コレステロール治療は闇だらけ – 1

2007年、日本のガイドラインが大改訂

日本では、メルク社のバイオックスを承認しなかったため、幸運にもこの薬害から逃れられました。そのためか、2004年のEU新法が提起した企業と研究者の利益相反禁止の重要性は、日本の医薬業界にはあまり浸透しなかったように思われます(参考資料1、参考資料2)。

(参考資料1)曽根三郎ら「臨床研究における利益相反マネージメント」日本臨床薬理学会『臨床薬理』, 2008年.

(参考資料2)宮坂信之ら「提言 臨床研究にかかる利益相反(COI)マネージメントの意義と透明性確保について」日本学術会議 臨床医学委員会 臨床研究分科会, 2013年.

その一方で、2007年、日本動脈硬化学会は「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」を改訂し、従来のコレステロール治療を大きく変えました。主な変更点は以下です。

  1. ガイドラインの名前を「診療ガイドライン」から「予防ガイドライン」へ変更
  2. 病名を「高脂血症」から「脂質異常症」へ変更
  3. コレステロールの基準値・治療目標値として
    ・総コレステロールTCを廃止してLDL-C(140mg/dL以上)を採用
    ・HDL-C(40mg/dL未満)の採用
    ・中性脂肪(トリグリセライド:TG、150mg/dL以上)の採用

(参考資料3)寺本民生「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007」日本脈管学会『脈管学』Vol.48, 2008年.

上記のガイドラインには次のような慎重な文言も付け加えられています(太線筆者)。

要旨より。

治療のメリハリをつけ,低リスク群では生活習慣の改善が最も重要であり,薬物療法はリスクの高い群に焦点を絞るべきであることを表現した

脂質異常症の診断基準より。

この診断基準は薬物療法の診断基準ではなく,動脈硬化性疾患の危険群としてのスクリーニングのための診断基準であることを十分認識する必要があろう。治療については,他の危険因子を考慮に入れて行うのであり,そのための最初のステップである。

随分、トーンダウンしてきたものです。2007年以前は総コレステロールTCの値を金科玉条のごとく振りかざし、管理目標値(220mg/dL以下)を超えると治療の対象にしていました。そして、既往症がない健康な人に対しても、数値が高ければスタチンを積極的に処方していました。

ここで疑問がわきます。日本動脈硬化学会は2007年の改定で、なぜ総コレステロール(TC)を捨てたのでしょうか? また、スタチン処方を控えたのでしょうか?

それは2004年のEU新法以降、TCが高くても動脈硬化性疾患のリスクにはならない、薬でTCを下げても心疾患の予防効果は認められない、という研究結果が多数出てきたからでしょう。

日本動脈硬化学会はTCを捨てる代わりに、新たに「高LDL-C(140mg/dL以上)」と「低HDL-C(40mg/dL以下)」を新基準に採用し、名前も「脂質異常症」に変えました。

ここから、TCが高くてもLDLとHDLが基準値に入っていればOKとなりました。何だか、無理やりつじつまを合わせた感じです。逆に、基準よりLDLが高かったり、HDLが低かったりすると、新たに脂質異常症になってしまいます。

2007年ガイドラインの大幅改訂の裏には、何とかして「コレステロール悪者説」を継続させたい、という日本動脈硬化学会の意図が見え隠れします。この背後には、医薬業界から研究者に下りてくる巨大な利権が関わっているのでしょう。まさに、利益相反です。

前回(第31回・コレステロールの嘘)にも記しましたが、2010年、日本脂質栄養学会は従来のコレステロール悪者説に真っ向から反対するガイドライン「長寿のためのコレステロール ガイドライン(2010年版)」を出しました。

この序文(以下に引用)で日本脂質栄養学会は、利益相反禁止について以下のように記しています(太線筆者)。

今回、日本脂質栄養学会が中心となり、高脂血症のガイドラインを編集することになったが、本ガイドラインには今まであまり知られていなかった多くの事実が含まれている。それが可能になった理由は、編集委員のほとんどが製薬企業から研究費等をもらっていないからである。6ページを見ればお分かり頂けるように、各編集委員の利益相反情報が記載されている。この情報こそ、ガイドライン作成者が最初にすべき最低限の情報開示である。これまでのガイドラインを見ればお分かりのように、このような情報開示はなかった。

2008年にマスコミ2社が調べたように、動脈硬化学会のガイドライン作成者の多くは、高脂血症治療薬メーカーから数千万あるいは数億の研究費を取得している(私学の場合は金額不明)。このような状態で、まともなガイドラインが作られるであろうか。

コレステロールを低下させるスタチン類は日本で年間2500億円の売り上げがある。関連医療費はその3倍。その中にかなりの税金が使われている。このガイドラインは、真に必要な情報をまとめ、また、ある時は有害な医療をなくすことを目的として作成されている。

(引用元)長寿のためのコレステロールガイドライン 2010年版

2 comments

  1. 健康診断で各項目の基準値を超えていると直ぐに薬を処方する現状にかねてより疑問視していました。

    会社員時代は営業職をしていましたが、既存客だけでは月日が経過すると共に取扱高はジリ貧になるので、新規顧客の推進が最も重要なテーマでした。
    医療分野でも経営上の観点からも病院や薬局の売上アップを図るには新規患者が大事になってくる訳で、健康診断で基準値を超えて病院に受診に来る人は絶好の新規患者の見込み客だと思います。

    健康診断の基準値が超えた項目があったとしても異常値でなければ、先ずは規則正しい生活、暴飲暴食や間食は控える、有酸素運動を心がけて薬漬けにならないよう生活改善を図っていきたいと思います。

  2. Mr.Sさん、経営上の観点からのコメントありがとうございました。
    確かに健康診断の基準値を厳しくすれば新規患者は増え病院は繁盛しますね。
    でも、医者・病院・学会等が営利企業みたいに、利益追求で「基準値下げ→新規患者の獲得」をしているとは思えません。しかし、結果的にそうなっていますね。
    どこに問題があるのか?真実は何か?コレステロール治療の闇は深まるばかりです。

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