コレステロール治療は闇だらけ – 2

「funasanのアンチエイジング日記」は、トラベルライターの舟橋栄二さんによる連載企画です。舟橋さんが取り組まれている健康にまつわる学習と実践について、同時進行でご報告いただきます。2022年の連載第一部(1~19回)に続いて、2023年の連載第二部(20回~)がスタートしました。この連載では、読者の皆さんとともに「旅と健康」について考えていきます。どうぞコメント欄にてご参加ください。(編集担当:resortboy)

私は決してお医者さんや病院を敵に回したいわけではありません。しかし、この連載で記してきたように、私の家族や私自身のがん体験を通して、現代の西洋医学に大きな疑問を持ちました。その診断や治療は本当に正しいのか? 私の知りたいのは「真実」です。

検査基準「カットオフ値」はコンセンサスで決まる

日本動脈硬化学会は1997年に「高脂血症診療ガイドライン」を出し、2002年に「動脈硬化性疾患診療ガイドライン」を出しました。そして、2007年に従来の「診療ガイドライン」から「予防ガイドライン」に名前を変え、その後、大幅変更はなく、2022年の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」が最新版となっています。

動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版

このガイドラインの変遷を見てみると、どうやら日本動脈硬化学会は2007年に大きなポリシー変更をしたようです。何があったのでしょうか? 恐らく、背景には2004年に成立した利益相反を禁じたEU新法(EU臨床試験指令)と、その後のコレステロール研究結果があると思われますが、2007年のガイドラインでは一般の人(私)には知られていない大事なことが議論されていました

2009年3月25日にOnline publicationされた以下の資料から一部引用します(太線筆者)。

引用元論文:動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年 寺本民生

さて,わが国で,このような脂質異常が本当に動脈硬化性疾患と関連するのかというエビデンスであるが,(略)それぞれのカットオフ値(注1)をどのように決定するかということになると,クリアカットな線引きができるわけではなく,専門家のコンセンサスに基づいて決定されることになる。そのような基準で決定した診断基準をTable 1(注2)に示す。

カットオフ値とは何か

まず、上記の引用部分で注として示した部分について説明します。

まず注1のカットオフ値とは、ある検査の陽性、陰性を分ける値のことで、病態識別値とも呼ばれます。その検査結果によって、特定の疾患に罹患した患者と罹患していない患者を分ける境界値ですが、その範囲内の全員が陽性(または陰性)ということはありえません。

理論的に、100%正確なカットオフ値は不可能です。そのため、カットオフ値を設定すると必ず偽陽性・偽陰性が生じ、本来健康な人でも病人になってしまう可能性があります。検査基準はカットオフ値以外にも数種類あり、かなり複雑です。これを理解しないとコレステロールの真実に迫れませんので、次回、再度取り上げます。

次に注2の脂質異常症の診断基準(カットオフ値)は、同学会では以下のように基準を定めています。

・LDL-cholesterol ≧ 140 mg/dL
・HDL-cholesterol < 40 mg/dL
・Triglycerides ≧ 150 mg/dL

この「カットオフ値」について、私なりに解説していきます。

2007年に設定された上記の脂質異常症の診断基準はその後の職場健診・人間ドックの基準となり、日本人に見事に定着しました。しかし、この基準はカットオフ値であることを我々は十分理解する必要があります。

カットオフ値は医学的なエビデンスと言うより、権威があるとされる医師や研究者など少人数の合意によって基準範囲が決定されるものです。これはカットオフ値の宿命です。そして、日本のコレステロール治療はこの基準範囲を管理目標に設定して、基準値をオーバーした人には、まずは生活改善を促し、効果がなければ薬物治療を勧めてきました。

医師と患者の認識の違い

こちらは最新の2022年版ガイドラインからの引用ですが、「管理目標値」を使った「コレステロール低下療法」を「コンセンサス」によって「A」レベルで推奨するとしています。

2013年、米国発の新ガイドラインは、こうした目標値を定めた診断と治療を臨床的エビデンスがないとして放棄しました。これに対して日本動脈硬化学会は「LDL-Cの管理目標値を決定するに足るエビデンスは現状では十分ではないことに関しては我々も異論はなく」と応じました。

(詳細は前回の記事を参照)第32回・コレステロール治療は闇だらけ – 1

私はこの答えに仰天した訳ですが、彼らは専門家として真面目に答えただけで、そんなことは百も承知だったのです。

逆に解釈すれば、「基準範囲はしっかりした医学的エビデンスに基づく正しいもの」と思っていた我々(私)の思い込みが間違っていた、とも言えます。

この認識の違いは重大です。

基準を作れば患者が生まれる

カットオフ値は限られた専門家のコンセンサスでどうにでもなるので、2012年のガイドライン改訂版には、新たにLDLコレステロール(120~139mg/dl)が「境界域高LDLコレステロール血症」として追加されました。

基準を下げれば、「脂質異常症予備軍」が新たに誕生します。

その後、動脈硬化学会や医療関係者は高LDLの危険性を声高に言うだけで、「たとえ高LDLでもHDLコレステロール値が高く、レムナント(RLP)や小型LDLが少なければ問題ない」「レムナントや小型LDLを調べて本当に悪い高LDLなのかを確認せよ」といった、新しい知見を診療に活かすような声は、ほとんど聞こえてきません。

抹殺されたのでしょうか?

こぼればなし

コレステロール値に限らず、血圧、血糖値、さらに、がん検診のマーカー値を含めて病院でなされる様々な検査基準がカットオフ値で医学的エビデンスがなかったとしたら? そう考えるとぞっとします。

(参考記事)人間ドック、医師が教える「ほぼ無意味な検査」2つ 多くの人は「通常の健康診断」で十分な場合も | 健康 | 東洋経済オンライン

この記事は「第31回・コレステロールの嘘」でresortboyさんがコメント欄で紹介してくれたものです。カットオフ値を知ったうえで読んでみてください。

我々シニア男性の共通の懸念「前立腺がん」を見つける血液検査(PSA検査)があります。私も夜間頻尿に悩む年代になり前立腺がんが心配です。とりあえずPSA検査をしてみようか?という気になりますが、実はこの検査、日本泌尿器科学会は「絶対に行うべき」と推奨し、一方、厚生労働省は「推奨しない」となっています。PSA検査の闇も深そうです。

2 comments

  1. funasanのコレステロール治療に関する追究は調子に乗ってきて、医学知識が乏しい私にはますます難解になってきました。
    コレステロールは性ホルモンの前駆物質であることは何となく理解していました。男性は加齢と共に男性ホルモンが少なくなり、女性ホルモンが増えてくる。対照的に女性は加齢と共に女性ホルモンが少なくなり、男性ホルモンが増えてくる。皮肉ですね。
    男性ホルモンはたくましい体をつくり、内臓脂肪がつくのを抑えるなどの働きがあり、女性ホルモンは骨を丈夫にし、悪玉コレステロールの増加を抑えるなどの働きあるらしいですが、男女ともに性ホルモンが若々しさと健康の基本であると認識しています。

  2. Mr.S さん、funasan日記がますます学術的になってきていますが、こんなこと全く予想外でした。

    私は自分の30年以上も放置していた(ぶっちぎり)高LDL-C(悪玉コレステロール)はこの先も放置して大丈夫か?突然、心筋梗塞が起きて死んでしまうのか?という単純な恐れと疑問でした。

    その答えを見つけようと色々調べていくと、驚きの事実が続々と出てきて、「今のコレステロール低下治療は間違っている」というところまで来ました。

    私は昔から疑問に思ったことは徹底的に調べる習性があり、今回もコレステロール治療の真実に迫るまで終われません。あと2回ほどお付き合いください。私なりの到達点を見つけました。

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