10月に入り、秋の行楽シーズンです。箱根で見てきたガラ権は話題の密度が濃すぎて疲れましたので、筆者は遠くに行って見たいと思うようになりました。そこで今月は、本連載でまだ訪れていないエリアの中から、本州の西に横たわる中国地方を見て歩きます。
これまでの旅で地方を訪ねる際は、まずどこかの空港に飛び、レンタカーで周回しながらガラ権施設を訪ねてきたわけですが、困ったことに中国地方にはガラ権施設がほとんどなく、周回のしようがありません。
各県別、単発にピックアップするしかなく、筆者が気になった施設を西から順にご紹介してまいります。全ての施設はガラ権ホテルではあるものの一般利用が可能です。
中国地方
中国地方で一番に西にある山口県 1 は、九州の福岡県と関門海峡の橋や海底トンネルで結ばれていて、南の海側は賑やかです。しかし、少し山側に入っただけで急に田舎風景になります。
中国地方は真ん中にかなり険しい中国山脈が横たわり、北と南の海岸線ばかりに人が集まるエリアです。そんな中、山口県の西側のみが海に面していて、わずかに開けています。筆者は宇部空港からレンタカーを借り、南を走り、下関方面から西の海岸線を北上し、目的地であるホテルに向かいました。
途中、毘沙ノ鼻 2 に立ち寄り、紀州半島での本州最南端到達に続いて、本州最西端に到達しました。
角島
本州と九州を結ぶ通過県のイメージが強く、見どころに欠ける山口県でしたが、最近になって観光スポットとして売り出してきたのが、西側の北に位置する小さな島、「角島(つのしま)3」であり、本州側とその島を結ぶ「角島大橋 4」でした。
角島大橋は、架橋計画は1991年からですが開通は2000年であり、観光地としては新しい部類に入ります。前置きが長くなりましたが、今回の目的地である山口県唯一のガラ権施設は、この角島大橋の本州側の付け根にあるのでした。
その施設の名前は「ホテル西長門リゾート 5」と言います。
この西長門エリアには、他に宿泊施設がほとんど見当たらないような場所なのですが、さらに驚くのは、このホテルを造ったのが千葉県の房総半島の先端にある大型ホテル「鴨川グランドホテル 6」であるということです。
ジャイロ
鴨川グランドホテルは首都圏の旅行好きなら聞いたことがあると思います。隣接して同ホテルが経営する「鴨川グランドタワー 7」がそびえ立っていて、そちらのイメージを持つ人も多いでしょう。千葉県唯一のガラ権メーカーでもあり、クラブ名は「鴨川リゾートクラブ ジャイロ(GYRO)8」と言います。
ジャイロのクラブ創設は遅く、1996年とバブルが終わった後です 9。バブルの時に建ててしまった鴨川グランドタワーの集客のために、後からガラ権を発生させたのかもしれません。
このクラブについては来年にもう一度、千葉県の本家である鴨川グランドタワーを取り上げます。クラブの全容はその時に語ることとして、今回は序章に留めます。
今回のホテル西長門リゾートは経営元の千葉県から遠く離れ、山口県の西北にぽつんとあるのですが、ジャイロの施設展開の中では、西日本の重要施設として位置付けられています 10。
ホテル西長門リゾート
というわけで、筆者ははるばる西の果て、ホテル西長門リゾートに到着しました。走行時間的にはそれほどかからないのですが、遠く感じました。
現地に着いて驚くのは、このホテルの開業が1977年であることです 11。広大な敷地と目の前にビーチがある立派な大型ホテルで、経営刷新でリニューアル投資も行われていますが、さすがに古さが隠し切れない部分もあるのは事実でしょう。
山口県が角島エリアを観光スポットとして売り込むようになったのは、前述の通り、2000年に素晴らしい架橋が成されたことがきっかけです。そして、コバルトブルーやエメラルド色に変わる海の美しさとともに、ここは日本海側有数の景色を誇る場所になりました 12。
ホテル西長門リゾートは、それよりずっと前からこの場所にあるわけですが、ホテルはこの橋の本州側のビーチに沿って大きく横に拡がって建てられています。結果として客室からは橋を水平に近い角度で全体を見渡せる上、美しい海の色や、西向きであるために日本海の夕日を満喫できるメリットが加わりました。絶景の温泉大浴場も大人気であるようです。
誕生秘話
ところで、2000年の架橋から観光客がうなぎ上りのこの場所ですが、筆者はずっと不思議に思っていました。この角島は、もともと観光地でも何でもない普通の離島です。なぜ、この何でもない場所に橋がかかるはるか昔から、橋の完成まで実に25年近く、一般にはまったく疎遠な場所にホテルがあったのか、ということです。
鴨川グランドホテルの沿革を見ると、鴨川の次にいきなりここが作られていますので、なおさら意味が分かりませんでした。
今回、本記事を書くにあたって、考証担当のresortboyさんから資料を頂きました 13。その内容は、実に単純な動機でした。そのシンプルさに筆者は、リゾートホテルの立地のあるべき姿を改めて知ることとなりました。
その単純な動機とは、この角島を臨む西長門ビーチの比類なき美しさを社員から知らされた先代の社長が、一目ぼれしてここしかないと、ホテル造りを即断した、というものだったのです。
空きビンに砂
複数の資料から筆者が読み取った経緯は以下の通りです。
1970年以降順調な経営となった鴨川グランドホテルは、次のホテルを造るため、海をテーマに日本全国の美しい立地を社員に探させました。その時、ある社員がこの西長門の地をものすごく気に入って、社長にその旨を報告することにしたのですが、もちろん現地は全く何もない場所です。
そこでその社員は社長に話を聞いてもらうために、コーラの空きビンに真っ白で木目の細かいこのビーチの砂を詰めて持ち帰り、社長にアピールしたそうです。
その熱意に心を動かされた社長は直ちに現地を訪問。そしてすぐに、いかなる困難があってもここでホテルを成功させると建設に着手したと言うのです。
比類なき美しいビーチと、社長や社員の熱意がゲストに伝わったようで、この孤立した場所のホテルの稼働率は開設早々に75%にもなったと言うのですから、本当にリゾートホテルとは立地が大事であるということが改めて認識されます。
架橋そのものは、角島の住民のための生活道路として企画されたそうで、本ホテルのためでもなく、当初は観光が目的でもなかったようです。計画が始まると観光も視野に入れることになり、本ホテルの社員もプロジェクトチームに参加して良い架橋となりました。ただし、日本海の自然環境は甘くなく、架橋の苦労は凄まじいものがあったようです 14。
完成後は島民としても観光としても満足なものになったようですが、それよりはるか前からホテルがあったという事実には、本当に驚きしかありません。
リゾートの本質
以上、改めてさまざまな角度から、このホテル西長門リゾートについて見てきましたが、現在においては普通に、観光客にとって素晴らしい眺望と美しいビーチの場所に建つリゾートホテルということで、十分納得されることと思います。それは50年前、ホテル建築を上申したホテル社員が見たものは、昔も今も変わらないからです。
完璧な立地で角島大橋の眺望を独り占めでき、山口県の観光スポット巡りに使える、特選の宿です。未来に渡って、本施設が立地の意義を失うことはないということです。
クラブ・ジャイロは現在も、第13回募集として、新規加入を受け付けています。施設により利用シーズンに制限がかかる場合もありますが、基本的に1人2,750円(2人で5,500円、1人利用は2人分とされる)という良心価格のパーソンチャージ。預託金制ですから、最終的にクラブが終末を迎えても、ゴタゴタは起こらないスッキリタイプです。
首都圏からは遠く離れた場所になりますが、本家、鴨川グランドホテルと共に、まだまだ美しい時を刻んで欲しいと思いました。
会員リゾート参入、鴨川グランドホテル、既存施設生かす――低価格で稼働率向上狙う。 | NIKKEI COMPASS - 日本経済新聞 ↩︎
ジャイロのクラブ設立時は「提携施設」扱いであったが、後に格上げされた格好。 ↩︎
鴨川グランドホテル、リゾートホテル展開――山口県豊北町に第1号、52年オープン。 | NIKKEI COMPASS - 日本経済新聞 ↩︎
(参考文献1)「食文化の仕掛人たち:服部晃経営トップ対談」服部晃、誠文堂新光社、1986.2。(参考文献2)「財界forum 1988年5月号」財界フォーラム、1988-05。 ↩︎
・【平成の名所はこうして生まれた】角島大橋(1)「ここなら奇蹟が起きる」 - 産経ニュース
・【平成の名所はこうして生まれた】角島大橋(2)架橋は夢物語じゃない - 産経ニュース
・《平成の名所はこうして生まれた》角島大橋(3) 「目立たない橋に」 主役は海と島のこだわりで景勝地に - 産経ニュース
・【平成の名所はこうして生まれた】角島大橋(4)「島民の夢、20世紀中に実現」 - 産経ニュース ↩︎
zukisansuさん、resortboyさん、毎回のガラ権レポートご苦労様です。思いがけなく鴨川リゾートクラブ(ジャイロ)の話が出てきましたので、私から追加ストーリーを…。
実は、一時期、このジャイロの会員権を購入しようと目論みました。理由は2つあります。1つはジャイロの施設「ヴィラ北軽井沢エルウイング」です。このホテルはセラヴィリゾート泉郷の提携ホテルだったので泊まってみました。その時の詳しい旅行記が以下にあります。当時(2012年)の私は会員制リゾートクラブに夢中になっていた時期なので、気合を入れて旅行記を作りました。
◎ヴィラ北軽井沢エルウイング滞在①(ホテル施設編)
https://4travel.jp/travelogue/10674700
◎ヴィラ北軽井沢エルウイング滞在②(ホテル食事編)
https://4travel.jp/travelogue/10675451
◎ヴィラ北軽井沢エルウイング滞在③(周辺観光編)
https://4travel.jp/travelogue/10676716
◎ヴィラ北軽井沢エルウイング滞在④(周辺ホテル巡り編)
https://4travel.jp/travelogue/10676937
・軽井沢倶楽部「ホテル軽井沢1130」
・ホテルグリーンプラザ軽井沢(メイン館)
・紀州鉄道「軽井沢ホテル列車村本館」
・東急ハーヴェストクラブ・軽井沢高原
この滞在で私は浅間山山麓の「北軽井沢」の高原リゾートの雰囲気と「ヴィラ北軽井沢エルウイング」が大好きになりました。
次は白馬です。私はコロナ禍の真最中の2020年の7月から12月にかけて、コートヤードバイマリオット白馬」に長期滞在して白馬リゾートテレワーク(新著の執筆)をしました。10連泊を4回、合計40泊もしました。コロナ禍の中、宿泊代金は激安で1人で泊まって1泊8000円程度でした。これが長期滞在の決め手でした。マリオットのプラチナ会員として宿泊日数を稼ぐと同時に、様々なプラチナ特典を頂き、大変満足する長期滞在になりました。その時の旅行記が以下にあります。
◎白馬リゾートテレワークの試み
https://4travel.jp/travelogue/11633493
偶然、マリオットの上級会員の知り合いのご夫婦がコートヤード白馬に泊まっていて、明日から「ホテル白馬」に移動する、と言っていました。興味があったので、彼らに同行してそのホテル見学をしました。古いですが素晴らしいホテルで、メインテナンスは申し分なく、しかも、客室は電子レンジ・ミニキッチン付で長期滞在可能なコンドミニアム的なホテルでした。私は一気に好きになりました。
◎ホテル白馬
https://www.hotel-hakuba.com/
友人夫妻は鴨川リゾートクラブ(ジャイロ)の会員でここで数日滞在する、と言っていました。会員料金なので、年間を通して1泊1人2750円で泊まれるそうです。夫婦2名で5500円です。場所は白馬駅から至近距離で、最近話題沸騰の「スノーピーク・ランドステーション白馬」のすぐ裏手にあります。
https://www.snowpeak.co.jp/landstation/hakuba/
私の愛する「ヴィラ北軽井沢エルウイング」と「ホテル白馬」がジャイロに統合されました。私は一気に盛り上がり会員権購入の検討をしました。もし私が東京or千葉県に在住なら間違いなくこの会員権を買ったことでしょう。日常的に「鴨川グランドタワー」に来て、高級コンドミニアムに長期滞在し、季節ごとに「北軽井沢」「白馬」に行って、サイクリング、登山、スキー等をする。完璧なリゾートライフが実現します。でも、愛知県在住の私には現実的ではありません。
と言う訳で、魅力的なガラ権はまだまだ生きています。リゾートトラストや東急ハーベストクラブの高額な会員権を無理して追わず、また、マリオットやヒルトン等のホテル上級会員の呪縛を解けば「Another Sky」が見えてきます。そこに見捨てられたガラ権が残っていると思います。