冬の磐梯から自宅に戻った筆者はこの春、地元、千葉県のガラ権施設を「見て歩き」たいと思います。最も思い出深い「ホテルアクシオン館山」は昨年に登場済みですので、それ以外を3回に渡ってお届けします。まずは、房総半島で最もリゾートを感じる「安房鴨川」を本拠に、一般ホテル並びに会員制リゾートクラブを運営する「鴨川グランドホテル」に向かうことにします。
鴨川グランドホテル 1 が運営する「鴨川リゾートクラブ ジャイロ 2」については、昨年、山口県の「ホテル西長門リゾート」をすでに取り上げています 3。今回は、その時に紹介をお約束した千葉の本拠地と、その近くにある主力施設について紹介します。
安房鴨川
JR内房線は海岸沿いを南進し、館山まで行って内陸を横断。ぐるりと周って安房鴨川駅が終点です。またJR外房線は、北の方から海岸沿いに出て、安房鴨川駅で終点。安房鴨川は房総半島を走る鉄道線がぶつかるところであり、鴨川市は便利な場所です。
車で東京から行く場合でも、アクアラインを通って直進。約1時間半で着くはずです。
鴨川市はほどよい砂浜がずっと続く素晴らしいビーチを持つため、日本において最も早い時期からサーフィンのメッカとなっています。後で書きますが、この背景は重要です。
ここでは日本サーフィン連盟が主催する第一回のサーフィン大会が開催されているため、安房鴨川は日本のサーフィン発祥の地とされることもあるようです 4。
ビーチ沿いには所々に大型リゾートマンションが建つとともに、海一望の旅館ホテルも多く建ち並び、目的地としては「鴨川シーワールド 5」が有名です。こうしたことが、冒頭で筆者が「房総半島で最もリゾートを感じる」と書いた理由です。
その長大な安房鴨川のビーチの真ん中に、誰もがその巨大なスケールに驚くガラ権施設があります。1993年開業の33階建てのホテルコンドミニアム、「鴨川グランドタワー 6」です。
ジャイロ
本施設が鴨川リゾートクラブ ジャイロのフラッグシップです。紛れもなくバブル期の産物で、見るからに豪華です。運営元の本家「鴨川グランドホテル 7」は、このタワ-棟よりも海岸沿いにあり、低層で横に長い建物ですから、好対照です。
現在も第13期として募集中の会員権ジャイロは 8、この2つの施設が手ごろな価格で使え、預託金制で負動産リスクもありません。素泊まりで2,750円(1人だと5,500円と2人分必要)という、トップメーカーの半額ほど。鴨川の場所が好みなら検討価値があるかもしれません。
クラブの他の施設でも利用料金はかなり低額で、現段階においてはコストパフォーマンスに優れています。
鴨川グランドタワー再訪
筆者は10年ほど前に本館(客室数120で全室約40平米以上とゆったりしている)に宿泊したことがありますが、今回はそれ以来の訪問となりました。ビーチリゾートとしてはオフシーズンでしたが、本館駐車場は混み合っていて、スタッフは出迎えに忙しそうでした。
本館にお邪魔するのは遠慮し、奥にあるタワーの方のフロントに向かいます。タワーの方はさらに久しぶりでした。コンドミニアム仕様で部屋が広かったため、筆者の子どもが小さかった頃、親戚そろって宿泊したことがありました。
鴨川グランドタワーは地上33階建て、高さ106メートルで、226室。最上階の33階がスカイバー、32階がVIPルーム。16~31階と3~6階がリゾートマンション、7~15階がホテルコンドミニアムとして分譲されました(いずれも開業時の仕様)。
現在は32階、7階から15階の40室に加えて、最上階の33階に「ペントハウス 9」と呼ぶ最上級客室がこの春にオープンしました。全室約70平米から約119平米と、客室はとても広々としていますが、建物が巨大な割に部屋面積を優先した設計で、パブリックスペースには面積を割いていません。
吉田屋旅館と真砂女
安房鴨川にて最良の立地と豪快な建物、広大な温浴施設も完備して 10、評判の良い料理など、申し分のない本部施設の2つですが、ここで本施設の歴史を追っておきたいと思います。
創業は、約300年前という江戸時代からある「吉田屋旅館」がルーツでした 11。名称も変わっていますし、バブルやそれ以降の不振も経験していて、1990年から上場していた店頭市場(JASDAQ)からも2022年にMBOで非公開化。そこでオーナーは変更されたものの、ずっと創業家である鈴木一族が継続して運営を行っています 12。
年表が公式ホームページに詳しく掲載されていますので、ぜひそちらをご覧ください。
年表を見て、筆者として書き記しておきたいことは2つです。1つ目は「吉田屋旅館」時代のエピソードで、本館内に立派なミュージアムがある「鈴木真砂女」さんの存在です 13。
第二次世界大戦を挟んだ昭和の時期に、彼女は東京の女学校を出て、自由奔放な人生を歩んだ人でした。二度に渡って出奔したり、吉田屋旅館に戻って女将として活躍した後、旅館を離れて東京で小料理屋を営みながら詠んだ俳句でその才能を認められ、俳人として名を残したという話です。
筆者にはその文学的価値についての理解が進みませんでしたが、その分野に明るい方は、鴨川本館にある彼女のミュージアムを覗いてみてはいかがでしょうか。
先代、鈴木政夫氏
2つ目は、本ホテルの興隆を極めた時代の経営者であり、1963年に若くして社長になった鈴木政夫氏の活躍についてです。
政夫氏は、もちろん創業家出身の跡継ぎだったのですが、運営を任された時、経営は順調だったはずなのに、昭和天皇や皇族の御用達旅館の栄誉に預かっていた名門の「暖簾と建物」(つまり全部)を、社長になって2年後の1965年に、同業者に惜しげもなく売却してしまうのです。
購入した同業者は吉田屋の屋号を引き継ぎ、跡地は吉田屋ブランドのリゾートマンションとして開発 14。旅館を別の場所に「鴨川館」として新設しています 15。
同業者が引き継いだ暖簾を絶やさず現在に至る一方で、政夫氏はその売却で得た資金を使って、リゾートホテル業に転じます。元の吉田屋の場所から海岸線を少し北に進み、ビーチサイドながら当時は何もなかったところに、新たな名称「鴨川グランドホテル」として現在の本館を開業しました。
この本館は1965年(昭和40年)の開業ですが、吉田屋にもましてますます繁盛することとなります。現在まで5回以上の改修工事(2006年-2007年が最大の改修)を経て、現在も綺麗にメンテナンスされています。
リゾート文化を先読み
この政夫氏の馬力・実力は人並外れたと言うべきものであって、自社のみならず鴨川全体の観光発展に尽くしたことが認められ、ご存命中に鴨川市の名誉市民の称号を贈られています 16。
政夫氏の着眼点の鋭さは、この売却・移転・ゼロスタートのエピソードに極まるわけですが、その英断のヒントは、本稿のはじめに書いたサーフィンから得たものでした。
第二次世界大戦後の進駐軍の米兵たちは、1960年頃から安房鴨川でサーフィンを楽しんだと聞きます。サーフィンの源流はハワイ、そしてカリフォルニアですが、このスポーツは戦後に日本にやってきたものでした 17。
生家の吉田屋旅館は純和風旅館でありましたが、政夫氏は洋風なリゾート文化の到来を先読みできる人だったわけです。そして鴨川グランドホテルの開業翌年に第一回全日本サーフィン大会が大規模に安房鴨川で開催されます。なんとタイミングの良い頭の切り替えだったでしょう。
西長門とグランドタワー
1960年代ですから、まだ全国的にも海をテーマとするリゾートホテルはないと言ってよい時代です。政夫氏は度々ハワイを訪れたそうで、そこで欧米のビーチリゾートの本質を身に着けたようです
そしてこの後、日本中の素晴らしいビーチを従業員に探させると言う奇抜な活動の中から、誰も考えもしなかった山口県の西長門の何もない浜辺に、一従業員の進言を採用してリゾートホテルを建てるという奇策に出ます。
これが昨年、本連載で記事化した「ホテル西長門リゾート」の物語です 3。
次に、バブル期を迎えるにあたって政夫氏が構想したものは、房総半島唯一の超高層リゾートマンション兼ホテルコンドミニアムを建てることであり、鴨川グランドタワーとして実現しました。
このタワーのあまりに大きな躯体は、うまく一枚の写真には納まりきれないほどの豪快さです。
勝浦ヒルトップ&レジデンス
政夫氏の脳裏にはハワイのビーチに立ち並ぶリゾートコンドミニアムが焼き付いていたのでしょう。このタワーに続いて、お隣の勝浦市の丘の上に佐藤工業が建てたリゾートマンション内「勝浦ヒルトップ&レジデンス」の中で、ホテルコンドミニアムを運営することとなります 18。
この一帯は大型リゾートマンションが建ち並ぶエリアですが、最も高い位置に所在する本施設は、眺望の良さで群を抜いています。
風や強く波が荒く、海水浴場では利用が難しい外房エリアの中心部を、鴨川グランドのブランドで全国的にリゾート地として知らしめ、エリア全体の雰囲気を垢ぬけた洋風に変えたことは、まさに名誉市民に称えられるに値する業績でした。
ライバルと最大手
リゾートとしての外房の歴史を作った鴨川グランドホテルですが、かつてのライバル、お隣の安房小湊発祥の「ホテル三日月 19」は、勝浦も含めて売却され、全面リニューアルして見違えるようになっています。一方で、鴨川グランドホテルは、箱根の「ミスティイン仙石原 20」を手放したようで残念です。
筆者は同じ千葉県民として、現体制のトップである鈴木健史氏に頑張ってもらいたいと、応援しています 21。ただ、同社の歴史あるおもてなしや、客室に余裕がある施設の良さに加えて、何らかの革新的な発想が必要な時代になってきているとも思います。
安房鴨川は、人口がますます集積する東京都からのアクセスが抜群であり、豊かな食があり、お隣の勝浦市は夏冬とも日本一快適に過ごせる気候とまで言われる地の利があります 22。これらをさらに活かしたリゾートとして、繁栄を再び呼び込むチャンスを狙ってほしいのです。
実際、安房鴨川には、関東だけでなく全国的にも規模と実績で有名となっている、「亀田総合病院」(約900床 23)などの医療グループが、ビーチ北側の海沿いに施設を展開していています。これを意識してか、鴨川の病院奥の丘の中腹には、超高級ホテルとも見間違うような、超巨大老人ケアマンションが開業しています 24。
大手がこれほどまでに力を注ぐだけのポテンシャルがあるエリアなのです。MBOで生き延びたのですから、独自の新機軸を待望しています。
ホテル西長門リゾート | 本州最西端、絶景のオールドリゾート秘話 | 会員制ホテル今昔物語 – resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究 ↩︎ ↩︎
鴨川リゾートクラブGYRO(ジャイロ)|第13次会員募集のご案内
1名記名式で入会金が55万円、預託金が10万円。預託金は10年据え置きで退会時返還。2名記名式もある。年会費は39,600円。 ↩︎・鴨川グランドホテルについて|【公式サイト】鴨川グランドホテル|千葉県鴨川市 南房総のリゾートホテル
・沿革 | 株式会社鴨川グランドホテル 企業情報 ↩︎鈴木真砂女ミュージアム|ホテル館内で遊ぶ|体験/観光|【公式サイト】鴨川グランドホテル|千葉県鴨川市 南房総のリゾートホテル ↩︎
鴨川温泉サンシティ 吉田屋(全体概要) | 房総(鴨川)のマンション | 別荘、リゾートマンション・不動産情報は東急リゾート ↩︎
1993年7月竣工で、195戸のうち、9階から13階の36室が客室(約60~80平米)。
【公式サイト】勝浦ヒルトップホテル&レジデンス|千葉県南房総勝浦 コンドミニアム ↩︎ホテルマネージメントインターナショナルが同社のフラッグシップブランド「シーパークホテル」を冠した形で、「三日月」ブランドも残して運営している。
・ホテル三日月、千葉・勝浦と鴨川の施設譲渡 HMIが取得 - 産経ニュース
・三日月シーパークホテル安房鴨川【公式】
・三日月シーパークホテル勝浦【公式】 ↩︎・箱根「ミスティイン仙石原」取得のお知らせ 2025年4月下旬リニューアル開業予定 | 株式会社リロバケーションズのプレスリリース
・【公式サイト】ミスティイン仙石原 ↩︎創業家に生まれ、立教大学社会学部観光学科(現・観光学部)卒、米国コーネル大学ホテル経営学部修士課程修了というホテル学の王道で学んだ。
・鈴木健史 - Wikipedia ↩︎
こんにちは。
鴨川リゾートクラブジャイロの話題、興味深く拝見しました。
私、千葉住みなのですが、房総半島には、会員制ホテルが少なく、ジャイロが気になっていました。1泊2,750円で、ほぼ泊まり放題は魅力的です。何か裏があるんじゃないかと思うくらい。購入したら、すぐ倍に値上がりしそうで怖くはあります(笑)
まだ現役なのですが、リタイアして自由な時間が出来たら、1番欲しい会員権です!