驚くべきオートファジーの機能
オートファジーは健康長寿のキーワードになりそうなので、上記の本を参考に、私なりに解説します。
まずオートファジーとは、細胞が自己成分を分解・再生する機能のことで、細胞内で隔離膜という平たい膜ができることからスタートします。この膜が伸縮自在に動いて周囲のタンパク質などを包み込んでいきます。そして、最後に膜が閉じて球体の袋になります。
この袋は分解工場である「リソソーム」に運ばれ、古いタンパク質はここで分解され、アミノ酸になります。ここまでの過程がオートファジーです。
こうやってできたアミノ酸は、リソソームの小さな穴を通って外に出て再利用されます。食事としてタンパク質を外から摂取しなくても、オートファジーによって自己再生してくれるのです。
現在では、オートファジーには次の3つの役割があることがわかってきました。
① 飢餓状態になった時に、細胞の中身をオートファジーで分解して栄養源にする
② 細胞の新陳代謝を行う
③ 細胞内の有害物質を除去する
①は最初に見つかったものですが、人間の病気や老化を考える時、②と③が重要になります。
②の新陳代謝という言葉は皆さんよくご存じですね。例えば皮膚の細胞は、皮膚の下から新しい細胞が生まれ、古くなった表面の細胞は垢(あか)となっていきます。この細胞の生まれ変わり(新陳代謝)は、実は細胞のオートファジー機能の結果です。
細胞だけではありません。細胞の中のミトコンドリアや無数にあるタンパク質でも、オートファジー機能によって古くなったものが新しいものに作り直されているのです。
驚くべき事実ですが、体重が60㎏くらいの大人の場合、体の細胞の中で1日約240gのタンパク質が合成されているそうです。普通の大人が1日に食べるタンパク質はせいぜい70gくらいですが、この食事から摂ったタンパク質は胃や腸で分解され、アミノ酸になった後はほぼ全量がエネルギーとして使われます。
では、何を材料に約240gものタンパク質を合成しているのでしょうか? それはまさに、細胞内にあるタンパク質です。
面白いことに、オートファジーは古くて使い物にならなくなったゴミだけを拾ってくるのではなく、まわりの新しいタンパク質も手当たり次第に回収して壊して再生させるそうです。
その結果、毎日、ステーキ2枚(240g)分のタンパク質を作り直しているのですね。驚くべきオートファジーの働きです。
新陳代謝が悪くなれば、すなわち、オートファジー機能が低下すると、肌はボロボロになり、髪の毛は再生されず、内臓の機能も落ちて病気や老化が迫ってきます。
③の有害物質を除去する機能が分かったことにより、オートファジーは病気治療の新たな方法として一躍クローズアップしてきました。細胞内に有害なものが現れると、オートファジーが積極的に隔離して壊してしまうのです。
例えば外からやってくる病原体です。細胞の中に侵入してきた病原体をオートファジー機能が取り除いてくれます。免疫細胞が担うと考えられてきた役割を、オートファジーがやってくれているのです。しかも、体の全細胞で戦ってくれるのでこんなに有難いことはありません。これは従来の感染症学・免疫学の常識を覆す新発見になりました。
また、ミトコンドリアは細胞の活動に必要なエネルギーをつくる「発電所」のような存在ですが、発電の副産物で有毒物質「活性酸素」ができてしまいます。しかし不調になってミトコンドリアに穴があくと、この有害な活性酸素が漏れてしまいます。
これが周囲の細胞を傷つけたり、遺伝子変異を起こしてがんなどの原因になると考えられています。また、心臓の細胞に壊れたままのミトコンドリアが溜まると心不全になると考えられます。こうした壊れたミトコンドリアを再生するのも、オートファジーの機能です。
そして、シニアにとって最も気になるのは、認知症の「アルツハイマー病」です。アルツハイマー型認知症は、脳の中に異常たんぱく質(アミロイドβ)が蓄積して、神経細胞が徐々に障害されていくのが原因と考えられています。オートファジーは脳内で蓄積した異常タンパクを除去してくれますから、アルツハイマー病治療の切り札になるでしょう。
また、人間には死ぬまで新陳代謝しない、「生まれ変われない」細胞があります。神経細胞と心筋細胞です。脳卒中や心筋梗塞で壊れた細胞は残念ながら再生されません。これらの細胞は一生もので、大事に使っていくしかありません。ここでも最後の切り札がオートファジーです。オートファジーで細胞の中身を綺麗に保っていれば、脳も心臓も末永く働いてくれることでしょう。
(参考記事)細胞内の掃除役、オートファジー活性化 老化防止にも - 日本経済新聞
このfunasan日記第2部のメインテーマは、「老化を抑え、健康寿命を長くする」ことです。オートファジーはその答えになりそうです。
今回の最後に、吉森保氏の書籍より引用します。
オートファジーのことがわかってくることで、病気にかかるのを防いだり、老化を穏やかにして健康な期間を長くできたりする可能性が見えてきたのです。すでに、がんや感染症、認知症などに新しい治療法が提供できるのではと期待が高まっています。(略)
おそらく、これからますます長寿社会になっていく中で、オートファジーへの関心はどんどん高まるはずです。オートファジーがどのようなしくみであり、どういう役割を担っているかをここで学ぶことは、現段階での老化と寿命についての最先端の情報を知ることになります。もちろん、あなたの健康や老化への考え方もしっかりしたものになるはずです。
LIFE SCIENCE(ライフサイエンス)長生きせざるをえない時代の生命科学講義(吉森保、2020年12月、日経BP、P221~P222)
(続き)第29回・長寿遺伝子を起動する私の「野猿メソッド」
(前回)第27回・ホテル暮らしの健康維持、秘訣は断食?
オートファジーというのは初めてしりました。
ダイエット本のほとんどが、カロリー計算や小麦抜き…肉抜き…などの極端でしかもその当時の流行を追うものばかりな感じがするし、科学的エビデンスに欠けるものが多く信用できなくなっていました。
今回の文章を読み進めるにつれ…私の本能が揺さぶれました。
シーガイアのブランチシステムもかなり役に立っていますね。
私もロングステイの際大変役にたちました。
ふなさんさんの徹底した取り組みを再度読み
私の細胞も…ちょっとやらなきゃなと燃えてきました。
次回お会いできます時には見違える様になってるかも(笑)ですよ。乞うご期待❣️K
funasanのアンチエイジング日記は不老長寿の参考書のようになってきましたね。
今回はまさにfunasanの渾身作!!!
「空腹の時間を作ると、まず内臓がしっかり休むことができる」
「ものを食べない時間を楽しむ」
「食事を美味しくいただくコツはたべないこと」 etc.
なるほどと思いました。
分かりやすい文章表現で目から鱗が落ちた気分になりました。
Kさん、Mr.Sさん、いつもコメントありがとうございます。
私も最初は「断食なんて、何だかインチキくさいな~」と思っていました。
ところが、オートファジーを知って認識が一変しましたね。これは凄い!
特に、吉森保氏の本『ライフサイエンス 長生きせざるをえない時代の生命科学講義』を読んで、Mさん同様、心が揺さぶられました。オートファジーは単に細胞内のゴミを再生産させるだけではなく、人間の病気や老化に大きな影響を持っていました。
しかし、悲しいかな「オートファジーは歳をとると働かなくなる」(P258~)そうです。では、どうすればオートファジーを元気なまま歳をとれるのか?上記の本の最終章は「寿命を延ばすために何をすればいいか」(P287~)です。
著者の吉森氏が表紙に記しているように「最先端の生命科学を私たちは何も知らない」です。まだまだ研究途上の生命科学ですが、これらの成果が世界に認知されるまで待っていては私の寿命が尽きます。とりあえず、学習して実践(人体実験)です。本書はかなり難しいですが、本気に病気や老化に向き合いたい人にとってはお勧めの1冊です。