セラヴィリゾート泉郷は今、激的な経営変化の下にあります。そこには組織の構造的な変革があり、今まさにそれに伴う大規模な設備投資計画(リニューアル)が実行されようとしています。もはやセラヴィリゾート泉郷は会員制リゾートクラブ、いわゆる「ガラ権」事業者と見ることはできず、グローバルなプライベート・エクイティ・ファンドの経営哲学に基づいて運営される「資産群」と見るべき状況となりました。
これから数回に渡って、同社の変革の具体的な内容と、リニューアル投資の全体像、そして歴史的文脈におけるその意義を解き明かしてみたいと思います。
これは既存会員にとって、ポジティブな要素が大きいようにも思われますし、そうではないかもしれません。いずれにしても、ガラ権事業者(体裁としては存続しているが現実には実態が消えつつある)の経営変革として、現在進行形の稀有な大型事例です。
サマリー
変革の布石は、2020年に同社が国内投資ファンド「日本企業成長投資」に売却された時点にさかのぼります。そして2025年、同社は最終的にグローバルなプライベート・エクイティ・ファンドであるフォートレス・インベストメント・グループ(以下、フォートレス)の傘下に入り 1、運営する20施設は、フォートレス系列のアイコニア・ホスピタリティ(旧マイステイズ・ホテル・マネジメント)の運営体制に統合されました 2。
そして迎えるはじめての夏の書き入れ時を前に、同社ポートフォリオの大半を占める14施設における広範なリニューアル計画が発表されました 3。これはフォートレスによって、セラヴィリゾート泉郷に対して戦略的な資産価値向上プログラムが始動したことを意味します。
その一方で、同社の創業の地である八ヶ岳エリアの施設群は投資対象から外れています。その背景には、それほど人気とは言えない同エリアにおける大型の競合ホテルの存在があり、長期戦略として慎重、そして機をうかがっているような姿勢が垣間見られます。
フォートレス、アイコニア、泉郷
ホテル業というと、とかく、所有と経営、運営が分割されることが現代的な経営手法であると言われますが、セラヴィリゾート泉郷においては、現在、所有と経営が一体化した、強固なガバナンス体制への移行が進行中です。
まず取り上げる話題は、フォートレスへの売却についてです。フォートレスは、不動産、クレジット、プライベート・エクイティの各分野で巨額の資産を運用する世界有数の投資会社です 4。特に日本のホスピタリティ市場において、近年、大いにその存在感が増してきています。
同社の投資戦略は、単に資産を保有するパッシブなものではなく、多くの場合、経営不振や潜在価値が顕在化していない資産を取得し、自社の専門的な運営プラットフォームを通じて積極的に価値向上を図ることを特徴としています。
フォートレスの日本におけるポートフォリオの主要なものとしては、国内最大級のホテル運営会社であるアイコニア・ホスピタリティ 5(旧マイステイズ・ホテル・マネジメント)、ゴルフ場運営のアコーディア・ゴルフ(2025年に平和に売却 6)、そして日本最大級のホテル特化型J-REITであるインヴィンシブル投資法人 7 などがあります。
旧マイステイズが急速にリゾート分野で頭角を現している事象としては、2022年4月からの「かんぽの宿」30施設の運営開始が印象深いです。現在、これらは「亀の井ホテル」としてリブランドされています 8。今回の記事の冒頭の写真は、亀の井ホテル熱海別館です。熱海駅から車で約10分ほどの高台に位置する絶景のホテルで、一歩足を踏み入れただけで素晴らしい海への眺望に心を奪われます。
そして2025年に入り、セラヴィリゾート泉郷を傘下に入れ、そしてガラ権連載でも紹介した「ラグゼ 一ツ葉 9」「コテージ・ヒムカ」も運営するようになりました。現在、シーガイアの施設はすべてアイコニアが手掛けているのです。
セラヴィリゾート泉郷の買収にしても、単独の取引ではなく、こうした巨大なエコシステムへの組み込みを前提としたものであるということが言えます。
運営業務委託という名の統合
さて、旧マイステイズがセラヴィリゾート泉郷が運営する20ホテル、計1,153室の運営に関する「業務委託契約」を締結したと発表したのは2025年2月3日のことでした 10。
改めてこの公式発表を見ると、一貫して「協業」の体裁が取られています。すなわち、ホテル運営の専門知識を持つマイステイズ(アイコニア)と、リゾート運営、特にペットフレンドリーホテルの草分け的存在であるセラヴィリゾート泉郷が、それぞれの強みを融合させるという、まるで対等な話のように発表されたのでした。
しかし、この「業務委託契約」という言葉の裏には、より本質的な企業再編の現実が存在していることに注目しましょう。この発表は、独立した企業間の対等なパートナーシップを報じるものではなく、同一資本下のグループ内における自己取引の話に過ぎないからです。
前述の通り、フォートレスはセラヴィリゾート泉郷の全株式を取得したオーナーです。そして運営を受託する側であるアイコニア(旧マイステイズ)の親会社がフォートレスです。運営を「委託する」セラヴィリゾート泉郷と、運営を「受託する」アイコニアは、実質的に同一です。
これがフォートレスのスタイルなのでしょう。業務委託契約締結と言いながら、新たに取得したセラヴィリゾート泉郷という資産を、フォートレスが保有する既存の専門的なホテル運営プラットフォームの直接管理下に置いた、という発表であったわけです。
しかし業務委託契約という表現が選択された背景には、セラヴィリゾート泉郷が「老舗ガラ権メーカー」であったことから、コミュニケーション上の配慮があったと推察されます。買収や吸収合併といった直接的な表現を避け、「協業」という物語を提示することで、セラヴィリゾート泉郷が長年に渡り築いてきたイメージと、既存会員や従業員の心情に配慮し、急進的な変化に対する抵抗感を和らげる狙いがあったのではないでしょうか。
完全なるトップダウン
この構造を最も明確に象徴しているのが、主要な経営幹部、たった一人が複数の重要ポストを兼任している点です。新体制において、ガバナンスの頂点から現場の執行までを率いているのが山本俊祐氏です。
同氏が兼任する役職は以下の通りです。
株式会社セラヴィリゾート泉郷 代表取締役 11
株式会社マイステイズ・ホテル・マネジメント(現アイコニア・ホスピタリティ株式会社) 代表取締役会長 12
フォートレス・インベストメント・グループ・ジャパン合同会社 マネージングディレクター 13
このことは、セラヴィリゾート泉郷がもはや独立した主体ではなく、フォートレスの投資戦略を遂行するための一部門となったことを示しています。このようなリーダーシップ構造は、プライベート・エクイティ・ファンドが投資先企業(ポートフォリオ・カンパニー)を経営する際の典型的な手法であるようです。
ファンドは自社のキーパーソンを投資先企業の経営陣に送り込むことで、ファンドの投資戦略と財務目標が確実に実行される体制を構築するわけです。
山本氏が親会社(フォートレス)、運営会社(アイコニア)、そして資産保有会社(セラヴィリゾート泉郷)のすべてにおいてトップの役職を占めることで、セラヴィリゾート泉郷の運営はトップダウン的に意思決定されます。新体制は単なる資本関係ではなく、指揮命令系統においても完全に一元化されたことが示されています。
(続きます)
