海と空から、鳥羽エリアに手を振って

「会員制ホテル今昔物語」は、35年に渡ってリゾート会員権についてウォッチされているzukisansuさんによる連載です。日本で独自の発展を遂げたリゾート会員権、すなわち「ガラ権」の歴史をたどることで、日本的文化とは何か、日本人とは何かを、過去に学び未来を見通す―そんな奥行きのある連載として、僕から特別にお願いし、zukisansuさんにしか語れないこのテーマでご執筆いただく運びとなりました。どうぞご期待ください。(企画・制作:resortboy)

紀伊半島海岸線全周の旅は、和歌の浦から紀州鉄道、にぎやかな南紀白浜、本州最南端・串本から熊野を経て、風光明媚な奥志摩、そして大規模開発が進められた志摩中心部から鳥羽温泉郷にたどり着きました。この先の伊勢神宮エリアにガラ権施設はなく、紀伊半島の旅は最終回を迎えます。

大満足で帰る前に、鳥羽エリアの忘れ物を確認しましょう。そしてもちろん、このエリア最終回のしんがりは「エクシブ鳥羽」であります。

鳥羽温泉郷は広大で、公式に9つものエリアがあります 1。前回まで、アルティア鳥羽 2 やウィスタリアンライフクラブ鳥羽 3 のある安楽島エリア、ヤマハの作った鳥羽国際ホテルを代表とする鳥羽エリアを訪ねました。今回は範囲を拡げ、他のエリアにも目を向けてみましょう。

海の国道

連載では紀伊半島を周回するため、関西空港からレンタカーで、反時計回りに旅をしてきました。しかし、関東から自家用車で伊勢・鳥羽・志摩に行くだけなら、海の道(フェリー)を使うコースの方が便利です。

以前、子育て中のresortboyさんが、毎年エクシブ鳥羽に行っていた頃のブログに、お薦めルートとして何度も記事にされています 4。筆者は、直近では昨年(2023年)の夏、家族旅行で鳥羽に行った際、その「伊勢湾フェリー 5」のルートを使いました。

渥美半島の先まで車で走り、伊勢湾フェリーに車ごと乗って一気に鳥羽市に到着する、というこのコースは、何と言っても最後の「海の国道」が爽快です。渥美半島の先端、伊良湖までのロングドライブの疲れを、フェリーが忘れさせてくれるのです。

伊良湖岬からは、フェリーが湾をまたぐ真ん中にある「神島」を通り越し、やや大きな「答志島」を過ぎるころから、鳥羽市側の所々に林立する大型温泉旅館ホテルが見えはじめます 6

その右手の一番先端、小浜エリアにかすかに見える建物が、忘れ去られそうになっているガラ権施設であった「ViViシーサイド鳥羽」です。

ViViシーサイド鳥羽

大阪の新栄開発 7 が開発した「ViViリゾートクラブ」の一施設であった「ViViシーサイド鳥羽」は、1990年11月開業、64室の温泉旅館的雰囲気のホテルでした。2010年頃に湯快リゾートに経営が代わり、現在は「鳥羽彩朝楽 8」として健在です。

湯快リゾートの上級ブランドであるプレミアムシリーズであり、それにあたって全面リニューアルされ、部屋数も増えているようで、素晴らしいいでたちです。

ViViリゾートクラブは現存しませんが、過去に熱海など複数のクラブ施設を運営していました 9。同クラブは建物を区分所有する共有制としてスタートしたのですが、この鳥羽は預託金制の会員制ホテルであったので、スムーズに湯快リゾートに移行できたという経緯がありました。

ジャンボクラブ鳥羽

そんなことを考えているうちに、フェリーは鳥羽港に近づきました。右手、ミキモト真珠島が見える裏側が鳥羽温泉郷の鳥羽エリアであり、鳥羽国際ホテルが鎮座していることになります 10

そのさらに奥の海岸線が小浜温泉郷で、セラヴィリゾート泉郷の「鳥羽わんわんパラダイスホテル」(旧 泉郷プラザホテル鳥羽 2)があります。そしてその施設の道路を挟んだ反対側には、HESTA大倉の「ザ グランリゾート鳥羽」(59室。当初の名称は「ジャンボクラブ鳥羽」)の廃墟が晒されています。

奥志摩の場合もそうでしたが 11、このガラ権メーカーは、預託制で権利関係に問題ないホテルが廃墟になっても、片付ける考えはないのか(見苦しい)と、不思議に思っています。

鳥羽リゾートビラ

フェリーは鳥羽港に到着しました。到着前に目の前に拡がる巨大な温泉旅館ホテルたちが、安楽島エリアです。港側で海までの斜面に展開する一番目立つのが「鳥羽シーサイドホテル」12(一般温泉旅館ホテル)ですが、立派な建物ですね。日本の観光ブーム華やかなりし頃が偲ばれます。

ここから山側が、アルティアであったりフジタであったりしたのは見て来た通りですが、その中に埋もれるように立つリゾマン、「鳥羽リゾートビラ」について触れておきます。

1975年築で、もう築50年を数えようというオールドリゾマンですが、今も普通に使われているようです。ここは、マンションの1室を区分所有のガラ権とするのを好んだメーカーにとって、使いやすい造りでした。いずれも今はホテル営業をしていませんが、紀州鉄道の「伊勢志摩ビラ 13」や、エメラルドグリーンクラブ 14 の「鳥羽ヴィラ」が仲良く同居していたようです。

海と空から

車はフェリーを降り、伊勢志摩スカイラインで山の上に登ります。今度は空から、鳥羽の自然を見てみませんか 15

お天気がよければ、朝熊山山頂からの眺望は感動ものです。単なる海岸線や山並みではない、歴史が伝わってきます。これまでフェリーから見てきたすべてが山頂から一望できるここで、さよなら鳥羽と手を振りましょう。

エクシブ鳥羽別邸

最後にエクシブ鳥羽について触れます。

拡張に次ぐ拡張で、今や安楽島の半島南側を独り占めしていると言ってもよい巨大ホテルコンプレックスとなった「グランドエクシブ鳥羽」は、3つの大型ホテルとスパ棟から構成されています。

本館は1987年開業の207室。アネックスが1991年開業で198室。そして別邸が2016年開業の121室であり、合計526室、日本最大級のリゾートホテルです。エリア区分としては安楽島温泉郷となります。

このホテル、特に別邸に関しては、ガラ権施設であるかなどの諸条件を考慮せずに、全ての日本のリゾートホテルのトップに立つものであり、ここを利用せずして他のホテルを語ることは無意味であるとまで思います。

もちろん別邸のみの単独開発ではなく、何もない貧しい漁村だったと思われる安楽島の南側に、本館、アネックスが順次開発され、最後に別邸が生まれて現在の姿になったからこそ言えることですが、よくもここまで上手に造り上げて来た、大事に育て上げて来たと、感銘するしかない施設となっているということです。

鳥羽は第1号エクシブとして選ばれた場所であり、グランドエクシブ鳥羽となった今、エクシブの中でトップ(予約も一番難しいと思われます)をゆく鳥羽別邸を見て、この紀州半島全周の旅を終えます。

出発点であった関西空港にレンタカーを返しに行きましょう。高速で亀山まで北上し、斜めに横切りながら関空に向かうルートなら、ストレスもない約3時間の走行です。

次週は夏休みで休載します。新シリーズの関東編にご期待ください。


  1. 鳥羽温泉郷とは ~ 鳥羽温泉郷 ↩︎

  2. アルティア鳥羽 / 泉郷プラザホテル鳥羽 | 名古屋のマンデベが築いた「至高の国」の数奇な運命 | 会員制ホテル今昔物語 – resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究 ↩︎ ↩︎

  3. ウィスタリアンライフクラブ鳥羽 | 鳥羽から撤退した藤田観光のガラ権はどうなったか | 会員制ホテル今昔物語 – resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究 ↩︎

  4. resortboyの初期の記事には、例えば以下に見られるように、エクシブ鳥羽へのフェリーの話が何度も出てくる。
    エクシブ鳥羽&アネックス – ページ 4 – resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究 ↩︎

  5. 愛知県田原市(伊良湖岬)から三重県鳥羽市間は、国道42号と国道259号と重複する海上区間で、伊勢湾フェリーによって国道が航路によって結ばれている。
    国道42号 - Wikipedia
    国道259号 - Wikipedia
    伊勢湾フェリー ↩︎

  6. 鳥羽港と4つの離島には、市営の定期船が就航している。
    市営定期船/鳥羽市ホームページ ↩︎

  7. 新栄開発はダイエーの中内功氏の実弟、中内博氏が経営していた。 ↩︎

  8. 【公式】湯快リゾートプレミアム 鳥羽彩朝楽|三重県 伊勢 志摩
    なお、もっと南の志摩エリアに、プレミアムではない一般シリーズの「志摩彩朝楽」がある。こちらは元ガラ権施設ではない。 ↩︎

  9. ViVi有馬が1984年3月開業、1989年12月にViVi熱海自然郷、1980年11月に今回取り上げたViViシーサイド鳥羽が開業した。 ↩︎

  10. 鳥羽国際ホテルに関しては、ヤマハのリゾート開発について触れた本連載の以下の記事の末尾を参照。
    志摩スペイン村 / 志摩地中海村 / 合歓の郷 | 「リゾート志摩」がスペイン風になった理由 | 会員制ホテル今昔物語 – resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究 ↩︎

  11. サンメンバーズ奥志摩 / ジャンボクラブ志摩 / メルパール伊勢志摩 | かつて開発された辺境リゾート「奥志摩」の現在 | 会員制ホテル今昔物語 – resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究 ↩︎

  12. 三重交通の子会社で近鉄グループに属する。3棟からなり鳥羽市最大級だが、エクシブ鳥羽のスケールはそれをはるかに凌駕している。
    鳥羽シーサイドホテル - Wikipedia
    【公式】鳥羽シーサイドホテル | 三重県鳥羽市・伊勢志摩の温泉リゾート ↩︎

  13. 紀州鉄道 伊勢鳥羽ビラ ↩︎

  14. エメラルドグリーンクラブ ↩︎

  15. ルート上のおすすめスポット|伊勢志摩スカイライン【公式】 ↩︎

文・撮影:zukisansu、企画・考証・制作:resortboy。バックナンバーはこちら

1 comment

  1. zukisansuさん、紀伊半島海岸線全周の旅、並びに、ガラ権歴史の学術レポート、ご苦労様でした。私の知らないことが盛りだくさんで勉強になりました。その最後を飾るにふさわしいのが「グランドエクシブ鳥羽」なのですね。同感です。

    紀伊半島海岸線の古いホテルは人気激減で朽ち果てても、風光明媚な自然環境は変わっていませんね。ここに、新しいコンセプトと資本が入れば、現代日本の最高の和風ホテルが誕生する、それが「エクシブ鳥羽別邸」なのですね。

    以下、zukisansuさんの記事からの引用です。
    「このホテル、(略)全ての日本のリゾートホテルのトップに立つものであり、ここを利用せずして他のホテルを語ることは無意味であるとまで思います。(略)よくもここまで上手に造り上げて来た、大事に育て上げて来たと、感銘するしかない施設となっているということです。」全く同感です。

    世界を色々歩いてきた私の感覚では、エクシブ鳥羽別邸の宿泊代金は1泊10万円以上はとれるでしょう。世界にはお金持ちがいっぱいいますので、彼らを鳥羽別邸に招待すれはいくらでもお金を落としてくれるでしょう。

    以下、私のエクシブ鳥羽別邸の旅行記です。
    https://4travel.jp/travelogue/11175439

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