コレステロールの真実 -1

吹田スコアによる絶対評価

2014年にはコレステロール治療関連で、もう1つ大きな動きがありました。長らく吹田研究をしていた「国立循環器病研究センター」が、心筋梗塞など冠動脈疾患の10年間の発症危険度を予測する新しいリスクスコア「吹田スコア」を開発したのです。オリジナルの出典は以下です。

(資料)Predicting coronary heart disease using risk factor categories for a Japanese urban population, and comparison with the framingham risk score: the suita study - PubMed

欧米には「フラミンガム・リスクスコア(Framingham Risk Score)」という心臓病の発症リスクを予測するものがありますが、日本人には当てはまらない場合が多く、上記研究センターでは日本人の実態に則した内容で、より正確な予測が可能になるスコアを開発したのです。

データは、大阪府吹田市の住民票から無作為に抽出し、同意が得られた健康な人(男性2796人、女性2725人、平均54.5歳)を約11年間にわたって追跡したものです。この間に心筋梗塞と診断された人の年齢や性別、血圧などの値から、最終的な発症リスクのスコアが作成されました。

なお、この吹田スコア誕生の経緯は以下の同センター広報をご覧になればよくわかります。

(資料)冠動脈疾患を予測する新しいリスクスコアの開発|プレスリリース|広報活動|国立循環器病研究センター

吹田スコアの項目は年齢、性別、血圧、コレステロール値、その他の危険因子(喫煙・糖尿病・腎臓病)など、全部で8個です。この項目から該当するところの得点を拾い、それらを足していけば自分の冠動脈疾患の発症リスクが予測できます。

例えば、私の場合、「71歳の男性、喫煙なし、糖尿病なし、血圧はステージ1の高血圧、LDLコレステロールは170mg/dL、HDLコレステロールは95mg/dL、CKD(慢性腎臓病)なし」 合計得点は61となり、今後10年間に発症するリスクは14%となります。

この確率を高いとみるか、低いとみるか難しいですが、データを逆読みすれば、今後10年間で86%もの高率で冠動脈疾患は起こらないわけです。上記の吹田スコアを使って皆さんも計算してみてください。

吹田スコアを見れば明らかなように、冠動脈疾患の最大のリスクは加齢なのですね。これはどうしようもありません。次に、慢性腎臓病、高LDL-C、高血圧・糖尿病、喫煙と続きます。逆に、リスク回避要因としては、女性、血圧(120/80未満)、HDL-C(40以上)があります。

吹田スコアを様々なケースに当てはめると、見えないものが見えてきます。例えば、女性の閉経後のLDL-Cの増加は冠動脈疾患の発症リスクに影響するか?という問いに、吹田スコアは明確な答えを出しています。

極端な2つのケースを考えてみます。閉経後の65歳~69歳の女性で、LDL-Cが基準値を超えて140〜159に増えた人の場合を計算してみましょう。悪いのはLDL-Cだけで、喫煙・糖尿病・慢性腎臓病なし、至適血圧、HDL-C(60以上)であるとします。

これで計算すると、吹田スコアは38となり、10年間の冠動脈疾患の発症リスクは何と1%です。生活改善の必要はなく、スタチン服用など論外です。

逆に、閉経後の65歳~69歳の女性で、LDLコレステロールが基準値内(100未満)であっても、その他の危険因子がすべて最悪の場合、合計得点は75となり、冠動脈疾患の発症リスクは28%以上と跳ね上がります。これはかなりヤバい状態で、すぐさま、LDL低下治療以外の対策を講じるべきです。

65歳~69歳の男性の場合も、LDL-Cが基準値を超えて140〜159に増えても、喫煙・糖尿病・慢性腎臓病なし、至適血圧、HDL-C(60以上)で計算すると、吹田スコアは45となり、10年間の冠動脈疾患の発症リスクは2%になります。

逆に、65歳~69歳の男性で、LDLコレステロールが基準値内(100未満)であっても、その他の危険因子がすべて最悪の場合、合計得点は82となり、冠動脈疾患の発症リスクは28%以上に跳ね上がります。

このように、吹田スコアを見ると、LDL-Cの値よりも、その他の要因の方が冠動脈疾患の発症リスクに影響していることがわかります。「LDL-Cを下げればよい」という単純なものではないのです。

参考までに、日本動脈硬化学会は「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版」で初めて、個人の管理目標値の設定に絶対リスク評価を導入しました。絶対リスクとは、有害なイベント(冠動脈疾患など)が発生する確率を意味します。

そして、2017年版で動脈硬化性疾患発症の絶対リスク評価に「吹田スコア」を、2022年版では「久山スコア」を採用しました。

ガイドラインに採用されているのですから、恐らく現場の臨床医は動脈硬化性疾患の2次予防(既に疾患が発症してしまった患者の再発防止)には、これらのスコアを使って患者のリスクを評価し、治療に役立てていると思います。

2 comments

  1. 吹田スコア1で直近の健診結果のデータで計算したら合計得点は「53」でした。
    健康管理に努力されているfunasanの合計得点「61」より下回っており、同じ年齢の私は嬉しくなりました。
    今後も暴飲暴食はしないようにして適度な有酸素運動、規則正しい生活を心がけて、出来るだけお医者さんのお世話にならなくても良いようにしたいと思います。

  2. Mr.Sさん、吹田スコア53ということは、10年間の冠動脈発症リスク5%なので、少なくとも80歳まで突然の冠動脈の発作は避けられますね。どんどん好きな旅(特にクルーズ)に出かけシニア人生を楽しんで下さい。

    私はちょっと高めの高血圧と、ぶっちぎり高値の悪玉LDLのためスコアを悪くしています。しかし、動脈硬化の真犯人を見つけたことにより、私のLDLは悪玉ではないことが分かりました。その理論によると、私の冠動脈発症リスクは、ほぼゼロになります。

    これが本当に正しいのか分かりませんが、コレステロール関係の病気は何を根拠にするかで診断と治療が大幅に違ってきます。次回のfunasan日記(最終回)の予告でした。

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