皆さん、デルタ株が猛威を振るう中、いかがお過ごしですか。コロナ禍2年目のお盆休みもこれかよ、という感じで、底堅い需要がある会員制リゾートはともかく、ホテル一般としては極めて厳しい時期が続いていますね。いったいどうなってしまうのでしょう。
なんとなく「近ごろ私達はいい感じ」のリゾート会員権ですが、過去においては屍累々の歴史を経ていることを忘れてはなりません。というわけで、終戦の日に「リゾート会員権の終わり方」について考えてみることにしましょうか。
1)ずっと続くとされているもの(終わりがないもの)
エクシブやベイコート倶楽部などのリゾート会員権は、専有部分の区分所有権を基礎とするリゾート会員権です(ここではおおざっぱに「共有制」と呼んでおきます)。そのため、会員の権利はその所有権が存続する限りにおいてずっと継続すると考えられています。
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いきなり脱線しますが、この所有(オーナーシップ)というものがリゾート会員権において、精神的にかなり重要な位置を占めていることを痛感します。例えば、「おれはこのホテルのオーナーなんだよ」と言ってみたくなっちゃう、とかね。これは「預託制」とは大きく違うコンセプトであって、「おれはこのホテルの運営会社にお金を預けてるんだよ」というのとはまったく異なります。
ですが、ホテルは年を経るごとに劣化しますし、営繕のためのコストもかかります。エクシブでは年会費を使って小修繕を行うほか、販売時に預かった保証金(現在は30年で償却)も償却時に一部こうした費用に当てたいとしていますが、明確に営繕に向けた費用の徴収はなく、大規模改修時には持分に応じた費用負担を会員が行う旨が契約書に明記されています(管理規約18条)。
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初代エクシブ鳥羽開業からはもう37年も経っています。そろそろ「ずっと続く」とされているリゾート会員権に転機が訪れても不思議ではない時代となりました。
これは日本のリゾート会員権が参考にしたであろう、ハワイを中心とする米国のタイムシェアにおいても同様ですが、彼の地の会員権(例えばHilton Grand Vacations)は毎年経費をそれなりに(かなりの額)徴収して資産の維持管理に努めることを運営の基礎に置いていますので、リゾートトラストとはかなり趣が違います。東急ハーヴェストクラブはこうしたタイムシェア文化に近いものがありますね。
(ヒルトン公式)【2020年版】HGVリゾートの年間管理費について | Club Traveler(クラブトラベラー)
(東急公式)リゾート会員権のランニングコストとは?
こうした「建物滅失まで永久に続く」会員権のサステナビリティについて研究するのが、当面の僕のテーマかなと思っているところです。
2)会員権の存続期間が最初から決まっているもの
すべての共有制会員権が永久に続くという設計ではありません。人口減・不動産余りの現代においては、むしろ存続期間が最初から決まっているものの方が普通になってきました。地方の「かつてのリゾート地」に行くと、朽ち果てた別荘地、廃墟と化したホテルに出くわすことがありますが、そうならないように最初から終わりを決めるのが現実に合っている、というのは、誰もが賛同できる部分があるでしょう。
以下に東急ハーヴェストクラブの全物件について、権利関係を一覧できるようにした資料を作りました。こういうものは多分ほかにないと思うので、便利だと思った人は僕にぜひねぎらいのコメントを。
施設名 | 開業日 | 資産の裏付け |
---|---|---|
蓼科 | 1988年6月21日 | 転借権準共有 |
勝浦 | 1989年7月14日 | 共有制 |
浜名湖 | 1990年7月17日 | 共有制 |
天城高原 | 1991年4月14日 | 共有制 |
静波海岸 | 1991年11月28日 | 共有制 |
鬼怒川 | 1992年4月20日 | 共有制 |
南紀田辺 | 1993年3月31日 | 共有制 |
伊東 | 1993年6月23日 | 共有制 |
斑尾 | 1997年12月6日 | 共有制 |
蓼科アネックス | 1999年3月27日 | 転借権準共有 |
スキージャム勝山 | 1999年7月15日 | 預託制(2029年7月14日まで) |
山中湖マウント富士 | 1999年7月17日 | 預託制(2029年7月16日まで) |
旧軽井沢 | 2001年7月18日 | 共有制 |
蓼科リゾート | 2002年12月20日 | 預託制(2022年12月31日まで) |
箱根明神平 | 2003年7月11日 | 預託制(2023年7月10日まで) |
箱根甲子園 | 2003年12月18日 | 賃借権準共有(一般定期借地権/2053年12月31日まで) |
裏磐梯グランデコ | 2004年9月17日 | 預託制(2028年9月30日まで) |
那須 | 2006年10月1日 | 共有制 |
旧軽井沢アネックス | 2007年7月21日 | 賃借権準共有(一般定期借地権/2057年7月31日まで) |
VIALA箱根翡翠 | 2008年4月26日 | 賃借権準共有(一般定期借地権/2058年4月30日まで) |
有馬六彩 / VIALA annex | 2010年3月27日 | 賃借権準共有(一般定期借地権/開業日より50年間) |
熱海伊豆山 / VIALA annex | 2013年8月11日 | 賃借権準共有(一般定期借地権/開業日より50年間) |
京都鷹峯 / VIALA annex | 2014年10月4日 | 賃借権準共有(一般定期借地権/開業日より50年間) |
那須Retreat | 2017年10月25日 | 貸借権準共有(事業用定期借地権/開業日より35年間) |
軽井沢 / VIALA annex | 2018年7月20日 | 賃借権準共有(一般定期借地権/開業日より50年間) |
VIALA鬼怒川渓翠 | 2022年12月下旬 | 賃借権準共有(一般定期借地権/開業日より50年間) |
補足しますと、「転借権準共有」というのは国立公園内での開発に伴うものですので、共有制と考えていただいてOKです。これを見てわかるのは、東急はここ15年以上、すべて定期借地権で会員権販売をしていて、一般ホテルに相乗りした預託制のものも含めると大多数に会員権の「終わり」をあらかじめ設定しています。
50年で終わることを前提に、いろいろなことを計画してホテル運営を実行するというのは、例えばエクシブ伊豆があと17年でクローズするというようなものですから(エクシブ伊豆はクローズの予定はありませんよ、念のため)、「そんなものかな」という納得感はあります。僕が最初にリゾート会員権を買ったのは30代半ばですから、肉体的にホテルに行けなくなる80代に終わるのであれば、ちょうどいい気もします。
3)資産の裏付けがないので終了しても後腐れのない会員権
会員権の中には、入会金と年会費だけで会員になれるものもあります。例えば、このサイトでも評価の高いセラヴィリゾート泉郷の会員権は現在、そうなっています。こうした場合、その会員権の裏付けとなるのは運営会社への信用だけですから、現代においてはかえってすっきりとしたシンプルなものであるという見方もあるでしょう。
(セラヴィ公式)リゾート会員権商品紹介 | セラヴィリゾート泉郷【公式】
共有制会員権の場合、運営会社に不調があってホテル利用に不都合が出たとしても、区分所有権者としての義務から逃れることはできません。後で述べますが、廃墟になったホテルの固定資産税を払い続けている方も、破綻したリゾート会員権の旧会員にはいらっしゃいます。
こうした、入会金だけで発生する利用権のみの会員権は現在はけっこうあります。かつて預託金制だったリゾート会員権はかなりのものが破綻してしまいましたが、そうしたリゾートクラブの会員が持っていた預託金の返還請求権は事実上消滅していますので(一般には99%の減額など)、この分類に入れるのが適切でしょう。
預託金証券は紙切れになったけれど、会員権としてのホテル利用権は会社整理後も存続していることが多く、セラヴィリゾート泉郷のように立て直しに成功して会員の満足度が向上した事例もあります。やはり破綻したエメラルドグリーンクラブも、経営難で預託金を返せなくなった代わりに年会費をそこから相殺するなどしたため、会員の満足度は悪くなかったという話も聞きます。
(関連記事)リゾート会員権の破綻がもたらしたユーザー志向 – スペシャル対談 舟橋栄二さん(4)|番外編 – resortboy’s blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究
セラヴィについて少しだけ補足すると、同社は預託金制の「泉郷ベストクラブ」を主軸にいろいろなホテルが寄せ集まってできたホテル運営会社なので、区分所有権の分散に伴う面倒なことが少なかったのではないかと思います。その結果、破綻後の立て直しもスムーズに行った面があるように感じられます。小西滋前社長を中心とした優秀なホテルマンの存在が大きかったことはもちろんです。
(参考文献)小西滋, もっと身近にリゾートを セラヴィリゾート泉郷の45年, 2016/3/28, クロスメディア・マーケティング(インプレス)
4)資産の裏付けがなく、かつ期間の決まった会員権
前項は歴史的経緯から生まれてしまったような類型でしたが、同様に入会金だけで利用権が発生し、かつ期間が決まった会員権もあります。セラヴィがかつて販売していた「泉郷バケーション倶楽部」などがそうですし、メジャーな(と言っていいのかわかりませんが)ものとしては「東急バケーションズ」(ハーヴェストクラブの東急不動産系ではなくこちらは東急電鉄系。旧 東急ビッグウィーク)があります。
(東急公式)人気のホテル・別荘をシェアできる会員制リゾート「東急バケーションズ」
(参考記事)東急ビッグウィーク – resortboy’s blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究(←情報は初出当時のもので古いので、あくまで歴史的な経緯ということです)
東急バケーションズも泉郷バケーション倶楽部もポイント制で、例えば5年分のポイントを購入して、利用のたびにそのポイントを払い出して使う、という、「米タイムシェアの不動産登記のないバージョン」みたいなものになっています。これは権利関係が非常にすっきりしているので、今後の成長・開発が期待できるリゾート会員権運営形態であると、個人的には思います。
さらにこのジャンルに分類するとすると、リゾートトラストが会員権であると称して販売している「ザ・カハラ・クラブ ハワイ 」も仲間と言えるでしょう。ただし、このクラブは一般ホテルの回数券に過ぎないと見るのが妥当です(同社は販売サイトにおいて「前払式支払手段発行者」として「資金決済法に基づく表示」を行っています)。
(リゾートトラスト公式)THE KAHALA CLUB HAWAII – ザ・カハラクラブ ハワイ
5)ここまでのまとめ
上記で類型を4つ示しました。まとめると、リゾート会員権を「終わり方」という視点で見た時に、「資産の裏付け(区分所有権や預託金)の有無」と、「会員権存続期間が有限か定めなしか」の2つの要素のマトリクスで整理できるように思われます。週末の勉強会ではもう少し突っ込んだ話をしようかなと思いますが、果たして時間があるのか…。
通常の区分所有権が会員権の基礎になっている場合、その対象となる建物の滅失まで「付き合わなければならない」というのが問題になります。定期借地権の場合は、更地に戻して終了となりますので、その終わりが明らかです。
また、資産の裏付けが預託制で期間の終わりがない場合にも、問題が発生することがあります。これは次に説明します。運営企業が破綻してしまう場合には、預託金証券が紙切れにはなりますが、不動産への責任が付いて回ることにはなりません。
資産の裏付けのない会員権の場合には、利用権だけの問題となり、破綻時には「残念でした」で終わる話ですから、それはそれですっきりしています。
6)モデルケース1「日本サン・ランド」
最後に歴史を紐解いて、典型的な問題と思われる事例を2つ紹介します。
最初は共有制リゾート会員権販売を手掛けていた「日本サン・ランド」の破綻についてです。このリゾートクラブは、千葉の館山、軽井沢、会津の3拠点に「ホテルアクシオン」という名でホテルを分譲し、共有制のリゾート会員権として販売しました。
(参考:開業時のホテルアクシオン館山)ホテル アクシオン館山 | 株式会社レーモンド設計事務所
その後、同社は破綻し、受け皿となったパルアクティブもほどなくして破綻。さらに後を引き継いだアムス(ホテルズ株式会社)と旧会員(区分所有権者)との間で訴訟が発生しました。その様子は以下のサイトでリアルに(生々しく)見ることができます。
(資料)日本サン・ランド権利者組合HP
細かい経緯を知りたい方は上記サイトを見ていただくとして、最終的には、ホテル運営者から区分所有権者には賃料が支払われるようになり(これはもともとの会員権契約の中に、会員と運営会社間の賃貸借契約があり、所有部分に対する賃料支払条項があったためです)、また、区分所有権を現運営者側に買い取ってもらったケースも存在します。
また、アクシオンのホテルは3拠点ありましたが、会津については受け皿会社によるホテル運営が行われず、廃墟となりました。短期的に無償での買取は行われましたが、登記などの手続き費用は旧会員の負担とされたため手続きが進まず、租税公課を支払い続けているケースも存在します。
(ホテルアクシオン館山の現在)館山リゾートホテル【公式/最安値】|南房総の海と温泉とコテージと
(ホテルアクシオン軽井沢の現在)リブマックスリゾート軽井沢フォレスト 公式サイト
7)モデルケース2「ダイワロイヤルメンバーズクラブ」
最後に、期間の定めのない預託制リゾートクラブのトラブル事例です。大和ハウス工業の子会社、大和リゾートは同社のリゾートクラブ「ダイワロイヤルメンバーズクラブ」の事業終了(解散)を目論んで会員に対して預託金の返還と新クラブ制度の打診を行いましたが、会員側の猛烈な反発に会い、結局クラブは存続を決めました。
このトラブルには「特定非営利活動法人消費者機構日本」が深く関わっており、その顛末は以下のサイトで読むことができます。
(資料)大和リゾート株式会社の「ダイワロイヤルメンバーズクラブ」会員権の取扱いが従来通り継続されることになりました。 | これまでの是正申入れ等の状況 | [COJ]消費者機構日本
大和リゾートはリゾート会員権運営業者としては珍しく資本の厚みのある大企業をバックに持っており、預託金を返還する「余裕」のある企業でした。歴史的に多くの預託金制リゾートクラブが破綻してきたことを考えれば(泉郷、エメラルドグリーンクラブ、東京レジャーライフクラブ、IRS(国際リゾートサービス)など)、運営が健全な状態で時流に対応できなくなったリゾートクラブに幕引きを行えたかもしれない案件でしたが、大和側のコミュニケーション力の問題からか、この事業者側からの働きかけはうまく行きませんでした。
結局、同クラブは既存のままで存続しましたが、クラブは信用を失い流通市場での取引は行われなくなり、会員の資産価値は失われました。誰もハッピーにならない結末とは、難しいものですね。なお、同クラブは過去に大規模な不正が組織的に行われており、クラブの運営姿勢に対する懐疑的な声が存在していました。以下の記事のコメント欄もご参照ください。
(参考コメント)ダイワロイヤルメンバーズクラブ|番外編 – resortboy’s blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究
といった具合で、研究した内容は土曜日にできるだけうまくまとめて発表しますのでお楽しみに。Zoom接続情報などは、月曜日に頑張って作業しますので、ご参加表明された方々はもう少しお待ちを…。
共有制の会員権を売り出していた破綻したリゾート会社を調べているのですが
もしご存知でしたら、ご連絡いただければ幸いです。
誠友商事など…
安さん、いらっしゃいませ。よろしければ、どのようなご事情なのか、少しご紹介いただけましたらと思います。よろしくお願いします。