かつてのトップ企業が箱根に築いた別邸

「会員制ホテル今昔物語」は、35年に渡ってリゾート会員権についてウォッチされているzukisansuさんによる連載です。日本で独自の発展を遂げたリゾート会員権、すなわち「ガラ権」の歴史をたどることで、日本的文化とは何か、日本人とは何かを、過去に学び未来を見通す―そんな奥行きのある連載として、僕から特別にお願いし、zukisansuさんにしか語れないこのテーマでご執筆いただく運びとなりました。どうぞご期待ください。(企画・制作:resortboy)

前回に引き続き、筆者は、湖尻(桃源台)に居ります。仙石原から湖尻だけでなく、箱根湯本から強羅方面にも多くの書くべき施設がありますが、箱根ばかりでは本連載の本筋である「旅」が止まってしまいます。箱根でもう1つだけ、「ジャパン・トータル・クラブ」の主要3施設のうちの1つ、「ホテルジャパン箱根」を、このクラブについての序章として取り上げたいと思います。

ジャパン・トータル・クラブ

ジャパン・トータル・クラブ(JTC)が本連載で、ついに初登場です 1。かつては日本のリゾート会員権を代表するクラブであり、エクシブ登場以前は業界トップを張る横綱(創業者は相撲がお好きだったようなのでそれに例えました 2)でありました。

今回は序章だけですが、同クラブについては来年、主要施設である日光 3 と下田 4 の回で詳しく書きたいと思います。さらに、姉妹クラブとして上位の「コーユー倶楽部(JTCCジャパン・トータル・コーユークラブ」があります。軽井沢 5 と山中湖 6 の2施設は、いずれも比類なき特徴を持つガラ権施設ですので、これまた個々に取り上げる予定です。

このように、同クラブの主要施設はすべてガラ権史において歴史的施設群であり、省略することができない施設ばかりです。

会員として

筆者が本クラブの会員になったのは2001年です。今も不満なく継続しており、まずは入会時の思い出について記します。

時は21世紀に入っていましたが、まだネット上での会員権仲介は黎明期であり、筆者は雑誌広告から電話や訪問で中古のJTC会員権を探しました。

実は、本クラブには特殊な事情がありました。それは、メーカーの営業マンとコンタクトを取ると、見込み客としてリストに載るのですが、そこまでは当然として、その後中古を買って名義変更で入会しようとすると、会員審査(メーカー役員による個人面接)が通らない、ということがあったのです。

そのため、極秘裏にとあるリゾート仲介業者に物件を見つけてもらって名義変更に挑みました。面接はなごやかな雰囲気でしたが、個人的なことをあれこれ聞かれました。本クラブは、海外を含めてゴルフ場もいくつも経営しているので、その入会審査にならって行っていたものだと思います。

新宿本社での役員面接をクリアし、会員になれたのは相当な期間が経った後でした。会員証は顔写真入りという厳格なもの。ジャパントータルクラブは5人登録制でしたので、夫婦と子ども3人の我が家にはぴったりでした。

2000年頃の筆者は、前回紹介した東京レジャーライフクラブを手はじめに、越後湯沢のリゾートマンション、ホテルコンドミニアム(リステル猪苗代)、東急ハーヴェストクラブ斑尾と遍歴を重ね、さらに本格的なクラブに入ろうと決意した時期でありました。

そうした時期に選んだのが本クラブだったのです。まずは当時のJTCに入り、その後、軽井沢、山中湖とサロン施設が拡充されるたびに追加加入し続け、現在のJTCC会員となりました。

ホテルジャパン箱根

こうしてめでたく入会した本クラブは、すでにエクシブ登場後でチャンピオンとは言えなかったものの、さすがの施設群を誇る一流クラブでした。本クラブは方針として公開情報が少なく、今も「謎」の会員権とされています。筆者ですら入会して慣れるまで不安もありましたが、実際には全く問題はありませんでした。

さて、今回のテーマであるホテルジャパン箱根 7 です。これは同クラブ主要3施設の中では規模が一番小さいのですが、立地は最高です。前回の東京レジャーライフクラブの記事で湖尻(桃源台)エリアでホテル箱根パウエルの立地が最高と書いたのに、同じエリアでまた最高と書くのも変ですが、両者はロープウェイで分かれた湖尻エリアの北と南に位置しており、まさに同格です。

パウエルが広大な敷地にゆったりとスポーツをテーマにした施設だったのに対し、本施設は、湖尻の斜面に湖に向かって佇み、風格と気品に満ちたこぶりの別邸といった設計です。

完全会員制

ジャパン・トータル・クラブの宿泊システムは、伝統的に1泊2食が基本で、素泊まりは例外的利用として割高です。箱根には素泊まりはできません。基本的に個人会員のみで、一般利用は一切受け付けず、ゲストだけの利用も避けるような価格体系(紹介でできなくはないが、相当に割高)。本クラブこそ、真の「完全会員制ホテル」と呼んで良いでしょう 8

一方で、これもゴルフ会員権と似ていますが、おひとりさま料金を全施設で用意しているのは好感が持てます。

また本クラブは、日本にただ一つの「合有制 9」ガラ権であります。これは、全てのクラブ資産を会員が共有していることを、公正証書に記載(法的には土地・建物の登記はクラブだが、備品に至るまでの全てを会員が共有していることを、クラブが公正証書で保証する)するという珍種です。

このホテルジャパン箱根についてスペックを記録しておきます。住所は元箱根、レンガ貼りの本館は全30室。敷地内にある和風建物の別館が3室で、計33室です。

大浴場は男女とも、元箱根温泉からの引湯部分と、金太郎のステンドグラスで飾られたラドン泉部分の2つで構成しています。

レストランは、高台部分に半円形で芦ノ湖を見渡すガラス張りの高級感あふれるもの。県道からは駐車場だけしか見えませんので、通りがかりの車からは分からない、隠れ家的施設です。

ジャパン・トータル・クラブと言えば、施設が豪奢である下田がイメージされますが、実は首都圏から最も近い、この箱根が一番かもしれません。

存続を願って

本クラブの提供する料理が一流であったのは有名ですが 10、筆者もこれについて異存はありません。親を連れて行ったり、友人と行った旅行でも、ここに勝る料理は知らないと絶賛されました(これはもちろん、価格とのバランスを考慮しての表現です)。

これは、本クラブの総料理長として、和食界で有名な吉田進氏が、自ら腕を振るったり総監修をしてきたからです。

さて、そのかつてのチャンピオンも、1975年発足以来、来年で50年を迎え、なし崩し的に一般開放を進めた他のガラ権と異なり、完全会員制を貫いたことによって老衰し、次々と施設を閉鎖しました。

この夏、本施設がどうなったか気になった筆者は、ホテルを再訪しました。会員ですので泊まらなくても中に入るのは可能です。ちょうどメインテナンス業者の方が来ていて、少しの間、ホテルの現況などについて話をしました。年季の入った建物や周りの大きくなった木々、敷地内の雑草など、管理は大変そうでしたが、今も手入れされ、健在であったことに安堵しました。

本クラブも会員の高齢化により、先行きは明るくありません。しかし、会員権は不動産登記を伴う共有制ではありませんので、特に後々の問題は起きないはずです 11

筆者はまだ、このような落ち着きのあるクラブ施設でゆったりと過ごすのではなく、動き回るのが好きです。しかしそう遠くない先、ただのんびりとしたいと思った時まで本施設が健在であって欲しく、この箱根の隠れ家での滞在を脳内で思い描いています。


  1. ジャパン・トータル・クラブ(JTC)は、従来からのJTCと、それに「コーユー倶楽部」の2施設(軽井沢サロン・山中湖畔サロン)の利用券を加えた「JTCCジャパン・トータル・コーユークラブ」の2系列が存在する。JTCは現在は募集停止(仲介市場のみで取引)、JTCCの募集は現在も行われている。
    株式会社ジャパン・トータル・クラブ
    JTCCジャパン・トータル・クラブ 会員権のご案内 | 株式会社ジャパン・トータル・クラブ ↩︎

  2. 創業者の村上恒雄氏は、初代貴ノ花のタニマチとして知られる。
    貴ノ花利彰 - Wikipedia
    女房公認の朝帰り――日本相撲協会委員・元貴ノ花藤島利彰氏(交遊抄)| NIKKEI COMPASS - 日本経済新聞
    1982年の日本観光サービス(旧社名)の企業CMでは、貴ノ花本人と、後の第66代横綱3代目若乃花の長男、花田虎上、そして、第65代横綱の次男、貴乃花光司が共演している。「人間辛抱だ」のキャッチコピーは一世を風靡した。YouTubeにそのCMが残っている。
    1982 CM詰め合わせ - YouTube ↩︎

  3. ホテルジャパン下田 | JTCCジャパン・トータル・クラブ ↩︎

  4. ホテルジャパン日光 / ラ・ポーム霧降 | JTCCジャパン・トータル・クラブ ↩︎

  5. かつての最高級リゾート会員権「軽井沢ヴィラテル」の施設であった「ホテルガレエ」を買収したもの。
    コーユー倶楽部 軽井沢サロン | JTCCジャパン・トータル・クラブ
    なお、ヴィラテルのもう1つの施設であった「ホテルエラール」は紆余曲折を経て「旧軽井沢 KIKYO キュリオ・コレクション by ヒルトン」となった。
    【公式】旧軽井沢KIKYOキュリオ・コレクションbyヒルトン ↩︎

  6. ジャパン・トータル・クラブによる新築で2012年に開業。これ以上ない絶好の立地で、テレビ朝日系列の報道情報番組のお天気コーナーで映像が使われるほど。
    コーユー倶楽部 山中湖畔サロン | JTCCジャパン・トータル・クラブ
    コーユー倶楽部 山中湖畔サロン お天気映像放映中! | コーユー倶楽部 山中湖畔サロン : お知らせ・最新情報 | JTCCジャパン・トータル・クラブ ↩︎

  7. ホテルジャパン箱根 | JTCCジャパン・トータル・クラブ ↩︎

  8. リゾートトラストのサンクチュアリコートのように、完全会員制をうたいながらも法人に福利厚生目的で販売し、ゲスト料金を設けないリゾートクラブとは、本質的にクラブの趣旨が異なる。 ↩︎

  9. 合有は狭義の共有とは異なり、それぞれに持分はあるが一定の目的のために持分の行使や処分が制限される共同所有形態をいう(合有 - Wikipedia)。「「合有」は、共同目的達成のために団体的結合を作っているもので、単に、ある目的物を共同で所有するかぎりで偶然的に関係するにすぎず、団体を形成しない「共有」と違い、持分の譲渡や分割の請求が制限されている(組合についての民法676条)」とされる(「会員権取引に関する実態調査報告書」東京都生活文化局価格流通部取引指導課編、1992年3月) ↩︎

  10. ジャパン・トータル・クラブにしても、ザ グランリゾートにしても、もちろんリゾートトラストの各クラブや東急ハーヴェストクラブにしてもすべて、経営破綻や運営企業の変更を経験せず、50年前後存続したリゾートクラブはすべて、四季折々の料理に注力することで会員を惹きつけ続けたクラブばかりであった。これは日本独特の「ガラ権」における最大の特徴の1つと言える。 ↩︎

  11. 合有制クラブであるため、不動産取得税や固定資産税などの租税公課は、会員には賦課されない。これは、不動産所有に伴う義務・責任が会員個人として将来的にも問われないことと同義なのか、ということに関しては、議論の余地がある。あまりにマイナーな問題であり、法曹界でこれを問題視したり研究している人はいない。 ↩︎

文・撮影:zukisansu、企画・考証・制作:resortboy。バックナンバーはこちら

1 comment

  1. JTC(JTCC?)の軽井沢サロンになってしまった、軽井沢ヴィラテルの旧ホテルガレエ。
    もう一方の旧ホテルエラール、旧軽井沢KIKYOキュリオ・コレクションbyヒルトンに今夏、30年ぶりに宿泊してみましたが、セバスチャン・エラールのピアノがなくなってしまっていたばかりか、その存在そのものをスタッフの誰も知らなかったことに愕然としました。
    今度、軽井沢サロンにも泊まってみようと思っていますが、まさかエミール・ガレも・・・。

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