私は昔から甘党で、ちょっとお腹が減るとコンビニに寄って「あんパン」や「どら焼き」を買っていました。疲れた時やイライラした時、コーヒーを飲みながらスイーツを食べると心が安定し、やる気になります。
この時、私の頭の中では何が起こっていたのでしょうか? 実は、甘いものを食べると「脳内麻薬」とも呼ばれるドーパミンが大量に分泌され、幸福感に包まれていたのですね。どうやら私は砂糖中毒になっていたようです。このことに気付かせてくれたのが次の本です。
「砂糖」をやめれば10歳若返る!(白澤卓二、 ベスト新書、2012年5月)
私は砂糖中毒だった
「マイルドドラッグ」という言葉があります。覚醒剤に比べれば脳への依存や刺激は少ないですが、中毒性がある食べ物や飲み物のことです。コンビニで普通に売られているスイーツ、清涼飲料水、ジャンクフードなどがそれにあたります。
白澤氏は上記の本の中で、マイルドドラッグの代表は「砂糖」であり、さらに広げるならば体内でブドウ糖に分解かれる「炭水化物」だと、警鐘を鳴らしています。
誰もが街の食堂やレストランで普通に食べている、かつ丼、牛丼、カレーライス、各種のパン、ラーメン、パスタ、うどん、そば…。どれもおいしくて、お腹いっぱいになり満足感があります。しかも安い!
ただし、これらの食品に含まれている糖質量を調べてみるとびっくり仰天です。
例えば、丼物のご飯量は普通盛で240gくらいあるので、この中に糖質は90gくらい含まれています。これをミニ角砂糖(1個3g)に換算すると、何と30個分に相当します。ものすごい量の砂糖です。
砂糖まみれのスイーツの話ではありません。毎日「主食」として食べている、ご飯やパン、麺類は、体内で大量のブドウ糖になり、脳が大喜びしてドーパミンが出てきます。心が安定し幸福感に包まれます。がん細胞も大喜びです。
脳は炭水化物(砂糖)の幸福感を記憶しており、何度もおいしさを求めてきます。脳は欲望の塊で、ドーパミンが快感をつかさどる脳の各部位を巧みに刺激して、際限なく砂糖を要求します。これは薬物中毒患者と同じ反応のようです。
糖質制限の理屈は理解できても実行の難しさはここにありました。あなたは砂糖中毒を断てますか?
糖質は必須栄養素ではなかった
ところで、ヒトの生存に欠かせない必須栄養素とは何でしょう?ここでも、栄養学を少し学ぶだけで「目からうろこ」です。
ヒトのエネルギー源になる大切な栄養素は「タンパク質」「脂質」「炭水化物」の3つです。しかし、栄養学における「必須栄養素」は、「必須脂肪酸(脂質)」と「必須アミノ酸(タンパク質)」だけです。これらは他の脂肪酸やアミノ酸から体内で合成できないため、からだの外から摂取しなければなりません。それがないと死んでしまうので「必須」栄養素なのです。
ちょっと不思議に思いませんか? 必須栄養素は脂質とタンパク質で、炭水化物は入っていません。我々が昔から主食・エネルギー源として食べてきた、ご飯、パン、麺類などの糖質は、ヒトの生存にとって「必須」ではなかったのです。つまり、主食(糖質)を抜いても我々は死にません。これはカルチャーショックでした。
その理由は「糖新生」にありました。糖新生とは、動物が脂質やアミノ酸(タンパク質)など、糖質以外からグルコース(ブドウ糖)を合成する代謝経路です。ヒトは「糖質なし」でも生きていけます。「"必須"栄養素としての炭水化物」という考えは、今まで長い間信じられてきたように思いますが、どうもそうではないようなのです。
ケトン体回路を起動せよ!
脳の栄養源はブドウ糖で、血糖値が下がってくると空腹感が出てきて何か食べたくなります。もし血液中の糖が枯渇したとしたら、エネルギー生産はどうなるのでしょうか?
「糖質制限」とは、燃料の糖質を体に入れないことですから、「ガス欠」の時のメカニズムをしっかり理解しておく必要があります。
血液中の糖が不足したら、まず肝臓に蓄えられている「グリコーゲン」が分解されてブドウ糖として補充されます。ところが肝臓のグリコーゲンは3~4時間しかもちません。
これを使い果たしてしまうと(寝ている間の深夜から早朝の時間帯など)、今度は、筋肉に含まれているタンパク質が分解されて糖が生産されます。これが前に説明した糖新生です。この糖が脳のエネルギー源となって、朝まで脳は休みなく働けます。
糖新生により筋肉が分解されますから、朝食にたんぱく質をしっかり補充する必要があります。ホテル朝食で定番の、卵料理やハム・ベーコンには、ちゃんと意味があるのですね。しかし、糖新生にも限界があります。
ここからが、私が学習して驚いたことです。
最終的に糖が枯渇してくると、体内に蓄えられた脂肪(脂肪酸)から「ケトン体」が作られ、血液中に放出されます。そして全身の臓器でエネルギー源として利用されます。
実はヒトのエネルギー源は、ブドウ糖とケトン体の2種類あったのです。脳は通常はブドウ糖を唯一のエネルギー源として使いますが、飢餓状態ではケトン体を使って活動を続けます。もちろん、全身の臓器も筋肉もケトン体をエネルギー源として利用できます。
この過程はブドウ糖を使ったエネルギー回路とは違うので、白澤氏は「ケトン体回路」と命名しています。
以下、上記書籍のP.126からの引用です。
ケトン体回路は、血液中のブドウ糖や、肝臓にため込まれているグリコーゲンを使い果たしていなければ、スイッチが入りません。(略)ところが、血液中のブドウ糖が減ってきて、おなかが減ったと感じたり、イライラしたりしたとき、炭水化物をポンと入れてしまうと、そちらを使ってしまうので、ケトン体回路はシャットダウンされてしまうわけです。(略)現代人のほとんどは、砂糖中毒に陥っているので待てません。即効性のある炭水化物や砂糖食品に走るわけです。
私説「ダイエット成功の方程式」
書店にはダイエット本が溢れています。食事制限や運動で減量を試みても失敗する人が多いので、次々とダイエット本が出版されるのでしょう。
私はヒトのエネルギー生産回路のメカニズムを学んで、ダイエット成功の方程式が見えてきました。それは以下です。
ケトン体は体内に貯め込んだ脂肪を原料にしてミトコンドリア内で生産されます。そして、ケトン体は糖質に代わって、飢餓状態でも脳や筋肉のエネルギー源として使われます。
しかし、空腹状態にならないとケトン体は出てきません。ここが最大のポイントで最大の難点です。「空腹を我慢してケトン体回路を起動せよ!」です。
このことを知って、私の登山・ハイキングの常識がひっくり返りました。今までは「登山中にエネルギー不足になって動けなくなるといけないので、おにぎり、パン、あめ玉などの炭水化物(糖質)を持参」して出発していました。登山中も、お腹が減る前に糖質を補給しました。
でも、実際に空腹で森を歩き回っても、大丈夫でした。エネルギー不足にはなりません。空腹感はなかなかこたえますが、今までに蓄えた脂肪が燃焼して、次々と全身の筋肉・臓器、そして脳にエネルギーが補充されていく。そんなイメージがあります。脳はクリアで思考が深まります。
この「ケトン体回路へのスイッチ」は、私が「人体実験済」です。白澤氏の説を実証すべく、何度も朝食抜きで数時間のハイキングをしました。前日の夕食が最後の食事ですので、翌日の午前中には体内の糖質は枯渇しています。
そして朝10時頃から「朝食抜き」で「空腹を我慢」して山に入ります。ケトン体回路への起動が成功し、見事にお腹周りの脂肪が消えていきました。お腹が減っていても、本当に森の中を機敏に動き回ることができました。白澤氏の説は本当でした。ダイエット成功!
この私のダイエットの詳細は、別の記事に記したいと思っています。
体内に蓄えた脂肪は、動物が飢餓の時に生き抜く貴重な財産だったのですね。野生動物は、朝起きて朝食を食べるわけではありません。恐らく、腹ぺこのまま、獲物を探して森の中を何時間も徘徊するでしょう。
この時、お腹が減って動けなくなっては、すぐに死んでしまいます。何日間も森を徘徊して体内の脂肪が枯渇してしまうか、それとも、新たな獲物を捕らえてエネルギー補給ができるか。野生動物の生き残りのサバイバルは日常的に繰り広げられています。
糖質制限によるダイエットの実践には、さまざまなが側面があり、非常に興味深いのですが、この連載の趣旨から外れるので深入りはしません。しかし、私にとっての「がん勝利」と「ダイエット成功」の両方が、「糖質制限」というキーワードで融合しました。
もう、本気でやるしかないですね、糖質制限!
砂糖中毒からの脱出
とはいえ、甘党の私が砂糖中毒から抜け出すのは容易なことではありませんでした。しかし、白澤氏の多数の書籍(文末に参考文献を掲載)から、強力な助っ人を見つけました。それは「ココナッツオイル」です。
ココナッツオイルは「中鎖脂肪酸」を含んでおり、体内で速やかに吸収されて、直接、肝臓のミトコンドリアに入ります。この時、インスリンの血中濃度が低いと(空腹で血糖値が低いと)、非常に効率よくケトン体に変わります。
このケトン体が、ブドウ糖に飢えた脳に新たなエネルギー源として届くので、脳は満足して活動を続けます。「腹が減った~」という感覚が一時的になくなり、仕事に専念できるようになります。
うそではありません。これも私が人体実験済みです。糖質制限を始めるまでは、ちょっとお腹が空くと「コーヒーと甘いお菓子」が私の定番でした。今は違います。「ココナッツオイル入りのコーヒー」になりました。
糖質さえ食べなければ血糖値は上がりません。空腹感が我慢できない時は、ナッツ類をスイーツの代わりにします。糖質がほぼゼロのチーズを加えてもいいですね。これでケトン体回路が「オン」のまま、その後、数時間は何も食べずに我慢できます。
面白いもので、スイーツを食べる機会が減ってくると、自分の味覚が甘さに敏感になってきます。今まで普通に食べていたスイーツが「甘すぎる~」とさえ感じるようになってきました。砂糖中毒になって甘さの味覚が麻痺していた証拠です。
さらに興味深いことは、おやつのスイーツを完全にやめて1年もすると、「甘いものが欲しい、食べたい」という感覚がなくなってきたことです。
今では、コンビニに立ち寄って「あんパン」や「どら焼き」を買うことはなくなりました。スイーツなしでも日常生活は問題ないのです。ここに至って、私はやっと砂糖中毒から抜けることができました。
しかし、糖質制限の最大の難関は「炭水化物」です。ご飯、パン、麺類、これをどう制限するか?
次回は糖質制限の本丸「主食の制限」に攻め入ります。
参考文献
- 「砂糖」をやめれば10歳若返る!(白澤卓二、、ベスト新書、2012年5月)
- 2週間で効果がでる! ケトン食事法(白澤卓二、かんき出版、2012年10月)
- あなたを生かす油 ダメにする油 ココナッツオイルの使い方は8割が間違い(白澤卓二、KADOKAWAベスト新書、2015年11月)
- 体が生まれ変わる「ケトン体」食事法: 太らない、疲れない、老けない――体と頭を「糖化」させるな(白澤卓二、三笠書房、2015年9月)
(続き)第17回・糖質制限の実践とその劇的な効果
(前回)第15回・私説「がん勝利の方程式」をご紹介します
ダイエットは永遠のテーマです。
いつもありがとうございます!
ケトン体的体にすればよいのですね。
もっと深読みして生かします。
ゆで卵がよいですよね?是非とも朝のタンパク質補給に使います。
またどこかで(笑)お会いできればありがたいです。
K