NOT A HOTELの投げ込みパンフレット

僕の自宅ポストに、NOT A HOTELの投げ込みDMが入っていました。ちゃんとした12ページ立ての豪華パンフレットで、封筒も全面が写真のビジュアルなものです。リゾート会員権とはちょっと違うような売り方をしていますが、本質は同じですよね。

NOT A HOTELは10泊単位で別荘をシェアするという商品で、ビジネスモデルの基本部分は、1960年代後半からある完全に古びたオールドスタイルのものです。かつてのシェア別荘事業者はほとんどが絶滅しましたし、同種のビジネスとしてリゾート会員権が豪華ホテルの共有としてその後に発展しました。

ご存知の通り、リゾート会員権ビジネスは現在も存在し、代表的な事業者としてリゾートトラストと東急不動産があります。リゾートトラストの資産価値(セカンダリーマーケット)は極めて残念なもので、一方の東急不動産では一部有名観光地にある共有ホテルが高値になったりしています。ただ、東急の場合は一般ホテルとしても宿泊できるところが多く、所有意義については疑問の声もあります。

さて、NOT A HOTELはラグジュアリー志向の若い富裕層ファミリーにターゲットを絞って成功していると聞いています。資産価値があり、セカンダリーマーケットも値上がり傾向とうたっているようです。

しかし過去のこうした商品のほぼすべては、CAPEX投資(リニューアルや大規模修繕などを定期的に行う、一般ホテルでは当たり前のオペレーション)をする仕組みが組み込まれていないので、時間とともに劣化して、結局は所有している会員すらも行かなくなります。

では、NOT A HOTELはどう違うのでしょうか? 公式見解や経営者の発言(NOT A HOTEL公式サイト・ヘルプセンター・note・日経インタビューなど)で確認していきましょう。これは決して解説や論文のたぐいではなく、研究家の単なるメモです。

1. ビジネスモデルが、1960年代から失敗が証明されたシェア別荘と同じ。魔法的なデジタル技術によるプレゼンテーションのうまさで差別化しているだけではないか?

商品としては、新築するときに資金を集めて、一度ゴール(収益確定)します。開業以降は運営任せの構造になります。NOT A HOTELだけが一人勝ちできる理由はどこにあるでしょうか?

note(社内弁護士の渡邊哲史氏「NOT A HOTELのビジネスと法 連載第2回」):

「維持管理に必要な管理費等をお支払いいただければ、清掃、メンテナンス、将来的な修繕の手配など、建物の維持管理はすべてオペレーターが一括して担います。オーナーは、面倒な手間から解放されます」

これは50年前からずっと言われていることで、その「運営任せ」を正面から肯定する説明が、過去モデルとの同一性を感じさせます。

江藤大宗Co-CEO(note公式「CFOが紐解くNOT A HOTEL『らしさ』の法則」):

「NOT A HOTELでは竣工前または着工前に、パース(完成予想CG図)の段階で販売をします。これによって資金繰りの前倒しが可能になり、NOT A HOTELはより自由度を持った開発が可能となります」

先行資金回収を優れた事業モデルとして説明しています。これも過去の事業者が繰り返してきたことですが、現在はインフレの問題と正面から向き合うことにもなります。つまり、デフレ時代の考え方に見えます。

このモデルは、インフレに極めて弱い構造(固定価格・管理費改定しにくい・先行資金回収のタイムラグ)ではないでしょうか。

2. CAPEX(大規模修繕・設備更新)の仕組みが実質なく、オーナー側の意思決定権も一切ないのではないか?

NOT A HOTELでは、管理費に「将来的な修繕」が含まれるとうたっています。ですが、積立金ルール・総会実権・特別負担条項が不明です。

歴史的には、リゾートトラストのように大規模展開して次々と会員を増やして資金を回すか、東急不動産のように多額の修繕積立金を別途徴収しない限りは、たいてい20年程度で価値が陳腐化し、稼働率が下がり、やがて会員も行かなくなります。

公式ヘルプセンター「管理費に含まれる施設メンテナンスの対象を知りたい」(2026年現在):

清掃・植栽・外構・共有部・システム維持のみ列挙し、将来的な大規模修繕(屋根・設備更新など)に記載がありません。「オーナー総会」「管理組合」「積立金率決定権」といった記述は見つかっていません。

note連載第2回(前出):

「将来的な修繕の手配など…すべてオペレーターが一括」と書かれていますが、オーナー総会や積立金率の決定権に関する記述はありません。別荘地に展開していますが、かつての東急不動産のようにエリアとして面開発し、地場の開発事業者として責任を持つモデルではありません。

3. セカンダリーマーケットの上昇は建築費高騰の一時的反映で、持続しないのではないか?

リゾートトラストは新規の需要と中古の供給のバランスが悪いため、仲介市場で価格は急落してしまいます。NOT A HOTELは希少価値と自社によるプライスコントロールでそこをカバーしようとしているように見えますが、修繕積立金制度がない以上、供給棟数が増えないとCAPEX問題は解消できず、まだ新しい今だけの現象ではないでしょうか。

江藤大宗Co-CEO(日経「建設費高騰、シェア別荘に追い風も」など):

インフレを全体として「追い風」と表現しているようです。以下の記事で触れられているセカンダリマーケットについては、こんな風に説明されています。

「時間とともに建物が古くなっていこうとも、NOT A HOTELは運営のプロセスを通して、体験をレイヤーとして積み重ねていく。単なる機能の「更新」にとどまらず、日々の体験が蓄積されることで価値そのものが「拡張」されていくイメージだ。その結果、時間は劣化ではなく進化の要因となり、価値は年々高まっていく」

これはちょっと普通の人には意味がわからない説明になっています。

あくまで「資産として成立させようとしている」と、資産性がうたわれていて、劣化リスクは「体験の拡張」で克服できる、というのが主張のようです。

4. 「新築ゴール」モデルゆえ、販売完了後は運営会社の経営状況に完全に依存するのではないか?

この商品は、着工前からCGベースで販売され、完成時に一度、利益が確定してしまいます。以降の収益は会員からというより、むしろホテル運用としての収益頼みになります。そのため、資金繰りは現代の会員制リゾートホテルよりもジリ貧になりやすい傾向が強いのではないでしょうか。

NOT A HOTELはリゾートトラストや東急不動産と違ってオーナーの利用時にルームチャージのようなものがなく、熱狂的な会員が「買い支える」モデルではないようです。

また、リゾートトラストのようにどんどん販売規模を拡大すれば、稼働率の低迷や施設の陳腐化も全体としてカバーできるでしょうが、それはNOT A HOTELがうたう希少価値や価値の体験の否定につながります。

note連載第2回(前出):

「建物が完成する(竣工)までには、ほとんどの共有持分が完売しています。契約時には着手金を、物件の引き渡し時には残代金を受領するため、開発に投じたコストを竣工時には回収できるのです」と、このモデルを優れた事業モデルであると説明していますが、販売後の長期運営リスクには触れられていません。

5. DAOは富裕層向けパンフに一切載せず、別ルートで展開しているのではないか?

10泊を数千万円で所有権として販売する一方で、別の「数万円で体験できる大衆版」があるようです。しかしそれは僕が受け取ったパンフレットには登場しません。イメージを守るため、廉価版があることを隠しているように見えます。

公式DAO note「NOT A HOTEL DAOサービス紹介」(2024年12月):

「NAC(注:独自の暗号資産)をNOT A HOTEL DAOに預ける(レンディングする)ことで、NOT A HOTELの宿泊権が付与されます。預けたNACは期限終了後にそのまま返還されるので、NOT A HOTELに実質無料で泊まることができます」という、僕には理解できない部類の、変わった販売システムがあるようです。

NOT A HOTEL DAOサービス紹介

6. 法的所有形態に不安はないのか?

同社の共有制は、古くからある民法上の共有持分に加えて、信託受益権によるものが採用されています。

これは新しい取り組みで、共有制のリゾート会員権で見られる「弱点」をカバーできるものであるのかもしれませんが、やはり僕の理解はこれからです。

僕のごく身近にNOT A HOTELの会員さんがいて家族も利用していますが、この商品のものすごく複雑な権利関係とシステムの仕組みを理解しているとはとても思えません。

1 comment

  1. Not A Hotel のパンフレットの美しい別荘の写真の数々は、目を惹くものがありますね。

    これまでのホテルには無い、プライベート感と静謐さ、自然との調和には心が動かされます。

    しかし
    約20年後の大規模修繕は、誰が、どの費用を使って(分譲マンションの様な修繕積み立て金は無い)、どのように進めて行くのか!? 全く不明なんですね。

    施設的には、タワーマンションみたいな物は無いようなので、数十年でスクラップして、建て替えということになるのでしょうか?

    ここに関する規約が無いと・・・かなり問題になりそうですね。

    Not A Hotelとコンセプトの似ているリゾート会員権の「ビックウィーク(東急不動産)」を持っていて、活用しておりました(ホテルでは無い。ゆっくりと寛げる別荘である。管理・清掃は自分でやらなくて良い。を謳っており、その所は、Not A Hotel と共通です。)。

    この会員権の場合には、10年間の使用権限を、事前に購入するものであり、10年間の経過で、終了しました。
    その後は、東急不動産が、修繕して、自社ホテルとして活用しているようです。

    東急不動産のこちらの会員権(別荘利用権)は、権利関係が非常に明確でした。

    Not A Hotel 権利関係が理解出来ない施設というのは・・・

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