統計から見るリゾート会員権産業の未来

僕は3年くらい前から「ホテル利用学」なるものを提唱して、一応、学問分野として体系立てようとコツコツと活動しています。このブログはもちろん、勉強会「KASAの会」はその活動の母体なんですが、僕の力不足できちんとした勉強会運営ができていなくてごめんなさい。

今日はお詫びってわけではないのですが、僕が問題意識として持っていることの1つをご紹介します。

以前の勉強会で「若い世代のマイホーム志向が国策として強化されていてヤバい」という話をしました。

(参考講演録)ホテル利用学への招待 – 2|KASA Community – resortboy’s blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究

今日は別の角度から、そのことを改めて最新のデータを使って検証してみたいと思います。

冒頭の写真は2005年に開業したエクシブ那須白河のスタンダードルームです。僕はその前年、2004年に30代でリゾート会員権を買って、以来、継続的にホテルを生活に取り入れながら年を重ねてきました。その生活の一部はこのブログの中でもご紹介しているわけですが、ふと、果たして今から同じようなことができるんだろうか、と思ったわけです。

それで、総務省が発表している「家計調査年報(貯蓄・負債編)」から、2005年から2020年までの16年間のデータを拾って、世代別に家計に経済的なゆとりがどのくらいあるのかを調査してみることにしました。

(データ出典)統計局ホームページ/家計調査(貯蓄・負債編) 調査結果

具体的には、世帯主(二人以上の世帯)の年齢階級別に「純貯蓄額」の16年間の推移を調べてグラフ化しました。純貯蓄額とは、貯蓄高から負債高を引いたものです。

予想はしていたんですが、このようにグラフで可視化すると驚かされます。

グラフは純貯蓄額を年代ごとにプロットしています。総務省はいつの間にか最も若い年齢階級を40歳未満にしてしまって、30代のデータが取れないのが不満なんですが(生データを処理すればわかるのでしょうが、そこまでやる余裕がない)、傾向の把握としては十分だと思います。

純貯蓄額が多い年齢階級は70歳以上で、これは昔も今も変わりません。ただ、60代の純貯蓄額が横ばいなのに対して、70代以上は漸減しているのが見て取れます(直線はトレンドラインです)。

50代は漸減していますが、すごく大きく変わったというわけではなく、現在の50代はまだまだ豊かだということがわかります。

40代を見てみます。2005年の40代は329万円の純貯蓄額がありました。しかし2020年にはマイナス150万円まで落ち込んでいます。

40代未満はもっと深刻で、グラフを見ても急激に負債が増えています。2005年にはマイナス54万円で、ローンと貯蓄はほぼとんとんであったのが、2019年にはマイナス650万円まで負債が増えています(2020年には多少持ち直している)。

これを見ると、日本経済の弱体化の影響を、今の40代より下の世代が主に受けていて、家計の収支がこれらの世代だけ急速に悪化していることがわかります。

これは全体の傾向なので、リゾート会員権のような富裕層向け商品の動向に対してどの程度適用できるかは疑問ですが、少なくとも、以下のような仮説を言ってもよさそうです。

「今の日本の50歳未満は家計が負債超過になっていて余裕がない。40歳未満はさらにその傾向が顕著で年々悪化している」

「余裕がないので現役世代向けのリゾート会員権など生まれるはずもなく、一部の富裕層向けの豪華なものだけが必要とされる」

「現在の60歳代以上はお金持ちなので、今のリゾート会員権はそこをターゲットに豪華化し、リタイア後の夢を主眼に作られている」

「しかしその子世代は家計に余裕がないので、豪華化した施設を使う資金に乏しい。つまりリタイア後の健康年齢の短い期間しかその会員権は使われない」

「これから20年経つと余裕のない世代が現在のターゲット層の世代となるが、会員権を買うような貯蓄を得ることは全体としては考えにくい」

「リゾート会員権産業は傾向として先細りであって、既存施設のサステナビリティを考え、運営主体の企業経営に体質改善を行わなければ、運営企業の継続性には不安が残る」

この予想が外れればいいと、このサイトの主として思う部分もあります。皆さんのご意見はいかがでしょうか。

3 comments

  1. 最近のデータで、resortboyさんのブログの中で、会員権の購入者層を決算から紹介していただいていたと思うのですが、6-7割が中小法人の福利厚生だったかと思います。
    「ケアネットでは、3月10日(木)に会員医師1,000人を対象に、インターネットによる「年収に関するアンケート」を行った。その結果、82%の医師が昨年度の年収額を1,000万円以上と回答し、その中で最も多い年収帯は2,000~2,500万円であった(全体の15%)。また、全体の58%の医師が1,000~2,000万円の年収帯に分布し、2,000~3,000万円は20%、3,000万円以上は4%であった。」
    今回のデータは一般家計のデータですので、こちらの購買層に当てはめるには無理があるように感じます。中小法人の福利厚生で会員権を購入し、利用は家計からあるいは場合によっては会社で社員旅行などにも利用できます。会社員の会計からの出費を当てにしなくても、リゾートトラストとしてやっていけるのではないでしょうか。
    検診事業なんかはほとんど法人購入ではないでしょうか。「一部の富裕層」とは年収どこからでしょうか。1500万はどうでしょうか。公務員共働き、看護師と公務員ならこれくらいです。サラリーマンなので購入に敷居が高いですが、中小法人なら別です。中古物件なら、車を購入するのと同じ感覚です。400万の会員権と年会費10万そこそこと、車400万円と、自動車保険10数万。サラリーマンでも買えそうです。
    今回のサンクチュアリコートは経費化できる仕組みになっています。中小法人ならすぐに購入できます。トラストもターゲットをしっかり調査してますね。当たりです。コロナ貸し付けで現金はまだじゃぶじゃぶの状態のところも多いのではないでしょうか。
    営業さんも「ベイスイートの方がサンクチュアリコートのロイヤルを購入されました。」法人です。下取りから新規購入。すべて経費化できるからとのことです。
    長文失礼します。

  2. 今や法人の購入がRT社の営業を支えているようですね。湯河原離宮はCB会員権が1000口も売れ残っていたそうですがバージョン20にリメイクして販売を始めてから売れ行きは順調だと聞きます。確かに節税にはなりますがそれで本当に得をしているのでしょうか。仲介市場で会員期限のない湯河原CBバージョンZが200万円で購入できるのに20年で権利が消えるバージョン20をRT社から480万円で購入している法人があるのが謎です。市場価値の2倍のお値段で買っているのですから損失が節税を上回ります。税金を逃れる代わりにRT社にお布施を払っているようなものです。うちの税理士は厳しいので「そんなことしたら経営者は背任に問われます」と斬り捨てられました。

  3. うららさん、議論を進める素晴らしいコメントをありがとうございました。こういうやり取りを経ていろいろなことが明らかになるので、とても楽しいです。

    法人会員のプロファイルには興味があります。リゾートトラストが「コロナ禍になって会員権会員の新規率が上がった」と話しているのは法人営業にシフトしたからですし、関連して別の記事で法人プランの優遇についても話題にしてみました。

    しかし、ざりさんのおっしゃるように、冷静に考えると法人にとっても得な話ではないように思いますので、実際に法人で新規物件を同社から直接お買いになった方々のご意見を伺ってみたいところです。

    僕の勉強会で出た話としては、営業ツールとして接待などに大変有効であるというお話を伺ったことがあります。

    節税で思い出しましたが、いま、都会では不動産小口化商品が大ブームになっていて、それは相続税の評価額圧縮が主な目的です。リゾート会員権は買ったらすぐに価値が3分の1から5分の1くらいになるので、お金持ちには有効な相続税対策ですね(もちろんジョークですよ)。

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