リゾート会員権論 11「会員制ホテルの構造的弱点」

2020年12月に東京で開催した勉強会の講演録の11回目です。前回に引き続き、21世紀に入って発展を続けてきたリゾート会員権ビジネスの今後を検証します。今回は、ホテル経営におけるオーナーシップとマネジメントの分離モデルについて具体例を示しながら、その意義について解説します。そして、そのスタンダードなモデルが、リゾート会員権(会員制ホテル)には適用できないという、このビジネスの構造的な弱点を指摘します。

(第1回)リゾート会員権論 1「はじめに・基本的性質」
(第2回)リゾート会員権論 2「預託金制と共有制」
(第3回)リゾート会員権論 3「リゾートブーム・会員権利用の2つの軸」
(第4回)リゾート会員権論 4「エクシブが起こした革命」
(第5回)リゾート会員権論 5「バブルの破綻物件がビジネスを変えた」
(第6回)リゾート会員権論 6「現代のリゾート会員権ビジネス」
(第7回)リゾート会員権論 7「独特なビジネスモデルとその特色」
(第8回)リゾート会員権論 8「高収益ビジネスの中身」
(第9回)リゾート会員権論 9「リゾート会員権の経済合理性」
(第10回)リゾート会員権論 10「リゾート会員権産業の今後の展望」

resortboy:(前回の続き)これはリゾートトラスト2020年3月期の「株主通信」からの引用で、3月末までの実績ですから、まだコロナ禍の影響がそれほどない状況のものです。ホテルレストラン等事業、というところを注目していただきたいのですが、利益のグラフが下に張り付いているのがわかります。ほとんど利益がゼロなんですね。

(画像出典:リゾートトラスト株主通信)

こちらは、同じく2020年3月期のリゾートトラストの利益の比率を事業種別ごとに示したものです(グラフは同社の発表数値をもとに筆者が作成)。会員権事業が7割の利益を叩き出していて、ホテレス部門がほぼ利益ゼロです。それから老人ホームや健康診断などのメディカル部門が3割、というバランスになっています。

この利益バランスをもっと均等にしたい、つまりホテレス部門からも利益を上げたいというふうに、彼らは以前から宣言しているのですが、そうはならずに、むしろ会員権が激売れしていて、そこへの依存がどんどん高まっています。

(注:これまでの解説で明らかにしたように、会員権生産のために稼働率の低いホテルを連続して開発したため、ホテレス部門の利益率がどんどん下がるという結果になっています)

次のスライドは、リゾートトラストの投資家向け資料から採ってきたものです。これには(僕の感覚からすると)とても驚くべきことが書いてあります。

Photo by resortboy

(画像出典:リゾートトラストインベスターズガイド2017年版)

これは彼らのビジネスモデルを自ら説明している図で、いわばメインの図です。ここで説明されている「ビジネスフロー」を見ていきます。一番上のところに会員権販売があります。矢印に沿って見ていくと、次はリゾートホテルの運営です。販売したホテルが運営されます。そして次は、会員のニーズを反映して新たなリゾート施設が開発されます。

これでサイクルが1周することになっていて、さらに、新しい会員権を売ります、それを運営します、次の施設を開発します…というふうにビジネスを回しますよと、彼らは説明しています。

さすがにこれには、ちょっと違和感があるなど、僕は思います。会員権の販売そのものと、リゾートホテルの運営というものが、同じサイクルの輪の中に表現されているというのは、どう考えても不健全ですよね。

どうしてかと言うと、新規の会員権販売ができなければ、このビジネスサイクル全体が成り立たないということを、この絵が表現しているように見えるからです。繰り返しますが、これは彼ら自身が発表している投資家向けの資料による、公式な説明です(僕が描いたものではありません)。

さて、今日の第4部である「出口」というテーマには、「リブランドできないホテルたち」というサブタイトルを付けました。ホテルが健全に運営されていくには、このリブランドという概念が大変重要だと考えているからなんですが、ここで会員制から離れて、普通のホテルの運営というものについて目を向けてみます。

普通のホテル経営でよく言われていることは、「所有」と「経営」と「運営」の3つの要素を別々の会社が担当することを、三角形の図で説明することが多いです。これがグローバルスタンダードなホテルの経営形態なんですが、日本の場合はそんなにきれいに分かれていることはあまりないようです。

こちらのスライドは、「オークラニッコー」グループのマネージメント会社のホームページから採ってきた図です。ここでは、オーナー会社は土地建物を保有していて(所有)、従業員を雇用しています(経営)。そして運営会社としてオークラニッコーが入っているという形態です。

(画像出典:オークラニッコーホテルマネジメント)

運営会社の一番目立つ役割は、そのホテルのブランドオペレーションです。マリオットやヒルトンなどの国際チェーンが一番わかりやすい例です。

それぞれのブランドに沿った形でオペレーションチームを組んで現場を指導したり、支配人やコアスタッフを派遣したり、マーケティング活動や代理店との交渉、各種システムの導入やトレーニング、それにさまざまな調達をやるとか、ホテル運営の全般を、この場合はオークラニッコーがチェーンとしてのスケールメリットをもって実行しますよ、ということを、この図では説明しています。

この図が端的に表しているように、ブランドオペレーションとオーナーさんはまったく別ですよ、というのが普通のホテルのあり方です。

例えば今、私が住んでいるお台場にある「ヒルトン東京お台場」というホテルは、元は「ホテル日航東京」だったわけです。日航にいろいろあった結果、マネージメント(運営)の会社が変わりました。けれど、働いている人(経営)は継続しているわけです。

(注:具体的には、ヒルトンのブランドオペレーションの下で、「株式会社東京ヒューマニアエンタプライズ」という会社が、日航時代から一貫して経営を担当している)

そのヒルトン東京お台場の後ろにあるホテルは、オープン当初は、今はマリオットのブランドである「メリディアン」でした(当時の正式名称は「ホテル・グランパシフィック・メリディアン」)。その後、このホテルは流れ流れて今は「グランドニッコー東京台場」になっていますね。けれど、働いているスタッフの人は以前と同じです。運営の変更によって名刺が変わっただけです。

(注:具体的には、オークラニッコーのブランドオペレーションの下で、京浜急行電鉄の子会社だった株式会社ホテルグランパシフィックが株式譲渡によって株式会社グランドニッコー東京となり、継続的に経営を担当している)

(注:冒頭の写真はお台場の海側から見た2つのホテル。かつてホテル日航東京だったヒルトン東京お台場と、かつてメリディアンだったグランドニッコー東京台場)

このように「運営を変える」ということがホテルを活性化して長く使うっていうことに寄与しているわけですが、ここでもう1つ別の例を出してみます。

昨年(2019年)名古屋に行った時に、名駅の近くの「ザ・サイプレス メルキュールホテル名古屋」というホテルのレストランで食事をしたことがありました。僕はこのホテルをよく知らなかったのですが、好感を持ったので後で調べてみました。

するとこのホテルは、1992年のオープン当初、「ホテルセンチュリーハイアット名古屋」として作られたことがわかりました。最初は小田急が作ったんです。その後、小田急が事業を再編する時に手放して、一時は国際ブランドから外れていました。「サイプレス」というのは、小田急から地元の会社がホテルを取得した時に付いた名前です。

その後、フランスのアコーホテルズが契約をして、アコーの高級ラインである「ソフィテル」を名乗ることになって、「ソフィテル・ザ・サイプレス名古屋」になりました。もともとセンチュリーハイアットですから、そこそこ豪華なホテルなのです。ソフィテルのロゴにも「ラグジュアリーホテル」って書いてあります。

でも、僕が行った印象では、今の時代の水準で豪華とは思えないんですね。もう開業から30年近くも経っているからです。だから、今から10年ほど前(2011年)にソフィテルからリブランドして、「メルキュール」というアコーの中で中級ホテルに位置づけられるブランドに格下げになって、今に至っているわけです。

Photo by resortboy

(写真は現在の「ザ・サイプレス メルキュールホテル名古屋」のロビー。開業から30年を経た現在においては、中級ホテルと呼ぶのがふさわしい)

スライドのタイトルに書きましたが、このようにホテルは「リブランドしながら居場所を探す」ということがよくあります。一番感じるのは海外旅行の時です。

例えば、台湾に昔あったインターコンチネンタルホテルは、今は別の「インペリアル」という独自ブランドのホテルになっています。それは要するに、開業時と今とでは国際ブランドが求める水準も違っているから、ホテルがボロくなったらインターコンチネンタルを名乗れなくなる、ということなんだと思います。

Photo by resortboy

(写真はかつてインターコンチネンタルであった「台北華國大飯店(インペリアルホテル台北)」。今でも十分に豪華さを感じるロビーだが、天井が低いなど築50年を数える古さは拭いきれない)

契約ごとですから、ブランドマネジメントをしている運営会社が判断をしたとか、もとの契約が切れたとか、事情はさまざまだと思いますが、海外にはこうした「元なんとかホテル」がたくさんあります。それによってそのホテルの価値が失われたわけではなくて、リブランドすることで適正なマーケットを「再び見つけていく」わけです。

一方で、リゾート会員権、会員制リゾートホテルの場合は、ホテルを所有しているオーナーが会員で、利用者とイコールだというところに、かなり決定的な矛盾があるように思います。

先ほど話したように、ホテルが20年、30年と経過して魅力が薄れていけば、普通のホテルオーナーは当然、マネージメント会社や運営方法を変えて何とかしよう、というふうに思うわけですよね。

けれども、リゾート会員権のオーナーはホテルを所有しているのに、利用する以外の権限がまったくないんですね。例えば利用をして「応援をする」とか、そういうことはできますけれども、経営的なことに手を出せる仕組みにはなっていません。

例えば、ハワイなどの海外のタイムシェアリゾートだと、もっときちんとした区分所有権がベースになっていますから、オーナーの権利や声を吸い上げるような「理事会」のようなものが普通にあると思います。けれども、日本のリゾート会員権では、会員としてもそうしたものは面倒くさいし、形式的なものになりがちです。その結果、オーナーであるのに利用以外の権限がないという事態について、会員は疑問にも思っていないように思われます。

(続き)リゾート会員権論 12「問われる既存施設のサステナビリティ」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です