行き詰まり、買い取られ、再生

「会員制ホテル今昔物語」は、35年に渡ってリゾート会員権についてウォッチされているzukisansuさんによる連載です。日本で独自の発展を遂げたリゾート会員権、すなわち「ガラ権」の歴史をたどることで、日本的文化とは何か、日本人とは何かを、過去に学び未来を見通す―そんな奥行きのある連載として、僕から特別にお願いし、zukisansuさんにしか語れないこのテーマでご執筆いただく運びとなりました。どうぞご期待ください。(企画・制作:resortboy)

寂しくもロマンの砂浜と更地を見た金沢の北西、千里浜の海岸から内陸側に下り、金沢市内に入ります。今回は、旧ガラ権施設が、買取・再生屋によって今また輝いている、金沢エリアのホテルと旅館の明るい話をします。

見どころの多い金沢市ですが、私にとって残念なのは、リゾートトラストのホテルトラスティ金沢香林坊が、売却という想定外の出来事で消えてしまったことです 1。宿泊に使ったのはホテル日航金沢 2。駅近、30階建の最高層建物から眺望を楽しむためでした。

金沢市内の会員制ホテルと言うと、香林坊近くに金沢東急ホテルがあり東急バケーションズが「入居」している程度で 3、他に見当たりません。しかしその昔、今やまったく目立たなくなった現「金沢白鳥路 ホテル山楽 4 」が、金沢城址の北側で鼻息を荒くしていました。

このホテルは、1991年に開業し、当時派手に会員を募集していた「金沢白鳥路ホテル」が前身です。大正ロマンを売り物としたこの会員制ホテルは、販売・開業当時、全国に数あるバブリーなホテルの中でも、小粒でしたがコンセプトが明確に異なり、金沢市内の観光的魅力と併せて、当時のガラ権マニアはよだれを垂らしたものでした。

開業前から資金を調達できるから豪華施設が作れるのが、今も昔も変わらぬガラ権の利点。このホテルも、日本三大庭園・兼六園にもほど近い最高の立地にして、当時としては広い全室30平米以上の客室。そして金沢市内では今も珍しい自家源泉の温泉大浴場を兼ね備えていました 5。妙に立派なホテルだなと思ったら前身は会員制だったという、見本となるようなホテルです。

もちろんその後の経営は思わしくなく、末期についての話は省かせてもらいますが、2004年にケン・コーポレーションが購入して、現在名となりました。なお同社は、金沢駅側の近くにほとんど同じ名前の横文字「THE HOTEL SANRAKU」という豪華ホテルを2022年に新規建設・開業しました。旧ガラ権ホテルと間違ってはいけませんよ。

では市内を出て、再び、金沢の奥座敷と言われた加賀エリアの温泉地に戻ります。前回の片山津は比較的新しく開発された温泉地ですが、対照的な最古の温泉街、山代温泉に足を運びましょう。

ここの温泉街の中心には、共同浴場が新設され、温泉街自体もそぞろ歩きに向くようにリニューアルされています 6

温泉街の中心に看板となる共同浴場があるのは全国共通ですが、山代温泉の新「古総湯」の真ん前に、現存する日本最古の木造建築の旅館であり、営業年数400年にも及ぶ「これぞニッポン温泉旅館」と言われてきた、旧・加賀白銀屋があります。

白銀屋は、古総湯に面した木造建築は200年近い建物ですから 7、有名な名前とは裏腹に、こじんまりとした入口。現代風の車寄せなどはなく、スタッフが車を誘導するスタイルとなっています。

ここで読者の皆さまには、本旅館がガラ権だったはずなどなく、筆者は何か勘違いしていると思われそうですが、そうではありません。

白銀屋は、この木造建築の後部に1988年に建築された新館を有します。現在はこれを含め客室は48室だそうですが、元の部分は客室ではなくなり、入口と食事処、歴史資料部屋、それに内庭を眺めるラウンジのような使い方をされ、客室は新館の方にあります。

新築のみならず、古い宿泊施設がリニューアルや新館を建てるなどするとき、資金不足となるのを補う錬金術が、ガラ権の発生となることもよくある話でした。

白銀屋の場合、新館も小規模なので当時10億程度の建設費用だったようですが、バブル崩壊、温泉宴会ツーリズムの衰退をもろにかぶり、銀行からの借入返済ができない状況に至り、「切り札錬金ガラ権、時遅し」の感がある中、無我夢中で会員権を刷りましたが、時代の趨勢には勝てず、あえなく倒産。

このガラ権は超老舗旅館としては見苦しい話であり、ほとんど知られていないと思います。その錬金術の甲斐もなく、バブル崩壊の後始末政府機構「RCC(整理回収機構)」に経営が移ります(RCCとRCIをお間違いなきよう(笑)8

そして再生屋・星野リゾートの出番です。高級小規模旅館買取に力を入れ、大人のリゾート「界」ブランドを展開しつつある星野にとって、名門中の名門・白銀屋は絶好の再生対象でした 9

RCCから本旅館を取得し、2012年秋に「界 加賀」として経営を始めた後、星野としてはかなり時間と手間暇かけた大規模リニューアルを2015年に完了。現在の姿となりました 10

星野は、かつての名門を次々に界ブランドにしていますが、昔の名前は残さない主義なのでしょうか? 旧ガラ権施設が星野の運営となったところは多数あるので、この連載でもまた取り上げます。

その昔、超美食家・魯山人が定宿としていたという加賀の大物、白銀屋 11。北陸新幹線の延伸で加賀駅が来春開業ですので、再び輝きの時が来るのかもしれません。

文・撮影:zukisansu、企画・考証・制作:resortboy。バックナンバーはこちら

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