前回、千葉県の「へそ」にある、森林に囲まれたリソル本拠地の健在ぶりに感銘した筆者は、続いてお隣の埼玉県に向かいます。やはりその中央部に所在し、同様の「森林ガラ権」に分類されるある施設が気になり、久しぶりの再訪問に出かけたのでした。
千葉や埼玉に会員制リゾートがない理由
埼玉県は海のない内陸県で、東側には西武鉄道が走る秩父や奥武蔵と呼ばれる山岳・丘陵エリアがあります。東京から近く、ハイキングやピクニックに適した保養エリアだと思うのですが、熱い温泉が沸かないからでしょうか、リゾート開発は進みませんでした。
千葉県と同じく東京都と接する近場なので、かつての錬金師たちはこのエリアを見たとき、日帰りで行けるゴルフ場開発用地として、会員権を刷ることに熱い気持ちを持ったかもしれません。県内約80個所のゴルフ場には名門と呼ばれるコースも多数含まれ、バブル期の会員権価格は非常に高額でした。
バブル期において、東京から車で2時間以内で行けるゴルフ場を開業し、有名設計者を招いて豪華クラブハウスを建てたら、その会員権は一口1億も夢ではありませんでした。わざわざ面倒な会員制ホテルまで運営する気分になれなかったのは、よくわかります。開発側として、ゴルフ場開発より旨味のある話はなかったと思われます。
これが埼玉県で、これから紹介するガラ権施設が、唯一のものであった理由と言えるでしょう。
リゾートホテルを作って、従業員を雇い教育し、集客して運営して…。日本におけるリゾート稼業は、日本人の働き方の特性から、どこも週末以外は赤字という厳しさです。それはバブル当時も今も同じです。ガラ権の運営は大変な労力を要する事業であって、錬金師たちが一定の土地を確保できたとき、そこに最初に手を出すはずはないものです。
こうして日本では、リゾート会員権が勃興する前に、ゴルフ会員権開発が横行したのです。それはスポーツを目的とせず、接待や利殖を目的としており、世界的に見て特異な業態です。これもまた「ガラ権」であったのでした 1。
ゴルフもスキーも、保養やスポーツの振興よりも先に「錬金」が立っていたのが日本であり、現在もその傾向はそのまま。民族として生き方の貧しさが変わらないのは残念です。
森林公園アスレジャークラブ
これが千葉や埼玉に会員制リゾートがない(または少ない)理由ですが、東京からのアクセスが2時間を越えるあたりから、変化が現れます。
日帰りだと遊ぶ時間に余裕がなくなるためで、ゴルフ場ではクラブハウスに宿泊施設を組み入れたものが出現することになります。この方式だと会員権価格を高く設定できることになり、バブル期には豪華建物が競って作られました。
このような背景の中で、埼玉県にひとつだけあり、ゴルフというようりも総合リゾートを目指した「森林公園アスレジャークラブ 2」を取り上げます。森林公園とは「国営武蔵丘陵森林公園 3」を指しています。本公園は、日本最初の「国営公園 4」として1974年に開設された、歴史ある緑の保存地区です。
このリゾートクラブはここ単独であり、全体の規模もさほど大きくありません。ここまで説明した理由により、もし18ホール分の面積が確保できていれば、リゾート会員権になったかどうかわからないと思ったりする、ゴルフ場としては手狭な敷地面積となります。
場所はその森林公園の西北に隣接しています。本施設自体の面積は狭くとも、広大な国営公園を遊び場として使えますから、ホテル利用としての不満はないことでしょう。
熊谷市の名門
森林公園アスレジャークラブの創業者は、このエリアの中心、熊谷市の名門である杉田家出身の杉田憲康氏 5 です。会員権事業以前よりホテルやスポーツ施設の経営を目的として設立されていた会社の歴史は1963年にさかのぼりますから、60年前から構想されたリゾートということになります。
リゾートの入口から続くアプローチの左右には、本館「ホテル・ヘリテイジ」6(199室)と別館「ヴィラ・アスパイア」7(51室)があり、これらを合わせて埼玉県内で最大級の客室数250室を誇ります。客室はコンドミニアムタイプを標準とし、ガラ権らしくゆったりとした客室で構成されています。
名称からも分かる通り、スポーツ施設が充実し、本格的とは言えませんが9ホールのゴルフコースと練習場、テニスコート、乗馬場、そして夏季限定のジャンボ屋外プールがあります 8。
創設者の杉田憲康氏は2025年の現在も現役であり 9、後で述べる倒産・再生を経てもなお、同一人物がトップとして運営を継続しているという、珍しい事例です。
杉田氏は「高根計画」を1963年に創業し、このアスレジャークラブを1980年に計画します 2。この高根とは、埼玉県比企郡滑川町にある標高100メートル程度の低山「高根山」に由来します。
ややこしい話ですが、紛らわしさを回避するため少々脱線します。この高根山の裾野を利用したゴルフ場に1962年開業の「高根カントリー倶楽部 10」があります。
ここは埼玉有数の名門で、高根山の頂上を含む大部分はこのゴルフ場が所有しています。この先行開発があったため、杉田氏は後を追って高根計画を創業したと考えられますが、高根カントリー倶楽部との関係は一切ありません。
個人1,200万、法人2,400万
杉田氏の高根計画は、まずは小型レジャー施設の運営からスタートし、その後、現在のヴィラ・アスパイアでホテルに進出し 7、1988年には旗艦施設となるホテル・ヘリテイジを開業させます 6。続いて1990年には9ホールのゴルフコースが造られ、施設が大型化しました。
会員制のレジャークラブとしては、1990年の資料によれば、預託金制で、個人1,200万、法人2,400万という高額なものとして販売されていました。9ホールながら、名門クラブに隣接する「ヘリテイジ・ゴルフコース 11」の利用権利も含む「総合レジャー会員権」として販売されていたからだと思います。
ヴィラ・アスパイアとホテル・ヘリテイジについては主に1室単位で分譲されており、オーナーは定額で運営側に貸し出すか、利用しながら使わない時の売上をペイバックするかを選ぶことができました。1996年には敷地内に天然温泉を掘り当て、「四季の湯温泉 12」という温浴施設が作られました。これは関東最大級の温泉露天風呂を誇るとされています。
こうして高根計画の創業から30年近くをかけ、創業者の手で丁寧に育てられたこのレジャークラブでしたが、2003年にはグループ会社に営業譲渡した上で、商号変更後の名称、荒川恒産は解散し、負債約180億で特別清算となりました 13。
普通に考えるなら創業者の杉田氏は引退するのが筋ですが、名門の出であったことから経営を受け継ぎ、今に至っています。千葉編で見た、鴨川グランドホテルの鈴木家が、資本は変わった後も経営者として健在であるのと似ています 14。会社倒産という自体を経てもなお、杉田氏について、余人をもって代われるものではなかったのでしょう。
天皇家の定宿
最後に、再訪問時の印象です。開設以来35年以上が経っていますので、経年劣化については隠しようもありません。しかしながら、周辺の景色は変わらないし、元々ゴージャスさを志向した施設ではありませんから、ホテル建物についてはメンテナンスも良く、好感を持ちました。田園風景の中で、のんびりゆったりくつろげそうです。
特に、スタッフの皆さんにとてもフレンドリーな空気が流れていました。本ガラ権には周辺に日本の原風景があり、おもてなしの心が感じられました。
宮内庁をはじめ、いくつもの記録にここが天皇家の定宿であることが掲載されていますが、ガラ権施設を天皇家が定宿とするというのは他に聞いたことがありません 5 15。近隣に相応のホテルが見当たらないという理由ではなさそうです。やはり本ガラ権には、ここにしかない特別な何かがあるようです。
そして今後も、その伝統は引き継がれていく事と思われます。ホテル名称が最初から「ヘリテイジ」であったとは、よく出来た話です。言葉どおりに、伝承、遺産、伝統と、どれも今に当てはまっています。
本施設の会員制度は、今も続いています。創業60年記念の募集は2023年開始の「GranHeritage MEMBERS 16」です。1口200万円で、うち預託金が20万円というリゾートクラブです。通いつめれば価値があるでしょう。
地元愛に支えられた埼玉の森林クラブは、こうして今も健在なのでした。
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日本独自のシステムによるリゾート会員権を、かつての携帯電話が日本だけの「ガラパゴス携帯(ガラケー)」と呼ばれたことから、日本でしか通用しないルールを設けていることを指して「ガラパゴス会員権(ガラ権:ガラケン)」と呼んでいる。
プロローグ | 「会員制ホテル今昔物語」連載開始にあたって | 会員制ホテル今昔物語 – resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究 ↩︎ -
1982年頃に総合リゾートとしての形式が整った。以下は1983年の募集広告。

現在は中核施設である「ホテル・ヘリテイジ」がリゾート全体を指すことがある。一般的な現在名は「ヘリテイジリゾート」。
・埼玉県熊谷の天然温泉リゾート ホテルヘリテイジ【公式】
・高根計画、埼玉・江南村に地場資本のレジャー基地完成――会員募集も順調。 | NIKKEI COMPASS - 日本経済新聞
・高根計画、埼玉の会員制センターに人工波プールを完成。 | NIKKEI COMPASS - 日本経済新聞 ↩︎ ↩︎ -
・別館アスパイア | ホテルヘリテイジ 四季の湯温泉【公式】
・高根計画のクラブ内ホテル、内装は購入者任せ――法人会員の声反映。 | NIKKEI COMPASS - 日本経済新聞 ↩︎ ↩︎ -
・四季の湯温泉 | ホテルヘリテイジ 四季の湯温泉【公式】
・埼玉・森林公園近くに温泉、高根計画、来月オープン――日帰り利用もOK。 | NIKKEI COMPASS - 日本経済新聞 ↩︎ -
鴨川グランドホテル / 鴨川グランドタワー / 勝浦ヒルトップ&レジデンス | タワーの鴨川、上場廃止した老舗はいま | 会員制ホテル今昔物語 – resortboy's blog – リゾートホテルとホテル会員制度の研究 ↩︎
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・検索結果 - 宮内庁
・天皇皇后両陛下ご来訪 沿道で市民がお迎え | 文化新聞
・上皇・上皇后さま「おもてなしの宿」秘話 国民を前にした優しさ、その逸話の数々 | デイリー新潮 ↩︎


