リゾート会員権論 10「リゾート会員権産業の今後の展望」

2020年12月に東京で開催した勉強会の講演録の10回目です。9回目までで、同日のレクチャーのパート1とパート2を紹介しました。編集の都合でパート3を割愛して、今回からパート4の内容をお送りします。これまで紹介してきたリゾート会員権ビジネスの発展は、今後も継続できるのでしょうか。それとも別荘文化のように衰退するのでしょうか。そんなテーマを「出口」と題して説明しました。

(第1回)リゾート会員権論 1「はじめに・基本的性質」
(第2回)リゾート会員権論 2「預託金制と共有制」
(第3回)リゾート会員権論 3「リゾートブーム・会員権利用の2つの軸」
(第4回)リゾート会員権論 4「エクシブが起こした革命」
(第5回)リゾート会員権論 5「バブルの破綻物件がビジネスを変えた」
(第6回)リゾート会員権論 6「現代のリゾート会員権ビジネス」
(第7回)リゾート会員権論 7「独特なビジネスモデルとその特色」
(第8回)リゾート会員権論 8「高収益ビジネスの中身」
(第9回)リゾート会員権論 9「リゾート会員権の経済合理性」

resortboy:パート4のテーマは「出口」というものです。この「出口」というテーマで何を話そうかというと、これまでリゾート会員権産業の発展について見てきましたが、それが今後どうなっていくだろうか、という今後の展望につながる話をしたいと思います。

今日のリゾート会員権産業をリードしているのはリゾートトラストなわけですが、もう1つの代表的企業である東急(不動産)を見ると、彼らの開発ラインナップというのは、近年、非常に手堅いですよね。「ここは大丈夫だよね」っていうところにしか作っていないですし、古い施設は古いものとして、別荘地の中に作るなど、彼らの本来のビジネスの延長にあるわけですよね。そういった「安定感」があるんです。

一方で、今日お集まりの皆さんがお持ちの(会員権運営会社である)リゾートトラストのビジネスというのは、近年かなり危ういものになっていると感じています。先ほど示したように、新しい会員権が激売れしているのに、肝心の新規ホテルの稼働率が極めて低いです。そうした危うさを自分なりにイメージしながら、今後について考えてみたことをお話しします。

まず最初に、リゾート会員権に関してのマクロなトレンドについて、これまでの議論を踏まえて復習してみます。

リゾート会員権ビジネスのもともとの出発点であったシーサイドリゾートや高原別荘地というのは、もう「衰退済み」と言っていいのではないかと思います。

例えば、蓼科のちょっと先に「白樺湖」っていうそこそこ有名なリゾートエリアがありますれけど、真夏の繁忙期に訪ねてみてもにぎわいがなく、かなり無残な状況になっています。

(参考動画)長野県リゾート白樺湖畔の廃墟群 – YouTube

使われなくなった別荘が廃墟になってしまってゴーストタウンみたいになっている事例は、枚挙にいとまがありません。

(参考)群馬県吾妻郡長野原町の地名「北軽井沢」の事例:北軽井沢の検索結果 – 廃墟検索地図

このように時代の変化についていけずに衰退したかつての観光地は、なかなか復活するのは難しいです。例外としては「熱海」があります。熱海は東京から近いという立地もあって観光地として復活していて、テレビのロケ誘致にも力を入れていて、メディアでは年がら年中取り上げられていますね。

逆に、メジャーな観光地や温泉地は、これからも盤石だろうなと思います。旅行に対する一般的な意欲が非常に高いということは、今回のGo To事業を通じてもわかりましたし、メジャーで需要のあるところにそうした促進策が組み合わさると、皆さん殺到するというのがよくわかりました。

一方で、いま問題視している都市周辺の埋立地のような立地は、もともと観光地ではありませんでしたから、近郊の温泉地のようなニーズは薄いのではないでしょうか。

次に、「ウイズコロナの時代」と書きました。今年(2020年)発生した、今日的な話題を見てみます。

実は今、中古のリゾート会員権は激売れしています。新規の会員権が飛ぶように売れているというデータを示しましたが、中古会員権も活況を呈しているんです。

僕はこうした情報発信をしている関係で、特定の(会員権)業者さんと付き合うことはしないようにしているんですが、とある業者さんでは2020年に前年比150%の取引があったと聞いています。コロナ禍でかえってリゾート会員権が注目されたという一つの現れです。

この傾向は、もしかしたらこれからも増すかもしれないですね。リゾート会員権のホテル稼働率は低いのですから、売りたいと思っている人は潜在的に沢山いると思われます。

次に、星野リゾート社長の星野佳路さんがよく言われていることですが、彼は「マイクロツーリズム」という概念をプッシュしていて、メディアでこのコンセプトについて積極的な発信をされています。

この言葉についてはいろいろな取り方があると思うのですが、ここでは「自宅から車で2時間」という言い方をしてみました。東京を例に地図に円を描いてみると、具体的なエリアが見えてきます。

先ほど話題に出た熱海とか、定番の箱根、千葉の房総、それから富士山のエリアです。それに加えて、軽井沢を挙げました。

軽井沢には東京の飛び地みたいなところがありまして、新幹線を使うことをいとわない方々にとっては、生活インフラも含めて極めて便のよい場所、ということになると思います。

このマイクロツーリズムという概念ができたので、先ほどもともとのニーズが低いと指摘した都市近郊の埋立地にできたリゾートホテルに行くと言うことも、これから新たに意義付けがされるかもしれないですね。

マイクロツーリズムの動機付けとして一般的なものに、例えば「温泉に行きたい」といったものがあると思いますが、同じように「おしゃれなホテルのスパに行きたい」みたいなものに価値観が変わっていけば、「都市型リゾート」というものがマイクロツーリズムという枠組みの中で意義を見出していく可能性があるかもしれません。

では、現状のトレンドを振り返ったところで、今後を占う話に入って行きますが、歴史の話をちょっとだけします。

ここに、リゾート会員権、会員制リゾートクラブが破綻するパターンを分類して示しました。

最初の「預託金を返せずに破綻」というのは、20世紀に見られたパターンです。現代のリゾート会員権は預託金制度のものはほとんど見られないので、このパターンは現在はありません。

その後のバブル期に見られたのは、豪華施設を作ってそれを会員権として販売しようとしたけれど、売れなくて破綻、というパターンです。これも金融機関の過剰な融資が今はありませんから、現代には存在しません。

次の「経営が危ないところ」ですが、そうした事業者はバブル以降にだんだんと淘汰されて、現在ではすでに一掃されています。

現在のリゾート会員権産業の主要な事業者であるリゾートトラストと東急不動産は、一般的にもエクセレントカンパニーと言っていい、極めて強い会社だと思いますが、今後はどうでしょうか。データを見ながら検証していきます。

最初は、「リゾート会員権の矛盾点」という話題です。

リゾート会員権ビジネスの最大の問題点は、なんといっても、売ってしまった後のホテル運営の儲けが少ない、というところだろうと思います。会員権として販売する以上、利用料を抑える必要性があり、ホテル運営で大きく儲けるということはできない、というのがこのビジネスの立て付けであるわけです。

これはリゾートトラスト2020年3月期の「株主通信」からの引用で、3月末までの実績ですから、まだコロナ禍の影響がそれほどない状況のものです。ホテルレストラン等事業、というところを注目していただきたいのですが、利益のグラフが下に張り付いているのがわかります。ほとんど利益がゼロなんですね。

(このスライドは次回。続きます)

(続き)リゾート会員権論 11「会員制ホテルの構造的弱点」

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