青森県は弘前市の岩木山山頂からスタートした今昔物語シーズン2。青森県の南西に広がる秋田県にガラ権施設は見当たりません。次に向かうは東側の岩手県です。シーズン1では、北海道で開発されたいくつものバブル期の壮大なガラ権スキーリゾートを取り上げました。今回から2回に渡って取り上げる岩手県の「安比高原リゾート」は、それらに比肩する超大型開発です。
リクルートが開発したことで知られるこの巨大リゾート 1 は、追って詳述していきますが、純粋なリゾート会員権ではなく、現代で言うところの「ホテルコンドミニアム」として分譲され、幾度にも渡って拡張されてできたリゾートでした。そして今回の末尾で触れますが、今は外資系となって営業しているところは、北海道編で触れたいくつもの事例と共通しています。
弘前から南下して
前回の弘前市からの南下ルートはいくつか考えられますが、筆者の経験から、奥入瀬渓流 → 田沢湖 → 盛岡と走るのをお薦めします。星野リゾートが道中を見守ってくれます(笑)2。山道の連続ですが、東北の森林・渓谷・湖を抜ける、爽快なドライブルートです。
もうすぐ日本有数の名勝・八幡平となるところで、道路が分かれたその先が目的地です。ようやく辿り着いた所には、日本離れした豪快なスキーリゾート、安比高原が待っています。
首都圏から陸路で行くにはかなり遠い安比高原ですが、かつてはその豪快さと派手な宣伝で、ここに行くのがスキーヤ-の夢でした。この岩手山の北に連なる2つの山にまたがる広大なスキー場は、1980年代に新規で開発され、ゲレンデ構成が洗練されていて魅力的だったのです。
開発盛んな1980年頃は今よりもっと道路事情も悪かったですし、なかなか行けないスキー場ではあったのですが、頑張って行った証として、車のリアに 3 ウサギのマークの「APPI」のステッカーを貼るのが流行しました。
本州スキーリゾートの最高傑作
筆者は、盛岡に親しい友人がいた関係で、岩手山(岩手県の名前のルーツでもある名峰)の裾野回りに配置された、いくつものスキー場に行く機会がありました。この中で、安比高原は群を抜いていました。
今や40年も昔の開発になりますが、先般の訪問でいま見ても全く古さを感じさせません。スキーセンターに隣接して並ぶ建物群、日本はもちろん海外でも見かけない鮮やかな黄色の「ホテル安比グランド&タワー」、対照的に上品な色合いのヴィラ3棟、そしてやや離れて、やはり黄色のヴィラ3棟の建物配置は、非常に印象に残るものです 4 。
ここは、一度行ったら忘れられないインパクトがある、本州スキーリゾート開発の最高傑作と言えます 5。
少し離れて同系列のゴルフ場も作られていますので、夏の利用もあると思いますが、やはり、一面の雪に鮮やかな19階建てのタワーホテルが映えます。この、見る角度によって形が変わって見えるホテルデザインは、極めて斬新です。
江副浩正が愛した安比
開発の歴史を簡単に追ってみます。安比高原は、その当時から大企業であったリクルートの研修施設がルーツであり、1978年から本格化した、リクルート社の創業者である江副浩正氏の肝いりの開発です 1。一方でバブル期だけに、安比高原には行政を巻き込んだ第三セクターも設立されており、東北の一大事業となっていました。
この第三セクターでは当初、丸紅が最も力を入れていましたが、ロッキード事件で同社が去った後、1980年頃から合流したリクルートが主導する形で開発が本格化。スキー場・ゴルフ場に続き、宿泊施設群の建設で盛り上がります 6。
安比高原の開発と、北海道のトマムの開発は非常に似ていますので対比して読まれると面白いと思います 7。トマムも一流のデザイナーがホテル群を構築しましたが、安比高原では、江副氏の依頼で日本トップクラスのグラフィックデザイナーであった亀倉雄作氏が関与し 1 8、一連のホテル群の構築や全体的アレンジをしています。ウサギのステッカーもその一つです。
大型リゾートの時代
宿泊施設について順を追うと、1985年、メインゲレンデのスキーセンターの横に、ベースとなるホテル「ホテル安比グランド」が建設されます。亀倉雄策氏の監修、谷口吉生氏の設計によるこのホテルは、1987年に日建連BCS賞を受賞するほど 9、建築作品としての評価も高いものです。
1988年には、サブゲレンデ「セカンド安比」とコンドミニアム「安比グランドヴィラ1」、続く1989年にはこの地のランドマークとなる「ホテル安比グランドタワー」が開業しました 10。
実にこれは、トマムのザ・タワー1と2が開業した時期と重なるのです、東北・北海道の大型開発は沸いていました。
ここまで来たらもう止まりません。続くコンドミニアムは、1990年「安比グランドヴィラ2」、1991年「安比グランドヴィラ3」。スキー場のゴンドラ・リフト数は実に30基を数え、本州最大級のスキーリゾートに成長しました。
加森観光から驚きのIHG
広大な2つの山の山麓に、横一列に並ぶホテル・リゾマン群は雄大です。しかしご多聞に漏れず、栄華は続きません。バブル崩壊の影響は、安比高原も例外であるはずはありませんでした。
この後に造られたのが、「安比グランドアネックス1」(1996年)、「安比グランドアネックス2」(1997年)、「安比グランドアネックス3」(1998年)となります。これらはすべて1室分譲型コンドミニアムであり、バブル崩壊後ではありますが、最後まで売り切ったと思えるので、安比高原の底力を見る気がします 11。
しかし、リクルート社も2000年を越えたあたりで限界と見たか、2003年にこの全部を北海道の「加森観光」に譲渡します 12。トマムの引継ぎ先としても登場した加森に、再び本州で出会ったわけです。
加森観光が引き継いだ後、同社はホテル運営の一方で、リゾート会員権である「加森バケーションクラブ」の施設にも組み入れます 13。
その後、加森は本拠地であるルスツの運営に注力するため、他の事業からだんだん手を引きましたが、2016年、安比高原も13年の運営をもって、中華系外資「アジアゲートホールディングス」に譲渡します 14。
そこからの資本の動きや実質的支配者は不明ですが、「岩手ホテルアンドリゾート(IHR)」という運営主体である企業はずっと存続し、現在に至っています 15。
そして現在は、これらホテルのすべてがIHGグループに加入することとなり、ホテラーたちを驚かせました 16。
現在、安比高原リゾートを構成するホテル・コンドミニアム群は、本記事で触れたホテル2棟とリゾマン6棟、それに加えて新築のインターコンチネンタルです 17。
このインターコンチネンタルは別として、このリゾートは基本的に全てが1室単位での分譲であり、そしてホテルやコンドミニアムとして貸し出すことが前提となる、ペイバック型でありました。
このシステムは、今まさにリゾマン販売の主流となっているホテルコンドミニアムの源流の1つであり、最大のケーススタディです。
次回は、IHG傘下となった現在の様子と、ペイバックを軸にしたこのリゾートの販売システムの顛末について取り上げます。
星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル【公式】 | Hoshino Resorts Oirase Keiryu Hotel ↩︎
当時人気だったのが、三菱自動車の車高の高い4駆の「デリカスターワゴン」であった。
・ついに念願のモデルを手に入れた! オリジナル度が高い初代デリカスターワゴン | クルマ情報サイトーGAZOO.com ↩︎安比高原の宿泊施設は以下の通り。
・ANAインターコンチネンタル安比高原リゾート(2022年新規開業)
・ANAクラウンプラザリゾート安比高原(旧 ホテル安比グランド本館・タワー)
・ANAホリデイ・インリゾート安比高原 リンドウ1・2(旧 安比ヒルズ白樺の森1・2、開発時は安比グランドヴィラ1・2)
・ANAホリデイ・インリゾート安比高原ヒルズ(旧 安比ヒルズ白樺の森3、開発時は安比グランドヴィラ3)
・ANAホリデイ・インリゾート安比高原 温泉1・2・3(旧 安比高原温泉ホテル1・2・3、開発時は安比グランドアネックス1・2・3) ↩︎比較対象として好適な北海道のアルファリゾート・トマム(星野リゾート トマム)よりもスキー場としての評価は高い。しかし、風が強い日が多いという声もある(「極楽スキー」、「GOKURAKU SKI ’89」など)。 ↩︎
・アルファリゾート・トマム(星野リゾート編) | 会員制リゾートが世界一を目指したあの頃(前編) | 会員制ホテル今昔物語 – resortboy's blog
・アルファリゾート・トマム(クラブメッド編) | 会員制リゾートが世界一を目指したあの頃(後編) | 会員制ホテル今昔物語 – resortboy's blog
・トマムから夕張を経て千歳へ | 会員制リゾートが世界一を目指したあの頃(拾遺編) | 会員制ホテル今昔物語 – resortboy's blog ↩︎ホテル安比グランドの本館とタワーは連結されているが、タワーは谷口吉生氏の設計ではない。 ↩︎
1996年の段階で12棟まで増やす計画があったところに、他のバブルリゾートとは違う力強さが感じられる。
・コンドミニアム群、安比高原に整備、安比総合開発――中心部に温泉施設。 | NIKKEI COMPASS - 日本経済新聞 ↩︎リクルート、リゾート事業撤退――安比スキー場やホテル、加森観光に売却。 | NIKKEI COMPASS - 日本経済新聞 ↩︎
アジアゲートホールディングスは現「fantasista」
・沿革|企業情報|株式会社 fantasista|驚きと感動を与え続けるためにたゆまぬ努力で挑戦し続ける
・岩手ホテルアンドリゾート、加森観光が全株売却、海外投資家などに。 | NIKKEI COMPASS - 日本経済新聞
・「リゾート再生請負人」加森観光・加森公人会長の挫折~なぜカジノ誘致に勝負を賭けたのか?(後)|NetIB-News ↩︎IHGホテルズ&リゾーツ、日本で、この15年の間、契約した中で最大規模の締結を発表 | IHG・ANA・ホテルズグループジャパン合同会社のプレスリリース ↩︎