ここ数回で、千葉、埼玉、茨城(実際には県をまたいだ福島県南部)のガラ権周回を終えました。続いて今回は、山梨に向かってみたい思います。この県は日当たりが良く素晴らしい森林に恵まれ、フルーツ王国として首都圏から気軽に楽しめる施設が目白押しです。
県全体に多くの会員制ホテルがありますが、場所がばらばらですのでエリアを分け、数度に分けて探訪していきます。現役ファンの読者の皆さまからすれば、長野県側の八ヶ岳南麓にはサンクチュアリコート八ヶ岳が開発中であり、神奈川県側にも富士吉田での計画が明らかになっています。東京からの有利なアクセスを活かし、今後が楽しみな「ガラ県」と言えましょう。
今回はそのような現代的な明るい話題というよりも、むしろリゾートクラブとして立ち行かなくなり、「落人」となりながらも健在である、かつての会員制ホテルを2個所訪ねます。そのひとつは山梨の石和温泉にあり、そこから岐阜へとひとっ飛びして同種の施設を巡ります。
大菩薩峠と武田神社
まずは山梨県の県庁所在地でもある甲府市に向かいます。ここは「秩父多摩甲斐国立公園」「富士箱根伊豆国立公園」「南アルプス国立公園」という3つの国立公園の間となる甲府盆地の中央に位置する、戦国武将・武田信玄の本拠地です。
中央道で行くのも風情がありません。上記のように山に囲まれていますから峠も多くあります。延々とガラ権連載を続けている筆者は、日本文学史上最長の連載小説とされる中里介山の「大菩薩峠 1」を思い出し、今回は東京都の多摩エリアの奥地と繋がるこの険しい大菩薩峠を越えてみたくなりました。
筆者はいつも名乗っているガラ権の測量士・伊能忠敬から、今回はこの大河小説の主人公・机竜之助 2 になり、今回初めて本格的に甲府エリアへと向かいました。目的地は、八ヶ岳や富士吉田のきらびやかな開発計画とは対照的な、甲府エリアにかつて単発で存在したガラ権施設です。
この地が初めてである筆者は、まずは旅の無事を祈るために、信玄公を祀る「武田神社 3」に参拝しました。人出が多く駐車場探しにも困るほどで、信玄公の人気には驚かされました。そしてこのエリアで随一の有名リゾートエリアである石和温泉 4 を見た後、目的地に向かいました。
甲斐リゾートホテル
目的地は、武田神社のある甲府駅付近から石和温泉駅を経て、さらにその少し南側にある「甲斐リゾートホテル 5」というシンプルな名前のホテルです。
本施設は、よほどのリゾート会員権マニアでもなければ聞き覚えもないものですが、かつてRCIジャパンに加盟していたリゾートクラブです。
1991年の記録によると 6、このホテルは東京新橋にあった西南観光という会社が立ち上げた「西南クラブ」の唯一のホテルです。開業は1987年11月で、客室は102室。続いて伊豆での開発計画がありましたが、それは実現しなかったようです。
預託金制で1口300万円程度からと、バブル時代としては手頃な価格設定でした。預託金制でしたが募集は部屋単位で行われ、1室15口として利用券を年間24枚発行するというものでした。後発なのでシステムは凝っていて、トップシーズン券4枚にはあらかじめ利用日が指定されており、他の20枚は予約できればいつでも使える、というものだったようです。
筆者がはじめて現地を見ますと、周辺の敷地は広く、建物はスタイリッシュで、想像以上の出来でした。もちろん古さは隠せませんし、豪華さを売りとするホテルではありませんが、個人的には好きなタイプの外観です。
コンクリート素材を活かしたデザインは、名の通った建築家に依頼したものかもしれません。こういうところがガラ権の良いところで、先に資金が入るから贅沢な造りが可能となったのでしょう。
BBHホテルグループ
前述の通り、筆者は温泉旅館ホテルが林立する石和温泉を抜けて来たのですが、この甲斐リゾートホテルはそれらと一味違い、リゾマンでも温泉旅館でもない、独特のリゾートホテル感を醸し出しており、リピートしてくつろぐのに良い線を狙ったのだと思えました。
現状ですが、全国各地でローカルホテルの事業継承・再生を手がけるBBHホテルグループ 7 の傘下に入っています。事業承継にあたり、同グループでは自社のブランドを冠する場合と、過去のホテル名そのままで運営を続ける場合に分かれますが、本施設は過去の名称がそのまま活かされています。
会員制ホテルでははるか昔になくなっていますが、預託金制なので再生が可能であったのだと思います。主に、団体客向けの観光ツアーで使われるホテルとして活用されているようで、訪問時も大型のツアーバスが玄関まで来ていました。
石和温泉という有名温泉地で、かつてのガラ権の風情を味わいながら甲州ワインを楽しむという、気楽な休暇を過ごせるであろう本施設。まだまだ現役で頑張っていたのは幸せなことだと感じます。
空飛ぶクルマ
筆者はこの後、上述のとおりに大菩薩峠に向かいました。しかし、まるでこの小説が意味不明の展開をするかの如く、ハンドルを握る筆者の心は、さらに別のホテルへと向かっていたのです。
そのホテルは甲斐リゾートホテルと同じく、RCIジャパンに加盟していて、有名温泉街の外れにありました。そして落人としてBBHの軍門に下った単独施設のガラ権。行くなら今しかありません。
ガラ権を訪ねながらクルマで走り込むスタイルである本連載ですが、筆者は今まさに開催されている万博の目玉アイテム「空飛ぶクルマ」に乗り換え、はるか遠くの岐阜は下呂温泉に飛び、「下呂リゾートクラブ」なるローカルガラ権がどうなっているかを見に行くことにしました。
空から着地したのは、「歓迎 下呂温泉 入口」と標識のある、のどかな田舎風景が拡がる場所でした。巨大な温泉街は、この標識の場所からは山の陰になっていて見えません。下呂には多数のガラ権施設がありますが、それは次回から順次訪ねることとして、ひとまず落人の現在です。
標識から目的地である「ホテルフーゴ」はすぐでした。
下呂リゾートクラブ
筆者のように35年以上もガラ権ウォッチを続けてきますと、気になって仕方がなかったという施設が多数、脳裏に焼き付いています。結果的に1施設のみで、100室にも満たないホテルで終わり、誰がどういう経緯で会員になったのかもわからず、細々とガラ権を運営するもいつの間にか力尽きたようなリゾートクラブ。数十のホテルを要するリゾートトラストや東急不動産しか知らない方には想像も付かないでしょうが、そういう世界があるのです。
訪れた下呂リゾートクラブのホテルフーゴは、先に述べた西南クラブの甲斐リゾートホテルを想起させる、特に気になっていた同じ香りが漂う施設でした。
いずれもバブル期のガラ権戦国時代に有名温泉地に誕生したものであり、後発なので立地が良いわけではなく、また事業を積極的に拡大しようとしたわけでもなさそうだが後から会員権を刷ったわけではなく、最初からリゾートクラブとして誕生したホテルであること。そして現在はいずれも、BBHグループに属している。
下呂リゾートクラブの会員募集は、預託金制だったことだけは確かですが、クラブのシステムなどはわかりません。以下に古いRCIの資料を掲載しますが、その程度の記録しか残っていません。
ホテルフーゴ
そんなわけで、筆者の印象のみを書きます。まず、珍しいのがこのホテル名ですが、スペイン語で「juego」と書き、かつてのホームページには「スペイン語で「自分から積極的に行動をおこす(遊び)」の意味です」と記されていました。
開業は1994年6月とバブルからは遅れての開業ですが、この時期のスペインブームを反映したものです。ただしホテルの外観は近代的なもので、スペインはイメージできません。名前だけがスペインにちなんでおり、レストランは「トレド」、ステーキハウスは「ドン・キホーテ」と名乗っていました。
先に触れた通り、現在はBBHグループとして「ブリーズベイホテル&リゾート下呂 8」に改名して営業しています。それは2013年以降のことで、それ以前はいつからか「下呂リゾートクラブ」の名称のまま、一般ホテルとして営業されていました。
会員制として建てられ、建設資金面でゆとりがあったのでしょう。はじめて対面したこのホテルは、建物デザインも仕様も、とても目立つ立派ななものでした。エントランス内の庭は、BBHになった10年ほど前にリニューアルされ、今もきれいです。ブランド変更の前から「バラ」を大事にしているホテルで、その伝統が守られているのでしょう。
落人と再生チェーン
今回は、バブル期のガラ権戦国時代が終わり後処理も進む中で、まるで源平時代に負けて身を隠した「平家の落人」の如く、ひっそりと一般ホテルとして生き残っているかつてのガラ権施設を取り上げました。
本連載では過去に、日本サンランドの「ホテルアクシオン軽井沢 9」を取り上げたことがありますが、やはりリゾートホテルの再生に強みを持つリブマックスの傘下にありました(現在は閉業)。
廃業して廃墟になったりするのではなく、大江戸のように大掛かりなリニューアルはするお金はないものの造りは悪くなく、うるさいことを言わなければ十分なので相応のチェーンに入ってたくましく生きる。そしてこうしたチェーンのおかげで、かつてのガラ権施設が生き続けているケースがある。本連載では、今後もそんなホテルを取り上げる機会が増えていくものと思います。
ガラ権ファンであろう本連載の読者の皆さまは、旅行が好きで、一般ホテルにもご興味があると思います。筆者にとっては、現代のことながら、懐かしくも楽しい思い出です。
最後に今回のBBHホテルグループについてですが、他の再生チェーンと異なり、一律の経営方針の元でリブランドして運営するだけではなく、以前の名称のままで業務体制を引き継いで、ローカル色もいっぱいに、カジュアルに飾らずに営業を続けていくスタイルも大事にしているようです 10。こうした方針に、筆者は惹かれるところがあります。
こうして筆者は、長年、気にしてきたガラ権単発施設の2つを実際に見ることができ、安心してゴールデンウイークの休暇を迎えることができます。
本連載は連休中は休載とし、連休明けからはこの下呂の地から、再び旅をはじめたいと思っています。
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リゾートクラブガイド '91(月刊レジャー産業資料12月号臨時増刊)、1990年12月、綜合ユニコム ↩︎
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ホテルアクシオン軽井沢 | 究極のガラ権、実録アクシオン物語 – 軽井沢編 | 会員制ホテル今昔物語 – resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究 ↩︎









