コロナ禍に見たホテル投資の「出口」

写真は「ホテルウィングインターナショナル横浜関内」という、関内駅徒歩1分という便利な場所にあるビジネスホテルの一室です。タイプとしてはダブルルームで、窓際にはくつろげるスペースもあります。およそ築40年の古いホテルなので、水回りの狭さなど、新しいビジネスホテルとは比べものになりませんが、きれいにリニューアルされていてゆったりしているので、かなり快適に過ごせます。

なぜこのホテルの話をしようかと思ったかというと、このホテルと同じように「分譲」されたホテルが、コロナ禍の影響で閉館するというニュースを目にしたからでした。

その閉館するホテルの話に入る前に、時計の針を37年ほど巻き戻してみましょう。

こちらはYouTubeにアップロードされていた、1984年のテレビCMです。CMでは、「シャトレーイン横浜」というホテルへの投資が、「分譲ホテルオーナーシステム」という商品として募集されています。

そのシャトレーイン横浜が今のホテルウィングインターナショナル横浜関内です。

Photo by resortboy

この、ホテルの客室を小口化して販売してオーナーに賃料を支払う、という不動産商品を販売していたのが、「高野敏男商店」という会社です。バブルの頃には盛んにテレビCMを流していたようです。

YouTubeにある別のCMを見ると、一時はこの方式で少なくとも全国16拠点でホテルチェーンを展開していたことがわかります(東京4、横浜3、京都、越後、蔵王、伊豆天城、白浜、札幌、倉敷、高山、河口湖)。

バブル崩壊後、高野敏男商店は1992年に倒産。保証したホテル賃料が支払われなかったことから裁判となり、同社の販売行為は詐欺であると認定されました(東京地判2003年4月25日判時1830号72頁)。その後、どのような経緯があってホテルウィングとなったのかはわかりませんが、小口不動産を持っていた当時の「オーナー」の権利がどうなったのかは気になるところです。

同社の破綻は国会でも取り上げられたことがあって、以下にその一端を見ることができます。

(国会会議録)第129回国会 衆議院 建設委員会 第6号 平成6年6月6日 | 国会会議録検索システム

3~40年前にこうした「荒っぽい」不動産取引が横行していた時代があったわけですが、不動産の小口化分譲とそれによるホテル建設というスキームが本質的に悪だ、ということにはなりません。建築費用を早期回収しようという部分はリゾート会員権と同じですし、リゾートトラストと東急不動産は長期に渡ってこの仕組みを利用して優良なホテル資産を形成してきています。

さて、冒頭に話した「閉館したホテル」の話に戻ります。閉館したのはリゾートトラストが経営する「ホテルトラスティ名古屋」です。このホテルはエクシブで成功を収めたリゾートトラストが、一般ビジネスホテルに本格的に進出した最初のホテルです。

Photo by resortboy

開業は1997年。写真はこのホテルでもっとも特徴的な、入口からロビー階へのアプローチ部分です。1階は駐車場の開口部を取ったために幅が取れず、ロビーやラウンジは2階に設置されています。そしてそこまでを吹き抜けとしてこのような階段スペースを設けたのでした。エクシブの成功を受けた形での設計で、24年前のビジネスホテルとしてはかなり豪華な仕様であったと思います。

近隣には、トラスティブランドのより新しいホテルが2施設あり、このホテルは合理化のための営業休止のまま、2021年1月25日付けで閉館となったのですが、そこで知ったのが、閉館の報道発表資料にあった「トラスティパートナーズシステム」という制度のことでした。

このホテルは、ホテルからの家賃収入を目的とする投資物件として、1室ごとに分譲されてできたホテルでした。この仕組みが「トラスティ」(信頼できる)というホテルブランドの名前の由来だったのかもしれませんが、以降のトラスティでは客室が分譲されることはありませんでした。

報道発表資料には「「トラスティパートナーズシステム」のオーナー様(中略)には別途「ご案内文書」を送付いたします」とあって、これからリゾートトラストと客室オーナーとでホテル閉館に伴う取引が行われるのだろうと思います。現在のリゾートトラストは非常に強い会社(エクセレントカンパニー)ですから、クローズによる混乱はないでしょう。

今はホテル専門に投資するREIT(不動産投資信託)などもありますから、ホテルに投資したいと考える投資家からすると、個別の客室を所有してリスクを集中させるメリットはそれほどないと思われます。それに今は、こうしてホテルの大家さんになったとしても、その「配当」はわずかなものです。

以下は宿泊特化型ホテルを中心に投資を行うREIT「インヴィンシブル投資法人」の分配金の推移です(2020年分は予想)。コロナ禍の影響で、2020年は前年の6%(94%減)しか配当されなくなってしまいました。

Photo by resortboy

1990年代初頭のバブル崩壊で詐欺的なホテルオーナーズシステムは破綻し、その30年後のコロナ禍では、近代的なホテル不動産投資手法であるREITがその配当を失いました。

その狭間で、その期間をずっと生き延びてきたリゾートトラストが、やや前時代的な「トラスティパートナーズシステム」に自ら幕を引いてひっそりと収束させる選択をしたことは、不動産投資商品にとっての稀有な「出口事例」となったように思います。チャンスがあれば、もう少し取材してみたいものです。

7 comments

  1. 「歴史は繰り返す」と言いますが、東急不動産とサンケイビルが共同で開発した「箱根仙石原ホテルコンドミニアム/レジデンス」が発売されます。全室スイート仕様で第1期の予定販売価格は6980万円~1億880万円。11月末に施設開業だそうです。箱根甲子園近くのセブンイレブンの道向かいです。窓から圧倒的な絶景が見える場所ではないので商品価値はお部屋の造作で決まりそうです。
    コンドミニアムでは「利用しない期間に客室提供することで賃料収入が得られる」、レジデンスでは「住宅宿泊事業法に基づいて年間180日客室提供することで賃料収入が得られる」とあります。
    固定資産税や管理費はオーナーが負担するのでしょうから冷静に考えればREITに比べて優れた投資商品ではなさそうですが、「リゾートホテルを所有して投資の旨味も得たい」という要求にハマる商品かもしれません。東急HVCの一部は購入後値上がりしていて「含み益」がある状態ですから「もう一回同じ夢を見たい」人もいるかもしれませんね。

  2. ざりさん、コメントありがとうございます。書いていただいた話題、僕も気になっていて、記事にしたいと、ブラウザのタブがずっと開きっぱなしです😅

    名前が「BLISSTIA(ブリスティア)箱根仙石原」と決まりました。民泊新法のしばりを逆からとらえて、会員権風味も加味したマーケティング主導の商品という感じですが、ネーミングは都会のマンション高騰化に乗ったイメージで、やはり資産価値を前面に出しているのかな、と。

    近く、箱根離宮の予約を入れてあるので、現地に行ってみようかなぁ…。お天気次第ですが。行ったら記事を書きますね。

  3. ざりさん、
    「箱根仙石原ホテルコンドミニアム/レジデンス」についての情報を有り難うございました。

     数年前に出た、東急がもう一つの不動産会社と共同開発した「日和オーシャンリゾート沖縄 」の新聞広告が気になっていて、沖縄にいってその前を通った時もじっと眺めておりました。繁忙期は自由に使えるし、空いている時は、ホテルとして貸し出すというのはとても魅力的だけれど、採算はとれるのかしら、もとはとれないにしても、どれくらいの費用対効果があるのかなあとずっと気になっていて、ここでresortboyさんを初め皆様のご意見をうかがえたらなあと思っていたのでした。

    東急は、コンドミニアムホテルに注力しつつつあるのでしょうか。
     沖縄のコンドミニアムホテルは好調なのか、今度は瀬長島にもopenとあります。
     これから注目される新しいリゾートの形になるのかどうか。

     resortboyさんも関心をお持ちのようでよかったです。是非記事にして下さい。期待して待っています(今回はスレ違いではないと思いますが)。

  4. 第一期販売から抽選になるようですね。この部屋数なら短期間で完売しそうです。お高い物件ですが価格の8-9割は不動産価値でしょう。買って5年後に半額になることはありません。resortboyさんが「リゾート会員権の「中身」を計算してみる」で明らかにしたようにエクシブ会員権だと不動産価値は5割以下です。横浜ベイコートや箱根離宮Sを二口ずつ買うより堅実な支出でしょう。
    貸し出し時のリターンはペイバックの率で決まります。管理料をしっかり取るでしょうからオーナーが得をするような率にはならないのではないかな。なので投資としての意味はあんまりないと思います。ちなみに温泉の泉源は一つで大涌谷温泉。箱根翡翠の露天風呂と同じ白い硫黄泉だそうです。モデルルームは現場からちょっと離れていて金時山登山口のコンビニ(確かローソン)跡地ですが雨なら箱根離宮まで営業車で送迎してもらえるんじゃないでしょうか。

  5. ざりさん
     貸し出し時のリターン、管理料が差し引きとのこと、なるほどです。教えて下さって有り難うございました。つまり、リターンという夢物語、幻想を売っているということになるのでしょうか。

     箱根の不動産の価値、場所によって違うのでしょうけれど、今はどんなものでしょうか。知り合いが三十年以上前に丸紅系の仙石原のファミーユを四千万台で購入したのですが、三年程前に十分の一位の価格になったと歎いていました(場所は、仙石案内所の近く、乙女屋ショッピングマートも徒歩圏)。あまり不動産、経済などに詳しくないので間違っているかもしれませんが。

     その程度なら手が届かないことはないですが、やはり管理が面倒な場合は、コンドミニアムホテルとかエクシブ、東急ハーヴェストという選択肢になるのでしょうか。

     resortboyさん、プレッシャーをかけてごめんなさい。ざりさんのおかげでリターンの見当がつきましたので、少し現実が見えてきたような気がします。

  6. 別荘やリゾートマンションを所有する際に「使ってない時って無駄だよね」と誰もが思います。オーナーが使わない時に部屋を貸し出して収益にするシステムなんですが、良いことばかりじゃなくてオーナーも我慢する必要があります。
    貸し出しにあたっては常にクリーンな状態にしておかなくてはいけません。絵画や花瓶くらいでしたら問題ありませんが、宿泊者がクローゼットを開けた時にオーナーお気に入りのパジャマが入ったままだったりしたらビックリします。衣類以外にも私物のパソコンやDVD、本などは置いておけませんね。今回の物件にはオーナー専用のロッカーが用意されるそうです。見学する際にはこのロッカーの大きさを確認することをおすすめします。ご自分が気持ちよくリゾートを過ごすために必要なアイテムがロッカーに入り切るかどうか検討する必要があります。

  7. リゾートと関係ないんですが変な物件をみつけました。
    「入居者が外泊すると家賃が減額される」東急の賃貸マンションです。
    ttps://www.tokyu.co.jp/image/news/pdf/20220315-1.pdf
    入居者は一定期間前までに外泊を申請すると家賃が減額される。外泊時は私物を鍵付きロッカーに保管、運営スタッフが清掃しホテルとして宿泊者を募集する。外泊日数に応じて一日3,000円、上限は月45,000円が減額される。

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