リゾート会員権論 1「はじめに・基本的性質」

これから数回に渡って、2020年12月12日に東京都内で開催した勉強会の講演録をお届けします。テーマはずばり「リゾート会員権とは何か」。歴史、権利、心理、出口、の4パートに渡って90分で語りつくそうという欲張りな企画ですが、さてうまくまとまるでしょうか。

by resortboy

resortboy:皆さん、おはようございます。今日はご来場ありがとうございます。

今日の勉強会は、(ある大学で発足した)「ホテル利用学」の研究ワークショップとしての位置付けもありまして、それに対して「KASAの会」が協力するということになっています。KASAの会においてコアのツールというのは「リゾート会員権」にありますから、学術研究組織のワークショップを兼ねるのであれば、まずはちゃんとそこにフォーカスを当てようということで、今日の企画を準備しました。

今日でKASAの会の勉強会も8回目になりますが、リゾート会員権というものをそもそものところから包括的に取り扱った回というのはなくてですね、今日はそれにチャレンジしてみようと思います。

by resortboy

大河ドラマみたいな話で非常に面白いのですが、あまり詳しく話しすぎると皆さんとのディスカッション時間が取れないので、非常に駆け足の話になってしまいますが、そこはご容赦ください。

まずパート1として「歴史」についてお話をします。

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日本のリゾート会員権というビジネスは、学術的にはほとんど研究されていなくて、まとまった論文や文献もありません。今日ここで僕が話しているのが、おそらく一番まとまったものとなるのではないかと思います。

このパートはサブタイトルを「バブル崩壊が豪華路線を招いた」としました。30年以上前の「バブル景気」があったからこそ、今の独特なリゾート会員権文化というものができた、ということが、振り返るとよくわかります。

今日は時間的な制約で概要しかお話できないので、研究対象として取り上げる企業を2社に絞っています。リゾート会員権ビジネスを、継続的に利益を上げながら現在も安定的に行っている大企業は、現在はこの2社しかないからです。

1つはリゾートトラストという会社で、皆さんよくご存知のエクシブ、ベイコート倶楽部、それからサンメンバーズという3つの会員権ブランドを運営している企業です。

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こちらはリゾートトラストの施設マップですが(2020年版)、会員制のリゾートホテルが40ホテルあると彼らは言っています(エクシブ26施設、ベイコート倶楽部4施設、サンメンバーズ10施設)。ただ、1つの場所に3つも4つもホテルがあるケースがあります(軽井沢、鳥羽など)。ですから、同社の会員制の施設は、およそ30拠点ぐらいあるといったイメージです。

もう1社は、東急不動産(事業主)および東急リゾート(販売・仲介)が運営している東急ハーヴェストクラブです。こちらはスライドにあるように25のホテルがあります。

by resortboy

これら2つの会社を、現代におけるリゾート会員権の提供企業であると定義して、今日のお話は進めていきたいと思います。

まず、これらの会員制ホテルチェーンは一般的には知名度が低いのですが、どれぐらいの規模で、果たして研究対象にふさわしいものなのか、という部分を確認します。

by resortboy

リゾートトラストの会員数は、同社の発表では約18万人いるとされています。しかし同社のこの発表数は、複数会員権の保有者はダブルカウントされているので、主力商品のエクシブ会員7.7万人と、ベイコート倶楽部会員2.2万人を加えた約10万人を、ここでは実会員数の目安として見ておきたいと思います。

リゾートトラストの室数は、エクシブが3,613室、ベイコート倶楽部が今年9月開業の横浜まで入れて824室で、合計4,437室。サンメンバーズの1,012室を加えると、計5,449室となります(2020年3月末現在の有価証券報告書による)。

一方の東急ハーヴェストクラブは2,750室、販売数は27,724口で、会員はおよそ2.5万人います(2018年の東急ハーヴェストクラブ軽井沢の開業発表資料による)。

リゾートトラストや東急ハーヴェストクラブのホテルは、多くが会員権として分譲されたホテルなので、1室の規模が普通のホテルと比べて大きくなっています。1室当たりの面積は、通常のホテルの3~4部屋分ほどもあって、アパホテルなど居室が極端に狭いホテルチェーンに置き換えれば、10部屋分ものスペースがあることも珍しくありません。

ですから、物件規模という視点で見る必要があります。比較対象として、宿泊特化型ばかりではない一般的な大手ホテルチェーンとして、プリンスホテル(約1.7万室)、オークラニッコー(約1.3万室)、東急ホテルズ(約1.2万室)を挙げました(数字はオータパブリケイションズが行った2016年の調査による)。

リゾートトラストや東急ハーヴェストクラブは、これら1万室台の規模の大手チェーンに匹敵するような不動産のボリュームを持つ、かなり有力なホテルグループだということが分かると思います。また、会員制リゾートホテルのチェーンは、マスコミが行うホテルランキング比較の対象になっていないのが普通ですから、こうした事実はあまり世間に知られてないことであると思います。

さて、この2社を中心に見ていく、というのが今日の議論の枠組みなんですが、実際の歴史の話に入る前に、会員権というものの基本的な性質について見ていきます。

by resortboy

後のパートでは、事業者側から見た「ビジネスとしてのリゾート会員権」について述べますが、ここでは利用者側からの目線で述べます。

「リゾート会員権」、または「会員制リゾートクラブ」という言い方もしますけれど、ともあれ利用者は、まずは会員権を買わないといけないわけですね。

いろいろな呼び方があるのですが、「会員」や「メンバー」になった後は、通常、会員の資格を維持するために、毎年の年会費を支払います。

メンバーとしての資格を得るために会員権を買うわけですが、その会員権の「中身」については「パート2:権利」という部分でお話をします。

ここで概要だけ言いますと、「会員権の権利の源泉」と考えられているものは、不動産そのものです。通常は「ホーム施設」と言われる、ホテルチェーンの中のどこか気に入った施設の「区分所有権」を登記することによって会員の資格を得ます。一般的には、これが権利の源泉であると理解されています。

区分所有権があるから、つまり、ホテルの1部分を所有しているからホテルを安く利用できるのだ、というのが、リゾート会員権というものの本質的なアイディアです。ただし一般のマンションなどと違って、所有するのはお部屋の僅かな部分、例えば1室の28分の1などといった、細分化された所有権になっています。

先ほど説明したように、加入した会員権のチェーンには、数十個所のホテルが全国にありますから、それらに継続的に安く宿泊できるという経済メリットが、リゾート会員権の目的としては一番わかりやすいものになります。しかし、だんだんその経済メリットが失われてきている、という話も後ほどしたいと思います。

次に、ここに「メンバーシップ」と書いてあるんですが、会員権の本質と考えられているものが、いま述べた不動産所有から、最近は「入会そのもの」の方に概念が移動してきています。言わば「選ばれた人たちが入る」ところである、というマーケティングやプレゼンテーションが、リゾート会員権販売の主体になっている面があります。

これから歴史的経緯を見ながら明らかにしていきますが、会員権が豪華になって会員権が高額になってきたことから、メンバーシップという面が強調されるようになってきています。こうした面の合理性については「パート3:心理」のところでさらに検証したいと思います。

最後に「資産性」です。これから歴史の話をしますが、数十年前にリゾート会員権がブームになって、ある程度、世の中に認知されるようになっていった背景には、会員権そのものが値上がりする「投機的な対象」として人気を集めていたという過去があります。

しかしこの観点は今は皆無です。ごく一部のリゾート会員権(東急ハーヴェストクラブの一部施設)を除いては、新規で買って中古で売ると、何分の一にもなってしまうのが普通です。こうした資産性についもまた後ほど取り上げたいと思います。

会員から見た「リゾート会員権」には、このような特徴が見られるということを、まずは明らかにしました。

本論に入る前の導入部分の最後として、この会でリゾート会員権を取り上げている意義について説明します。この勉強会は「ホテル利用学」と銘打ってホテルの利用について学ぼうという会ですが、コアの概念、コアのツールとしてリゾート会員権を据えているのは、「高級ホテルチェーンの追従を許さない部分があるからだ」とお話をしています。

by resortboy

ここで言う高級ホテルチェーンというのは、具体的には、外資系のマリオットであるとかヒルトンであるとか、いわゆる「ステータス」を獲得して色々なベネフィット、例えばラウンジアクセスを得て、言葉は悪いですがタダ飯・タダ酒を得るというような、そうしたホテルロイヤルティプログラムの仕組みを指しています。

ロイヤルティプログラムは航空業界にも同種のものがありますが、それらプログラムの活用をメインとしたホテル利用の世界とは相容れない、それらの追随を許さない部分があると僕は認識しています。

その理由は、僕が提唱しているホテル利用学というものが、ファミリーや家族といったものを価値観の下敷きにしているからです。家族が広いお部屋に一緒に泊まりたいというニーズを満たすには、リゾート会員権を買うしかない、というのが現状です。

例えば、大手ホテルチェーンで先ほど申し上げたようなステータスを使えば、客室アップグレードが行われて広いお部屋に安価に泊まることもできます。大型のリゾートホテルでは7~80平米というような大きなお部屋に泊まることが可能ですが、定員はほとんど2名です。

スペースは十分なのに、法律上泊まれませんから、家族団らんの場としては利用できません。そこが解決しない限り、ファミリーユースを考えた場合には、リゾート会員権を使わざるを得ないのではないかと考えています。

次に、「年間均一料金」というリゾート会員権の特徴を挙げました。これは、先ほど話題にした経済的なメリットの1つですが、年末年始などのハイシーズンに使っても通常期と同じ料金であるというところに会員権の特徴があり、そこが変動価格制である一般ホテルと異なるところです。

また2020年は、「会員制だから安心に利用できる」という、メンバーシップに由来する価値観がより重要になった年でした。まずはコロナ禍で、空間的に広いホテルが望まれています。今日取り上げているホテル群は部屋も広いし施設も大きいので、「密」になることもないという安心感が大きな価値になっています。

また、「Go Toトラベル」によって起こった(一過性の)旅行ブームにおいても会員制のメリットが浮かび上がっています。例えば、「行きつけの(高級)ホテルに宿泊したが、Go Toトラベルの影響で、ホテル慣れしていない客層が来ていて不愉快だった」というような利用者の声を耳にします。これに対して会員制のホテルは、元々会員とその紹介者しか利用しませんから、こうした騒ぎになるような時にも快適に使えるという意見があります。

(次回はリゾート会員権の歴史に入っていきます)

(続き)リゾート会員権論 2「預託金制と共有制」

4 comments

  1. resortboyさん、コロナと諸般の事情で第1回ワークショップに参加できず申し訳ありませんでした。また、早速、「リゾート会員権論1」のまとめ、ご苦労様でした。リゾート会員権の本質が確かなデータを基に簡潔にポイントが押さえられていて、非常に有益な論集になると思います。続編を楽しみにしております。

  2. resortboyさん
    参加出来なかったのでこの講義、とても楽しみです。

    >会員制のホテルは、元々会員とその紹介者しか利用しませんから
    >こうした騒ぎになるような時にも快適に使えるという意見があります。
    残念ながら日によって、それも崩壊しつつあるような…

    レストランで子連れグループが
    「go to だから来れたけど、普段じゃ無理だよねー」と
    だいぶ離れた席の私にも聞こえる大きな声がして
    企業の社員利用らしく会社の実情まで…
    食事中、ずっと煩くて…聞きたく無い内容で
    会員制のホテルなんだという感覚はまるで無しでした。

    売店の商品を粗雑に扱いながら
    「誘ってくれた・・さんには悪いけど
    go to じゃなかったら、こんなとこ来ないよね」
    「そうだよねー」などと本人がいないのをいいことに
    言うわ言うわ、こちらまで悲しくなりました。

    広くも無い露天風呂でぎゃーぎゃー騒ぐアジアの女の子たち。
    聞けば店の客が、安く行けるから泊まる?と言ったとか。
    という事は飲み屋の姉ちゃん?
    (このパターン、go to とは関係無く以前からよく遭遇します。
    オーナーも会員制の自覚無し、ちょっと勘弁)

  3. resortboyさん、とても面白く拝読させていただきました。関西在住で公演に参加出来ないので、今後も連載楽しみにしています^_^

    >リラックマ大好きさん
    私も日頃から同様の懸念を抱いております。
    ホテルが広く利用されるのはいいですが、TPOをわきまえて欲しいと思います(オーナーも安売りしないで欲しいです…)。
    他の宿泊客に迷惑かけるような行動があった等、ホテル側からオーナーにフィードバックすることってあるんでしょうか⁇⁇

  4. funasan、リラックマ 大好きさん、たかすぬさん、応援コメントをありがとうございます。この話題は、世間で誰も広範には研究していませんから、孤軍奮闘という感じです。皆さんのコメントがやる気に影響します!

    コメントいただいた客層の件は、会員制ビジネスを考える上で、とても重要な要素です。今回のレクチャーではちゃんと取り上げられてはいないのですが、「出口」という最終パートに関連する話題です。

    エクシブもベイコートも一部ホテルを覗いては稼働率が低いので、法人会員に集客をかけるなど、会員制としての面に逆行するような営業が、運営企業を通じて行われているのが現実です。そして正式な権利に基づかない利用がスタンダードになりましたから、そうした傾向はどんどん強まっていき、「プライベートリゾート」に回帰することはもうありません。

    一般会員としては、そうしたホテルを避けるようになりますから、稼働率はより下がっていきます。その低い稼働率というのは、会員にとって、そして運営企業にとっていいことなのか、悪いことなのか。これが一概に悪いとは言えないというところに、会員制ホテルビジネスの面白いところがあると思います。

    語り尽くせぬほどに興味深いテーマと思います。続きをお楽しみに!

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