東急ハーヴェストクラブは、立地のいい観光地に展開する会員制リゾートクラブとして、最も安定したガラ権ブランドといえます。しかし、軽井沢や箱根などの主要ロケーションが順調な一方で、そうでないように見える施設も散見されます。
実際この数年、施設ごとに「誰が所有し、誰が運営し、どのブランドで売るか」というレイヤーが少しずつ組み替えられています。
ハーヴェストクラブでも初期のホテルは老朽化し、クラブ永続のための「次世代への準備」として、全体への影響を限定しつつ整理を進めるプロセスが進んでいることがわかります。これは、ブランドやシステムを追加・変更しながらも「一枚岩」として巨大船団方式で運営されるリゾートトラストとは、かなり対照的です。
キーワードは、資本(アセット)を軽くしつつ、運営(オペレーション)とブランド(チェーン)を必要に応じて残す・入れ替える、という、「個別対応のクラブ設計」です。
4つの類型:東急はどこまで残るのか
2026年1月時点の状況を整理すると、個別会員権の変化に伴う東急(この文脈では「東急不動産」の意味)の関与は、概ね4つの類型に分けられます。
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会社ごと移る(東急ばなれ):天城東急リゾートで顕在化した「運営会社ごと売却」。
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資本を外し運営を残す(アセットライト化):勝山で顕在化した「所有は外部、運営は東急で継続」。
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地場案件にブランド相乗り(外様安定型):静波海岸や山中湖のように、地域オペレーターが土台を持つケース。
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預託金制クラブの積極的な閉鎖:上記の類型と組み合わせて実施。勝山や裏磐梯は契約満了前の解散。
こうしたバリエーションが成り立っているのは、東急ハーヴェストクラブの実態が、「同一チェーンの直営網」というよりは、むしろ契約・所有・運営の組合せで成り立つ「連邦制」に近いものだからです。
そもそも販売時点から、東急不動産が分譲し、東急リゾートが販売し、東急リゾーツ&ステイが運営するという、独立した別法人による集合体でビジネスが構成されています。ここも、全部がどんぶり勘定になっていると見られるリゾートトラストとは、対照的です。
時を経て、東急が部分的に、または全面的に手放すところが個別に出てきていますが、そのようにほころびが出ても、「個別にパッチ」できるのがこのリゾートクラブの強みと言えます。
もちろん会員にとっては個別のホテル契約ですから、購入タイミングなどによっては「貧乏くじを引かされた」というケースもあるでしょう。僕も所属クラブが契約満了前に解散したら悲しいです。
それでも、全体が維持されることのサステナビリティをここでは評価しておきたいと思います。
では、個別のケースを見ていきます。
天城高原:最も強い「東急ばなれ」
天城高原(東急天城リゾート)のケースは、最も大胆な東急離れです。以下は同ホテル公式のご挨拶で、今後もハーヴェストクラブとしての運営は継続されることが示されています。しかしその実態は、東急からのリゾート全体の完全な切り離しです。
このリゾートは全体が日本テーマパーク開発というまったく別の会社に売却されます。その実行はことし3月1日。以下が現在入手できる、唯一の公式発表です。
(報道発表)天城東急リゾートの運営に参画 | ニュースリリース | テーマパーク経営の企画及びコンサルティング 日本テーマパーク開発株式会社
具体的には、このリゾート地を開発・運営してきた「伊豆観光開発」の全株式が東急不動産から売却され、会社として完全に東急サイドから切り離されます。
ホテルは分譲していてほとんどのオーナーシップは会員にありますが、オペレーションを担当する東急リゾーツ&ステイも手を引き、運営レイヤーにおいても東急から外へ移ることが決まっています。ただし、リゾートクラブとしての「東急ハーヴェストクラブ天城高原」は存続します。
このように、「所有(資本)と運営(オペレーション)が同時に東急圏外へ移る」「クラブ自体は存続する(所有は会員だから)」のは、ハーヴェストクラブとしてはじめての事例です。
リゾートクラブそのものは存続するものの、東急ばなれが最も強いこの事例で注目すべきは、単なる譲渡ではなく、「お化粧」が契約に含まれていることです。
東急は3月1日の株式譲渡に先立ち、東急不動産として伊豆観光開発へ多額の増資を行うことを約束しています。増資の目的は、この別荘地の施設インフラの将来的な設備投資(CAPEX)への対応であることが明かされています。ブラックな話題を含むので、以下で解説しています。
また冒頭の写真にあるように、天城高原ではホテルそのものでもこの売却決定後に大規模修繕が行われました(2025年12月resortboy撮影)。これは予定されていたものであったかもしれませんが、ホテル売却に伴うCAPEX対応として、通常のハーヴェストクラブが行う会員負担のものとは別に行われた部分もあるかもしれません。
まとめると、「地域インフラを抱えたリゾート開発そのものを手放す」ために、「売主側が資金を入れてから引き渡す」という流れです。これはかなり異例な事態であって、次の章で見ていく勝山とは決定的に違います。
勝山:会員制は終わるが、ホテルは東急のまま
いま、東急ハーヴェストクラブのホームページを見ると、まっさきに以下のビジュアルが目に飛び込んできます。
東急ハーヴェストクラブ スキージャム勝山。しかし、このクラブはもうすぐ閉鎖。契約満了前に終わります。ホテルを含むリゾート全体が外資に売却されました。天城高原よりももっと過激に見えますが、ここ勝山で起きていることは、似ているようで違います。
勝山では「HVC(会員制)を畳み、一般向けホテルへリブランドし、東急ホテルズの枠に入れる」という、ちょっと理解しがたいことが起きています。
しかも、運営自体は引き続き東急リゾーツ&ステイが継続します。詳しい方はクエスチョンマークが頭の上を飛び交うでしょう。「なぜクラブを契約満了前に解散したのに、そのままの会社が運営を継続するのか」と。
ブランドは東急として残すものの、事業整理の過程でリゾートの所有そのものが、先に外資へと移管されているのです。
(参考記事)スキージャム勝山運営会社の筆頭株主 APL・山内氏に聞く :日刊県民福井Web
資本(所有)を外に出し、運営は残す。これはプリンスホテルなどでも見られる一般的な「アセットライト化」で、天城高原の「会社ごと移管」とは逆方向の整理です。しかし、会員制リゾートクラブ側から見れば「スキージャム勝山 クラブ終了について」との一方的な告知で「カットアウト」されたことは、ガラ権史上もっとも衝撃的な事件です。
契約期間満了前の解散としては裏磐梯グランデコも同じですが、勝山は東急ブランドを残し、運営を同じ会社が継続するのに、なぜ会員だけ追い出したのかはよくわかりません(わかるような気がしますが、憶測に過ぎないので書かずにおきます)。
ホテルは「ホテルハーヴェスト(または東急ハーヴェストクラブ)スキージャム勝山」から「JAM福井勝山東急ホテル&リゾーツ」へ名称を変え、東急(不動産ではなく電鉄の方)の「東急ホテルズ」のチェーンに加盟し、「東急リゾートホテル」ブランドとして、これまで同様、東急不動産子会社である東急リゾーツ&ステイが運営します。
(報道発表)【スキージャム勝山・福井県勝山市】スキージャム勝山リブランドのお知らせ | 勝山高原開発株式会社のプレスリリース
4月1日のリブランドを前に、もう新しいホテルとしての予約がスタートしています。
静波海岸、その他の「濃淡」
上記の2つが典型ですが、よりこうした再編の構図を理解するために、他の拠点も見ておきます。
静波海岸:外様でも安定しやすい
東急ハーヴェストクラブには共有制と預託金制があり、古い共有制にはクラブ存続期間の定めがありません。今回の天城高原の事例では、その状態で全体が外部に切り離されたので、非常に不安定な印象を持ちます。
しかし、同様に外部が主導権を持つ共有制(かつ期限の定めがない)のハーヴェストクラブも存在します。それは静波海岸です。
東急ハーヴェストクラブ静波海岸は、ハーヴェストの中でも特殊です。共有制であるにも関わらず、事業主体が地場事業者である静岡鉄道(静鉄)であるからす。
このホテルは「静波リゾートホテル スウィングビーチ」とのダブルブランドですが、ハーヴェストクラブ部分は預託金制で募集したのではなく、分譲しているという珍しいケースです(カハラ横浜と似た形態)。設立当初から東急リゾーツ&ステイの関与は限定的です。
静鉄は過去からずっとこの地でビジネスをしており(かつてここには「静鉄海の家」があったし、バス便もある)、もともと東急側の関与が薄く、「地域オペレーターが責任をもって運営していく立場」となっています。
天城高原のように「面(会社・インフラ・運営)」が一気に抜けることはなく、不確実性が「最初から薄い」類型です。天城高原の場合は、新しい運営元が歴史の浅い企業だから不安に感じますが、構図としては同一と言えます。
南紀田辺:改修は延命かお化粧か
今回の記事をまとめるために動向を確認する中で、気になったのは南紀田辺です。現在、大規模な客室リニューアルとレストラン改修が進んでいて、天城高原に取材に行った僕には、「ここもそうなのか?」と思わせるものがありました。
しかし、このホテルは3棟から成るビッグリゾートで、2棟はリゾマン。そしてそのリゾマンは東急コミュニティー(もちろん東急不動産傘下)が管理し、各種のホテル施設を利用できることで人気が高く、現在も高値で取引されています。天城高原とはまったく事情が違いました。
ただし、会員権価格は100万円台と低迷していることから、東急ばなれについては「確度低めの要観測」として見ていこうと思います。
参考:山中湖・グランデコ・斑尾
最後に、ついでですが、3つのホテルについて言及しておきます。
山中湖マウント富士は、もともと富士急が作った同社観光事業のフラッグシップ的ホテルに、預託金制(賃借)で東急が乗っかった形です(乗っかったにしては100室と規模が大きいですが)。ここを売却ということを富士急がするはずもありませんし、東急ばなれというケースと異なって、いつか契約が終わる、ということになります。
2029年にクラブ終了という契約ですが、現在のところは、募集が続いています。首都圏から近いリゾートホテルとして安定感があるので、延長があるかもしれません。
個人的には、このような構成(外様スタイルで安定感、しかも預託金制)の会員権が、もっとも安心であると思います。いま、東急ハーヴェストクラブの一部物件は値上がりを謳歌していますが、潮目は必ず変わります。リゾートホテルを所有するということに価値があるという幻想は、いつか消えます。
裏磐梯グランデコについては何度も書いているのですが、東急が全部を放棄したパターンです。知らない人は復習をお願いします。
最後に斑尾です。現在、売買が非常に薄くなっているので不安に思われる方もいるかもしれませんが、ここを東急が手放すことは当面ありません。
現在、周辺には外資による高級化・国際ブランド化の動きが出ているのです。ペイシャンス・キャピタル・グループ(PCG)が妙高(新潟)〜斑尾(長野)を、オールシーズン型の国際的マウンテンリゾートとして一体開発する構想のもと、投資とブランド誘致を進めています。ホテルブランドとしてはアコー(Accor)の高級ブティックブランド「Mギャラリーコレクション」です。
(報道発表)アコーの「Mギャラリーコレクション」ブランドを信州の名峰・斑尾・妙高に拡大 | ペイシャンスキャピタルグループ株式会社のプレスリリース
東急としてはニセコと同様に捉えているかもしれません。タングラム斑尾東急リゾートは法人向けとして開発した経緯があるし、ハーヴェストクラブとしては共有制で売ってしまったこともあって、今後を模索しているのではないでしょうか。ここ(東急ハーヴェストクラブ斑尾)は、今後注目です。






