正統派ホテルに秘めたガラ権史

「会員制ホテル今昔物語」は、35年に渡ってリゾート会員権についてウォッチされているzukisansuさんによる連載です。日本で独自の発展を遂げたリゾート会員権、すなわち「ガラ権」の歴史をたどることで、日本的文化とは何か、日本人とは何かを、過去に学び未来を見通す―そんな奥行きのある連載として、僕から特別にお願いし、zukisansuさんにしか語れないこのテーマでご執筆いただく運びとなりました。どうぞご期待ください。(企画・制作:resortboy)

連載のスタートをどこからにしようかと思ったのですが、日本独自会員権の発祥50周年 1、リゾートトラスト創業50周年 2、そして後に述べる高山グリーンホテル創業50周年 3、と50周年が並ぶので、飛騨高山を代表する「ガラ権」からご紹介しようと思います。

この見て歩き連載は、ある程度まとめて周遊できる地域を決めて紹介を広げていく形とします。飛騨高山エリアが終わったら、北上して北陸エリアのガラ権を巡る予定です。

2001年の思い出話からはじめます。当時の職場の同僚との旅行で飛騨高山を訪れたのですが、その動機が、今回取り上げる「ホテルアソシア高山リゾート」4 だったのです。参加者は男ばかりの3人だし、旅館よりホテル、それに一人ずつシングルユースで行きたかったので、もう選択の余地はなく、アソシアに決定したのでした。

飛騨高山駅西口に、今年開業50周年(偶然ですがリゾートトラストのできた年に開業)となる高山のホテル最高峰、高山グリーンホテル(現在は238室となる超大型ホテルで、京王電鉄グループとなっている)がありましたが、会員権好きの私はここは対象外でした。

アソシア高山リゾートは当時から法人リゾート会員権として頭角を現していました。記憶が定かではありませんが、リゾートクラブ協会のリゾネット加盟施設であったので 5、私の持っていた会員権から、リゾネットで予約したのかもしれません。

今は脱退しましたが、アソシア高山リゾートは長らく協会の正会員であり、リゾネットで利用でき、相応にリーズナブルな料金でした。

さて、そのアソシア高山リゾートは1994年7月の開業です。当時、あるいは現在でも、290室という規模はこのエリアで見当たらない大規模施設です。

この規模の施設を作るとなると、バブルの頂点といえる1990年以前に計画がはじまっているはずで、超バブリーに作っては見たものの、ちょうどバブルが崩壊して先がない、残念施設の典型的パターンに属します。「出来るぞ!」と会員を集め、期待させておいて、施設・会員ともにがっかり、というのは、バブル後期には枚挙にいとまがありませんね。

アソシア高山リゾートは、CBC中部テレビと地元の飛騨庭石の合弁で計画され 6、会員を集めて実現化した法人保養所・福利厚生向け施設であり、言うまでもなく名古屋のトヨタ系の会社などの有名企業が会員に名を連ねていたことから、個人向け会員権ホテルよりはバブル崩壊・クラブ倒産への耐久性があったように思います。

私たちが利用した2001年夏前は開業当時のままの経営でした。開業10年以内で新しく、接客やレストランも十分に満足し、初めての飛騨牛の鉄板焼きを堪能。温泉も良かったと思います。

しかしながら、私の印象や満足とは裏腹に、その時すでに経営は行き詰っていたのでしょう 7

歴史を振り返ると、利用した翌年の2002年1月に、それまですでに資本注入を受けていたJR東海に経営が全面移行しています 8。さすがリニアもやろうという東海道新幹線の親方、お金持ちJR東海なので、2004年には大浴場棟をかなり大規模に新設し(以前にも大浴場はありましたが、やや奥まった場所でした)、山並みを見晴らす立派な現在の姿になったわけです。

アソシア高山リゾートは、名古屋マリオットアソシアホテルなどジェイアール東海ホテルズの一員として、アソシアの名前のルーツとして、そしてただ一つのリゾートホテルとして、今に至ります 9

このガラ権開発がなかったら、他のアソシアホテルの名前は違っていたかもしれません。名前のルーツを聞いたことはありませんから推測ですが、英語の「associate」(アソシエイト:訳語はいろいろあるが、ここでは、仲間でありクラブを連想させるもの)から来たのでしょう。

アソシア高山リゾートは1994年開業で、来年で30周年です。この飛騨高山の地は、温泉地でもあるように考えられていますが、その歴史はごくごく最近のものです。1992年頃、このアソシア高山リゾート建設時に、高山で初めての温泉が出たのであります 10

今は、新設した大浴場棟(スパウィング)は、日帰り温泉としても活用されているようですが、こここそが飛騨高山第一号温泉なのです。

施設構成は、6~13階が客室のパークウイング(中央)、同じく2~17階のアルプスウイング(南)、そしてが5~7階に位置するスパウイング(東)の3つの建物から成りますが、もとより標高640メートルの山中に建ち、ホテル客室や大浴場からの眺望は絶景と言えます 11

建物の向きが東南を向いているので、飛騨山脈と木曽山脈を見晴らします。山中を切り開き、温泉を掘り、大規模建物を作る。これこそ先行的に資金を集めた日本的会員権(ガラ権)だからこそできた、今の時代では到底できないホテルなわけです。

最後に、現在の会員権についてです。2003年に規約改正し、法人会員のみとなりました。当時は入会金もありましたが、2014年に再度規約が見直され、入会金・保証金はなくなり、年会費(264,000円)のみのシンプルな制度になっています 12

この施設利用優待だけでなく、系列ホテルの優待も多少ありますが、特筆すべき特典とは思えません。JR東海ホテルグループとして、一般利用も大歓迎となっています。

今回は、私の20年前の思い出からはじめ、飛騨高山エリア最高のリゾートホテルであるホテルアソシア高山リゾートを紹介しました。次回は、飛騨高山にその後行ったとき、気になっていた小規模会員制施設を紹介したいと思います。


  1. 1970年代の預託金制リゾートクラブの代表例を挙げておく。ダイヤモンドリゾートクラブ、I・R・Sクラブ(国際リゾートサービス)、エメラルドグリーンクラブ、ジャンボクラブ(大倉建設)、東京レジャークラブ(東京信用販売)など。1975年以降、コンポーネントオーナーズシステム(紀州鉄道)、日本オーナーズクラブ、逗子マリーナオーナーズ(⻄洋環境開発)、ウィスタリアンライフ
    クラブ(藤田観光)などの共有制リゾートクラブが登場する。 ↩︎

  2. 創立50周年特設ページ | リゾートトラストグループ ↩︎

  3. 開業50周年のあゆみ | 【公式】高山グリーンホテル 飛騨高山温泉 ↩︎

  4. 飛騨高山 ホテルアソシア高山リゾート【公式】 ↩︎

  5. リゾネット – 日本リゾートクラブ協会 ↩︎

  6. 1990年5月、シービーシー高山開発として事業開始 ↩︎

  7. 中部日本放送、特損155億円に、9月中間連結――「レジャー」処理。 | NIKKEI COMPASS - 日本経済新聞 ↩︎

  8. ジェイアール東海ホテルズによる直営ホテルとなり、会員権は「アソシアリゾートクラブ」となる ↩︎

  9. 会社概要・沿革|企業情報|株式会社ジェイアール東海ホテルズ ↩︎

  10. シービーシー高山開発、高山に温泉リゾート、来月から着工――家族向け滞在型。 | NIKKEI COMPASS - 日本経済新聞。続いて1993年に高山グリーンホテルが敷地内に源泉を掘り当てている ↩︎

  11. 展望露天風呂 天望の湯 | 飛騨高山 ホテルアソシア高山リゾート【公式】 ↩︎

  12. 1口につき1年間有効の「宿泊利用券」を60枚発行。アソシアリゾートクラブ【公式】 ↩︎

文・撮影:zukisansu、企画・考証・制作:resortboy。バックナンバーはこちら

2 comments

  1. zukisansuさん、「ホテルアソシア高山リゾート」のレポートありがとうございました。私
    は2000年開業の「名古屋マリオットアソシアホテル」でマリオットリワードに目覚めたので、その関係でホテルアソシア高山リゾートにも数回泊まりました。

    ここの「スパウイング」の素晴らしさは特筆ものですね。高山に住んでいたら日帰り温泉として何度も利用したい施設です。そして、こここそが「飛騨高山第一号温泉」だったのですね。知りませんでした。

    お金がなければこれだけの施設は作れません。金持ち「JR東海」が資本注入し、さらに、zukisansuさんご指摘の「山中を切り開き、温泉を掘り、大規模建物を作る。これこそ先行的に資金を集めた日本的会員権(ガラ権)だからこそできた、今の時代では到底できないホテルなわけです。」その通りですね。

    高齢化・人口減少・経済停滞・円安・先進国からの脱落・日本人の貧乏化…
    今の日本をとりまく状況を見ると20年前の日本(日本人)の勢いが信じられません。1990年代、欧米の主要な観光地に日本人の団体ツアーが殺到しました。今や激減です。

    たった20年~30年でこんなにも日本は変わってしまったのですね。いや、日本は何も変わらず、デフレと超金融緩和(低金利)で“ぬるま湯につかって眠っている間”に世界が変わったのでしょう。日本は「ガラパゴス」になってしまいました。日本的会員権(ガラ権)の歴史はそれをあぶき出してくれます。

  2. 昨年高山東急ステイに泊まった際に日帰り入浴で利用しました。露天風呂は広大で眺望は抜群です。高山で他に並ぶものはないでしょう。ただ館内は閑散としており日曜日の午後で入浴利用者は3人でした。館内は失礼ですがリニューアルの時期を逸してしまった様子で、ホールや廊下の壁紙やカーペットはカビ臭く伊藤園グループの施設のような状態です。高山はホテル開業が続いており2017年の2500室から2025年に倍増の5000室まで増加します。今後選ばれるホテルとして存続できるのか心配な状態です。JR東海がリニューアル大規模投資を行うか、それとも会員権を精算して譲渡し他社が再生するのか、決断の時が近づいていると思います。

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