前回は、「日本初の寺院山門と一体となったホテル」の中に入居しているガラ権「東急バケーションズ大阪 御堂筋」の、建築と課税にまつわる物語(裁判)についてお送りしました。今日はそのホテルを見ながら、数奇な運命をたどった「東急バケーションズ」というリゾート会員権の歴史を振り返り、日本に根付かなかった「ワールドスタイルのリゾート利用」について記録します。
(公式)人気のホテル・別荘をシェアできる会員制リゾート「東急バケーションズ」|
訪問
東急バケーションズ大阪 御堂筋は、2019年11月1日の「大阪エクセルホテル東急」の開業とともに、同ホテルの15階に3室を間借りしてオープンしました。ホテルの建物は真宗大谷派難波別院の「山門」であるということになっていて、間口の広い御堂筋に面した正面は「通路」という立て付けになっています。
そのため、ホテルの入口は「横」にあります。
ホテル全体は御堂筋の超一等地に立つシティホテルそのものです。広々としたレセプションラウンジ(冒頭の写真)や、フロント横のレストラン・バーなど、ラグジュアリーホテルと呼んで差し支えないほどです。マリオットの最高級ブランド、セントレジスホテル大阪がすぐ近くにありますが、ハード面で東急が負けているとは思いません。
このホテルの客室配置は以下の通りです。最上階の2フロアがパブリックスペースになっていますが、16階の半分は「THE MIDO FLOOR」と呼ばれるいわゆる特別室となっています(6室)。
東急バケーションズはその下の15階にあり、客室は2LDK(約67㎡)、6名定員のファミリータイプで、このホテルで最大級の面積を持ちます。トイレが2つあるのはこのガラ権の伝統的仕様です。
つまり東急バケーションズは、このホテルの一番よい客室に割り当てられているわけです。宿泊はしていないので、客室写真は報道発表資料によるものです。
歴史
ここで、このホテルが開業した時点(2019年)における、東急バケーションズのガラ権としての販売スペックを見ます。
開業時において東急バケーションズは主にポイント制でした。購入例としては、250ポイントを5年間、という利用権が130万円でした。古い読者の方はあれ?と思われるかもしれません。かつての「東急ビッグウィーク」は「マイウィーク」の名称で施設と時期を特定して、宿泊権利を1週間単位(7泊8日)で購入する商品ではなかったのか、と。
というわけで、このリゾートクラブの歴史を紐解いていきましょう。
かつての東急ビッグウィークは、その名の通り「週単位の利用権(マイウィーク)」を販売するリゾート会員権でした。1999年に東急(当時の東京急行電鉄)がタイムシェア事業を開始するのですが、今に至るまで、日本には珍しい世界標準の「1週間のバケーション」を販売するものでした。
2017年3月までの間、事業の中心は「1年のうち選んだ1週間を過ごす」タイムシェア制の「マイウィーク」でしたが、これに併せて1泊から使える「フレックスポイント」も提供されていました。
振り返れば、このクラブの歴史は苦渋に満ちていて、「一度も成功したことがない」という印象が僕にはあります(利用者の満足度とは別です)。システムの変遷をすべて追いきれません。そこでまず、東急の社史から大雑把に振り返ります。
当社の会員制リゾート事業であるビッグウィークは、1年間の内あらかじめ選んだ1週間をゆっくりと過ごすタイムシェア制の「マイウィーク」と、好きな時期に好きな施設を1泊から楽しめる「フレックスポイント」のプランを提供していたが、2017(平成29)年3月にはこれらの新規販売を終了。利用権に相当するシェアリングポイントによる運営に移行した。
(引用元)9-6-2-1 会員制リゾート事業の転換と新規開業|東急100年史 9章 2015-2022|東急株式会社
「会員制リゾート事業の転換」と明記して、東急(本体)としていかに難しい事業であったのかが淡々と綴られています。「シェアリングポイント」による運営へ移行した2017年に、運営会社名が「東急シェアリング」となり、サービス名称も東急ビッグウィークから「東急バケーションズ」に変更されます。
そしてコロナ禍を経て、2022年には先祖返りするような形で再度リニューアルされます。
これが東急バケーションズの(現時点での)最終的な販売形態で、毎年同じ7泊以上の日程を確約して5年または10年間で契約する「バケーションマスターズ」と、1泊から都度払いの「バケーションスタイル」の2本立てにリニューアルされました。
RCI
話は前後しますが、タイムシェアリゾートとして世界標準のシステムを日本に導入する試みとして、東急は2015年、ビッグウィークのマイウィークをRCIと接続します。
苦労の末の変遷の中でポイント制を導入した結果、同クラブの施設利用権を「トレーディングパワー」として正確に決定し、グローバルな交換利用への相乗りを実現したのです。これは、2013年に一方的にRCIとの提携を放棄したリゾートトラストとは対照的であり、真っ当な事業提携としてガラ権史に刻まれるべきものです。
断念
こうして東急は、何度も何度も、海外型の休暇スタイルを日本に取り込もうと、このリゾートクラブを27年に渡って運営してきました。しかし現在、2023年の東急のホテル事業再編の影響で、東急シェアリングという会社は姿を消しています。
そして今、東急バケーションズは再びその事業を転換しようとしています。2025年9月には主力商品の「バケーションマスターズ」の販売が中止されてしまうのです。
その理由は(もちろん)明らかにされていませんが、前掲の東急社史にはヒントになる記載があります。
会員の高齢化や既存の前払い会員権の販売鈍化、施設スペックに対する宿泊単価の低迷など、将来的な収益性低下の懸念に対応し、若い世代のニーズを取り込むことを狙い、2022年には会員権商品のリニューアルを実施。7泊以上施設・時期固定の10年会員権「バケーションマスターズ(2月販売開始)」と、1泊から都度払いで気軽に利用できる「バケーションスタイル(7月販売開始)」の二本立てに改めた。
2022年のリニューアルは「会員の高齢化」「前払い会員権の販売鈍化」「施設スペックに対する宿泊単価の低迷」が理由であると記録されています。そして「将来的な収益性低下の懸念に対応」したものであったとされています。
その中で東急は再度、7泊以上という原点に戻った商品を販売するに至ったのですが、結局それも3年ほどで断念されることとなりました。
いま、一般ホテル市場の客室単価は上昇局面です。価格を長期固定してしまう会員権モデルは、事業者側から見るとアップサイドを取りにくいというデメリットばかりが目に付くのでしょう。リゾートトラストや東急不動産と違って、ホテルを建てるために会員からファイナンスをするシステムではありませんから、デメリットはなおさらのことです。
「インフレ・単価上昇下で固定を増やしたくない事業者マインド」が、東急がずっと苦労してきた日本人の「予定を固定したくない、1週間も休めない、会員マインド」と組み合わさることになりました。東急バケーションズのブランドは、都度利用(バケーションスタイル)だけで新規募集を継続しているものの、本丸の長期滞在商品の販売は辞めるという決断に至ったわけです。
必然
自民党の地滑り的大勝利で株高に湧く日本経済は、ドル安の中の円安で、その国富をみるみる失っています。そんな中、東急バケーションズが再度挫折したことは必然であり、東急が再び日本人向けの長期滞在事業に取り組めるかは、極めて困難な状況と言わざるを得ません。
東急ビッグウィークから東急バケーションズへの変遷は、週固定の所有に近いモデル、つまりヒルトン・グランド・バケーションズを日本風に翻訳したようなものからスタートし、同様にそれをポイントによる柔軟な利用に発展させました。そして正確な運営をもってRCIとの提携を真っ当な方法で実現し、交換と長期滞在という海外のリゾートクラブの文脈を、なんとかして日本に持ち込もうとしました。
以下の告知にあるように、初期の施設は老朽化が進んでいます。おそらくこのまま静かに、誰にも気づかれずに、このリゾートクラブはひっそりと消えていくのではないでしょうか。
(参考)東急バケーションズ軽井沢 敷地内配管等の改善工事実施のお知らせ|ホテル・別荘のリゾート会員権なら東急バケーションズ










