コレステロールの真実 -1

基準範囲と予防医学的閾値の違い

ここでちょっとややこしいですが、非常に大事なことを記しておきます。実は人間ドック学会で出した新たな健診の基準範囲(Aと略称)とは、「健康人の検査測定値を統計学的に解析し、測定値分布の中央部分の95%が入る範囲」です。つまり、健康人の95%がこの範囲にある、という意味です。

例えばLDL-Cなら、健康な男性の95%が72~178の範囲にある、ということで、この範囲に入っていれば正常、という意味ではありません。ここが誤解を受ける大きなポイントです。

逆にLDL-Cが178を超えて高ければ、それは健康人の2.5%しか該当しない非常にレアなケースになります。男性のLDL-C高値は動脈硬化性疾患のリスクになることは多くの疫学研究により示されていますので、何らかの異常があるかもしれません。

一方で予防医学的閾値(または疾患判別値)というものがあります。一般的に専門学会などが疫学的調査研究に基づいて示した疾患の予防、診断および治療判定の検査判断値です。動脈硬化学会が設定した診断基準(Bと略称)はこれに当たります。

ただし、前回の連載第33回で記したように、この診断基準は医学的エビデンスのないカットオフ値です。

残念ながら、人間ドック学会の新たな健診の基準範囲は、予防医学的閾値と違って病気のリスクを示す疾患判別や予防には用いられません。AとBは定義が違うのです。

この定義の違いをしっかりマスメディア・国民に説明せず、日本人間ドック学会が「唐突に新たな値を公表したことは、多くの国民に誤解を与え、医療現場の混乱を招いている」という日本医師会・日本医学会の見解は間違っていません。

では、この両者から何が読み取れるのでしょうか? 以下、私の考察です。

エビデンスレベルで言えば断然Aの勝ちです。Bにはエビデンスがなく、専門家のコンセンサスです。ただし、Bは動脈硬化性疾患の「治療」ではなく「予防」のための診断基準となっているところが曲者(くせもの)です。あくまでも予防なので自己責任でお願い、というスタンスなのでしょうか?

Aから分かることは、人間は個人差が大きく、検査結果には大きな開きがある、ということです。71歳の男性(私)のLDLが160であっても、超健康人のデータからすれば、それはよくあることなのでしょう。これだけでは病気ではありません。

検査項目によって、男女差、年齢差もあることがわかってきました。ここで、もしBのように男女差・年齢差を無視し、一律にLDL-C120以上を脂質異常にすれば、健康な人でもその多くが、「病人またはその予備軍」とされてしまう恐れがあります。上限を140にしても160にしても、多くの「患者」が発生します。

このように、コレステロール値で正常・異常を分けるカットオフ値を作れば、必ず多くの偽陽性が出てくることが、人間ドック学会の新たな基準範囲(A)から判明しました。

Bには問題山積ですが、高コレステロールを放置していいわけではありません。動脈硬化性疾患はサイレントキラーとも呼ばれ、自覚症状がないまま病状が進み、将来、致命的な合併症を引き起こす怖い病気です。よって、動脈硬化学会が言うように「予防」が大事です。

では、どうするのか?

2 comments

  1. 吹田スコア1で直近の健診結果のデータで計算したら合計得点は「53」でした。
    健康管理に努力されているfunasanの合計得点「61」より下回っており、同じ年齢の私は嬉しくなりました。
    今後も暴飲暴食はしないようにして適度な有酸素運動、規則正しい生活を心がけて、出来るだけお医者さんのお世話にならなくても良いようにしたいと思います。

  2. Mr.Sさん、吹田スコア53ということは、10年間の冠動脈発症リスク5%なので、少なくとも80歳まで突然の冠動脈の発作は避けられますね。どんどん好きな旅(特にクルーズ)に出かけシニア人生を楽しんで下さい。

    私はちょっと高めの高血圧と、ぶっちぎり高値の悪玉LDLのためスコアを悪くしています。しかし、動脈硬化の真犯人を見つけたことにより、私のLDLは悪玉ではないことが分かりました。その理論によると、私の冠動脈発症リスクは、ほぼゼロになります。

    これが本当に正しいのか分かりませんが、コレステロール関係の病気は何を根拠にするかで診断と治療が大幅に違ってきます。次回のfunasan日記(最終回)の予告でした。

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