筆者は志摩エリアから北上して、鳥羽市に入ります。ガラ権施設巡り、紀伊半島一周の旅の最終エリアである、志摩半島の北端に到達しました。本物の伊能忠敬も地図作成の測量において、この志摩半島の海岸線の複雑さには苦労したとの逸話があるほどの場所です。
ドライブでのガラ権測量を得意とするニセ物の伊能(筆者)にしても、とても分かりにくくて難儀するものでありました 1。
三重県の鳥羽
到達した「鳥羽」と言う地名の由来ですが、その昔、船の停泊地となっていたので「泊浦(トマリバ)」と呼ばれた場所が、なまって「トバ」となり、京都の「鳥羽」の当て字が用いられたとのことです 2。
古くは「後鳥羽天皇」(鎌倉時代)や「鳥羽・伏見の戦」(幕末)でおなじみの、平安京跡近くの本家「鳥羽」との関係は全くありません。
三重の鳥羽市は、景勝地・船の停泊地から発展し、伊勢神宮のお膝元にあることから、観光地として参拝客や行楽客が絶えなかった場所です。美しい海岸線に加え、温泉も湧出。伊勢志摩国立公園の中では、関西・中部の大都市圏から最も近くアクセスが良いとあって、日本最高レベルの観光都市であると言えます。
鳥羽温泉郷ですが、狭い範囲の複雑な海岸線や離島になんと9つもの温泉地が点在します 3。それぞれ、大小の温泉旅館、ホテル、民宿が立ち並び、壮観です。
アメリカの西海岸・サンタバーバラと姉妹都市となり、「東洋のサンタバーバラ」を名乗っています 4。しかし筆者には、スペイン風の雰囲気は感じられず、むしろ自信をもって「ニッポンの温泉海岸」を名乗って良いと思います。
では、鳥羽エリアに、ガラ権施設はあるのでしょうか。
正解は「もちろんある。それも沢山ある」でして、その訳は、大都市部からのアクセスが良く、温泉があって保養地として優れているからです。
アルティア鳥羽
今回から3回に渡り、鳥羽エリアにある数あるガラ権施設で、特色あるクラブや施設について書き残したいと思います。
1回目は、9つの温泉郷で最大規模である「安楽島温泉郷」にあるバブル遺産、「アルティア鳥羽 5」を取り上げます。
「安楽島(あらしま)」は島ではなく、突き出た小さな半島です。中央部が低山となっていて、半島全域が温泉街として栄えています。
アルティア鳥羽はこの山の海側北斜面を切り開いて建てられたもので、高台にある眺望自慢の施設です。
バブル期のガラ権施設は、数奇な運命をたどることをこれまでの連載で見てきましたが、アルティア鳥羽もその1つです。
本施設は1992年11月、バブル期に活躍した名古屋の不動産会社で、今は亡き「地上社」によって開発・開業されました。
まさに「地上げ屋」的な名前ですが、中部地方の都市部におけるマンション開発(ブランド名は「エスポア」)で派手に活動した会社だったようです。
その後、リゾート開発に手を出して開発されたのがこのホテルですが、アルティアの名はラテン語の「ALT(極み)」と「IA(国)」を合わせた造語で、「至高の国」という壮大な命名がなされました。
開発コンセプトはフランスのコートダジュールだったそうですが、エントランス道路入口にはギリシャ神殿風の柱が立ち並び、やや意味が分からない感じもします。
会員権の中身
本会員権については、筆者は資料を所蔵していたはずと探してみるも見つからなかったところに、考証・編集担当のresortboyさんが図書館で当時の募集広告を複数見つけてくださったので、それらを参照しながら全容を記録しておきます。
ガラ権メーカー名は「地上社」そのものでなく、同社のリゾート開発部(浜名湖などにリゾマンを建売していた)から発展・分離独立した「アルティア」という新会社でした。この鳥羽が第1号施設で、北陸山中温泉や信州、伊豆にも展開する予定であった「会社名兼ガラ権名」となります。
アルティア鳥羽は72室の共有制リゾート会員権(一棟を共有)であり、一室換算で12口、年間権利は30泊という、東急ハーヴェストクラブと同様の設定でした。利用もパーソンチャージで、開業当初は3,000円という手軽さでした。年末年始など繁忙期には利用保証日を設けるなど、後にハーヴェストクラブに登場するオプションも標準装備でした 6。
売り文句を要約すると「なだらかな丘陵に沿った地上・地下計6階建ての建物は、石をふんだんに使用し「水中宮」をイメージして設計。全室が美しい海へのオーシャンビューで、仏コートダジュールを想起させる」とあるのですが、出来上がった施設は、確かに力作です。
募集は建設開始の1991年から第1次(300口)が1口900万、第2次(300口)が1口約970万でした。第1次では900万のうち土地建物が750万と割合が大きく、それに登録料、保証金、営繕金が付加されて900万という値付けでした。売主はデベロッパーの地上社で、販売代理がアルティア。売り方もハーヴェストクラブにそっくりです 7。
ハーヴェストクラブにここまで似ているガラ権を筆者は知らず、今回の発掘には驚きました。鳥羽に現れた小ぶりの豪華ハーヴェストであり、連載前々回で取り上げた近鉄の「プライムリゾート賢島」以上にシステム的に相似性があります。
1施設だけで
アルティア鳥羽は、バブル期の不動産業者がさらなる錬金を行うため、夢多き名前を付けてガラ権を開発したという、お決まりのパターンでした。計画は1990年頃であると思いますが、完成してガラ権を売ろうとしたら、時すでに遅しで売れなくて沈んだ、遅れて来たバブルガラ権、というパターンもここに当てはまり、「ガラ権史」的にはわかりやすい施設です。
そして計画された第2号以降の施設は作られることなく、この鳥羽だけでリゾートクラブの展開は終了しました。
その後です。このアルティア鳥羽は、地上社が立ち行かなくなってからは、旧セラヴィグループ(「北の家族」で知られる飲食系からリゾート会社に発展した名古屋の会社 8)に運営が移行します。
会員の持分など、細かい権利をどう整理したかは不明ですが、物件全体は開発した地上社から、「ゲオエステート 9」(レンタルビデオ等で有名になった「ゲオ」の子会社)に移りました。現在は「ゲオ」本体が所有しているようです。
アルティア鳥羽は、旧セラヴィグループに運営が移ってから、客室14室を個室露天風呂付きに改修したり、パブリック部分を拡大したりと大幅に手を加えたようで、目指した「至高の国」はさらに極められたものとなったようです。
現在の運営主体は、再生を果たした現「セラヴィリゾート泉郷」ですが、開発から既に30年以上が経ちます。やや古さも出てきているようなものの、安楽島温泉郷のホテルにおいては、最強のしつらえの一つであるのは間違いありません。
泉郷とセラヴィの物語
さて、ここで本連載では初めて、ガラ権ファンなら必ずご存知の「泉郷」という単語が出てきました。
泉郷は、老舗ガラ権メーカーとして、発祥と本拠地は八ヶ岳南麓の別荘地であり、数奇な運命をたどった後の現状においても、八ヶ岳・清里エリアから安曇野といった甲州から信州、また伊豆半島に強いクラブです。複雑な歴史の詳細は、将来そのあたりの施設を見て歩くときに書いていきたいと思いますので、今回は部分的に書くに留めます。
アルティア鳥羽は、倒産した旧セラヴィグループがリゾート事業に乗り出した時、いくつかのリゾートホテルの運営を受託した中の1つです。「ヴィラ高山 10」「浜名湖グランドホテルさざなみ館 11」と同時期です。
また、旧セラヴィグループの中でリゾート事業が立ち上がった後に買収したホテルとしては、「清里高原ホテル 12」があります。
そのため、老舗ガラ権メーカーである泉郷が開発した「泉郷プラザホテル」ブランドのホテル群、つまり現在ホテルアンビエントを名乗っているホテルとは、出自が異なります。
泉郷は、バブル終焉後の経営危機において、旧セラヴィグループに吸収されたのですが 13、その後同社が、名古屋港ふ頭において展開した「名古屋港イタリア村」の失敗でグループまるごと倒産してしまった後 14、再建計画の中で、健全であったリゾート部門のみが現在のセラヴィリゾート泉郷として復活します。
旧セラヴィグループの祖業である居酒屋事業は売却されましたが、この際、アルティア鳥羽や清里高原ホテルなど、後から取得したホテル事業も合わせて、元のガラ権メーカーに戻るような形で生き残ったのでした 15。
泉郷プラザホテル鳥羽
この鳥羽エリアには、安楽島とは別の「小浜温泉郷」において、旧・泉郷のオリジナル施設「泉郷プラザホテル鳥羽」がありました。
このホテルは旧セラヴィグループに泉郷が吸収された後、一時「アルティア鳥羽別館」を名乗っていました。
現在は「鳥羽わんわんパラダイスホテル」(元のホテルは1990年12月開業、59室。2004年7月からドギーホテルに転換 16)として運営されていて健在です。
次回は、アルティアから海に向かって目を向けると見える、藤田観光が開発した、かつての鳥羽小涌園エリアに向かいます。
志摩半島は伊能忠敬がおこなった「富士山測量」の本土最南端。
・伊能忠敬と志摩/志摩市ホームページ
・この地を測量した(伊勢・志摩)
・【伊能忠敬 富士山測量本土最南端之地】アクセス・営業時間・料金情報 - じゃらんnet ↩︎スペイン人によって1782年、サンタバーバラ・シティーが築かれた。
・姉妹都市(サンタバーバラ市)/鳥羽市ホームページ
・サンタバーバラ市とは/鳥羽市ホームページ ↩︎・【公式】ホテルアルティア鳥羽 | セラヴィリゾート泉郷(いずみごう)
・鳥羽温泉郷 ~ 宿をさがす/安楽島エリア ↩︎例えば、東急ハーヴェストクラブ伊東の「半露天風呂(温泉)付客室」にオプションを付けると、割り当てられたタイムシェアカレンダーで利用日を優先的に確保できる。
・東急ハーヴェストクラブ伊東|客室|会員制リゾートホテル ↩︎東急ハーヴェストクラブの場合、売主・事業主は東急不動産、販売代理が東急リゾート、運営が東急リゾーツ&ステイ。アルティア鳥羽の運営は、旧セラヴィグループが1994年より手掛けていた模様(以下の書籍、巻末の年表による)。
もっと身近にリゾートを ↩︎現「高山わんわんパラダイスホテル&コテージ」
・【公式】高山わんわんパラダイスホテル&コテージ | セラヴィリゾート泉郷(いずみごう) ↩︎現「浜名湖わんわんパラダイスホテル」
・【公式】浜名湖わんわんパラダイスホテル | セラヴィリゾート泉郷 ↩︎清里高原ホテルは1990年開業の「清里高原富士屋ホテル」を2004年に旧セラヴィグループが買収したもの。
・【公式】清里高原ホテル | セラヴィリゾート泉郷(いずみごう)
・(スームアップ)、清里高原富士屋ホテル完成 | NIKKEI COMPASS - 日本経済新聞 ↩︎・セラヴィリゾート泉郷が経営破たん | セラヴィリゾート泉郷 – resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究
・名古屋港イタリア村 - Wikipedia ↩︎ただ、再建の際に切り捨てられたホテルも存在する。例えば「ホテルアンビエント苗場」は区分所有共有型のホテルであったために権利関係を処理できず、長期間に渡って放置され、現在は廃墟になっている。次のYouTube動画で現在の様子を伺い知ることができる。
③「区分所有という迷宮 -新潟県湯沢町を例に-」区分所有型ホテル編 - YouTube ↩︎
zukisansuさん、アルティア鳥羽の研究論文ありがとうございました。ここもガラ権だったのですね。知りませんでした。それにしてもzukisansuさん(+resortboyさん)の調査・分析・考証は凄いですね。私も自称ライターの末席にいますので、これだけのレポートを資料を添付して出すという大変さはよく分かります。毎回、本当にご苦労様です。ガラ権の歴史の証言書です。
さて、私はセラヴィの会員になってから数回このホテルに泊まり、すっかり気に入りました。施設、サービス、料理、ともに十分満足できました。ただ、エクシブ鳥羽(アネックス)の会員権を購入してから、ご無沙汰です。両者を比較すれば圧倒的にエクシブ鳥羽の勝ちだからです。
ここ長らくアルティア鳥羽に全く泊まっていないので、早速、セラヴィリゾート会員専用サイトで宿泊検索してみました。夏休みでも8月19日(月)以降、毎日空室があります。
8月24日(土)の宿泊プラン《セラヴィリゾート会員料金》
2名1室利用の1人当たりの料金、税・サ込
◎素泊まりプラン 6000円
◎1泊朝食付プラン 7,800円
◎1泊2食付き 通常プラン ~会席~ 11400円
【ご夕食】季節の食材1品付き「手毬会席」
【ご朝食】「朝食和膳」または「アメリカンブレックファースト」
夏のハイシーズンの土曜日でこの値段なので十分利用価値はあると思います。料理は非常に美味しかった記憶があります。
古い記録ですが、セラヴィが破綻する直前の2008年4月30日に泊まった旅行記がありました。メンバー用の「平日施設利用優待券(1泊2食カジュアルプラン6500円、税込・サービス料別)」利用とありました。古き良き会員制リゾートクラブ黄金時代でしたね。
◎春のアルティア鳥羽
https://4travel.jp/travelogue/10236752
funasan、最新情報、そして旅行記のご紹介をありがとうございました。
我々(zukisansuさん+resortboy)ガラ権研究班と、実際の会員でいらして、しかも旧セラヴィリゾート破綻直前(本文中のヤケクソちらしの直後?)の時期のfunasanの宿泊レポートが組み合わさって、時空を超えた歴史の記録となりましたね。
素敵なホテルで、ますます行きたくなりました。