和歌山市から、前回たどり着いた東急ハーヴェストクラブ南紀田辺までの海岸線は、日本のどこにでもある普通の田舎と漁村の光景でしたが、そこからしばらく走ると大きな建物が見えはじめます。そしてそれらには大きな看板が掲げられています。関東で言うならば、熱海に似ています。
海岸沿いから小高い山に向かって「ザ・温泉街」という雰囲気。その密集感と賑やかさに圧倒されます。多くの温泉旅館は規模が大きく、その合間を縫うようにしてリゾートマンションが林立しています。
関東なら熱海に匹敵
コロナ禍前、2019年の白浜町の宿泊施設数は、民泊も含めると約300施設。宿泊者数も年間200万人を超えていました 1。熱海も宿泊施設数300強、宿泊者数年間約300万人であるとされていますから 2、首都圏と関西圏の人口を考慮に入れると、白浜は勝るとも劣らぬ数字です。
規模で見た時の日本三大温泉が、九州の別府、和歌山の南紀白浜、静岡の熱海、と言われるのに納得します 3。
関西大都市圏(神戸・大阪・京都)からのアクセスは3時間未満であって、関東で言えば箱根・熱海・伊東といったイメージです。こうした気軽に行ける保養地には、ガラ権施設が大量に発生してきました。
前回書いた東急ハーヴェストクラブ(別の湾だが隣接)も、別稿で予定しているエクシブも、南紀白浜に施設を展開しています。これはガラ権クラブにおいてこの地が施設展開上重要であることの証です。
今回は、この南紀白浜に大規模施設を持つ「ラフォーレ倶楽部」を取り上げます。
「法人会員のみ」のガラ権
ラフォーレ倶楽部 4 は、1973年にスタートした50年の歴史を持つ、日本初の「法人会員のみ」の会員制リゾートクラブです。開発したのは東京の西新橋を発祥の地とする「森ビル」グループです。
同グループについては、東急グループについて書くようなものですので省略しますが、これほど大手になりますと、どうしても本家・分家のような区分が生まれます。東急グループが東急(電鉄)と東急不動産に分かれているように、森ビルグループも森ビルと森トラスト 5 に分かれていて、ラフォーレ倶楽部は後者が育ててきたものです。
法人会員のみであり、また東急と同じく大会社であるからでしょうか、日本リゾートクラブ協会に加盟したことはありません。
今回のホテルの旧名称「ラフォーレ南紀白浜」は、2017年7月以降「南紀白浜マリオットホテル」として、大規模改修後リブランドしています 6。しかし、今なおラフォーレ倶楽部の一員であることは変わらず、マリオットブランドでありながら、ラフォーレ倶楽部の会員がクラブ施設として利用できます 7。
以下は、ラフォーレ時代の同施設の公式紹介動画です。
この話は、今年、ダイワロイヤルメンバーズクラブがクラブを解散し、施設も売却してアコー系になったのとは異なります。
森トラストの施設が売却されてマリオットとなったのではなく、自ら大きな投資をし(7施設に対し160億)、生き残りをかけてそれら施設をマリオットの暖簾の下に入れたのです 8。
いち早く2016年に決断
ラフォーレ倶楽部の施設は、大手だけあって立派なものが多数あるわけですが、完全法人制を貫いていたため、筆者は利用できないままでした。しかしマリオットにリブランドした施設については一般ホテルとして利用できますし、マリオットの顧客ロイヤリティプログラム「Marriott Bonvoy」のベネフィットも享受できるようになりました。
この大胆な変更について、当時の新聞報道 9 を筆者なりに意訳すると、「新規の法人の会員獲得が伸びなくなり、また施設営業も景気の変動が大きく影響するため安定せず、インバウンドやシニア層も含めた少し高級な個人需要を自由に受け入れるシステムとするため」ということになります。
これは、個人のライフスタイルやホテル業そのものの時代の変化、そして(当時の)日本経済の状況から判断して、それまでの「法人メンバーオンリー」の経営では、先の見通しが立たなくなったことを示したものでした。
先見の明と言えるでしょう。コロナ禍という特殊要因は例外するとして、まさに今、インバウンドで支えられる観光業と日本におけるホテル業界の外資旋風が吹き荒れる時代を、2016年に予見し、決断したのであります。
前述の通り、南紀白浜エリアも観光客数では一定数を取り込んでいるように見えますが、実態はインバウンドで支えられています。観光協会のホームページが5か国語で表示できるのがその証左でしょう 10。
そしてそれに堪えられない温泉旅館は、廃業または売却されています。例えば「湯快リゾート」は、この地に3つの「プレミアム」を冠する大型ホテルを擁していますが、それらはすべてかつての大型観光ホテルをリブランドしたものです 11。
大手のタッグに死角なし
さて、ラフォーレ倶楽部です。施設の全国分布は公式ホームページから 4、各ホテルの開業時期については森トラストの公式ホームページの会社沿革をご参照ください 5。
ラフォーレ倶楽部の施設群は、エクシブのような辺鄙な場所ではなく、概ね良好な場所にあります。特にラフォーレ南紀白浜の立地は素晴らしく、南紀白浜の海沿いほぼ中央の小高い場所にあります。街中を歩くのも、海岸に出るのも、観光場所に行くのにも便利です 12。
1999年7月開業と、ラフォーレ倶楽部の施設としては新しい物件となりますが、2017年7月に早くも全面リニューアルして再開業した施設であり、筆者が訪問した際は、まだ新品感さえ残っていました。
建物は11階建、客室は182室、付帯施設はフルラインでそろっています。
客室は全て5階以上に配し、特に眺めの良い8階から10階までの全46室は温泉ビューバス付だそうです。
白浜のビーチは名前の通り白い砂であり、マリオットの客室や会議場からはメインのビーチ「白良浜 13」が眺められるようです。さらに、大浴場は最上階11階となっていて、リゾートホテルとしては最高レベルの施設ではないかと思われます。
ラフォーレ倶楽部の各施設は法人向けだっただけに、相応の会議場を備えており、本施設でもワーケーションのプランもありますし 14、素晴らしい眺望を生かしたリゾートウェディングの取り組みも盛んなようです 15。
森トラストとマリオットのコンビに死角はない。そんな風に思います。
DMOのインバウンド誘客の取組とその効果(2) -マーケティング・マネジメントエリアに着目した分析:和歌山県の事例から- | APIR 一般財団法人アジア太平洋研究所 ↩︎
・[公式]ラフォーレ倶楽部 | 法人会員様向けご利用サイト
・ラフォーレ倶楽部 | ホテル&リゾート | 事業内容 | 森トラスト株式会社|Create the Future
・ラフォーレ倶楽部 - Wikipedia ↩︎ ↩︎・白良浜や温泉街一望…「南紀白浜マリオットホテル」オープン - 産経ニュース
・白浜のホテル | 南紀白浜マリオットホテル
・南紀白浜マリオットホテル(和歌山県白浜) | 公式WEBサイト ↩︎・リゾートホテル7施設に160億円を投資して大規模リノベーション/温泉風呂付客室を半数以上に導入/森トラスト | 建設ニュース
・軽井沢・南紀白浜・富士・伊豆修善寺・琵琶湖に各エリア初の外資系ホテル「マリオットホテル」を誘致 | 森トラスト・ホテルズ&リゾーツ株式会社のプレスリリース ↩︎(ブライダル専用サイト)南紀白浜マリオットホテル ↩︎
zukisansuさん、森トラストのマリオット戦略の詳細レポートありがとうございました。
このラフォーレ転じたマリオット系ホテルに私は多大な恩恵を受けました。今となっては森トラスト様に感謝の気持ちでいっぱいです。以下、私の「琵琶湖マリオット」ストーリーです。
南紀白浜マリオットホテル開業と時を同じくして琵琶湖マリオットが2017年7月オープンしました。森トラストの「ラフォーレ倶楽部」転じたマリオットホテルです。
マリオットのプラチナステータス維持に年間50泊する必要があった私は早速「琵琶湖マリオット」に泊まってみました。まだ一般には知られていない新ホテルだったので宿泊代金も安く、1人で泊まっても総額1万円程度でした。
宿泊してみて驚きました。琵琶湖畔に建つ堂々とした巨大ホテルで、付帯施設も「室内(温水)プール、フィットネスセンター、スポーツバス(温泉浴場)、テニスコート、体育館、フットサルコート、ゴルフ練習場」と堂々とした湖畔リゾートホテルでした。最上階に展望レストランがあり朝食ビュッフェは文句のつけようがないくらい充実していました。
さらに、1階の奥にマリオットエリートメンバー専用のエグゼクティブラウンジが開設され、アフタヌーンティーやカクテルタイムのサービスも無料で楽しめました。私は妻と一緒に、または1人で頻繁に泊りに行きました。平日の3連泊を何度も繰り返し、マリオットのプラチナステータス維持(いわゆるステータ修行)に相当貢献しました。
詳しい旅行記3編が以下にあります。興味のある方はご覧ください。
◎琵琶湖マリオット滞在:5月連休明けの平日3連泊、リタイアおじさん1人旅
https://4travel.jp/travelogue/11491638
◎ザ・ラウンジ第15弾(琵琶湖マリオット)
https://4travel.jp/travelogue/11494743
◎琵琶湖マリオットホテル滞在(ホテル周辺散歩編)
https://4travel.jp/travelogue/11497370