あの夏、巨大ガラ権は突然に

「会員制ホテル今昔物語」は、35年に渡ってリゾート会員権についてウォッチされているzukisansuさんによる連載です。日本で独自の発展を遂げたリゾート会員権、すなわち「ガラ権」の歴史をたどることで、日本的文化とは何か、日本人とは何かを、過去に学び未来を見通す―そんな奥行きのある連載として、僕から特別にお願いし、zukisansuさんにしか語れないこのテーマでご執筆いただく運びとなりました。どうぞご期待ください。(企画・制作:resortboy)

北軽井沢の中心となる北軽井沢駅跡地周辺を散策し終わった所で、熱心なガラ権ファンの読者の皆さまは、もうすっかりこの広大な浅間高原エリアについて精通した領域に達せられたことと思います。

しかしながら、本連載の測量(取材)で改めて現地を周回して思うことがあります。

戸建てガラ権の未来

浅間山の裾野で樹海に埋もれたようなこのエリアは、東京と接続されて近年も発展する長野県の軽井沢とは事情が異なります。雄大な自然に囲まれたエリアといえば聞こえが良いですが、実態としては「原野開発の夢の跡」です。

主を失い、もぬけの殻と化した切り刻まれた土地や廃屋の中で、本当にこの場所・この雰囲気が気に入った人によって、現在は落ち着いた静かな暮らしが営まれています。

しかし、それが次の世代に受け継がれるのかは未知数です。

本シリーズでは、このエリアの各所でここ数年で勃興した「ネオ戸建てガラ権」について触れてきました。それらはそれぞれ10戸ほどの塊で所在する「新集落」を形成しています。

しかし、高度成長期・バブル期に土地神話に踊った無数の業者が、この何もない大地に目を付け、原野の開発に手を染め、土地を切り刻んで分譲し、戸建てだけで9,000戸もの別荘が建ち並んだ過去があります。その歴史的事実を思えば、今の小さな新集落はほどなくして行き着くのが難しいほどに、森の中に埋もれてしまう可能性が大きいと、筆者は感じます。

この原野に今から先、多少でも目立つコンクリートの建物が造られることはないと思われます。100室を越える大規模なものはもちろん、30室程度の小規模なものでさえもです。

取り残され、置き去りにされた保養地・別荘地に、この先の未来はありません。読者の皆さま方にはどうか冷静に、こうした戸建てガラ権を見つめていただきたいと思います。

ホテルグリーンプラザ軽井沢

さて今回は、このエリアで過去も現在も、もっとも大型で有名なホテルを取り上げます。それは一般ホテルと並行して共有制・預託制のリゾート会員権の旗艦物件でもありました。

浅間高原エリアで唯一、子どもが主役のレジャー施設「軽井沢おもちゃ王国 1」と、「プリンスランドゴルフクラブ 2」を併設して、事業主がそれまでに蓄えたノウハウを壮大なスケールで実現した「ホテルグリーンプラザ軽井沢 3」であります。

また本ガラ権施設と並んで、別荘地の開発元が建築・分譲したお洒落なリゾマン「シャンボール軽井沢 4」が建っています。こちらも併せてご紹介してまいりましょう。

何ごともなかったかのように

前回の旧北軽井沢駅舎跡付近からは、もうこの連載では走り慣れた道を通って、ネオ別荘ガラ権のNOT A HOTEL 5 のある「すずらん坂公園」交差点に向かいます。この交差点は西武の有料道路(鬼押ハイウェー)と一般道路が交わる要所です。

特に、南に行くと自動的に料金所に入ってしまうので要注意です。ここまで来たら交差点を右折して再び北上します。するとすぐに目立つ大きな建物が見えてきます。そこはもうホテルグリーンプラザ軽井沢の入口です。

入口は非常に広く、そこには「プリンスランド 6」の巨大歓迎サインが鎮座しています。この大きく広がる入口から、多数のコーンに導かれながら進んでいきますと、少し先にここが間違いなくガラ権施設であることを示す看板に出会います。

「エメラルドグリーンクラブ 7」「日本オーナーズクラブ 8」の名前がはっきりと読み取れます。これらは2021年にガラ権界過去最大級の倒産 9 を経た今も、全く何ごともなかったかのように健在でした。

原野商法

このホテルグリーンプラザ軽井沢について、ここからは開発の沿革をたどっていくことにしましょう。

運営元となる「安達事業グループ 10」については、組織があまりにも複雑なこともあり、今回で書き切れるものではありません。同グループのホテルについては、この連載でも小豆島や房総の鴨川などで触れてきましたが、今後も白馬や上越国際などの大型施設を取り上げます。組織の話はそれらにおいて順次書く予定です。

今回は、安達が手掛ける前段である、別荘分譲地の開発母体「大蔵屋 11」についてと、そこに乗り出してきた安達グループと別荘住人との確執に触れておきたいと思います。

この大型レジャー施設がある超大型別荘地、プリンスランドを開発したのが大蔵屋です。

高度成長期・土地神話に踊った開発業者の多くは、本連載で次シリーズとして取り上げる那須エリアの開発・分譲にルーツを持つことが多いです。それは原野商法とも呼ばれ、那須において最も有名であるのはリゾートトラストにも連なる「大京観光 11 12」です。

群雄割拠、生き残りを掛けて多くの業者がひしめき合う中、原野商法御三家の一つ「栄家興業 11」から分離独立したのが大蔵屋でした。大蔵屋は三和銀行という大手銀行をバックに付け、珍しくも営業マンが固定給という紳士的な業者だったようです。

鈴木長治

その大蔵屋は設立後数年して那須での闘いを離れ、この嬬恋村(北軽井沢)に主戦場を移しました。ここでガラ権の源流の一つである「リステル猪苗代」の創業者・鈴木長治氏について触れなければなりません 13

氏が出身の浜松から出てきて初めて不動産業に身を置いたのが、那須原野商法御三家の一つ「明治不動産 11」(御三家は大京・栄家興業・明治不動産とされる)でした。そしてそこが那須での戦いに敗れたために大蔵屋に転じたのが、若き日の長治氏でありました。

長治氏は大蔵屋がまだ那須にあった頃の入社で、大蔵屋が嬬恋村に去った後、東北に残り独立して「長治観光 14」を創業したのでした。

ガラ権の歴史をたどると、それ以前の那須の原野商法につながります(1960年代)。そして敗れた者たちがここ北軽井沢にやってくる(1960年代後半)。さらに東北(磐梯)に残った人たちがホテルの分譲をはじめる(1970年代前半 15)。これらすべてが鈴木長治氏の動きでつながることが分かります。さらに彼らは奥浜名湖で1980年代に再集合することになります。

那須、北軽井沢、そして来年の連載予定の奥浜名湖。これらが日本ガラ権勃興期における、三大古戦場なのです。

プリンスランド

磐梯連山(沼尻)で跋扈した群馬県人脈 16 と関係あるかどうかはわかりませんが、同じ群馬県の浅間高原で広大な土地を手にした大蔵屋は、西武が作った鬼押ハイウエーの両側を使って、エリア最大級となる別荘分譲地の開発を始めました。

それは前回 16 触れた北軽井沢のオリジン、アカデミックな雰囲気とマッチする、とても紳士的なものだったようです。別荘地にはインテリジェンスのある所有者が集まり、コミュニティが形成されていきます。

当時の開発業者は皆同じですが、大蔵屋もマンションデベロッパーとなり、ブランド「シャンボール」を掲げていました。今も全国各地にこの名前のマンションがあります。浅間高原の自社分譲地にもリゾマンを建てており、それが上述のシャンボール軽井沢 4(1972年、6階建、60戸)です。

安達との闘い

プリンスランドに別荘を構えた人々には、この地を愛する強いこだわりがあり、後に作られた「プリンスランド オーナーズ会憲章」にそれがよく現れています。浅間高原に軽井沢町のような建物規制はなかったようですが、知識人たちが自主規制に動いていたのです。

そして大蔵屋は、今見ても素敵な建物であるシャンボール軽井沢にシティホールを設け、後に安達事業グループに編入されるゴルフ場やスポーツ施設も造って、まさに平和で安らぎのある別荘地を造っていたといいます。

そこに突然、土足で乗り込んできたのが安達事業グループでした。

三和銀行をバックにした大蔵屋は、業績に陰りが出た後も倒産することなく、ユニチカの傘下に入ったり、事業を見直されたりしながら生き残り、現在の「オークラヤ住宅」17(不動産仲介業を主とする)に至っていますが、このプリンスランドの開発は、1980年頃までに行き詰まりが見えてきました。

行き詰まった大蔵屋はプリンスランド全体の約20%を売り、そこに安達事業グループはレジャーランド、そしてホテルグリーンプラザ軽井沢の建設に着手するのです。

静かだった別荘地に、安達事業グループがやってきた衝撃が、当時の資料にビビッドに綴られています。それは1983年の夏、別荘地内に突然オープンした「軽井沢プレイランド(現おもちゃ王国)1」の衝撃でした。そして翌年には超大型ホテル、ホテルグリーンプラザ軽井沢が開業します。

当時の様子を、当事者であるオーナーズ会の記録から引用します 18

大蔵屋の担当者は皆親切でよく別荘オーナーの面倒をみてくれるので、我々オーナーは、すっかり安心し、大蔵屋を面倒みのよい大家さんだと思い、大蔵屋を頼りにしていた。 ところが昭和58年(1983年)夏、我々がプリンスランドに行くと様子が全く変わっていたので、驚いた。
プリンスランドの内は遊園地に来る外部からの車と人で混雑し、自由の女神の通りは車で一杯。 プレイランドには、別荘地には全くふさわしくない東日本一の大観覧車やバイキング、西部劇の打ち合いをする砦等耳をつんざくような物凄い騒音。  
ホテルグリーンプラザのリゾートホテルや入口の大型レストラン等が建設され、別荘地使用の水もこれら施設にとられ、別荘は水飢饉。湯沸器も水洗トイレも使用できない。 ほんの短期間の間にプリンスランド中心部26万坪(ゴルフ場・プレイパーク等)は遊園地・レジャー施設化して仕舞った。オーナーは大へん驚き失望した。そしてこの源の業者が安達グループであることがわかった。

これらの騒音や環境悪化に対する紛争に加え、別荘地の入口前の場所には、無謀にも別の業者が33階建てツインタワー(約500室)となる超高層リゾートマンションの建設計画を立てるという事態に発展します。プリンスランドの知識人たちはこれに敢然と立ち向かい、行政を巻き込んで計画を中止させた経緯が綴られています 19

この記録はリゾート会員権の歴史と直接関係はないのですが、ガラ権やリゾマンを「造るサイド」からではなく、「造られるサイド」からの見解を知ることができる珍しい資料です。自然との共生を謳う、この格調高きプリンスランドオーナーズ会の記録は貴重です。ぜひお読みください。

安達事業グループ

安達事業グループは、ルーツを専門学校(1958年「大阪デザイン研究所」20)とする複合グループ企業ですが、最も大きな会社となった「東京商事」9(1973年設立)のスタート以降、預託制のリゾート会員権、エメラルドグリーンクラブ 7(1973年発足)と、共有型会員権の日本オーナーズクラブ 8(1979年発足)の両輪で全国にリゾート開発を進めていました。

この浅間高原の「軽井沢プレイランド(1999年におもちゃ王国と改称)」(1983年)とホテルグリーンプラザ軽井沢(1984年)の開業は遅い部類に入ります。

このホテルは大成功し、翌1985年新館、1989年にコネクション館、1998年にリゾート館と拡大し、現在は一部をクローズしたものの、今なお360室という巨大リゾートホテルとなっています。

筆者は、本ホテルを宿泊で利用したことがありませんが、本連載の共同研究者であるresortboyさんが、このホテルをガラ権施設として認識したうえで利用し、体験談のブログ記事を残しています。さらに、安達事業グループの倒産時の顛末も記事にされています 21

この倒産劇については、筆者もその記事内容に同感です。あまりにも複雑な組織体制ゆえに、ほとんど世間を騒がせなかったし、そして未だに創業者一族が運営元として残っているのが興味深いです。

ホテル継続あればこそ

これは想像ですが、リゾート会員権のメンバーの配慮はこうしたごたごたの中でも安定していて、また一般ホテルとしての人気があるために施設のメンテナンスも行き届いていて、さらに残る会員への利用案内もしっかりしていたということが言えるのでしょう。

預託金制においては預託金が帳消しになったり、共有制においては固定資産税の問題など、数々の問題はあるはずです。しかし多くの会員数に比して話題とならないのは、肝心のホテル運営がしっかりと継続されているからなのでしょう。筆者はこの北軽井沢だけでなく、東条湖や上越国際、白馬も比較的最近に取材してきていますが、巨大な施設にもかかわらずどこも素晴らしく運営されている印象を持っています。

安達事業グループのフラッグシップであるホテルグリーンプラザ軽井沢。原野に戻りそうな浅間高原のホテル群(ほとんどがガラ権施設)の中で、最大手として、子ども連れがレジャー施設を楽しめる庶民的カジュアルな場所を変わらずに提供し続けてくれたらと、応援したい気持ちです。また、この施設群が健全に継続されることで、かつては紛争も経験したプリンスランドの所有者・住人の方々も、寂しくないのではないかと思ったりしたのです。

次回からは、北軽井沢シリーズのファイナルとして、あの磐梯は沼尻からやってきた男たちのドラマを追っていきます。

来週(8月17日)はお盆休みで休載です


  1. 軽井沢おもちゃ王国【公式】 | 見て、触れて、体験できる「おもちゃのテーマパーク」 ↩︎ ↩︎

  2. プリンスランドゴルフクラブ│公式サイト ↩︎

  3. ホテルグリーンプラザ軽井沢【公式】 ↩︎

  4. 【SUUMO】シャンボール軽井沢 中古マンション物件情報 ↩︎ ↩︎

  5. KITAKARUIZAWA - NOT A HOTEL ↩︎

  6. 軽井沢と草津の中間点|別荘の街 プリンスランド ↩︎

  7. エメラルドグリーンクラブ
    1月度 | 2019年(令和元年) | こうして倒産した | 倒産・注目企業情報 | 東京商工リサーチ ↩︎ ↩︎

  8. 日本オーナーズクラブ
    11月度 | 2019年(令和元年) | こうして倒産した | 倒産・注目企業情報 | 東京商工リサーチ ↩︎ ↩︎

  9. 安達事業グループの連続大型倒産 | ホテルグリーンプラザ – resortboy's blog ↩︎ ↩︎

  10. 安達事業グループ(ホテルグリーンプラザ)の新卒採用・会社概要 | マイナビ2026 ↩︎

  11. 原野商法 - Wikipedia ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎

  12. 大京 - Wikipedia ↩︎

  13. ホテルリステル猪苗代 | 元祖ペイバック、猪苗代に賭けた男の人生劇場 | 会員制ホテル今昔物語 – resortboy's blog ↩︎

  14. 会社概要/リステルホテルズグループ LISTEL HOTELS GROUP【公式】 ↩︎

  15. 沼尻国際リゾートホテル(紀州鉄道 裏磐梯沼尻オーナーズビラ) | ガラ権の源流へ。高原鉄道を利用した「わるいやつら」 | 会員制ホテル今昔物語 – resortboy's blog ↩︎

  16. ヴィラ北軽井沢エルウィング | 北軽別荘文化の発祥の地に、ガラ権ランドマークあり | 会員制ホテル今昔物語 – resortboy's blog ↩︎ ↩︎

  17. オークラヤ住宅 - Wikipedia ↩︎

  18. プリンスランド オーナーズ会 沿革 ↩︎

  19. プリンスランド・オーナーズ会顧問 守谷英隆 報告「景観法」 ↩︎

  20. 学校法人21世紀アカデメイア - Wikipedia ↩︎

  21. ホテルグリーンプラザ – resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究 ↩︎

文・撮影:zukisansu、企画・考証・制作:resortboy。バックナンバーはこちら

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