リゾートトラストは、一般向けホテルとして展開している「トラスティ」事業からの事実上の撤退を発表しました。同社は、ホテルトラスティ9施設のうち6施設の営業を3月31日で終了し、所有する施設については売却します。
他社が営業を引き継ぐホテル
今回、営業終了するホテル(他社が営業を引き継ぐホテル)は以下の通りです。
- ホテルトラスティプレミア日本橋浜町(2019年開業)
- ホテルトラスティ金沢香林坊(2013年開業)
- ホテルトラスティ名古屋栄(冒頭の写真。2003年開業)
- ホテルトラスティ心斎橋(2005年開業)
- ホテルトラスティ神戸旧居留地(2009年開業)
- ホテルトラスティプレミア熊本(2019年開業)
このうち、日本橋浜町と神戸旧居留地は賃借物件で、その他の金沢、名古屋栄、心斎橋、熊本は自社所有物件です。売却により2023年3月期(来期)において、特別利益の計上が見込まれています。賃借物件については後継の運営会社に賃借権が引き継がれます。
これら営業終了のホテルの中には開業間もない新しいホテルも含まれており、すべて2000ゼロ年代以降に同社が手掛けた比較的新しい事業です。それらをばさっと終了させてしまうところに、コロナ禍がホテル業界に及ぼした大きな影響を感じざるを得ませんし、また目下好調な会員制事業に経営資源を集中させることの意味合いを考えると、少し恐ろしい気がしています。
引き続き運営されるホテル
トラスティとして残るホテルは以下の3つです。
ホテルトラスティ東京ベイサイド
このホテルは東京ベイコート倶楽部の副産物のようなホテルです。当時(2000ゼロ年代よりも昔)のリゾートトラストは、ホテル建設の際、既存の名建築に対して強い模倣性を持たせることを特色としており、このホテルも、インスパイア元物件であるワイキキ・ランドマークを模した結果、本体(東京ベイコート倶楽部)に付属の別棟の存在が必要となって生まれました。
このように会員制ホテルと一体開発されたため分割が事実上不可能だったことと、サンメンバーズ東京新宿の閉館によって同ホテルに対する利用権がこのホテルに付け替えられたことが事業継続の要因だと推測されます。
(関連記事)サンメンバーズ東京新宿と名古屋錦が閉館|リゾートトラスト – resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究
ホテルトラスティ名古屋白川
このホテルは「ヴィア白川」というリゾートトラストがはじめて手掛けた商業ビル(1974年開業)の中にあって、言わば同社発祥の地です。そうしたヒストリカルな意味合いに加えて、サンメンバーズのシティホテルである「サンメンバーズ名古屋白川」もこのトラスティ名古屋白川の中にあると位置づけられています。ビル全体としての所有権利関係も複雑であり、売却は不可能でした。
(関連記事)リゾートトラスト発祥の地に「ホテルトラスティ名古屋 白川」|リゾートトラスト – resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究
ホテルトラスティ大阪阿倍野
このホテルは取材したことがないので詳細がわかりませんが([追記] 取材しました)、同社のビジネスの本質と縁深い上記の2ホテルとは正反対の性格です。「あべのnini」というエリア再開発事業でできた複合ビルの中の単なるテナントであり、定期賃貸借契約によってビルの3〜11階部分に出店しているものです。同社の有価証券報告書を見ても、帳簿価額はゼロです。
(参考資料)あべのnini | 運営管理物件 | JLLモールマネジメント株式会社
同じ大阪には自社所有のホテルトラスティ心斎橋があり、こちらは売却されます。後継の運営会社も既に大阪市内で5つのビジネスホテルを営業しています。こうした過剰感から営業継続となったのかもしれません。また、事業撤退のインパクトを薄めるため、トラスティとして東名阪に1拠点ずつ残すという、外形的な意味合いもあったかもしれません。
一般ホテル事業から事実上撤退へ
このように見てみると、「譲渡できるものはすべて譲渡した」ように見えます。本記事のタイトルでは「大幅撤退」と曖昧な表現としましたが、もう少し強い「一般ホテル事業からの事実上の撤退」と取ることもできるでしょう。
同社の一般ホテルには他に、一般向け高級ホテルであるハワイと横浜の「カハラ事業」がありますが、それらは同社のビジネス展開における位置付け上、撤退したり売却したりすることができない存在になっています(説明は省略しますが、このサイトに来ている方はカハラが以前より「お荷物」であることもよくご存知のことと思います)。
(関連記事)中期経営計画「Connect 50」|リゾートトラスト – resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究
同社は今回の撤退劇について、以下のように表現しています。
譲渡の理由
当社グループでは、このコロナ禍において、長年培ってきた「会員制ビジネス」の強さを再認識しており、今後は更に、「会員制」をベースとした成長戦略を拡大・加速していくことで、当社グループが目指す「お客様がより良い人生を健康で楽しく、より永く過ごせるよう寄り添い、一生涯を通じてお付き合いしていただけるグループ」の実現に向け、邁進していく方針です。
上記の方針に従い、当社グループの既存顧客層への付加価値を高める領域へ経営資源をシフトしていくため、シナジーを見込み難い一般向けホテル事業の一部を譲渡する方針の決定に至りました。
今後は、余暇・医療等分野における「会員制」を軸とした事業展開の更なる充実に加え、SDGs・ESG 関連投資、DX投資にも注力し、更なる生産性の向上と、サステナブルな経営を目指してまいります。
(出典:リゾートトラスト発表「一般向けホテル事業の一部資産譲渡に関するお知らせ」- 2022年2月14日)
要約すると、「会員制事業に経営資源をシフトする」としています。
おそらく、カハラ事業についても大幅な見直しが入っているでしょうし、2017年に大々的に発表した海外進出計画も、白紙になったと予想します。同社が一般向け高級ホテルへの事業展開を記者会見までして発表したことは、あまりにも無責任であったと僕は当時から批評してきましたが、コロナ禍によって「ちゃらになった」のは同社にとっては幸運だったと思います。
(当時の報道)リゾートトラスト、非会員制高級ホテルで海外進出: 日本経済新聞
(関連記事)横浜ベイコート倶楽部、一般ホテルはカハラブランドに|ベイコート倶楽部 – resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究
同時に、同社が一般向けホテル事業から撤退基調であることは、老朽化した会員制ホテルの行く末の選択肢が、一つ消えたことをも意味しています。
後継の運営会社について
営業終了するホテル群が4月1日以降にどのような運営になるのかについて、具体的な情報はありませんが、後継の運営会社は「ポラリス・ホールディングス」であることが明らかになっています。
(参考資料)ホテル店舗一覧 | ポラリス・ホールディングス株式会社 (旧社名:価値開発株式会社)
同社は以前「価値開発」という名称だった会社で、ベストウェスタンの日本での商標権を得ているホテル運営会社です(日本のベストウェスタンは子会社のフィーノホテルズが運営)。こちらの写真は同社が不採算ホテルとして2021年12月に閉館に踏み切ったベストウェスタンホテル名古屋です。
(子会社による公式)ベストウェスタンホテル【公式ホームページ】
この会社の経営については特に取材していないので書けることがありませんが、以下の記事や株価情報からは、いつ倒産してもおかしくない会社であるように見えます。
(ダイヤモンドの記事)【倒産危険度ランキングワースト17位】ポラリスの社長が力説!資金調達できずとも上場する意味 | 廃業急増!倒産危険度ランキング2021 | ダイヤモンド・オンライン
(ポラリス社株価情報)ポラリス・ホールディングス(株)【3010】:詳細情報 - Yahoo!ファイナンス
このような経営に不安を抱える企業にトラスティ事業を売らざるを得なかったことは、いちトラスティファンとして、とても残念に思います。
トラスティ売却の件、特に熊本と浜町のプレミアまで売却するとは衝撃でした。
リモートワーク、オンライン会議の普及で出張が激減、都市部での宿泊が減少したことも要因でしょうか?(売却するくらいなら、コロナ感染者の隔離施設として社会に貢献してほしかったな…)
老朽化した会員制ホテルを一般高級リゾートホテルとして活用するくらいなら思い切って閉館?にするでしょうか?
とってもショックですね。
コロナ禍でもリゾートトラストは、会員制が好調なので全体で維持してくものと思っていました。
こうなると、カハラもお荷物ではないのでしょうか?
古い稼働率の悪いエクシブもどうなのでしょうか?。
一つのホテルリゾートの時代が終わっていく感じがします。
私は、エクシブとベイコートを所有していましたが、エクシブは売却しました。ベイコートのみで十分楽しめています。
今は、マリオットボンヴォイのプラチナとヒルトンゴールドでいろりなホテルで楽しんでいます。朝食無料やスパやラウンジ アクセスがついているとエクシブとは違いハード面では無くサービス面で満足さてもらえます。
株と一緒でリゾートの投資もリスク分散の時代かと思います。
⭐️のリゾートは何がってもキャンセル料を突れる可能性が高いので予約の際は気をつけてください。
たかすぬさん、トムさん、コメントありがとうございます。僕も相当にショックです(いろいろな意味で)。
今回の撤退で、会員権ホテル分譲企業(不動産業)として、ある意味でリゾートトラストは原点に戻ったわけです。しかし別の見方をすると、一般ホテル事業をうまくいかなくなったから切り捨てたということは、同社のホテル運営が下手くそであった(アフターコロナに対応できなかった)ということを自白していることになりますよね。それは「売ってしまった会員制ホテル」のサステナビリティにも影を落とす行動ではないかと感じる方はいませんか。
実はこのこともあって、大阪に出向いて閉館前のトラスティを見てきました。それについては別の記事で書くことにします。
金沢や熊本はついに訪れることがないままにトラスティとしての営業を終えてしまうことに…。
映像を見るとなかなか素晴らしいじゃぁありませんか。もうちょっとしっかりとした企業に売却できればよかったと思いますが…。
記事にするほどでもないので、コメントで書いちゃいますね。この記事で触れていない閉館したトラスティに、「トラスティ名古屋」という「初代トラスティ」があるんです。
これはもともと投資商品として分譲されたものでして、その閉館の経緯などについては、以下のような(相当にマニアックな)記事として本サイトで既報の通りです。この記事は昨年2月に京大で講演したときに、大学院生の人がこの記事について面白かったと言ってくれたのがとてもうれしかったなぁ。
コロナ禍に見たホテル投資の「出口」|ホテルトラスティ – resortboy's blog
で、このトラスティ名古屋なんですが、大局的には相当に細かい話なので、気になってはいたものの、本記事ではこのトラスティ名古屋については触れないでいたのです(あ、名古屋栄とは別のホテルですよ、念のため)。
そのトラスティ名古屋の去就がこのほど明らかになりました。
このホテルは上記のような経緯でリゾートトラストがすべてを所有しているわけではないため、「信託受益権の譲渡」という形で、「どこかの誰か」にホテルまるごとが譲渡されました。
250室もある堂々たるビジネスホテルです。どこになるかまだわかりませんが、別ブランドで復活したら、ぜひまた利用してみたいと思います。オフ会もここでしたことがありますし。
神対応オブザイヤー|ホテルトラスティ – resortboy's blog
僕は「エクシブとビジホの融合」であるトラスティに対して並々ならぬ愛情を注いでいまして、本サイトでもいろいろと記事を書いていますので、皆さんぜひ読んでください。特にこれとか。
ホテルトラスティ心斎橋とトラスティシリーズの系譜|ホテルトラスティ – resortboy's blog
ホテルトラスティ・東京ベイコートに、初めて泊まってきましたーーー!
これまで、東京ベイコート倶楽部には何度も泊まったことはあったのですが、トラスティに泊まったことは無かったんです。
でも、今回は、RTTGアプリ限定優待チケットで、2名で7,000円という(1名あたり3,500円)お得感のあるプランがあったので、有明での観劇を楽しんだ後、お泊まりしてみましたーーー💖。
ホテルトラスティ・東京ベイサイド、とても良いHotelでしたーーー💖💖💖。
特に、お部屋の窓から、海がとても近くに見られて、癒されました。部屋が低下層のため、海のさざなみがキラキラ光っているところまで良く見れるんです。
まるでイタリア「ヴェニス」のHotelみたいだねーーーと家族と話しておりました(ヴェニスには、まだ行けていないんですけど(笑))。
これまで、トラスティには勝手に「単なるビジネスホテルでしょ!」と思いこんで、軽視してきてしまっていたのですが、トラスティ、なかなか良いHotelですねーーー💖。
うーーん、こうなると、今回の早々の売却が、何とも惜しいです。
が、今ある、既存のHotelを、エクシブ、ベイコートのオーナー達が、愛して通いたくなるホテルにしていって欲しいですねーーー💖💖💖。
リゾートトラストの現場のホテルマン(女性も!)達は、良い方も本当に多いので、経営陣達には、オーナーの方を向いている改革をお願いしたいです❣️❣️❣️
それにしても、トラスティ・東京ベイサイド、魅力がありました❣️❣️❣️
皆さんも、RTTGでの、お得プランで、ぜひご利用してみてくださいませ❣️
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ホテル名は「ホテル トラスティ東京ベイサイト」です💖
らららさん、リゾートトラストが自ら作ったトラスティはなかなかよいものだったですよね(過去形。2000ゼロ年代の話)。
以下の記事では「トラスティ東京ベイのスイートは最高」みたいなマニアな話が展開されていますので、併せてご覧ください。
休暇でない、サードプレイスとしてのホテル利用 – 2|番外編 – resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究
さらに、僕のトラスティ愛にあふれた記事は以下です。
ホテルトラスティ心斎橋とトラスティシリーズの系譜|ホテルトラスティ – resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究
トラスティ東京ベイサイドのお台場側の客室は、運河に面していて感じがいいけど、季節によっては西日がきついですね。けっこう(というかかなり)素敵だけど、テレワークに向かないかも。
ありがとうございます😊。
過去の記事も興味深く読ませていただきました❣️
こんにちは。
最近このサイトにたどり着き、楽しく読ませていただいています(ss購入も考えているので勉強もさせていただいています)。
ありがとうございます。
親がエクシブ会員なので、リゾートトラストの宿泊施設を私自身は不定期に利用してきて、よく知ってる時期と全然わからない時期がまだらになってます。
最近久しぶりにエクシブに泊まり、ホテル熱が再燃し、いつかトラスティを使い倒したいと思ってたのに、実現する前になくなっていたのですね。
でもこんなショック(急な方針転換)はRTとしてはあるあるかもですね。
海外交換ができなくなっていたと知った時と、京都旅行で使おうと思ってた八坂神社前のサンメンがなくなってたことに気付いた時以来です(泣)
会員権検討中☆さんいらっしゃいませ。今、アツい状況でいらっしゃるんですね。今後ともよろしくお願いします。
「八坂神社前のサンメン」というのは何かの勘違いかな? 京都のサンメンは以下にまだあります。人気がなくて、いつも空いている印象。
サンメンバーズ京都嵯峨|リゾートトラスト株式会社
関係ありませんが、京都御所の西南角の向かいにあった「東急ハーヴェストクラブトラスト京都アーバンステージ」は2015年に閉館(建物オーナー企業の意向。トラストは預託金制の意味)して、今は以下のホテルになっています(すごく安い)。
(公式)Noku Kyoto
先日、家内とトラスティ東京ベイサイドに宿泊してきました。
予約の電話に応対していただいたフロントスタッフさんの名前に聞き覚えがあったので尋ねてみたら、今年3月末の閉業直前にトラスティ熊本に宿泊した際にお世話になったスタッフさんでした。
熊本からトラスティ東京に異動された方は他にももうお一方おられお二人にはチェックアウト時にご挨拶させていただきました。
同じタイミングでトラスティ日本橋浜町にも宿泊しましたが、その時にお世話になったフロントスタッフさんはエクシブ蓼科に異動されフロントで活躍されています。
熊本も浜町もとても素敵なホテルでしたので閉業してしまったのは極めて残念ですし諸事情で転職を余儀なくされた方達もたくさんおられると思いますが、知り合ったスタッフさん達がこうやって他のホテルや系列会社で元気に活躍されているのを見ると嬉しくなります(^^)
読者の方からコンタクトフォームで情報をいただきました。
> 「八坂神社前のサンメン」というのは何かの勘違いかな?
これは1977年6月開業の「サンメンバーズ京都祇園」のことですね。もはやまったく情報がないので、蔵を掘っても僕にはこれくらいしかわかりません(当時の住所もわかりましたが今の住居表示とは異なっていました)。
ひるがの、奥志摩、根の上高原、賢島に続く、サンメンバーズの5番目のホテルでした。というわけで、会員権検討中☆さん、大変失礼いたしました。研究家としてお恥ずかしい限りです。
magoaiさん、コメントありがとうございます。ホテルでの顔見知りスタッフとの交流は大事なことですね。エクシブなどではその仕組み上、どうしてもプライバシーに介入されてしまうので僕は苦手なんですが、シティホテルではそのあたりをスマートに心得てくれている感じで安心したりします…。
有明から青海はいま、工事ラッシュでちょっと独特な雰囲気となっておりますが、かえって観光アイテムになっているという話もあります。観覧車は8月末日までです。皆さんもぜひどうぞ!
(参考)まもなく営業が終わる『お台場の大観覧車』の窓から見える景色がポストアポカリプスみたいだった「これは切ない」 – Togetter