1年ほど前の勉強会で「ホテル利用学」についてはじめて発表を行いました。その際、学問(実学)として体系立てることを目指して、「シラバス」(授業計画)も作りました。当時は「ホテルメンバーシップ研究会」を立ち上げようとしていたこともあり、「あまり前のめりに研究色を出さないほうがよいのでは?」という意見もあって、この部分についてのちゃんとした説明はせず、今日まできました。
2020年になってからはコロナ禍で、ホテルメンバーシップ研究会が対象としていた本格的なロイヤルティプログラムはどれも数年の「棚上げ」状態になってしまい、国内のリゾート会員権は底堅いものの、会員権の嚆矢である海外タイムシェアに至っては、いつ利用再開できるのか、まったく見通しが付いていません。
僕が主宰する研究会の発足は延期(棚上げ)してしまったので、このシラバスについてもお蔵入りと思っていたのですが、ひょんなことから、もう少しちゃんと研究してみるか、というチャンスをいただきました。
背景としては、日本全体のオーバーホテル問題というものがあります。7月の勉強会や他の記事でも取り上げていますが、宿泊特化型のビジネスホテルを中心に大幅な過剰供給となっています。しかも、これらのホテルはGo Toトラベルキャンペーンでも置き去りになっています。
インバウンド需要などを目的に「建ててしまった」ホテル側としては、たたき売りや用途の転用をしてでも収益を上げなければならない厳しい状況にあります。用途規制の緩和を行って、宿泊だけでなくデイユースやテレワーク用など、さまざまな方法で空間を販売しなければならない一方で、制度設計としての法規制が追いついていない部分もあるようです。
そんな中、ホテルの利用について、かりそめの利用ではなく、生活や人生に密着した体系的な技術としてまとめ上げようという「ホテル利用学」というコンセプトについて、コロナ禍の中で「なぜいま感」が出てきてしまったようなんです。ホテル活用シーンの類型を、さまざまに分類整理して提示することが、社会的な要請として求められている、ということを知りました。
今はデジタル技術によって、空間的に離れていたり閉じていたりしても、デジタル技術でどことでもとつながることができます。テレビ会議に代表される仕事面にしても、オンライン配信などのエンタテインメントにしても、できることは格段に多彩になっていますから、テンポラリな生活空間としてのホテル活用のシーンは劇的に増えている(増えていくはず)、ということですね。
その研究活動の内容については、ちゃんと準備ができましたら発表しますが、来週のオフ会(勉強会)ではご参加の方にご案内して、研究へのご協力をお願いするつもりです。
以下、昨年10月に発表したホテル利用学シラバス(2019年秋バージョン)のスライドを掲載します。もちろんこれは今後、アフターコロナバージョンとして書き直さなければならないものではありますが、冒頭の写真のように、ビフォアコロナのスナップショットとして公開しておきます。
(写真は、東京五輪の開催計画を元に設置された五輪モニュメント(現在は撤去)を、ヒルトン東京お台場のお部屋から見たところです)
ホテル利用学とは
ホテル利用学とは
ホテルの会員制度を適材適所に活用して、
ホテル利用を生活に取り入れる技術を体系的に学ぶこと。
ライフスタイルが多様化する時代において、
自宅や職場以外の場所に生活空間を展開できる技術によって、
個人の人生の可能性を高め、
家族のつながりの持続可能性を高めることを目的とする。
ホテル利用学は学際的な学び
ホテル利用学・シラバス案(1~4回)
1)ホテル利用学の意義
・前提となる社会背景
・家族の変容
・サードプレイスとライフスタイル
2)ホテルの分類と施設
・シティホテルとリゾートホテル
・高級ホテルとビジネスホテル
・類似する業態
3)ホテル利用のコスト論
・都市生活のコストとホテル利用コスト
・リゾート地への移動コストと都市型リゾート
・会員制度による割引と初期費用・年会費
4)ホテル会員制度の概要
・リゾート会員権とは何か
・ホテルロイヤルティプログラムとは何か
・OTA(ホテル予約サイト)とは何か
ホテル利用学・シラバス案(5~8回)
5)リゾート会員権 – 1
・成り立ちと歴史、構成要素
・預託金制と共有制
・リゾートトラストのビジネスと沿革
6)リゾート会員権 – 2
・東急ハーヴェストクラブのビジネスと沿革
・破綻の歴史
・消費者保護の観点から見た問題点
7)海外タイムシェア
・ハワイにおけるタイムシェア物件
・日本の会員権との共通点と相違点
・一般ホテルとのハイブリッド営業
8)ホテルロイヤルティプログラム概論
・発展、統合の歴史
・主要プログラムの概要
・クレジットカードとステイタスマッチ
ホテル利用学・シラバス案(9~12回)
9)マリオットとヒルトン
・制度の違いと特色
・使いこなしのケーススタディ
・タイムシェアとの関係
10)ANA IHGとオークラニッコー
・制度の違いと特色
・その他の日本のホテルチェーン
・使いこなしのケーススタディ
11)OTA(旅行予約サイト)
・Booking.comとExpediaグループ
・Trip.comとインバウンド需要
・口コミサイトとメタサーチ
12)IR(統合型リゾート)
・会員権とIRホテルの共通点と相違点
・シンガポールとマカオ
・日本における外資IR進出計画
ホテル利用学・シラバス案(13~15回)
13)海外旅行におけるホテル利用
・会員権の交換利用
・ハワイタイムシェア利用の実際
・ケーススタディ
14)生活に溶け込むホテル利用 – 1
・テレワークとワーケーション
・旅先で仕事をするということ
・ケーススタディ
15)生活に溶け込むホテル利用 – 2
・家庭運営に対するホテルの位置付け
・旅と、家庭における学びと健康
・ケーススタディ
ホテル利用学のシラバスに最新レポートを作ってみました。
《沖縄マリオットの夏(7月8月)の運営実績について》
新型コロナのパンデミックは収まりそうもありませんね。いまだに(2020年9月26日現在)全世界が鎖国状態で自由に海外旅行できません。これでは当分の間、訪日外国人は期待できず、日本の大型高級ホテルは大きな試練に立たされています。
さて、夏が終わりました。今年の夏はひどい酷暑でしたが、夏のリゾート地、沖縄はホテル業界にとって稼ぎ時でした。コロナの影響もあったと思いますが、実態はどうだったのか?私の愛する「沖縄マリオット」の運営実態を調べてみました。
実は沖縄マリオットはホテルに特化した投資ファンド「ジャパン・ホテル・リート投資法人」が149.5億円で購入した投資物件です。上記ファンドの決算報告等を詳しく見ると運営実績が載っています。
ホテルの収益分析の基本的項目は以下の3点です。私の勉強を兼ねて整理してみました。この3つを覚えておきましょう。
◎OCC(Occupancy Rate)は客室稼働率のことで、実際に販売した客室数を販売可能客室数で割って算出します。例えば、100室あるホテルで75室の利用があれば、OCC(客室稼働率)は75%となります。
◎ADR(Average Daily Rate)は平均客室単価のことで、実際に売れた客室1室あたりの販売単価です。客室売上を販売客室数で割った値です。例えば、全客室の売上が150万円で利用された客室数が75室であれば、ADRは2万円となります。よってADRが高ければ強気の価格設定をしていることになります。
◎RevPAR(Revenue Per Available Room)とは、販売可能客室数あたりの客室売上を言います。販売可能客室1室あたりの売上を表す値であり、運営実態に近い数字です。客室売上を販売可能客室数で割った値で、ADR(平均客室単価)×OCC(客室稼働率)の値と等しくなります。
ADRが2万円でOCCが75%であれば、RevPARは1万5千円となります。RevPARは、利用がなかった客室の損失分も含めたホテルが所有する全客室1室あたりの売上高が分かる値であり、宿泊部門の収益性を示す指標として他のホテルとの比較も容易となる指標です。
オキナワマリオットの2020年7月8月の結果は以下でした。カッコ内は前年同月比。
出典:ジャパン・ホテル・リート投資法人「ポートフォリオ・ホテル運営実績」より
◎OCC(客室稼働率)…
7月24.9%(-56.8%)
8月24.8%(-59.8%)
◎ADR(平均客室単価)…
7月27671円(-7693円、-21.8%)
8月33047円(-13973円、-29.7%)
◎RevPAR(販売可能客室1室あたりの売上)…
7月6876円(-21981円、-76.2%)
8月8186円(-31557円、-79.4%)
ここから何が読み取れるか?
ADR(平均客室単価)は実際に販売した価格なので、8月は33047円という、まずまずの高価格でした。前年の47020円よりは安くなりましたが、高級ホテル「沖縄マリオット」の看板は維持したようです。
一方でRevPAR(販売可能客室1室あたりの売上)の8月は8186円と激減しました。客室稼働率が24.8%とガラガラ状態なので利益を生まない空室が足を引っ張っています。驚くべきは昨年の8月のOCC(客室稼働率)が84.6%でRevPARが39743円だったことです。もの凄く稼いでいますね!
ところで、1室2名の客室代金が3万円~4万円もする高級ホテルに大勢の日本人が泊れるでしょうか?残念ながら日本人は全体的に貧困化してきています。8月の低稼働率はコロナ感染の影響だけでなく、普通の日本人が泊まれない価格設定になっていた、という気がします。
沖縄マリオットのような大型高級ホテルはインバウンドの外国人に多数の客室を埋めてもらわなくては収益が上がりません。よって、ローカルな沖縄の大型ホテルが世界最大のホテルチェーンとなった「マリオット」傘下に入り、全世界から観光客を呼び込む。この戦略は(恐らく)成功したと思います。
しかし、新型コロナのパンデミックで全てが変わりました。期待の外国人が来なければもはやマリオットと提携するメリットはありません。マリオットに支払うロイヤルティ料も負担になります。コロナ次第ですが沖縄マリオットがマリオット傘下から離脱する可能性は大きいと思います。
funasan、コメントありがとうございました。ちょうど、以下の記事やコメント欄で話していた話題の続きですね。
東京での5回めの勉強会を開催しました – 2 | resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究
7月のオフ会では室料(ADR)を下げない(下げられない)ホテルの危うさについて話していて、高級リゾートホテルが一番やばいパターンと指摘しましたが、まさにそのケースのようですね。ただ、このホテルの稼働率低迷については、賃料設定や日本の貧困化も一部にはあるかもしれませんが、主な理由はそうではないと判断しています。この時期の沖縄は、以下の記事にあるように、独自の緊急事態宣言を出して知事自らが「来るな来るな」と言っていましたので、Go To トラベルの効果も限定的であったと思われます。
独自に緊急事態宣言 外出、渡航自粛要請―沖縄県:時事ドットコム
話は変わりますが、米国では、マリオットからの大量離脱(リブランド)が発生しそうだと、OMAATのBenがレポートしています(9月25日付)。
Marriott May Lose 122 Hotels Over Dispute | One Mile at a Time
funasanさん、 resortboyさん
沖縄マリオット、私の周辺のマリオットファンは
だいぶ前から離脱確定ではと話題にしています。
(夏のナイトプール、昨年は芋洗いでした)
SNSで上級ステータスを簡単に取れる方法が拡散し
そこにspgとマリオットの統合
多くのプラチナ会員が誕生したのは良いのですが
ラウンジ乞食と言われる人たちも大量発生しました。
スナック程度のものしか提供されないホテルだと
夕食がわりにならないと文句を言う人が結構いて驚きました。
何が出てくると我先に取り、子供が走り回る…
それなりのお金を使って上級会員だった人の中には
それを嫌がりマリオット系から遠のいてしまった人もいます。
私は昨年、ハーヴェストばかり泊まったツケでゴールド落ちです。
今年は50泊まであと10泊ほどなのですが
go to のせいで日にちによっては?と言う金額になっています。
マリオット系だけで既に60万つかってしまい
プラチナ狙うの止めようか悩み中です。
先日泊まったハイアットがものすごく良くて
さらに迷っています。