日本三景・天橋立を満喫するためには、それ自体の砂州松林の遊歩道を歩くのはもちろんですが、全景を見晴らせる場所に行く必要がありそうです。その点で、北側(丹後半島の付け根)に回り、元伊勢籠神社の上側、傘松公園などの山からのパノラミックな眺望を見逃すわけにはいきません。
そこからの景色 1 を見終えたら、多くの観光客は、丹後半島の海岸線を北上し、宮津市を抜け伊根町に向かうことでしょう 2。伝統的建造物群保存地区「伊根の舟屋群」は、日本の漁村の原光景として一度は見ておきたいものだと思います。
今回の物語は、以上の道中に点在する、大型のリゾマン群についてです。
「マリントピアリゾート天橋立」は、海岸線道路に沿って並び建つ10棟もの大型リゾートマンションと、中央のマリーナを含めたすべてを指す名称です 3。
昔の話から始めます。この大型リゾートマンション10棟は、但馬・京丹後エリアに一時期は25店舗以上のスーパーマーケットを展開していた「にしがき 4」が開発・販売したものです。
そして2000ゼロ年代に一部がタイムシェア会員権として「ガラ権化」しました。その理由は何だったでしょうか。
同社は1950年(昭和25年)の創業後、戦後日本の復興と高度成長に支えられ、順調に会社を発展。問屋から小売りへ、そして不動産開発からバブル期に突入し、リゾマンブームで次々に開発を手掛けます。
ここまではよくある会社沿革ですが、お決まりのように経営破綻とならなかったのは、三代目社長である西垣俊平氏の才覚であったと思われます。
同社のマリントピア事業は、食品事業から派生した食堂やレストラン事業がバブルの波に乗ったことから、不動産分譲に発展したものです。宮津市海岸線北部を総合リゾートとしようと、1989年頃からマリーナを設置。その後、マリントピアシリーズとして大型リゾマンを建設・販売します。
8号館までは盛況であったものの、バブル崩壊で9号館、10号館と売れ行きがぱたっと止まります。三代目の俊平氏は地元に戻り社長に就任。氏はまだ20代後半でしたが、同社全体として倒産危機にあったようです。
スーパーは大半赤字、レストラン事業も芳しくなく、リゾートマンションも売れません。社長となった俊平氏は、リゾート事業に注力します。老舗スーパー「にしがき」は、生き残りをかけて、体力があるうちに経営資源を集約し、ホテル事業に舵を切ったのは正解だったのかもしれません。
その俊平氏が会社の方向性を探っているときに利用したのが、部屋を14分の1で分譲する、例の会員制ホテルだったようです 5。とりわけ氏が驚いたのは、平日の繁盛ぶり。同社のリゾマン群も休日利用に偏っていたため、それが普通だと思っていた氏は考えを転換し、売れない後発マンションを会員制化します。
こうしてRCIジャパン加盟施設、「マリントピア天橋立」が誕生したのでした。
この形を変えたリゾマンの小口分譲は、同社が新事業に舵を切るための契機となりました。しかし時代的に、但馬・京丹後エリアのような田舎に会員権施設を買いたいと言う人はそれほどいませんから、より差別化した商品を出す必要がありました。
そこで同社がたどり着いたのが「シェア別荘」。リゾマン群の地に「ラグジュアリーヴィラ」を展開していきます 6。
ここからは、現在進行形の話題です。このシェア別荘は通常の宿泊施設としてスタート、好調に推移したため、次々に新しい戸建を作れるようになり、天橋立のマンション群地域外にもエリアを拡大。「GRANDE(グランデ)」というリゾート会員権が立ち上がります 7。マリントピアでガラ権を知った同社が、複数のシェア別荘を会員権として展開したわけです。
さらに興味深いのは、同社は2017年から「グランピング」施設の展開を始めていることです 8。グランピングには賛否両論ありますが、時流に乗っているのは確かです。
俊平氏はこれらのリゾート事業についての持論を、「未来リゾート事業」として、ネット(note)やメディアで大いに語っています 9。近畿でのエリア展開を終え、関東にも日光・那須にグランピング施設を展開することが決まっています 10。筆者は、この一連の「新しいガラ権」の行方を注視したいと思っているところです。
戸建別荘やグランピングなどは、日本のおもてなし文化と対立するものです。たとえ近くに温泉や食事場所があったとして、結局のところ一泊二食付きプランから抜け出せない日本の観光文化の中で、同社は自由な宿泊を標榜するシェア別荘、そしてさらにカジュアルなグランピングを打ち出しています。
少なくとも日本の老齢の富裕層には受けません。そして若い人はガラ権をわざわざ購入するでしょうか?
リゾート事業の跡継ぎと言うと、避けて通れないのが星野佳路氏です。星野氏はガラ権事業はおろか、ロイヤルティプログラムにも興味がないようです 11。同社が得意とする「一期一会の旅行」には必要がないと思っているのではないでしょうか。これに対し、俊平氏の発想は真逆です。
「おもてなし」から「自由な旅」へ。日本のガラ権は、この未開拓開拓の領域に入っていけるでしょうか。
【インタビューvol.44】自分の興味や得意分野 × 自社の資源で地元に貢献する事業を育てる!(株式会社にしがき 代表取締役 西垣 俊平 氏) - ぼくらのアトツギベンチャープロジェクト ↩︎
シェア別荘を全国展開するラグジュアリー会員制リゾート『Grande-グランデ』第一期新規会員募集のお知らせ | Grande(グランデ)国内最大のシェア別荘型リゾート会員権 ↩︎
・【海の京都】天橋立でラグジュアリーなグランピングを。天然温泉&プライベートプール付ヴィラ 瑠璃浜/るりのはま 2017年5月グランドオープン! | 株式会社にしがきのプレスリリース
・glamping | 株式会社にしがき ↩︎2020年5月22日号 トップインタビュー 星野リゾート 代表 星野 佳路 氏 | ホテル・レストラン・ウエディング業界ニュース | 週刊ホテルレストラン HOTERESONLINE ↩︎