「混ぜるな危険」最高益の影で起きたこと

値上げの記事に多くのコメントをいただいています。リゾートトラストの前身である宝塚エンタープライズが設立されたのが1973年4月2日。来年の春、50周年の日を華々しく「最高益」で迎えたいのでしょう。会員制リゾートクラブでは、運営会社のビジネス上のミステイクが会員に与える影響が大きく、今回の値上げもその現れでしょう。

そのミステイクとは何か。データを使って検証してみたいと思います。

さて、今回の値上げに関して「ゲスト料金を新設してそこから収益を上げればよい」という意見があります。

エクシブには利用者に料金差はありません(サンメンバーズもそうです)。一方で、ベイコート倶楽部は会員(メンバー)であれば安く利用できるように、ゲスト料金が設けられています。

この差はいったいどうして生じたのか、まずはそこから検証します。

写真は最初期のエクシブの1つである、エクシブ軽井沢本館のエントランスロビーです。大きく取られたこのスペースは何を意味しているのでしょう。

ロビーからは直接階段で2階に上がることができ、そこにはコンベンションホール「瑞鳳」のほか、藤、蘭、萩と名のついた3つの宴会場があります。そしてロビーから直接アクセスしやすい場所にすべてのレストランを配しています。

エクシブ軽井沢は1990年7月、バブル経済の絶頂期に開業しました。会員権は高騰し、エクシブ軽井沢は1つのホテルを個人向けと法人向けにハイブリッド販売する施設として建設されました。その現れがこうしたパブリックに開けた施設づくりにつながった。そんなふうに考えることはできないでしょうか。

当時の法人向け会員権とはこのようなものです。共有制の個人向けに対して、法人向けは契約期間5年の預託金制でした。募集価格4000万の「リーガル」は182枚の宿泊券を発行し、7500万で募集した「ベストリーガル」では364枚の宿泊券が出ました。つまり、半年タイプと1年タイプです。募集価格の1割が登録料で、残りの9割は契約期間終了後に返還されました。

初期のエクシブでは個人も法人も同様に大事な顧客として考えられており、それは今でも同じです。ですからエクシブにおいて「ゲスト料金」が新設されることは、そのベースの考え方からすれば、考えにくいことです。

一方で、2008年3月開業の東京ベイコート倶楽部では、ゲスト料金を設け「完全会員制」をうたう、エクシブとは全く違うコンセプトでの「新しい別のクラブづくり」が行われました。顧客を差別しないエクシブ、顧客を区別するベイコート。出発点がまったく違います。

しかしリゾートトラストは、東京ベイコート倶楽部の販売不振から、同クラブの規約を変更し、「スーパーエクシブ」と位置づけて販売してしまいます。この話は何度も話題にしていますが、「古き良きエクシブ文化」の均衡を破壊し、さまざまな不幸を産んだ原点です。また機会があれば勉強会などで総括してみてもいいかもしれません。

なぜリゾートトラストはエクシブとコンセプトの違う会員権を売り出そうとしたのか。その答えを求めて、僕は昨日から蔵にこもってデータをまとめていました。その成果が以下です。

これはエクシブとベイコート倶楽部の会員数を法人と個人とで別々に集計し、年度末の会員数を、1998年から2021年までの期間でグラフにしたものです。

20世紀後半は法人会員の数が上回っていましたが、これが2000年で拮抗し、2001年には逆転します。エクシブ会員の増加は個人が優勢という状況はその後も続きました。

当時、新規求人倍率が1998年に0.9にまで下がるなど、企業の力はバブルの反動で冷え込んでいました。一方、1999年から2000年までのインターネットバブルが象徴的でしたが、「親ガチャ」とは違う、新しいタイプの富裕層が登場してきます。

その頃企画された「東京ベイコート倶楽部」が、エクシブとは異なるリゾート文化を目指したことには、こうした社会背景が影響していたことでしょう。

グラフは雄弁に語っています。料金に差を付けないオープンな施策で法人会員も大事にしてきたエクシブは、2000年を境にむしろ個人ユーザーに多く売れるようになりました。

一方、富裕層をターゲットとして個人客を多く取り込むべく、ゲスト料金を設けて「完全会員制」を目指したベイコート倶楽部は、「エクシブが取りやすい会員権」として法人にも積極的に販売され、芦屋の発売以降はそれが顕著になりました。

東京ベイコート倶楽部をスーパーエクシブとして位置づけたのがすべての過ちのはじまりでした。

圧倒的な魅力を備えた離宮エクシブ群の人気を、「別の施設に付け替え」して、「別のホテル」を会員権として販売することでリゾートトラストは快進撃を続けましたが、その影で、「新築当初から低稼働・低収益のホテル」を量産してしまいました。

会員は自らのクラブだけでなく積極的に「別のホテル」を使い、利用者は「区別される」ためにエクシブ側からの流入はないのですから、稼働が低いのは当然です。これがベイコートの不幸です。

一方、ベイコートとエクシブをミックスした結果は、エクシブにとっても不幸でした。新規会員権(ベイコート)が高級化に邁進し、自らの魅力よりも他に価値を求めた結果、「チェーン全体が高級」という虚構が設定されました。その結果、古い施設も含めた一律な値上げが繰り返されました。古い施設からは客が離れていき、リニューアルもできずに経年変化で魅力を失ったホテルの低稼働・低収益には拍車がかかりました。

2つの違うものを混ぜてしまったことから生まれた矛盾が、ホテル運営の低収益性を加速させました。会員に「ホテルを建ててもらう」のですから、もともと会員制ホテルの運営収益は高くできません。それなのに利用者への価格転嫁が繰り返され、最終局面の今回の値上げです。会員の運営会社への不信感はこれまでになく高まっています。

最高益の影で、これは大いなる危機なのではないか。そんな風に感じます。

12 comments

  1. すごくおもしろく拝見いたしました。
    タイトルとはすこし外れてしまうかもしれませんが、オールドエクシブの目指した先が、「日常にあるリゾート」だとすると、今般の価格上昇は、「日常」の範囲を超えてしまいますね。
    昔、好きだった商品のキャッチコピー(20世紀のおわり)に、「21世紀、リゾートは日常になる」との宣伝文句で発売されていた商品がありました。
    「非日常」の「特別」な旅行は素晴らしく、人生においての生き甲斐、メリハリになることは言うまでもありません。
    一方で、気軽に「帰れる」リゾートとしてのエクシブの存在は、「非日常」の中にも「日常」を体現する、バカンスの真髄がそこにはあると思います。
    その「リゾート」と「日常」との距離をいかに縮められるか?というところに関しては、日本人の国民性や生活スタイルも含めて、リゾートトラスト発足から50年を迎えた今でも、なかなか難しいものがありそうですね。
    リゾートボーイさんのご指摘の通り、相容れないコンセプトのミックスは、取り合わせの悪い料理のように、エクシブオーナーやゲスト利用者に食後の後味の悪さを残してしまいそうですね。

  2. 「チェーン全体が高級という虚構」、言い得て妙ですね。
    新規会員権販売が命綱であるRT社としては、そうせざるを得ないのでしょう。

    ただし、二つの面で無理があると思います。
    一つは「建物自体に魅力が薄い施設で、高価な料理を出して”高級リゾート”を名乗る事」です。
    極端な話ですが、今後伊豆の稼働率が10%台前半まで低下して白旗を上げざるを得なくなり、「すみません、伊豆だけは”高級リゾート”じゃないです」と荷物お運びポーターサービス廃止、食事は2,980円のバイキング一択(時間制限あり、予約不可)で千客万来!とする時期が来るのでしょうか。
    この作戦が成功したら、稼働率順で次々と「リーズナブル・エクシブ」の出来上がり。それなりにメリットを感じる人もいるのでは?と思います。

    もう一つは「建物自体の魅力に、サービス面が追い付いていない」問題です。
    超高級な建物を造り、高額な入会金を取れば、当然サービスレベルも高いものが要求されます。RT社自らハードルを上げたサービスのレベルを、達成できているか?
    これはホテルによっても、お客様の実体験によっても違うので「絶対にこう」とは言えませんが、「建物の割にサービスが…」と感じている人は少なくないと思います。
    せめて「〇〇コート・〇〇ヴィラ」を名乗る高級バージョンホテルについては、一定以上のレベル(言葉遣いを含む)は必須であり、これを実現できなければ会社の将来は厳しいです。

    現時点の結論として私は「”チェーン全体が高級”なエクシブ・〇〇コートにふさわしいサービスレベルが達成できれば、”サンクチュアリコート”シリーズで新規開発する間大きなコンセプトミスは無さそうなので、景気が大崩れしない限り会員権販売は好調を持続し、会社はしばらく延命可能」と見ます。
    それであれば、サービスレベルの向上が急務。ホテルトラスティの売却目的が、エクシブ・ベイコートのサービス人員確保のためであれば良いのですが。

  3. 興味深い分析をありがとうございます。
    リゾートトラストの組織図を見てみましたが、そういった商品企画やマーケティングをしてそうな部署が見当たりませんでした(xx企画部という部署はいくつかありますが、これらはたぶん違う)。おそらくトップの感覚、鶴の一声でやってきたのでしょうね。そこは罪ばかりではなく功も大きいとは思いますが、うまくいかなかったときに、きちんと検証したり軌道修正することができない仕組みなのでしょう。というか出口戦略がまるでないのもそのあたりに理由があるのかな。
    …組織があったって、いつもうまくいくとは限りませんが。

  4. 今日、メールで「エクシブの”自由気ままにロングステイパッケージ”」の案内が届きました。
    対象は初島・伊豆・鳥羽・白浜・淡路島(全て、除くSグレード)。
    ちょうど自分なりにRT社のホテルをカテゴライズしようと考えていたところだったので、会社側からカテゴリーの考え方を与えて頂いた様な気分です。
    前回のコメントで書いた「建物自体に魅力が薄い(+立地条件の魅力で左記をカバーしきれない)施設」がこれらの部屋、ということでしょう。

    今の基準だと、面積が広くてもバス・トイレが別では無い部屋を「高級」と呼ぶのは無理があります。
    会員制ホテルは建物の全面リノベーションが出来ないので、設計が時代の流れについていけない、という弱点については、何度もresort boyさんがご指摘になっている通りです。

    今回の、長期滞在を条件としたプラン。「日本に真のリゾート文化を根付かせる」という開業当初からのコンセプトから大きくズレない良策、と感じています。
    ただ、利用する人は少ないのでは?とも思います。魅力が薄い部屋に権利を消費して長期滞在?権利を消費したくなければ、部屋のグレードと釣り合わない豪華な食事を取る事を強制される?
    もし「このプラン限定で、夕朝食セットで6000円の滞在膳をご用意。こちらをご利用いただければ、サンクスフェスティバルを適用します!」となれば、使ってみても良いかな?と感じます。
    料理には定評のあるエクシブ。高級素材を使わずに(トロが出てこない寿司、みたいな)料理人の腕で美味しい食事を提供してくれれば、好感度も宿泊率もアップすると思うのですが。

  5. belairさん

    オーナー専用の「ロングステイパッケージ」は、面白い試みですね❣️

    オールドエクシブについて、
    例えば、スタンダードの部屋なら、4泊で実質2万円(クレジット分2万円)、1泊あたり、5,000円で滞在できてしまうのですね💖。

    夫婦で滞在したら、1人あたり2,500円です。

    このコストなら、リゾートでのんびり長期滞在もできそうです。

    ホテル側としては、しっかり4万円等を取得し、かつエコステイで人件費を抑える。
    お客側としては、ホテル内で自由に使える(朝食でも、ランチでも、夕食でも)クレジット2万円分等をもらっておけば、自分達の生活スタイルに合わせて活用できるわけですね💖。

    これは、ホテル側とオーナーお客側とが、両方がウインウインの関係のプランだと思います❣️

    このプラン、定年退職を迎えられたご夫婦には、すごい魅力的なプランだと思います。

    あとは、現役世代オーナーがこのプランをどう利用するかですよねー(笑)。

    夏休み・冬休み(ゴールド期間)以外で、4泊等々のリゾート休暇をどう取るのか!

    でも、オールドエクシブにこういうオーナーの自由度の高い、ゆっくり滞在できるプランが出てくるのは、本当に嬉しいです。

    まずは、オーナーズステイで2連泊をお得に楽しみ♪ 少ししたら、ロングステイパッケージ4泊をのんびり楽しめるようになります💖💖💖

  6. ららら さん

    おっしゃる通り、現役世代は年休取得困難と子供の学校スケジュールから、家族で平日に長期宿泊は無理ですよね。

    それであれば、法人会員である会社の既退職者もこのプランの対象としてみては?
    平日の稼働率は上がるし、新規会員の勧誘にもなるし、今後の値上げ防止にも繋がるし、でRT社にも既存オーナーにもwin winかと。
    厳密に言うと既退職者は非会員ですが、法人会員からの勧誘(=招待ゲスト)であればギリギリセーフかと(ダメかな?)。

  7. belairさん

    法人会員さんの社員さん達が、退職される際に、ロングステイ・エクシブ(伊豆高原、初島等々)の会員権の購入を積極的に勧める❣️

    退職金の中からサクッと購入していただいて、その後は、ゆっくり、お安く自然豊かな地にあるエクシブでのロングステイを楽しんでもらう💖

    お得なロングステイ・エクシブ活用で、

    夫婦は円満❣️
    健康増進❣️
    お財布にも優しい❣️

    こういう営業もかなり有効な気がします💕

  8. ロングステイ・エクシブ (伊豆・初島等)のセルフラウンジには、ぜひぜひ、「電子レンジ」も設置してもらいたいです。

    ロングステイで4泊等していると、全部、外食というわけにもいきませんので、電子レンジがあると、別荘ステイの様に、日によっては簡単に食事を済ませることができて、気持ちも、お財布も、時間の割り振りも、とても楽になります。

    セルフラウンジには、
    オーナー用の軽食を置いて頂けるか、もしくは、電子レンジを置いてもらいたいです💖

  9. らららさん
    初島はセルフラウンジでは、ありません。
    持ち部屋施設がセルフラウンジ、考えられません。

  10. himeさん

    ごめんなさい。
    初島は、通常のラウンジですね!

    今回のあまりに急激な室料の値上げには、私も、かなり頭に来ております。
    高額な会員権を購入し、固定資産税、年会費を支払った上、いざ利用する時には、清掃・リネン料金をはるかに上回る「室料」を請求されるのですから!

    ただ一方で、観光業界において、相当な数の倒産等々を見ておりますと、エクシブについても、何か考える必要があるのかと思いました。

    離宮シリーズ、ベイコート、サンクチュアリコートは、しっかり高級路線を堅持して、豪華さを楽しむ。

    オールドエクシブは、のんびりロングステイ用の施設(別荘ステイ)として上手に活かしていく。

    と言った棲み分けが必要になってくるのではないか⁉︎と思っております。

    今、Hotel業界で、一番、困っているのは、人手の確保だと聞きます。どこのサービス業界でも、人手の確保に頭を悩ませていますね。

    室料料金を低価格で抑えるオールドエクシブでは、少ない人手で回せる形態を取らざるを得なくなっていくかと思うのです。

    すると
    セルフラウンジ
    セルフチェックアウト
    エコ・ステイによる連泊

    などが、考慮されてくるかもしれません。

    でも、そんなのは、オーナーさんとっては、なんだか騙し討ちみたいですよね。

  11. 「ロングステイ」はいいのですが、例えば、伊豆って、昼に開いているレストランはなくて、お昼ご飯提供されていませんよね。

    いちいちお昼を食べに、出かけなければいけませんね。
    これで、どうやってのんびりできるのでしょうか。

    いよいよ、飲食持ち込み可にしてもらわないと。

  12. EF66さん

    伊豆等ロングステイ系エクシブでは、セルフ無料ラウンジに、電子レンジを置いて、「飲食持ち込み可能」にして、ゆったりお安くロングステイを楽しめる様にしていただく!

    この切り替えが必要な時期に来てきますね❣️

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