草津の名門、経営破綻を越えて

「会員制ホテル今昔物語」は、35年に渡ってリゾート会員権についてウォッチされているzukisansuさんによる連載です。日本で独自の発展を遂げたリゾート会員権、すなわち「ガラ権」の歴史をたどることで、日本的文化とは何か、日本人とは何かを、過去に学び未来を見通す―そんな奥行きのある連載として、僕から特別にお願いし、zukisansuさんにしか語れないこのテーマでご執筆いただく運びとなりました。どうぞご期待ください。(企画・制作:resortboy)

日本一のキャベツ畑が広がる嬬恋高原から、筆者は次のガラ権を求めて移動します。群馬県内で目指す次のエリアは、インバウンドや国内観光客の復活で活気付く「草津町」であります。

言うまでもなく日本三名泉の一つであり 1、恐らくは最も有名。温泉よし、景色よし、見どころよし、泊まってよし、ドライブよし、スキーよし。何を取っても一流の場所です。

あえて悪いところを探すと、首都圏はもちろん、どこからもアクセスが悪いことでしょう。そのため頻繁に行くのはためらわれますが、せっかく行ったからには連泊して楽しもうという需要が多そうなエリアです。

西武と東急を感じて

日本中を走り回っている筆者としても、やはり遠いことがネック。草津町の訪問は今回で5回目。およそ20年ぶりとなります。

前回でのパルコール嬬恋から、爽快な陽気に誘われて森林・山道を走ります。草津町に行くには、一度JR吾妻線・万座鹿沢口の方まで下りてきて国道406号を東に走り、途中で左折して草津町に登り上がるルートがありますが、この国道沿いは雑然としていてお勧めできません。

それなら眺望は優れなくても、ほとんど車が走っていない樹林の中の道を行く方が良さそうに思います。前回も書いた通り「パノラマライン 2」という名前にはふさわしくなく、森林地帯の木々が大きくなりすぎており、印象に残る景色には遭遇しないのですが。

このパノラマラインの途中では、西武の「万座ハイウェー」3(有料道路)と交差する所があります。この道に入れば、南では嬬恋プリンスホテル 4、北では万座プリンスホテル 5 にたどり着けます。

西武は長野県側・軽井沢から北に向かって、北軽井沢エリアに鬼押ハイウェー、嬬恋エリアに万座ハイウェーを作り、草津方面に向かって開発を進めようとした名残りがあります。この2つの有料道路や道沿いはきれいにメンテナンスされていますが、今から新規に何かを開発する様子はありません。

これに対しライバルとなる東急は、長野県・軽井沢から草津まで「草軽電気鉄道 6」を運営していた実績と思い入れもあり、鉄道亡き後はそのルートにバス便を走らせていて、終点となる草津バスターミナル前においては再開発も行われています。これは近く開業する東急ハーヴェストクラブの開発と関連していると見ることもでき 7、西武に対して歴史的な一矢を放った印象を受けます。

中沢ヴィレッジ再訪

こうして、樹林の中の一本道を登って草津町に入った筆者は、にぎやかな温泉街中心部の町並みを見て安心を覚えました。それは、ガラ権やリゾマン、保養所と温泉旅館ホテルがひしめく街の光景が、かつてと変わらないものだったからです。

真っ先に向かったのが、本エリア最大規模となる温泉旅館ホテルであり、また会員権方式で巨大ホテルを建設した「中沢ヴィレッジ 8」でありました。リゾートクラブ名は「クアパーク倶楽部 9」です。

草津温泉は、源泉の湧き出る「湯畑」が中心となり 10、その外側を大きく楕円状に囲んだ町並みが、温泉街を形成しています。中沢ヴィレッジはその環状道路の北東の外側に位置します。

たどり着いたタワーホテルとコテージ群は、20年前の訪問時と変わらずに健在でした。ヴィレッジと呼ぶにふさわしい、温泉ホテルや大型温浴施設、いくつものリゾマンが建ち並ぶ敷地内へと入っていきます。

大阪屋

1990年頃、バブルとリゾートに踊っていた筆者でしたが、草津に対しては温泉自体が目的という認識が強く、ガラ権やリゾマンという視点からは訪問が後回しになっていました。初訪問は1995年頃でしたが、その初訪問では湯畑に近い温泉旅館を利用しようと考えました。選んだ温泉旅館は、歴史と伝統から「大阪屋 11」としました。

有名ガラ権であった中沢ヴィレッジ内の施設を使わなかったのは、クアパーク倶楽部の施設(タワーホテル)が一般開放されていなかったことも理由です(後で述べますが、この大阪屋と中沢ヴィレッジは兄弟施設です)。

今思い出してもこの時の大阪屋での体験は、最高のものでした。お出迎えから始まり、料理・客室・館内の大浴場や施設、絶妙な部屋の居心地、番頭・女将をはじめとするスタッフの気配り、翌日のお見送りまで、完璧なもてなしでした。特に特別な対応を頼んだものではない、JTBで手配した一見客に対して、です。

筆者はかつて、旅行仲間から「過去に宿泊した旅館で最高のものはどこか」と聞かれたことがあるのですが、迷わずこのときの大阪屋であると回答しました。その後、草津を含むいくつもの温泉旅館体験を経た今も、その回答は変わりません。

中沢一族

話を中沢ヴィレッジに進めましょう。このエリアだけで展開するクアパーク倶楽部は、この大阪屋にルーツを持ちます。江戸時代中期、中沢市郎左衛門という人が江戸の豪商「大阪屋孫八」の元で修行し、ふるさとの草津に戻って大阪屋を開業しました。

草津温泉は知らぬもののない全国屈指の酸性泉であり、その歴史は記録があるだけで1400年代にまでさかのぼります。中沢ヴィレッジの創業家である中沢一族が大阪屋を開業したのは、周囲と比べてやや遅かったのですが、やり手としてこの地で目立つ存在となっていきます。

中沢一族は1960年代から、草津の北東の高原20万平方メートルの開発に乗り出します。中沢ヴィレッジ創業が1967年。翌68年にホテルヴィレッジ本館、72年に新館(タワー館)、77年にリゾマン第1号が開業しています。そしてリゾマンを第5次まで開発・分譲しながら、敷地内には小型のスキー場・ゴルフ場も整備しました。

1988年には預託金制のリゾートクラブ、クアパーク倶楽部をスタートさせます 12。その会員専用施設としてタワー型のシャトー館(96室)を90年に開業。続いてログハウス(40棟)を造っていきます。

同時に進めたのが大規模温浴施設「テルメテルメ 13」です。1993年にこれを開業させ、温泉施設特化型リゾートとしての中沢ヴィレッジの名前が全国に轟くようになります。

一族だけでリゾートを造り上げた事例としては、これまでも連載で取り上げてきた千葉の鴨川グランドホテルや、現リソルの生命の森リゾート、埼玉のホテル・ヘリテイジなどと類似性が感じられます 14。これらはいずれも地元の名門であって、継続的に運営され、優良な宿泊サービスを提供し続けているのも共通しています。

倒産

筆者はかつて中沢ヴィレッジを利用したことがありますが、会員制専用の場所には入れず、当時できたばかりのウイング館(1995年築)での宿泊となりました。やはり素晴らしい滞在となりましたので、草津なら中沢、という思いがあります。

しかし、名門と言えどもバブル崩壊には勝てませんでした。中沢ヴィレッジは2009年に約168億円の負債を抱えて倒産します 15。この時、再生ファンドである「ジェイ・ウィル・パートナーズ」に大口債権の引き受けを頼む一方で自力で再生を図り、現在に至ります。

一度倒産し、運営でそのまま残るというパターンも、上述の関東近郊ガラ権と共通であったと言えます。

クアパーク倶楽部

最後にリゾートクラブとしての内容を振り返ります。預託金制のリゾート会員権で、ハイシーズンが利用できるタイプと平日のみのタイプが発売されていました。口数は2000口、総客室数は135室が対象でした。草津は個人がしょっちゅう行くような場所でないこともあり、ターゲットとしては保養所(福利厚生)としての志向が強いものだったように思います。クラブの宿泊施設は、シャトー館とログハウスのみです。

ピーク時の募集価格は、ハイシーズン型「ホリディ会員」が約800万。平日型「クア会員」約500万でしたが、施設が草津だけに限られることから見れば高めの設定であって、高級リゾートとしての位置付けでした。

本クラブ予約制度には面白い仕組みがありました。宿泊希望日に宿泊できなかった人は「ご不満点」として1点を獲得し、一方宿泊できた人は「満足点」0.5点の減点を受ける、というものです。それらの得点が集計され、翌年には獲得点の多い人から予約が成立するというものでした。

現在もクアパーク倶楽部は存在し、会員の種別は増えたものの、当初のホリディ会員やクア会員の名称もそのままに、新規募集がなされています 9。クラブとしてはRCIジャパンや日本リゾートクラブ協会には一度も属さず、独立独歩です。

さすがの草津温泉、発展当初からの名門一族の余裕という気がします。

次回は草津後編として、この地で大勝負をかける東急の動きを中心にレポートしていきます。


  1. 日本三名泉は一般に、有馬温泉(兵庫)・草津温泉(群馬)・下呂温泉(岐阜)を指す。 ↩︎

  2. つまごいパノラマライン - Wikipedia ↩︎

  3. 浅間-白根火山ルート|鬼押ハイウェー・万座ハイウェー ↩︎

  4. 公式サイト | 嬬恋プリンスホテル ↩︎

  5. 公式サイト | 万座プリンスホテル ↩︎

  6. 草軽電気鉄道 - Wikipedia ↩︎

  7. 日本を代表する名湯の地「草津」に新施設 「東急ハーヴェストクラブ草津&VIALA」第1次会員募集開始 ~心身の深い癒しを追求するスペシャリスト達と共に創り上げる 新たな滞在スタイル「Healing Green」を順次配信予定~ |ニュースリリース|東急不動産 ↩︎

  8. 【公式】草津温泉ホテルヴィレッジ ↩︎

  9. クアパーク倶楽部 - 【公式】草津温泉ホテルヴィレッジ ↩︎ ↩︎

  10. 天下の名湯!草津温泉! | 湯Love草津(草津温泉観光協会ホームページ) ↩︎

  11. 草津温泉 大阪屋【公式サイト】|湯畑近くの老舗温泉旅館 ↩︎

  12. 中沢ヴィレッジ、草津に会員制リゾート――予約に工夫・公平な利用。 | NIKKEI COMPASS - 日本経済新聞 ↩︎

  13. プール&温泉 テルメテルメ - 【公式】草津温泉ホテルヴィレッジ ↩︎

  14. 鴨川グランドホテル / 鴨川グランドタワー / 勝浦ヒルトップ&レジデンス | タワーの鴨川、上場廃止した老舗はいま | 会員制ホテル今昔物語 – resortboy's blog
    リソルの森(生命の森リゾート) / ホテルトリニティ書斎 | 巨大リフレッシュリゾート、創業の理想を巨大資本が受け継ぐ | 会員制ホテル今昔物語 – resortboy's blog
    ホテル・ヘリテイジ(森林公園アスレジャークラブ) | 埼玉唯一のガラ権は、地元名士の総合リゾート | 会員制ホテル今昔物語 – resortboy's blog ↩︎

  15. 負債のうち預託金が約58億円だったとされる。
    4月度 | 2009年(平成21年) | こうして倒産した | 倒産・注目企業情報 | 東京商工リサーチ ↩︎

文・撮影:zukisansu、企画・考証・制作:resortboy。バックナンバーはこちら

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

😂 😍 🤣 😊 🙏 💕 😭 😘 👍 😅 👏 😁 🔥 💔 💖 😢 🤔 😆 🙄 💪 😉 👌 😔 😎 😇 🎉 😱 🌸 😋 💯 🙈 😒 🤭 👊 😊