ガラ権の広告塔「日本一短い私鉄」を見に行く

「会員制ホテル今昔物語」は、35年に渡ってリゾート会員権についてウォッチされているzukisansuさんによる連載です。日本で独自の発展を遂げたリゾート会員権、すなわち「ガラ権」の歴史をたどることで、日本的文化とは何か、日本人とは何かを、過去に学び未来を見通す―そんな奥行きのある連載として、僕から特別にお願いし、zukisansuさんにしか語れないこのテーマでご執筆いただく運びとなりました。どうぞご期待ください。(企画・制作:resortboy)

2024年の本連載では、北は北海道と、南は南九州3県を測量し終え、これからしばらく、関西の南部を訪れます。筆者は成田空港へのアクセスが良いエリアに住んでいるため、LCCを利用して関西空港に飛び、そこからレンタカーで「関西ぐるぐるドライブ」の旅を、幾度やったか数え切れません。

その中でももっとも歯ごたえがあるのは、紀伊半島の海岸線を巡ることで間違いありません 1。もちろん、今や高速や自動車専用道路が整備され、和歌山最南となる串本町の手前まで開通しています。これらを使えば楽々ドライブなわけですが、それでは島国日本の海岸線の美しさを堪能できません。

歌人が詠んだから和歌山

筆者は関西空港でレンタカーに飛び乗り、下道を進みます。ほどなく淡路島側に突き出た「紀州加太」を通ります。せっかくですからこの突端にある休暇村 2 に立ち寄りましょう。太陽が眩しい素晴らしい景色でした。

続いて、やや混雑する和歌山市に入ります。宮崎編で新婚旅行先の変遷をご覧になった読者は、ここで「和歌の浦 3」のことを思い出されるはずです。

これから目指す南紀白浜とともに、関西近場の新婚旅行先として選ばれてきた日本遺産のビーチ 4 は健在です。和歌山県も和歌山市も、ここの美しさを多くの歌人が詠んだ「和歌」から名前が発祥したのは、ここに来れば実感がわくというものです。

不動産業者の広告塔として

観光案内はこれくらいとして、老舗ガラ権メーカーの「名前の発祥の地」へと急ぎます。日本最短 5 わずか2.7キロの私鉄「紀州鉄道」のある御坊(ごぼう)市に着きました。

鉄道ファンの間でこの最短の鉄道は有名で、訪問記は無数に存在しますが、ガラ権ファンの訪問記は見たことがありません。それもそのはず。この最短私鉄は、リゾート会員権などの不動産事業への信用付加を目的としたもので 6、沿線にホテルがあるわけではないのです。

鉄道ファンに不動産事業は関係ないのでブログなどにその話は出てきませんし、ガラ権ファンにおいては路線沿いに施設があるわけでもないので、訪問する必要がありません。

日本リゾートクラブ協会発足当時から 7、クラブ名を何度か変えながら、現在に至るまでずっと存続・加盟していて、一度も倒産実績のない歴史あるリゾートクラブの広告塔であるのがこの紀州鉄道です。

紀州鉄道線の始発駅である御坊駅に来ました。その鉄道そのものをついにこの目で見る日が来ましたので、筆者はワクワクです。

あれ?、始発駅が見当たらない(泣)。どうやら、JR御坊駅の入口の中に発着所があるようでした。

車を停めて中を見たいと思ったのですが、パトカーが数台見張っておりました。ガラ権私鉄見たさに青切符では割に合わないのですが、場所柄パーキングも探せず、離れた所からJR御坊駅を確認してこの地を去りました。

次に、終点に行って見ましょう。

紀州鉄道線はその昔、「御坊臨港鉄道」という名称だったそうで、終点は日高川岸に達していたようですが、現在は西御坊駅までとなっています。

始発の御坊駅から車で約10分、終点の西御坊駅は無人駅であり、小屋と看板があるのみでした。ホームには一両だけの車両が停まっていました(冒頭の写真)。

区分所有型リゾート会員権の元祖

紀州鉄道線は、御坊臨港鉄道が出来た時から今に至るまでずっと赤字でしたが 8、その後、ガラ権の広告塔として買い取られたという点でも、日本一短い私鉄であるだけでなく、日本一不思議な存在であります。

紀州鉄道のリゾート会員権は、鉄道の名を冠して販売された「紀州鉄道コンポーネント・オーナーズ・システム」が有名です。これは昭和52年(1977年)に商品化されたもので、現在の日本のリゾート会員権(その代表例はエクシブ)の制度的な元祖となるものです。

元祖と言えるのは、ホテルや別荘、リゾートマンションを部屋単位で小口分譲し(共有制リゾート会員権)、さらにそれらを束ねて相互利用できるようにした、というものを彼らが作ったからです。同社は日本ガラ権史においては大変に重要な位置にありますので、ホテル施設を訪れた際、稿を改めて書きたいと思います。

紀州鉄道が主に開発したのは、北軽井沢と嬬恋村という群馬県の長野寄り(軽井沢に隣接)の場所です。別荘分譲も含めて大掛かりな開発をしていますので、本連載で群馬・草津あたりを巡る際にしっかりご案内いたします。

鉄道事業も一度敷設したからと言ってとずっと安泰ではありませんが、線路そして列車という誰が見ても明らかな資産を持つこととなるため、一般的に、「経営が安心」「信用がおける」というイメージがあると思います。

紀州鉄道はそのイメージを利用してリゾート会員権を売った企業であり、鉄道事業が発展して事業を拡げてリゾート開発を手がけた、というような普通の流れとは真逆の話です。鉄道ファンには関係のない話でも、ガラ権ファンとしては興味深い話題ではないでしょうか。

今回は、老舗ガラ権の広告塔として現存する鉄道のみのご紹介に留め、今後の同社関連記事への序章といたします。

東急ハーヴェストクラブ南紀田辺

御坊市も歴史ある古い街なので、古いお寺「道成寺」9(歌舞伎の「道成寺物」のルーツ)が近くにあったりします。それらを訪ねているうちに暗くなってきました。

先を急がないといけないため、途中にあるかつてのガラ権「ダイワロイヤルメンバーズクラブ」の一員で、今はアコー系の高級バージョンとなった「グランドメルキュール和歌山みなべ 10」を訪問するのはスキップし、南紀白浜に向かいます。

この日は南紀白浜に投宿しましたが、そこに至る手前に、巨大な「東急ハーヴェストクラブ南紀田辺 11」が目立ちます。

ハーヴェストクラブ南紀田辺は、白浜市に入る手前に位置する田辺市の、田辺湾に面した土地に建つ、3つの建物からなる大型施設です。

ハーヴェストクラブとしては、1993年3月の関西出店第1号であり、力が入っています。3つの建物はA棟、B棟、C棟と呼ばれ、AとCがリゾートマンション、真ん中に挟まれたB棟がハーヴェストクラブで、これだけで187室もあります 12

A棟とB棟は18階建てのウィング状の対になり、区切られてはいますが、一体化した建物とも言えます。東急の得意とする、リゾートマンションとハーヴェストクラブの合体型施設としても最大級のものです。

全室オーシャンビューの優れたロケーションで、裏側にはやはり巨大な自走式立体駐車場を備えます。

筆者はこの日、訪問時はすでに真っ暗であったため、日中の写真は報道用のものを引用しました 13

田辺市も源平合戦の弁慶などで有名な歴史ある町ですが、リゾート地とは言えません。東急は、なぜエリアで一番有名なすぐ先の白浜市に施設を造らなかったのかとやや疑問でしたが、これだけの大型施設を造るだけの用地が確保できなかったというのは、この後たどり着いた南紀白浜の密集具合と賑やかさを見て納得しました。

次回はその南紀白浜です。


  1. 著者のzukisansuさんと編集のresortboyの間では、お互いの取材活動を「測量」と称している。これはもちろん、伊能忠敬に自らをなぞらえてのことである。 ↩︎

  2. ぬめりのある温泉と、どこからでも紀淡海峡に浮かぶ島々を一望できる宿として人気がある。
    休暇村紀州加太【公式】《ベストレート保証》 ↩︎

  3. 和歌の浦観光協会 オフィシャルWEB | 和歌山県 和歌山市
    日本遺産 絶景の宝庫 和歌の浦|オフィシャルサイト
    絶景の宝庫 和歌の浦|日本遺産ポータルサイト ↩︎

  4. 万葉集に歌われた言葉「潟をなみ」から派生して、相撲部屋の年寄名跡の名前のルーツともなった「片男波海水浴場」は1,200mに及ぶ広大なビーチである(ただし砂浜は人口)。
    和歌山市内で広がる砂浜!海水浴ができる「片男波海水浴場」 | 和歌山道の駅ドットコム ↩︎

  5. スペック上の最短は、京成電鉄の成田空港駅に接続している「芝山鉄道」だが、相互乗り入れの一駅分だけの別会社であり運転業務は京成電鉄が行っているので、本連載においてこれは対象外として考える。
    紀州鉄道
    芝山鉄道 - Wikipedia ↩︎

  6. 紀州鉄道株式会社 History
    紀州鉄道 - Wikipedia ↩︎

  7. 日本リゾートクラブ協会は、社団法人としては1988年の設立だが、前身となる業界団体は1986年に設立されている。1986年のメンバー企業は以下の通り。総合経営(ダイヤモンドリゾート)、紀州鉄道、大倉建設、エメラルドグリーンクラブ、リゾートトラスト、東京信用販売、国際リゾートサービス、泉郷(当時はひらがな表記)。日本経済新聞の記事には、この順番で参加企業が紹介されており、それは当時のリゾート会員権メーカーの力関係を示している。
    8社が参加、会員制リゾートクラブに業界団体。 | NIKKEI COMPASS - 日本経済新聞 ↩︎

  8. 赤字鉄道部門 紀州鉄道なぜ存続させるか?ホテルリゾートで知られる企業 社長に聞いた | 乗りものニュース- (3) ↩︎

  9. 道成寺 ↩︎

  10. グランドメルキュール和歌山みなべリゾート&スパ【公式】|Grand Mercure Wakayama Minabe Resort & Spa ↩︎

  11. 南紀田辺│東急ハーヴェストクラブ -TOKYU Harvest Club- ↩︎

  12. 現在でもハーヴェストクラブ最大の室数を誇る施設である。時点は熱海伊豆山(VIALA含む)の182室。
    東急ハーヴェストクラブ発展史の草稿メモ|東急ハーヴェストクラブの話題 – resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究 ↩︎

  13. 日本一のジャイアントパンダファミリーに会いに行こうアドベンチャーワールド入園券付き宿泊プラン | 東急リゾーツ&ステイ株式会社のプレスリリース ↩︎

文・撮影:zukisansu、企画・考証・制作:resortboy。バックナンバーはこちら

3 comments

  1. 義父が紀州鉄道元会員です。
    特に箱根ホテル(強羅)は泉質が良く、利用料金も安くて何度も利用させていただきました。
    建物は昔の公団住宅似で高級感はありませんが広くてのんびり出来、景色もなかなか。
    子供にはあまり贅沢をさせたくない我が家の方針にもピッタリで、もし今あれば欲しい会員権です。

  2. belairさん

    ガラ権今昔物語、ご愛読ありがとうございます。
    そして、今回の拙稿に対しまして、昔懐かしいコメントを頂戴し、大変嬉しい限りです。
    お返事が遅れてしまったのですが、奇遇ともいえる事情がありまして、おコメ返しが
    本日になりまして、失礼いたしました。

    奇遇ともいえる事情とは、コメント頂いた時点で、たまたま現地付近(と言ってもやや離れた場所ですが)を測量中であったのですが、「もし今あれば」のところで、そういえば強羅のはどうなったのかと気になり始め、急遽、測量ルートに「紀州鉄道箱根強羅ホテル&ヴィラ」を追加することしまして、現地を確認してきたということ、です。

    そこでは、私の持論「いくらネット等で情報は得られても、物件は現地を確認したうえででないと、正しい理解は得られない」というのに、ぴったり当てはまる光景を目にしたのでありました。

    帰宅して、簡単にこの施設の現地視察レポート草案を作り、resortboyさんに「写真入りで
    FANBOXの方に、投稿できないだろうか?」と相談しましたところ、快諾のお返事を頂きました。なるべく早く稿了したいと思いますが、resortboyさんの編集を経て、数日中にアップできる段取りが出来ましたことをご報告させていただきます。

    紀州鉄道の各施設のガラ権連載でのご案内は、かなり先になりそうで、現時点では、広告塔であった鉄道の方を見て、思い出しながら資料を集めている段階で、表ブログのガラ権連載に書くだけの正確な年次的考察や背景の深堀には至らないため、表面的なレポートとなりますが「現在進行中のガラ権界隈の急激な変化」をタイムリーにお伝えする好材料と判断しましたので、FANBOXにてご覧いただければ、幸いです。

    ガラ権連載は、見て歩き今昔物語としてゆっくり進めておりますので、その補完として、
    今回のようにコメントを頂いた際の「ガラ権施設NOW!」みたいなレポートは、その都度
    FANBOXの方にアップさせていただこうと思っています。
    両方併せて、お読みいただければと思いますので、どうぞ、よろしくお願いします。

  3. zukisansuさん

    現地視察レポート、楽しみにしております!

    zukiさんとは先日のオフ会で直接お会い出来、その節はお世話になりました。
    普段ネット上だけでのお付き合いの人であっても、出来るだけ会っておきたいな、と思っています。お書きになった文章が、よりリアルに伝わってきますし。

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