新参の和風ガラ権は、10年定期の単純割引式クラブ

安比高原を出た筆者は、岩手山の東方向から、次なるガラ権を求めて南下します。岩手山は、見る角度により山容が異なる日本百名山の一座ですが、北側や北東側の八幡平や安比よりもっと下った南東側からは、「南部富士」と呼ばれるに相応しい岩手県最高峰を誇る雄大な景色を楽しめます。

一帯は、素晴らしい山岳ドライブコースの集積地で、南の山麓にも小岩井農場や雫石スキー場など注目すべき場所も多い中、ガラ権ファンの皆さまはそんなことより、もっと南に位置する、バブル期の一大リゾート施設がある「鶯宿温泉(おうしゅくおんせん)1」が気になることと思います。

みやび倶楽部

今回は、2018年に出現し、日本リゾートクラブ協会の正会員となっている、新参の「みやび倶楽部 2」を取り上げ、そのフラッグシップとなる同地の「ホテル森の風鶯宿(おうしゅく)3」を訪ねます(以下、ホテル鶯宿と表記)。

その後、場所は違いますが、新規に建設・開業した「那須みやびの里 4」にある2施設も確認した上で、このクラブの全容に迫りたいと思います。

筆者はかなり前から盛岡市近辺に行く度に、ガラ権施設ならずとも一度は見てみたい豪華温泉旅館ホテルとして、このホテル鶯宿がずっと気になっていました 5。今回の旅でようやく本ホテルにご対面となるということで、ハイな気持ちで現地に走ります。

本ホテルは元々、宮沢賢治の名前を冠した「けんじワールド 6」という、超大型ウォータースライダーを売り物とするレジャー施設と同時に開発された一般宿泊施設でした。

宮沢賢治は盛岡市の南、花巻市が生まれ故郷で記念館があり 7、ゆかりの地として知られていますが、距離が近いこともあって盛岡市まで拡げて賢治の故郷とされることが多いです。

また地ビールブームの時に本ホテルの運営元が製造して大ヒットし、東京の銀座にまで店舗を出していた「銀河高原ビール 8」のことも思い出されますが、これも宮沢賢治の本の題材をルーツとした命名でした。

リゾネットに参加

以上のように以前から、本ホテルやレジャー施設、地ビールなどの知名度は高かったのですが、いつの間にか、みやび倶楽部というガラ権施設となっていると知ったのは、日本リゾートクラブ協会加盟クラブ間の相互利用システム「リゾネット 9」のパンフレットに、「ホテル鶯宿」が登場したことからでした。

本施設の開業は1995年であり、時期的にはバブル崩壊の少し後です。景気後退を折り込んだ上での開業ですので、お金を注ぎ込んだ豪華ホテルではありますが、運営元もホテル自体も、現在も健在です。

東日本ハウス

その運営元とは、地元盛岡に強固な基盤を持つ、旧「東日本ハウス」というハウスメーカーです。ここからは運営元とクラブの沿革を見ていきたいと思います。現在は「日本ハウスホールディングス」と名称を変えており、東日本から日本全体へと一回り大きな会社に成長しています 10

どんな会社でも、創業以来ずっと安泰ということはないわけで、この会社も倒産の危機に陥ったことがあるようですが、伝説の営業マンで現社長の成田和幸氏によって盛り返し、今日の繁栄に至っています 11

東日本ハウスは、1969年に岩手県盛岡市にて創業されました。住宅メーカーとして実績を重ねた後、1981年に「ホテル東日本盛岡」という、市内で最高級の一般ホテルを作ります。

筆者も利用したことがあります。盛岡駅からやや離れますが、歴史ある場所のレンガ調の重厚な建物でした。現在は売却され、マイステイズグループのアートホテルブランドになっています 12

この第1弾ホテルは手放しましたが、第2弾ホテルである「ホテル東日本宇都宮 13」という、地元栃木では名門とされるホテルは営業中です。

そして、レジャーパークとホテル一体で開発した第3弾が「けんじワールド+ホテル鶯宿」でした。

それまでの一般都市型ホテルに対し、この鶯宿はリゾートホテルです。さらに翌年には銀河高原ビールの製造販売を手がけ、このハウスメーカーが多角経営に向かった局面だったのでした。

時代の流れでレジャーパークや地ビールブームは去ります。ウォータースライダー好きには全国的に知られたけんじワールドは2013年に閉業。一世を風靡した銀河高原ビールも2017年に閉業となります。

この地ビールはその後、「軽井沢高原ビール」で知られる、星野リゾートの星野佳路氏が創業した「ヤッホーブルーイング」に身売りされたのは皮肉な話でしょうか 14

割引方式のガラ権

そしてその翌年2018年、このホテル鶯宿を含むリゾート会員権、みやび倶楽部が登場します。この会員権は、一般ホテルである同社の高級旅館ホテルの割引利用を主な目的とする点で 15、他のクラブとは一線を画しています。

現地を訪問

そして現地訪問です。筆者がかつて憧れた豪華温泉旅館ホテルが、本連載、ガラ権施設見て歩きの対象として待っていてくれていたかと思うと、ただならぬ期待に高ぶり、車のハンドルを持つ手を快活にしてくれます。

やや混雑する盛岡市内近郊を抜けて西に向かうと、もう岩手山からは少し離れ、ただの田舎道となります。ワクワク感が心配感に変わりそうになるその瞬間、目の前が急に、田舎道から立派なエントランス道路に変わりました。

このホテル森の風鶯宿は、丘陵地に建つ孤高の城です。レジャーパークと一体開発と書いた通りで、広大な敷地に佇むため、周辺に見比べる宿泊施設はなく高級感が際立ちませんが、それでも立派。およそ30年前の開業時に想いを馳せると、さらに凄い施設だっただろうと、しばし見とれます。

無理に比べる必要はないものの、敢えて例えると、リゾートトラストのエクシブ有馬離宮と似た感じでしょうか 16。規模的にも、部屋数221室と似ています。

なお、けんじワールドのあった場所は現在、以前の施設は完全に撤去され、フラワーガーデンとして整備されていますから17、とても綺麗です。

会員権の内容

会員権はクラブ開設以来、現在まで継続的に募集中です。シーズン毎、利用日毎に料金が決まっており、そこから20%を割り引く形の10年有期型、預託金制の会員権です 18

カレンダーで一般価格(定価)を明示し、そこからの割引となりますので、定価が変わると会員価格も変わります。

自分のライフスタイルに合わせて各種のバリエーションから選べますので、会員になった場合の損得は一目両全です 19。あまりにもクリアな明朗会計であり、かえって夢がないと思わされるのは、筆者がガラ権に毒されているからでしょうか?

紙幅が尽きてきましたので、本会員権の内容は、注釈に記載した公式ホームページからご覧ください。会員になった場合の損得も、全て募集案内から確認できるようになっています。

四季の館那須と森の風那須

筆者は、念願の本施設測量後、クルマを借りた秋田の大館能代空港に戻る必要がありました。多少の時間的余裕もあったため、小岩井農場や雫石プリンスホテルを再訪。そして西に走って田沢湖に抜け、北上して無事時間内に空港に到着しました。

こうして、青森県と岩手県、本州最北、東北ガラ権探訪の旅を楽しく終えて羽田空港に戻りました。秋田県にガラ権はありませんし、宮城県にも本連載で取り上げるべきと判断されるガラ権施設はありません 20

さて、このみやび倶楽部は、本連載ではこれをもって以後の登場はありません。最後におまけとして、筆者がこれまで目にした他のクラブ施設について、追加で書き添えます。

場所は首都圏にも近い那須です。ロイヤル(御用邸)ロードにほど近い場所に、「みやびの里 4」として、鶯宿に匹敵するほどの立派さで2つの宿泊施設と、フルーツの収穫体験施設を一体化した開発が行われました。

和風旅館ホテル「ホテル四季の館那須 21」と、ホテル「ホテル森の風那須 22」の両方が並び立ち、さらにフルーツパークが色を添えます。那須には新しく目だった施設はないのですが、このみやびの里は、ガラ権ファンならずとも道行く人の目を引くはずです。

みやび倶楽部は、そのシステムに現れているように、合理的な考えを持つ比較的高齢な準富裕層をターゲットに、和風のイメージで施設を拡充しています。箱根エリアなど首都圏に近い地域にも進出してきていますので、今後の施設展開的にも期待は持てます 23

ただ、理性に訴える完全な企業ガラ権です。使いこなしにゲーム性がなく、バリエーションに乏しいという(贅沢な)悩みもあるかもしれません。日本のガラ権文化の奥行きの深さを感じながら、本稿を締めくくります。


  1. 鶯宿温泉 - Wikipedia ↩︎

  2. みやび倶楽部【公式】日本ハウス会員制リゾートクラブ ↩︎

  3. 【公式】フラワー&ガーデン「ホテル森の風鶯宿」 ↩︎

  4. 【公式】那須 みやびの里「ホテル四季の館 那須・ホテル森の風 那須」 ↩︎ ↩︎

  5. 1995年に「ホテル森の風」として開業。
    東日本ハウス、けんじワールド・ホテル森の風完成 | NIKKEI COMPASS - 日本経済新聞 ↩︎

  6. けんじワールド - Wikipedia ↩︎

  7. 宮沢賢治記念館 | 観る【花巻観光協会公式サイト】 ↩︎

  8. 銀河高原ビール - Wikipedia ↩︎

  9. リゾネット – 日本リゾートクラブ協会 ↩︎

  10. 日本ハウスHD - 檜の注文住宅 ↩︎

  11. 「2002年、3代目社長として東日本ハウス株式会社の代表取締役に成田和幸氏が就任したとき多角化経営の失敗によってグループ全社が債務超過という破綻寸前の状況だった」とされる(不屈の経営~東証一部までの軌跡、そしてグループ売上高1000億円へ 東日本ハウスの新たな挑戦~) ↩︎

  12. 「ホテル東日本盛岡」2018年7月30日(月)運営開始のお知らせ | 【公式】マイステイズ・ホテル・グループ ↩︎

  13. 【公式】ホテル東日本宇都宮 | 栃木県宇都宮市 ↩︎

  14. 「銀河高原ビール」の譲受けに関するお知らせ | 株式会社ヤッホーブルーイング コーポレートサイト ↩︎

  15. 会員価格は一般価格の2割引に過ぎず、果たして会員としての経済的メリットがあるのかは疑問だが、公式サイトによれば以下のような価格以外のメリットが存在するという。
    ・営業担当が付き、コンシェルジュとして予約手配を手伝う
    ・一般客は半年前からだが、会員は1年前から予約でき、かつ客室は2カ月月前まで会員向けに一定量確保される
    ・専用ラウンジ、専用駐車場、部屋のグレードアップといった、利用時に一般客と違うハード面でのメリットがある
    ・チェックイン・アウトの時間差、ホテル専任担当など、利用時に一般客と違うソフト面でのメリットがある
    ・上記は以下の公式サイトに案内があるので参照されたい。
    はじめての方へ | みやび倶楽部【公式】日本ハウス会員制リゾートクラブ ↩︎

  16. エクシブ有馬離宮は175室ある。 ↩︎

  17. フラワー&ガーデン森の風 ↩︎

  18. 「みやび倶楽部 第三次個人限定会員(口数限定) 募集」によれば、スタンダードな宿泊券16枚の「正会員(タイプA)」は850,000円(税込930,000円)で、うち預託金は50,000円(他は入会金)。年会費は44,000円(税込)。これは一例でさまざまな会員タイプが用意されている。
    募集要項 | みやび倶楽部【公式】日本ハウス会員制リゾートクラブ ↩︎

  19. 進行年度である2025年4月期から集客の方針が変更され、以下の決算説明会資料にあるように、OTA(オンライン旅行サイト)からの集客を積極的に開始した。

    そのため、例えば以下のYahoo!トラベルに見られるように、OTA独自の割引として25%引きで販売されることもあり、ホテル会員権としての表面的な価格メリットは失われた。
     ↩︎

  20. 現存するものとして強いてあげると、ダイワロイヤルメンバーズクラブの施設であった宮城蔵王ロイヤルホテルがある。現在はアコー傘下。
    メルキュール宮城蔵王リゾート&スパ【公式】|Mercure Miyagi Zao Resort & Spa ↩︎

  21. 【公式】那須みやびの里「ホテル四季の館那須」 ↩︎

  22. 【公式】那須みやびの里「ホテル森の風那須」 ↩︎

  23. 現在の施設は7施設で、これを関東を中心に10施設まで増やす予定とされる。
    よくある質問 | みやび倶楽部【公式】日本ハウス会員制リゾートクラブ ↩︎

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