
ケトン体回路を起動せよ! – 2
本連載は「旅を通して転移がんを克服した全記録」です。(編集担当:resortboy)
ところで、ヒトの生存に欠かせない必須栄養素とは何でしょう? ここでも、栄養学を少し学ぶだけで「目からうろこ」です。
ヒトのエネルギー源になる大切な栄養素は「タンパク質」「脂質」「炭水化物」の3つです。しかし、栄養学における「必須栄養素」は、「必須脂肪酸(脂質)」と「必須アミノ酸(タンパク質)」だけです。
糖質は必須栄養素ではなかった
これらは他の脂肪酸やアミノ酸から体内で合成できないため、からだの外から摂取しなければなりません。それがないと死んでしまうので「必須」栄養素なのです。
ちょっと不思議に思いませんか? 必須栄養素は脂質とタンパク質で、炭水化物は入っていません。我々が昔から主食・エネルギー源として食べてきた、ご飯、パン、麺類などの糖質は、ヒトの生存にとって「必須」ではなかったのです。
つまり、主食(糖質)を抜いても我々は死にません。これはカルチャーショックでした。
その理由は「糖新生」にありました。糖新生とは、動物が脂質やアミノ酸(タンパク質)など、糖質以外からグルコース(ブドウ糖)を合成する代謝経路です。
ヒトは「糖質なし」でも生きていけます。「"必須"栄養素としての炭水化物」という考えは、今まで長い間信じられてきたように思いますが、どうもそうではないようなのです。
ケトン体回路を起動せよ!
脳の栄養源はブドウ糖で、血糖値が下がってくると空腹感が出てきて何か食べたくなります。もし血液中の糖が枯渇したとしたら、エネルギー生産はどうなるのでしょうか?
「糖質制限」とは、燃料の糖質を体に入れないことですから、「ガス欠」の時のメカニズムをしっかり理解しておく必要があります。
血液中の糖が不足したら、まず肝臓に蓄えられている「グリコーゲン」が分解されてブドウ糖として補充されます。ところが肝臓のグリコーゲンは3~4時間しかもちません。
これを使い果たしてしまうと(寝ている間の深夜から早朝の時間帯など)、今度は、筋肉に含まれているタンパク質が分解されて糖が生産されます。これが前に説明した糖新生です。この糖が脳のエネルギー源となって、朝まで脳は休みなく働けます。
糖新生により筋肉が分解されますから、朝食にたんぱく質をしっかり補充する必要があります。ホテル朝食で定番の、卵料理やハム・ベーコンには、ちゃんと意味があるのですね。
しかし、糖新生にも限界があります。
ケトン体回路
ここからが、私が学習して驚いたことです。
最終的に糖が枯渇してくると、体内に蓄えられた脂肪(脂肪酸)から「ケトン体」が作られ、血液中に放出されます。そして全身の臓器でエネルギー源として利用されます。
実はヒトのエネルギー源は、ブドウ糖とケトン体の2種類あったのです。脳は通常はブドウ糖を唯一のエネルギー源として使いますが、飢餓状態ではケトン体を使って活動を続けます。もちろん、全身の臓器も筋肉もケトン体をエネルギー源として利用できます。
この過程はブドウ糖を使ったエネルギー回路とは違うので、白澤氏は「ケトン体回路」と命名しています。
以下、前述の「「砂糖」をやめれば10歳若返る!」P.126からの引用です。
ケトン体回路は、血液中のブドウ糖や、肝臓にため込まれているグリコーゲンを使い果たしていなければ、スイッチが入りません。(略)
ところが、血液中のブドウ糖が減ってきて、おなかが減ったと感じたり、イライラしたりしたとき、炭水化物をポンと入れてしまうと、そちらを使ってしまうので、ケトン体回路はシャットダウンされてしまうわけです。(略)
現代人のほとんどは、砂糖中毒に陥っているので待てません。即効性のある炭水化物や砂糖食品に走るわけです。
私説「ダイエット成功の方程式」
書店にはダイエット本が溢れています。食事制限や運動で減量を試みても失敗する人が多いので、次々とダイエット本が出版されるのでしょう。
私はヒトのエネルギー生産回路のメカニズムを学んで、ダイエット成功の方程式が見えてきました。それは以下です。
糖質制限食+空腹+ケトン体回路起動=ダイエット成功
ケトン体は体内に貯め込んだ脂肪を原料にしてミトコンドリア内で生産されます。そして、ケトン体は糖質に代わって、飢餓状態でも脳や筋肉のエネルギー源として使われます。
しかし、空腹状態にならないとケトン体は出てきません。ここが最大のポイントで最大の難点です。「空腹を我慢してケトン体回路を起動せよ!」です。
このことを知って、私の登山・ハイキングの常識がひっくり返りました。
(続く)
【次回】第32回・ケトン体回路を起動せよ!- 3
【前回】第30回・ケトン体回路を起動せよ! – 1
本連載が単行本(紙の書籍)として刊行されました
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(スペシャル対談)私のリゾートライフの全体マップ
(筆者ホームページ)舟橋栄二「第二の人生を豊かに」