今の日本では、リゾート会員権というと、リゾートトラストや東急不動産の2社のみが残存するだけになったと言っても過言ではないでしょう。公表されている数字では、会員数は前者が圧倒し、延べ約20万口 1 だそうで、次点の後者は、延べ約3万口 2 だそうです。
残りのガラ権(昔は多かったものもあるが、今は減るばかり)の数字はもちろん後者以下であり、アクティブな実会員数は残り全部合わせて5万口にも届かないでしょう。日本全体のリゾート会員権のマーケットは世帯数で見て30万に至らず、世界的に見ると実に小さなものでしかありません。
メジャーリーグ
本連載を共同で作成している筆者とresortboyさんの間では、ガラ権を野球に例えて「マイナーリーグ」、世界で一般的なリゾート会員権とされるタイムシェア・オーナー制度を「メジャーリーグ」と呼んでいます。
本連載はそのマイナーリーグの今昔物語を書くことが目的ですが、メジャーリーグの持つ特徴と比較することで、リゾート会員権を通じて「日本的なるもの」を浮き彫りにできるかもしれません。今回は番外編として、メジャーリーグの非常に重要な特典である、他のタイムシェア・オーナーシップとの交換システムについて取り上げます。
こうしたものは世界に2大組織があり、最大手である「RCI 3」の本部を訪れた様子をお伝えしながら、リゾート交換システムや利用者数などの全般について触れてみます。
HGVC
まず、この記事を書いている時点の最新のニュースです。米国で「高級」なタイムシェアの代表である「ヒルトン・グランド・バケーションクラブ(HGVC)4」が、日本での展開として、京都観光に便利な場所にある「シタディーン京都烏丸五条」(まだ比較的新しい2010年開業)という滞在型宿泊施設を一棟すべて買い取り、同社の施設としてリニューアルして再来年にも開業します 5。
日本でのHGVCは、2018年に小田原ヒルトンに付設するコテージ「ザ・ベイフォレスト小田原ヒルトンクラブ 6」から施設展開を開始しましたが、最近では沖縄本島の「ザ・ビーチリゾート瀬底・ヒルトンクラブ 7」が販売好調です。
日本で本クラブに入会した方は、ハワイ各島のコンドミニアム・タイムシェアのオーナーになった人が多いでしょう。HGVCはアメリカ本土の施設オーナーも含め、着実に入会者を増やしています。
公表では、全世界HGVC(都市型のHILTON CLUBも含む)のオーナー数は延べ約720,000口に及び、特に目立つのが日本人の延べ約72,000口である(1年で5,000口くらい増えている)とされています 5。全体の10%と言うのは意外に多いですね。
HGVCは日本国内の主要空港に販売ブースがあり、声をかけてくる販売員をよく見ます。このセールス戦略は成功していて、日本人入会者の数字は、ガラ権2位、東急ハーヴェストクラブの2倍以上。存在感のある会員数に到達しています。
50年
ガラ権が発生以来50年を経て死滅していく中で、世界的なタイムシェアもまったく同じように50年前に発生しています 8。
このあたりは、まるで世界史で、世界各地の古代文明が同時期に生まれた感じで興味深いものがあります。世界中で第二次世界大戦からおよそ30年、復興や技術の発達が同時進行したため、各国に休暇の余裕が生まれ、産業としてのリゾートの体制が固まってきたからだと思われます。
50年を経て、今まさに世界中でメジャーリーグたるタイムシェア・リゾートは勢いづいて盛業中であり、インドなど後進国とみなされていた国々においても豪華リゾートが誕生中です。これは日本の状況とあまりにも対照的です。
「死滅」と「拡大・盛業」、日本の高齢者向けガラ権と、世界の若き現役世代向けメジャーリーグ。この姿は、衰え行く日本の未来と重なって見えてしまう筆者は、ガラ権今昔物語の連載を書いている立場として残念な限りですが、上述したように、日本でもHGVCに限らずマリオット・バケーション・クラブ 9 やディズニー・バケーション・クラブ 10、そしてウィンダム 11 などが、着実に若き富裕層世代に支持を広げている数字を見ると、救われる気持ちとなります。
聖地巡礼
そんな中、ドライブ好きの筆者は、今年の夏に米国シカゴを起点として五大湖の西部分を周回してきたのですが、その最終日、数年ぶりにお洒落な町インディアナ州インディアナポリスに向かってみることにしました。
インディアナ州はコンパクトで、最大都市であるインディアナポリスがそのまま州都(ダウンタウンに州会議事堂がある)ですが、世界3大自動車レース「インディアナ500」が開催される(他の2つは、モナコとルマン)派手な雰囲気の町であり、ホテルデザインも凝ったものが多いです。
今回この町に向かった理由は、物好きにも程がある、と笑われそうですが、創業以来ずっとインディアナポリスに世界本部のある「RCI」の本社を訪問するためでした。
ここはタイムシェア交換組織の単なるオフィスであり、会員が利用する場所ではありませんが、会員権の妄想が脳の大半を占める筆者には、これまで本連載で書いた番外編のヒルトンやマリオットの聖地と同格に 12、メジャーリーグの聖地として見ておきたかった場所だったのです。
この日は非常に天気の良い日で、快適に現地に到着しましたが、夕方5時を少し回っていたので、オフィスに人がいる気配はありませんでした。郊外の大きなオフィスビルはセキュリティもなく、自由に出入りできるものでした。
RCIはビルの2階のフロアをほとんどを借りているようでした。外の廊下からは、個別の会員ではなく、RCIに加盟したいリゾート会社に説明をするプレゼンテーションルームがあるのも見えましたし、交換のサポートをするコールセンターも同居している感じでした。
広大な敷地に立つその雑居ビルはとても明るい雰囲気で(冒頭の写真参照)、筆者は、会社の名前の掲示されているプレートを見て、聖地探訪がまた一つ叶ったと満足したのです。
お洒落な町であると書きましたが、この本部が入居するビルも素敵だし、同じ敷地内には、ピラミッドビルと言う斬新なデザインのオフィスビル3つが並んで目立っていて(上記の写真参照)、全体的に実に優雅なアメリカの労働環境でした。
RCIジャパン
RCIは1974年設立、今年でちょうど50周年です。以前に書いたように、筆者が最初に入会したガラ権が「TLC(東京レジャーライフクラブ)13」でしたが、このクラブはその当時からRCIに加盟していましたから、RCIウォッチも、もう35年以上になるのです。このことから筆者が、世界総本部のあるインディアナポリスを会員権の聖地として拝んで来たかった気持ちを、分かっていただけると幸いです。
ガラ権天国である日本では、リゾートトラストによってRCIが独自の運営をされ、RCIジャパンの名のもとに、年会費を支払いながらも本部のサービスを受けられない状態が続き 14、筆者のフラストレーションは高まるばかりでした。
というのも、RCI自体は、時の流れでユーザーの複雑なニーズに応えるのと、加盟リゾート間の格差、予約システムの違いを乗り越えるため、ポイント制(ただし現在も基本は週や半週単位)を導入し、交換がフレキシブルに出来るように制度変更をしたのですが、日本のRCIの対応はファクスと電話による申し込みのままでした。
そもそも加盟リゾートの会員になることと、RCIの会員になることは別の次元の話であり、会費を払ってRCIの会員になったということは、その本体であるRCIのホームページに自分のアカウントでログインして交換ができなくてはならないものでした。そして数多くあるRCI独自のサービスも直接使えないといけないはずだったのですが、RCIジャパンは完全にそれらを無視した鎖国状態で業務を行っていて、何も使えませんでした。
この「RCIジャパン」の理不尽な顛末は、resortboyさんのブログ記事として何度も取り上げられていますので、そちらをご覧ください 15 。
世界から遠く離れて
方やニッポンのガラ権は、今や高齢者の溜まり場となりました。日本人の休暇の在り方に合わせ発生し、そして死滅してゆくものですから、今後ともメジャーリーグには参加できません。
50周年を迎えたRCIは、今や世界110か国、4,100のリゾート、350万人の会員がいて、過去に6,200万件ものリゾート交換を行い、バケーションプランナーのスタンダードの1つとなったとうたっています 16。
タイムシェアは、アメリカだけをとっても、ARDA(こちらも約50年前に結成された「アメリカリゾート開発協会」、95%のリゾート会社が加盟)による統計では、約1,500のリゾート施設、約20万室、会員数は約900万世帯に上るとされ、増々、躍進中だそうです 17。
タイムシェアオーナーは、年会費において、利用料を含めて先に全部支払う必要があります。その一方で、利用した場合は無料ですので、オーナー本人でなくても誰かが使うことになって、稼働率が高くなります。
それは当然のこととして、自分で購入した権利を売買・交換することが可能だからです。大手では30年の歴史を持つ「TUG 18」というコミュニティに参加したり、「RED WEEK 19」という権利の売買サイトが有名です。これらを利用して、自分の持つタイムシェアを無駄なく活用するのです。
このようにタイムシェアを持った場合、自らの権利行使を様々な交換を通じて活用することが可能となっているのが、年会費だけ払って死蔵されがちな日本のガラ権とは異なるところです。
筆者はガラ権の語り部であり、必然的に死滅していく日本的リゾートの姿を描くことが多いのでそこは寂しいのですが、一方でこの先の日本で、HGVCのようなガラ権に変わるタイムシェアリゾートが発生・発展し、メジャーリーグに列してほしいと願っています。世界交換に羽ばたく、新しいリゾートが普及するところに、日本のリゾート会員権文化が昇華できるチャンスがあるでしょう 20。
シカゴ起点のアメリカ周回の旅の終わりに、筆者の35年の念願かなってインディアナポリスのRCIを訪問できたのは、過去と決別し、新しい時代のリゾートを妄想する契機となりました。筆者はその嬉しさを胸に、一路、帰国に向けてシカゴ空港まで車を走らせたのです。
リゾートトラストは会員数が20万人を超えたとしているが、その数字は実際には契約口数(メディカル会員権においては累計口数)であり、実際に現在有効な契約口数や実際の人数はわからない。2024年6月末現在の主要会員権の口数は以下の通り。サンクチュアリコート14,276口、ベイコート倶楽部23,674口、エクシブ79,345口、サンメンバーズ20,745口。 ↩︎
東急不動産の東急ハーヴェストクラブは販売口数の実績を公表していない。理論上の上限である最大募集口数は、最新の「東急ハーヴェストクラブVIALA箱根湖悠」まで含めて、営業中のものすべてで29,476口。 ↩︎
About us | RCI - the largest timeshare vacation exchange network in the world ↩︎
Timeshare Resorts & Vacation Club - Marriott Vacation Club, Asia Pacific ↩︎
・コンラッド・ヒルトン・センター | テキサスの田舎町にヒルトン創業の地を訪ねて | 会員制ホテル今昔物語 – resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究
・マリオットの故郷、ソルトレイクシティ | 世界最大のホテルチェーンを築いたユタの精神 | 会員制ホテル今昔物語 – resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究 ↩︎ホテル箱根パウエル | 我が思い出のガラ権、箱根最高の立地に消ゆ | 会員制ホテル今昔物語 – resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究 ↩︎
リゾートトラストはRCIの日本総代理店だったが、本国のシステムに乗り入れることができず、提携を終えた。エクシブ会員は当時、全契約において本契約と並行する形でRCIの契約が存在していたが、それらは自社の代替制度「RTCC」に振り返られ、RCI契約の会費相当分もそのまま徴収が続いた。そしてRTCCはなし崩し的に海外交換の機能を失った。 ↩︎
代表的なものとして以下。その記事から過去のRCI事件の個別記事にリンクしている。
・夢の終わり―海外リゾート交換が終了 | エクシブの活用術 – resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究 ↩︎タイムシェア・エクスチェンジの草分けであるRCIが50周年を記念 | RCI Indiaのプレスリリース | 共同通信PRワイヤー ↩︎
・State of the Vacation Timeshare Industry: United States Study 2024 | ARDA
・Economic Impact of the Timeshare Industry on the U.S. Economy, 2024 Ed. | ARDA ↩︎The First & Largest Timeshare Website - Owners Helping Owners Since 1993 ↩︎
そのためには日本において、リゾート会員権またはタイムシェアリゾートを律する法整備が必要である。resortboyはそれを目標に活動してきたが挫折した。 ↩︎