入した斜陽の国「日本」の歴史を見ているようです。

    7月上旬という北海道のベストシーズンですが、コロナの影響は甚大で、どこの観光地も閑古鳥が鳴いていました。コロナが収束して観光客(国内・海外含めて)が戻って来なければ北海道の再生は難しいと感じました。

  2. funasan、コメントをありがとうございます。海外旅行に行けないので、長期の国内旅行というわけですね。自分にはそのような発想がなかったので、とても勉強になります。

    刺激を受けたので、自分の勉強のために、以前のブランドを調べてみました。

    函館ハーバービューホテル(IHG・ANA・ホテルズ)→ロワジールホテル函館(ソラーレ系)→フォーポイントバイシェラトン函館

    ルスツタワーホテル(加森観光)→ウェスティン ルスツリゾート

    ニセコ東山プリンスホテル新館→ヒルトンニセコビレッジ

    ホテルピアノ(ヤマハ系)→キロロトリビュートポートフォリオホテル北海道

    ホテルソニア小樽(ブランド維持。現在はフォートレス=マイステイズ系)

    札幌東武ホテル→フェアフィールド・バイ・マリオット札幌

    それにしても、このfunasanのコメントの内容を発展させると、日本における、ある意味で最先端のホテルレポートとなる可能性がありますね。フォートラベルなどでおまとめになられるのを楽しみにしています。

    現代のホテル経営においては、所有と運営(場合によっては経営も)が完全に分離していて、節目にそれらを最適化してリニューアルを行って、ホテルの資産性を維持する(同時に地域の魅力も高まる)ということが定着しているわけですが、それを行えるかつての大型高級ホテルと、その網にひっかからない地方のホテルとでは、明暗がどんどん分かれていくのかもしれないですね。

    日本はこれから観光業を成長産業とみなして国策として注力するという方向にも関わらず、地方の疲弊はすでに相当に大きくて、昨年のGo Toトラベルキャンペーンでも明らかになったことですが、Go Toを機会に行ってみたかったところに行ってみた人の中には「結局大したことがなかった」という話をしばしば耳にします。

    外資や近代的なホテル経営手法でテコ入れされた快適で現代的な宿泊施設を擁する地方と、そうならないところでは、かなりの差が付いていくのではないでしょうか…。

    難しい問題ですが、考えさせられます。観光業の中においても「K字回復」となる2極化が進むのかもしれないですね。

    K字回復とは – コトバンク

  3. こんにちは…
    昨日の日経で西武がプリンスホテル売却の記事を読んだところです。
    外資に買われていくんですかねーー

  4. ジューシーママさん、情報ありがとうございます。西武ホールディングスがプリンスホテルの資産を売却するというのは、以下の記事でも取り上げていました。

    [5/29]決算を通じてホテル投資について知ろう – resortboy's blog

    西武が発表している内容は、再開発を予定している不動産はグループ内で保有するが、そうでないものは売却して運営受託するとしていました。具体的にはパークタワー東京などのシティホテルを対象に選定するとしていました。その具体的な情報が表面化してきたというわけですね。

    西武HD、ホテルなど国内約40施設の売却を検討|TBS NEWS

    プリンスホテルとしての運営は変わらないので、利用者側からするとあまり変わらないかもしれないですね。

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